天壌無窮の守人

兎月あぎ

第六幕 煙上がる戦場での邂逅

早朝の市場は人気もまばらで人口が多いと聞いていた割には意外とこんなものなのかと思わされる。あちこちに点在する屋台からは煙が上がっており同時に食物が焼ける音と匂いが当たりに充満している。そんな中を歩く人物が二人、ノックとノスである。
「腹減ったぁ…」
「さっき食べただろ…」
どうやら先ほど買い食いをしたばかりのノックはまたお腹が減ったらしく財布の中身を確認している。ちなみに路銀の余裕はそこまでない、そのためフラフラと屋台によって行くノックの首根っこをノスが掴んで引き離すという光景が先ほどから何度か見られる。
「全く…お前って結構欲望に忠実だよな…」
「そりゃあお前我慢ばっかりしててもいいことなんてないだろ?俺は今その時を生きてるんだ!」
ものすごく心配にかられる言葉を聞きながらノックを引っ張って歩いていると、屋台の間を縫うように走ってくる人物がいた。その人物は前に大量の籠を持っており前がほぼ見えていない状況なのだが、道が分かっているかのようにするすると通り抜けていく。しかし気が付くとその人物が目の前まで走って迫ってきていた、どうやらここを通るらしいのだが両脇は屋台、避けれるわけもなく衝突。
どっしーんという音が聞こえそうなくらい盛大に衝突する。
「うわっ!?」「うべっ…」
「あわわわわわわわわわわわわ!」
ノックを掴んでいた手をパッと離してしまい、倒れた衝撃でノックは目を回してしまった。ぶつかった相手を見ると慌てて散らばった籠の中身のものを拾い直している。容姿は恐らく中高生ぐらいだろうか釣り目で首元で括られた髪、そして何故か角と鱗、尻尾が生えており、その尻尾は焦りを表しているのかせわしなく左右に揺れている。そしてなんとこちらに向かって
「ちゃんと前を見て歩くアルヨ!」
アルヨ言葉で喋ってきたのだった。

人生で初めてアルヨ言葉で説教を喰らった後その少女はまた前が見えなくなるほどの籠をもって走り去っていった。よくよく考えればあちらにも非があるのだが突然だった上にぱっぱと行ってしまったためこちらが文句を言う暇もなかった。
周りを見渡すと徐々に人通りも増えてきておりこのままぼーっと突っ立っているわけにもいかない、また屋台に吸い込まれそうになっているノックを止めつつ目的の場所まで移動を開始するのであった。




しばらく近場の観光地に寄ったりしながらも徐々に目的地周辺へ近づいていく。休憩と腹ごしらえもかねて少し横道に入った料理店を見つけそこで話し合うことにした。
今回の目的地は万里の長城の地下にあるらしく侵入経路を探すのが非常に難しい。なんせあれだけの長さだ、研究所自体も当然それだけ巨大なものとなっている。
『私が持ってる情報はこれだけだ』
一応サジタリウスのデータバンクから過去にアメリカの部隊が侵入した際のデータを取り出し、ある程度の位置を割り出して入る経路を立てる。一方ノックは話を聞かずに料理に舌鼓を打っていたので一発スパンと頭を叩いてこちらに注目させる。
「お前なぁ…いいか?」
「叩くこと無いじゃんかよぉ、まぁ分かりはしたが今回はどれだけ警戒されているんだろうな?」
そう、問題はそこである。各研究所には各国の代理戦争用兵器が99%の割合でいるだろう。その際に相対する敵によってその場で毎回作戦を建てないといけないため一番重要な部分となる。ノック曰くここに居る奴は馬鹿なのでそこまで警戒しなくていいらしい、お前が言うかという話ではあるが。
そう話をしていると次の料理が運ばれてきたようだ。
「お客様失礼するアル」
「「ん?」」『………』
なんだかどっかで聞いたことのある声だなと思い店員の方を見ると。
「「「ああああああああああああ!?」」」
3人同時に大声を上げる。
「今朝の迷惑な通行人アル!」
「今朝の迷惑な変な女!」
「ドラゴンじゃねぇか!」
そこでん?と思う。今ノックが変なことを言った気がする。
「おいノック今なんて言った?」
「ん?ドラゴンじゃねぇかって言ったんだ。紹介するぞ、中国の代理戦争用兵器『ドラゴンブレスショットガン』だ。異名は『龍少女ドラゴンガール』、以前何度か殺り合ったことがあるんだ。」
「はあああああああああ!?」
「えっへんアル!」
流石のノスも驚愕を隠せない、そして何故か胸を張る龍少女。何故か研究所にいるであろう代理戦争用兵器と何の変哲もない店舗の中で鉢合うこととなったのであった。

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