天壌無窮の守人

兎月あぎ

第三幕 二話 鋼鉄の魔城に住む獣

日も落ち数々の星々がきらめく中二つの人影が海岸を走り渡っていた。
2人がいる場所はコロンビア南部にあるとある場所である。
新月の夜は非常に暗く足元を注視してみないと分からないほどで不安感の残る状況ではあるのだが、そんな事お構いなしと言わんばかりに移動し続ける2人はよろける素振りすらない。
2人の進路先にあるのはほとんど明かりのついていない工業地帯、周りには一切建物が無く海岸以外はほぼ獣道ほどしかない幅の道路と言っていいかどうかほどの道が隣に通っている。
「見えてきたな…目的の場所は把握できてるのか?」
そうノックが聞いてくる
「今はまだわからないが近くに行けば行くほど目的の場所は感知できる中に入れさえすれば後はそこに向かうだけだ。」
勿論そこに行くまでには様々なセキュリティが設けられているだろうがノックもいる、おそらく大丈夫だろう。
「じゃあ…入っていくぞ」
静かに外壁を上り外壁上に張り巡らされている赤外線をひらりとかわし侵入した、ノックの方も難なく乗り越え入ることが出来たのだが…、あまりにも静かすぎる。町で耳にした情報だと夜中には耳をすませば毎日のように何かが動き回っている音がするとの情報があったのだが、そのような影が一切見当たらない。
何もないのが一番ではあるのだがこのような状況は逆に不安感をあおってくる。ノックの方を見ると目を凝らして辺りを見回している。目が非常にいいので周りを観察するように頼んでいるのだ。
「今の所誰もいないようだな…奥の研究棟にちらちらと人影は見えるが俺たちの侵入には気づいていないようだ、ところでノス。目的の場所は感知できたか?」
「うん…ここから11時の方向に進んでいったところにあるな、となると必然的に研究棟に入ることになるのかやはり面倒だな。」
ここからだと揺らいで感じる程度ではあるが感知でき始める。さっき乗り越えた城壁に何か細工してあったのだろう外で感じた以上である。
「それじゃあ移動し始めるぞノック、静かに頼むぞ?」
「おうともよ」
小声でガッツポーズを取りながら威勢のいい返事が返ってきたのでおそらくは大丈夫だろう。壁沿いにゆっくり進みじりじりと研究棟の方向へと進んでいく。ここの施設、非常に広く少し移動するだけでも大変なのだが順調に半分ほど進んでいた時、肩を小突かれた。
「おい、ノック何かあったのか?」
そう小声で言いながら振り向くと、5mほど離れた位置で頭上に?を浮かべながら付いてきているノックの姿があった。それを確認した瞬間

パスッ

脇腹に焼かれたような痛みが走る。撃たれた、地面に倒れるように伏せる、が次の瞬間には肩にも痛みが走った。
「ッ”ア”!?」
撃たれた方向を見る、そこには赤い双眸をギラギラと光らせ舌なめずりをしながら狙いを定めている白いラインの映える、赤黒いライダースーツの様な衣服をまとった女の姿があった。
3発目の弾丸が放たれ直撃する瞬間その弾は起動が逸らされ地面に着弾する。ノックが衝撃波を飛ばし逸らしたのだ、ノックが走り近寄ってくる。その左手を見ると人差し指が黒く変色していた。
「おい大丈夫か!?動けるのか!?早く物陰に行くぞ動くなよ!」
そう早口でまくし立てるように喋ったノックに担がれパイプが乱立し走っているスペースに滑り込んだ。
「すまないノック、お前こそ大丈夫なのか…?ッ…大体なんだアイツは、いつから狙われていたんだ…全く分からなかった」
そう言いながら応急処置を施す、幸い弾は貫通しており摘出処理をしなくて済んだ。ノックは先ほど女のいた方向を凝視しながら疑問に答えてくれた。
「俺は大丈夫だ…だが、そうか厄介だな。クソッ、ここにはアイツが所属してたのか。」
「知ってるのか…?なら教えてくれ、撃たれたってことは俺たちの侵入もバレている、それに侵入に騒いでいないってことはあの女だけでこちら側を処理できると思っているってことだ。早急に手を打たないと目的のものが移動させられるかもしれない」
そういうとノックは知っている限りの襲撃者の情報を教えてくれた。


「アイツの名前は『シャドートラッカー』、静音性能に優れているうえにあっちからはこっちの動向がすべて見えているかのように次々と打たれていった奴が多いと聞く、特に夜間に襲撃されるされることが多く奴を見たにもかかわらず生きて帰ってこれた運のいい奴から聞いた話で、そこから伝わっていった異名が『双紅の女豹』だ。しかも今日は新月…分が悪すぎるな…」
そう言った後、ノックが顔を引っ込めた瞬間先ほどまでいた空間を銃弾が引き裂いていった。
侵入できたもの束の間、2人の前に非常な厄介な相手が出てきてしまったのであった。


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