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吸血鬼だって殺せるくせに

大野原幸雄

旧友と傀儡


港街フィジール。
海に面し、大陸最南端に位置するこの街は、建国以前から一度も戦場になったことがない。

平和な歴史は大陸一で最も大きな漁港を発展させ、国内の食産の聖地となっている。
街中には様々な村や街からやってきた商人達や旅人、首都からの旅行者なども足を運び、とても活気があった。

「この村にいるんだよね…バージニア」

「あぁ…」

そんなフィジールに、白馬に乗ったモンスタースレイヤーが到着する。
長期にわたる捜索を続け、旅の目的である場所に2人はついに辿りついたのだ。

この物語の語り手である俺……
吟遊詩人、バージニア・フェンスターを殺すために。

活気ある港を横目に、二人は街の中心へ向かう。
ディページは人目のつかない路地裏で人間の姿に変身し、馬蔵を背負いながらジェイスに聞いた。

「本当に殺すの?」

目を合わせずに聞いたディページを、ジェイスは見る。

「いや……こう聞こうかな……」

「……」

「本当に殺せるの……?」

ディページの視線がジェイスに向くより先に、今度はジェイスが意図的に視線を外した。
そして温度のない声で言った。

「あぁ」

「……そか」

「奴の首を取って宰相に届ける……。俺は、そのためにここまでやってきたんだからな」

ジェイスは冷静な口調だった。
それを聞いたディページはふふっと笑った。

そこから俺を探すのは容易だったらしい。
街中の酒場で酒を注文すると、店主たちは喜んで俺の事を話したそうだ。

「最近住みついた吟遊詩人……?あー、バージニアのことか?」

「どこに住んでいるかわかるか?」

「ケイトジーン通りに住んでるよ……そこの小道を進んでいけばすぐさ」

ボロボロの小屋が立ち並ぶ、ろくでなし共が住むケイトジーン通り。
そこにある、ひときわボロッちい小屋。

トントン…

2回ドアをノック。
ノックした拳には、あらゆる想いが乗っかっていたと思う。

しかしそのノックで家から出てきたのは、俺ではなかった。

「……はい」

出て来たのは筋骨隆々の大男。
まっすぐ前を見ていたジェイスとディページの視線が上を向く。

「なんのご用件でしょうか?」

大男は低い声で言った。

「すまないが、ここにバージニア・フェンスターという吟遊詩人が住んでいないか?」

大男は困ったようにジェイス達を見る。
その声を聞いたとき、俺はすぐにジェイスだとわかったよ。

「ジェイス……か?」

俺は大男の後ろからジェイスの名を呼んだ。
久しぶりに会った俺は、嬉しくってつい笑顔になっちまってた。

ジェイス達がなぜ俺に会いに来たのか、その理由に気付いてはいたんだけどな。

「……って、ディページもいるじゃないか!お前ジェイスから逃げ出したんじゃなかったのか!?」

この時、俺は久しぶりにディページの顔を見たんだ。
だからつい、テンションが上がっちまった。

「旅の途中で捕まえた」

「おっひさ☆」

この時の俺は髭もろくに剃ってなくて、髪もボサボサだった。
ただでさえ黒い肌が汚れてさらに黒ずんでいた。

ホークビッツじゃオシャレな吟遊詩人と言えば、誰もが俺の顔を想像したもんだが。

そして改めて、あらゆる想いがこみ上げてきて。
俺はため息まじりに、2人にこう言ったんだ。

「……やっぱりお前が来たか、ジェイス」

「やはり?」

「宰相に命じられて俺を殺しにきたんだろ?……来るなら、お前だと思っていたよ」



俺は、2人を家の中に招き入れた。
この時住んでいた家はワンルームの小さいもので……なんの飾り毛もない簡素なものだった。

キッチンも風呂もなく、小さな台所とテーブルとベッドがひとつ。
部屋の中心に置かれたテーブルに2人を招き、俺たちは話をすることにした。

ジェイス達に応対した大男は、部屋の隅に置かれた木箱を使って干し肉を一口台に切っていた。
席につくと、ジェイスがすぐに俺に言う。

「俺達が来ることがわかっていたのか?」

「まぁな……あの宰相が考えそうなことだろ…?」

「……そうだな」

ジェイスはまっすぐに俺をみた。

こいつは、小さい頃から何一つ変わらない。
親代わりというわけではないが、俺は弟のようにジェイスを可愛がっていたから……無機質に見えるその表情の裏に、優しい心を持っていることを知っていた。

