episode　１　入籍は突然に

今日が最後の衣装合わせと打ち合わせなんだよ。

次はもう本番で、ラフショットを撮る機会は今日しかないんだよ。

そこのところ、ちゃんとわかってるの？

そう問いかけたいけれど、蒼空は既に真っ白なジャケットを脱ぎ始めている。

「あの新郎様になに言ったって無駄みたいよ。諦めるしかないわ」

私の耳元に唇を寄せ、杏は溜め息交じりにそう言った。

「杏、ごめん。後をお願いしてもいい？先に最終確認しに戻ってる。ここにはいられない」

オーケーサインを出してくれた杏を残し、私は一足先に商談ルームへと戻ることにした。

さっきの蒼空の言葉、絶対吉崎様に聞こえてるはず。

大きな鏡が付いた衣装収納庫を挟んでいたといっても、新婦用のフィッティングルームは同じ空間にある。

しかも完全なる個室ではなく天井は開いている構造になっているのだ。

これでは確実に吉崎様の耳にも届いているに違いない。

それがわかっていて、このままあの場所にいることなんてできなかった。

真っ白なウエディングドレスに身を包んだ新婦様を、私が笑顔で迎えるなんて、とてもじゃないけれどできるわけがない。

申し訳ないけれど、あの場は杏にお願いするほかになかったのだ。

「何てことやらかしてんのよ……」

この後の最終調整で、私は一体どんな顔をしてあの二人と向かい合えばいいのだろうかと考えると、なんだか頭が痛くなってきた……気がする……。