episode　１　入籍は突然に

「絶対反対だ！どうして菱崎がそんなことに協力しなければいけないんだよ。結婚だぞ？一生の問題なんだぞ？そこのところ、本当にわかったうえで協力するって言ってるのか?」

蒼空からの説明を聞いて、そう怒号を浴びせてきたのは有馬さんだった。

「月城様のせいじゃないんだから、素直に事情を話してしまえば納得してくださるだろう？何も菱崎をカモフラージュに使わなくとも、他にやりようはいくらでもあるじゃないか！こんな形だけの解決なんて間違ってる！」

蒼空と二人で話して協力することを決めたわけだけれど、有馬さんの言葉を聞くと揺らぐ。

フリならば、と答えてしまったが、確かに人生の中で結婚というイベントは大きいはず。

それなのにあまりにも考えなしに簡単に答えを出してしまったんじゃないだろうか。

「一度外させてください……」

誰に何を言われたからというわけでなく、もう一度蒼空にとっての最善策を模索する必要があると思った私は、一度控室を出ようとドアノブに手をかけた。

その瞬間。

「蒼空っ！」

大きな声で控室に入ってきたのは、ずいぶん久しぶりに見る蒼空の母親、月城　玲（つきしろれい）であった。

「母さん？どうしてこんなに早く……」

突然の母親の登場に、蒼空は動揺を隠し切れないようだった。

「大事な息子の結婚式なのよ？のんびり構えるなんてできるわけがないでしょ。それにしてもスタッフの皆さんの雰囲気が妙におかしかったけど、何かあったの？」

花嫁に逃げられた新郎が、間近に迫ったこの結婚式をどのような対応で中止にするのか、何も聞かされていなかったスタッフ達が新郎の母の出現に戸惑うのは仕方のないことだろう。