小さい頃から何度もジェイスと向き合ってきた。
だけど、この時の顔だけは今でも忘れない。

沈黙の後、ディページは沈黙に耐えられなかったのか……能天気なトーンで話を切り出した。

「ホークビッツの宰相を馬鹿にした歌を歌ったんだって~?」

この返答に、俺は少しやけくそ気味に返した。

「あぁ……そりゃ面白おかしく街中で歌ってやったよ」

「はは、そんなの極刑確実でしょ。よくやるね~、ねぇねぇ、どんな歌なの?」

「……聴きたいか?」

「もち!ジェイスもだろ?」

「そうだな」

俺は、壁に立てかけてあるリュート(弦楽器)をとって2人に聴かせてやることにした。
俺はすでに諦めたんだ。ジェイスに殺されること。

だから、せめてこれから歌う歌は全てしっかりと歌おうと決めた。
たとえそれが…人を馬鹿にした歌であろうとも。

「ははっ、よっしゃ!聴かせてやる!吟遊詩人バージニア・フェンスター様の生演奏だ!」

――――――――――

肉の黒いバラ
作詞・作曲 バージニア・フェンスター

綺麗な装飾施した 立派な衣装で腰かける
椅子に心があったなら あまりの臭さに倒れてる

たっぷりアゴヒゲ蓄えた 一人の宰相ここにあり
俺には心があったから 今この歌を歌ってる

宰相、またもやらかした 今度は金を ごまかした
宰相、今日もやらかした 本日も民を ごまかした

やつは死体を動かして 掃除洗濯 やらしてる
やつは死体を動かして 愛人として 囲ってる

女を女と見もせずに 男はあたかも家畜のように 
いつでも彼は人の上 ただ偉そうに座ってる

綺麗な外見 裏腹に、その心はスミのよう
綺麗な花弁をつけてても 果肉が黒くて安いバラ

――――――――――

「はははははッ!」

歌い終わると…ディページが笑っていた。
それも爆笑。ディページは悪魔でずる賢い奴だったが、俺は昔からこいつが好きだった。

「めっちゃうけるー!『金をごまかした』とか……確かにあの宰相ならやってそうー」

「実際にやってたのさ……俺は宮廷にも歌を歌いに行ってたからな。宮廷の召使いたちの噂話さ」

俺もディページと一緒に笑ってやった。
しかしジェイスは笑うことはなく、低い声で俺に聞いてきた。

「バージニア……その歌の『やつは死体を動かして 愛人として 囲ってる』ってのは?何かの比喩表現か?」

ジェイスは本当にいいところに気づく。

「いや、その部分は……言葉通りの意味さ…」

俺がそう答えると、ジェイスはこれまでの旅でずっと疑問に思っていたことを俺に聞いてきた。
それは宰相からの依頼を遂行する上で、どうしてもジェイスが納得していない部分だった。

「お前を殺す前に……俺はお前の話を聞きたいと思っていた」

「……?」

「ずっと不思議だったんだ。吟遊詩人は権力者を風刺した歌をよく歌う。しかし、そんな歌ひとつで国外まで追手を出すほど宰相が怒っている理由がわからなかった。長旅から帰ったとたん、お前を殺せと命じられた時は……さすがの俺も驚いた」

