天壌無窮の守人

兎月あぎ

第五幕 地響く足音時々粉雪

世界中で異常気象が起こっている中珍しくしんしんと雪が降る中街中を歩いている二人がいた、ノスとノックである。
「さっみぃ…うぅ…」
ノックはこのような環境下でも今までと変わらない格好をしている、いくらロングコートを羽織っているものの前は手で押さえているだけである、寒いのは当たり前だろう。一方ノスに関しては年中無休でフード付きロングコートを着ているため問題は無いのだろう、平然としている様子だ。
『ノスから忠告を受けていただろう、準備する時間など散々あったというのに…』
とノスの肩掛けカバンから釣り下がっている端末から声がする、元戦闘用AIのサジタリウスである。フロリダ半島から移動して約3か月、今ではすっかりノスたちの便利電子端末として使われている、こう見るとかつて戦場で王と呼ばれ恐れられていた面影など一切ない。
「うっせぇ!俺はこの一張羅で生きていくんだ!……ブァックション!!」
ノックが盛大にくしゃみをした次の瞬間、地震が発生した。
「うおっ…」
ノスが軽くよろけるもののこけるまではいかなかった。別にノックのくしゃみで地震が発生したわけではない、2か月半ほどまえから世界各地で場所、大きさを問わず地震が発生している。異常気象と同じく原因がはっきりしておらず、世界各国で調べられているもののこれといった結果報告は上がっていない。

「きゃっ!?」
ノスの目の先で一人の女性がこける。この国では珍しく藍紫色の振袖を着ており、見たところ年齢は大学生ほどではないかと思われる。すぐさまノスはその女性の元まで駆け寄り手を貸す。
「大丈夫ですか…?」
「ごめんなぁ、手煩わせてもうて。うち目が見えんくて……ッッ!?」
その女性どうやら盲目らしく、顔を見ると目は閉じられていた。しかしその顔がノスの顔がある方向へ向けられた瞬間体をびくっと震わせた。
「…?大丈夫ですかどこか怪我してました?」
「ううん、なんでもないわ。ごめんな、時間取らせてしもうて。ほなな!」
そう言いブーツをカツンカツンと鳴らしながら目が見えないのにもかかわらず小走りで街中の路地裏へと消えていった。
「今の人、美人さんだったなぁにしてもどっかで見たような気が…」
「お前は多少の心配をしてやれ」
『………』
とノックと言葉を交わすのだった。




路地裏にて
「はぁ…はぁ…はぁ……………ふぅ。何やあれ…あんなんおるなんて聞いてないで。…それでも、やるしかないんや。何はともあれ、はよう戻って準備せな…」
冷汗は書いた直後に外気に冷やされ冷たい雫となって地に落ち結晶と化す。またカツンカツンと音を立てて彼女はどこかへ向け走り出すのだった。




場所はとある雪山、ノスの感覚を頼りに山を登っているところである。今回の目的地はおそらく山の密集した山頂に作られているらしく天候がまだひどくなっていないため、今の内に一気に登ってしまおうという事となった。
登っていくうちに徐々にその影が見えてくる、その様子はまるでパイプ造りの宮殿である。中にはすんなりと入ることができたもののやはり入り組んでおり中々前に進んでいるという感覚が持てない。
しばらく進んでいくと長い長い、そして広い通路に出たその最奥。門番であるかのように、とある人物がそこに二人の行き先を邪魔せんと言わんばかりにたたずんでいたのであった。


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