episode　１　入籍は突然に

チラリと蒼空に視線をやると、バツの悪そうな顔はしているものの、何一つ否定はしてこない。

ということは、おばさんの言っていることは本当のことであるらしい。

「蒼空の変態的な由華ちゃんへの執着心が二人を再会させたのね、きっと。蒼空の願いなのか呪いなのかはわからないけれど、本当によかったわぁ。由華ちゃん、覚悟を決めてくれて本当にありがとう。母として、心の底から由華ちゃんに感謝するわ。もういつお迎えが来ても後悔はないわ」

「母さん、そんなこと言うもんじゃないよ」

蒼空は興奮したおばさんの背中を優しくさすって体を労わった。

そういえばおばさんは病気だと蒼空が言っていた。

それが理由で愛のない結婚を決めたくらいなのだから、余程の大病なのかもしれない。

自分に対する蒼空の気持ちを知って沸き立っていた心が現実に戻る。

「俺も由華ちゃんが結婚してくれると言ってくれた時は、夢でも見てるんじゃないかと思ったよ。でも現実なんだよ。だから母さんはもう安心してくれていいんだ。ね、由華ちゃん」

そんなこと言われてしまったら、もういまさら、『この結婚はカモフラージュなんです』なんてこと言えるわけがない。

今の今まで私の良心が『騙すのはやめておけ』とサインを送ってきていたけれど、力強く握られたおばさんの温かい手のぬくもりを感じて覚悟が決まった。

「おばさん、そんなに喜んでくれてありがとうございます。私、蒼空と幸せになりますから」

おばさんが安心して病気と向き合い療養できるように、私は蒼空の想いを組んでこのお芝居に乗ろうじゃないか。

考えてみれば、蒼空が私のことを昔から本当に好きでいたとしても、今の私はカモフラージュ花嫁なのだから、上手くかわせば入籍回避できるのではないだろうか。