「……まぁ、そうだろうな」

「バージニア……お前はその歌で、人々に何を伝えたかったんだ?」

そして…やっと話す時がきたのだった。

俺がこんな遠い国まで逃げることを承知の上で、自分の身を危険にさらしてまで…
こんな歌を歌ったのかを。

「順序だてて……話していくとしようかな」

「そうしてくれ……」

「おい……カーラ」

俺は台所で作業をしていた大男を呼んだ。そのゴツイ外見とは裏腹に女みたいな名前。
ジェイスはすぐに違和感に気付いたようだった。

カーラは俺の目の前で立ち尽くす。

「はい……」

「もう……本当の姿に戻っていいぞ」

「……え?」

「この人達なら大丈夫だ……」

「……」

俺がそう言うと、大男カーラの身体がキラキラと光る。
すると、大男は年端もいかない可愛らしい少女になった。

綺麗な黒髪とあどけないが整った顔立ち。吸い込まれそうになるほど大きくて、美しい瞳。
しかしどこか儚げな、そんな少女。

「こいつは……」

しかし、ジェイスとディページはすぐに気付いたようだった。
カーラがただの少女ではないことに。

「はじめまして……カーラです」

「変身術……?」

「なるほど…姿を変えてバージニアと逃げていたのか……どおりで……」

ジェイスが旅先で聞いた『バージニア・フェンスターの同行者』の人物像。
イーストレア村の村長は…俺の母親だと言った。それはつまり、カーラが変身した姿だった。

「何者なんだ……?この子は」

「彼女こそ、全てのことの発端さ」

そう、カーラこそ全ての発端。
俺だけじゃない、ジェイスに長い旅をさせるきっかけという意味もある。

俺はカーラのこと、そして俺が歌った歌の全てを2人に話すことにした。

「カーラ、こっちへ来て後ろを向くんだ」

「はい!」

カーラは俺の隣へ来る。
俺は彼女の服をめくって……背中を2人に見せた。

「うわ……」

彼女の背中にはびっしりとタトゥーが入っていた。
そしてそのタトゥーが何なのか、一目でジェイスは気付いた。

「古いシエル言語の魔法陣……。もしかして……傀儡(かいらい)か?」

「あぁ」

「傀儡?なにそれ?」

ディページの質問にジェイスが返す。

「……魔法で動かす人形。古くは古代ドワーフがゴーレムという傀儡を運用し、世界中に広まった魔法技術だ」

「人形?生き物じゃないってこと?すっごい人間っぽいのに」

「バージニア……よく見てもいいか?」

「あぁ」

ジェイスとディページは立ち上がり、そのタトゥーをまじまじと見る。彼女の身体に刻まれた魔法陣を読んでいく。
魔法陣は服で隠れる全ての場所にびっしりと書き込まれていた。

「凄い量だね」

「あぁ……すべて傀儡を動かすための指示が書き込まれてる。それにしてもすごいな……作者は宮廷クラスの魔術師だろう」

「あぁ、ドレト・マノスという男の作だ。旧シドラル出身の魔術師だよ」

「身体の動き方だけじゃなく言葉までこんなに分岐して……違和感なく会話できるはずだな」

「64法門魔法陣が48か所、それらに32法門魔法陣が129か所ノードで繋がれて連動して支持をだしてる。表情はほとんど変えることはできないが、身体の動きと言葉の選び方は人間そのものだ…」

ジェイスはそれを読み終わり…俺の顔を見て言った。

「しがない吟遊詩人が連れて歩くには不釣り合いだな。そもそも材料はなんだ…?…何かの肉か?」

「人間だよ…死体だ」

それを聞いたジェイスは眉間にシワをよせた。

「ホークビッツだったら間違いなく極刑ものの犯罪だぞ……いったいこんなものどこで…?」

「お前の想像通りホークビッツだよ。その子は宰相のオモチャだ」

「…オモチャ?」

「あぁ、もちろん…『あっち』のな」

「バカな……。宰相が夜伽のためだけにこんなもの作ったって言うのか?」

「……」

「明らかに複数分野の専門家が製作に関わっている。相当な金も使われてるはずだ……。いくらあの宰相でも、人形の娼婦にこれだけの金は使わないだろ」

「なぜ作ったのかは知らない。しかし夜伽の相手にされてたのは確かだよ。俺が宰相から盗んだんだ。……これで、俺が殺される理由はわかっただろ?」

「宰相は政治を担う立場でありながら、ホークビッツで禁止されてる傀儡生産を秘密裏に行っていた……たしかに、一大スキャンダルだな」

「あぁ。まぁ、そういうことだ」

ジェイスは、ついに自分の旅の真実にたどりついた。
しかし何度も言おう。ジェイスは与えられた仕事を真っすぐにこなす奴だ。

俺は知っていたんだ。
依頼者の汚職を知っても、ターゲットが古い親友だとしても……ジェイスはしっかと仕事をこなす。
だってそれこそがジェイスをジェイスと至らしめる全てだったから。

しかしだからこそ俺は誠実に伝えることにしたんだ。なぜ、俺がカーラと共に旅することに決めたのかを。
これからやってくる結末が、例えどんなに残酷でも。


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