六度目の転生は異世界で

克全

第36話:統一皇帝

教会歴五六六年九月(十七歳)

「バルバラ、レナ、悪いが頼んだよ」

「お任せくださいレオナルド様、コルス島は無事に接収してきます」

 バルバラが気真面目に答えてくれる。

「なにも一緒に上陸しなくても、大丈夫だと思うのだけどな。
 バルバラがコルス島を接収しているあいだに、僕がサルディーニャ島を接収すればいいのじゃないかな」

 レナが少し拗ねたような甘えたような話し方をしてくる。
 艦隊を半分に分けて、同時に両島を接収したいのだろう。

「駄目だよ、島を占拠した奴隷や貧民達が素直に降伏を申し込んできているとは言っても、頭から信じてはいけないよ。
 万が一彼らが襲いかかって来ても、確実に勝てるようにしておかないとね」

「でもレオナルド様、島の連中が襲いかかって来ても、艦隊にいる兵士達だけで撃退できるし、島も占領できると思うけどなぁあ」

「そうだね、艦隊の兵士が全員心を合わせて戦ってくれれば勝てるだろうね。
 でもね、最悪を想定するなら、ロアマ人の漕ぎ手や兵士が裏切る可能性も考慮して、それでも二人が無事に帰って来られる作戦が必要なのだよ。
 俺にとっては、コルス島やサルディーニャ島が接収できなくても構わない。
 二つの島よりも二人の方が大切なんだよ、分かってくれ」

「えっへへへへ、だったら時間をかけて順番に接収してくる。
 レオナルド様に心配をかける訳にはいかないよね」

 レナが満面の笑みを浮かべて嬉しそうに返事をしてくれた。

「うれしいです、レオナルド様」

 横で黙って聞いていたバルバラは、笑み崩れそうになっている表情を何とか引き締めようとしているが、完全に失敗している。
 嘘偽りを口にしているわけではなく、本心からそう思っている。
 ギリス教団ローマ総教主とロアマ帝国軍ローマ司令官が大失敗をしでかし、ローマが陥落してから、イタリアに残っていたロアマ帝国都市が次々と降伏してきた。
 全ての都市で奴隷や貧民が蜂起して実権を手に入れたからだ。

 俺のする事は、降伏を申し込んできた都市に行って、実権を握った奴隷や貧民の代表を、奴隷や従属民として保護すると宣言する事だった。
 一年もたたないうちに、何の損害も受けることなくイタリアを統一した。
 俺が使ったものは、降伏してきた奴隷や従属民を喰わしていく穀物だけだった。
 その穀物も、新たな領土を獲得すると同時に半年ごとに収穫があり、奴隷や従属民に配る量以上に蓄えることができた。

 多くの新たな奴隷や従属民にただ飯を食わせる気はないので、それぞれができる仕事をさせたのだが、単なる労働奴隷や農園奴隷が多かった。
 彼らを俺が達成した農業革命に当てはめると、どうしても人手が余る。
 余った人手を奴隷徒士団に繰り入れ、農地開拓や材木の伐採に使った。
 イタリアを統一したら、次はオーク王国ではなく海を目指すためだ。
 そんな俺に、コルス島、サルディーニャ島、シチリア島が降伏臣従を申し込んできたのだ。

 その接収を俺が心から信じて艦隊を預けたバルバラとレナに命じた。
 六人いる俺の妻の内、一番戦闘力のある二人だった。
 本当はどちらか一人は俺の側に置いて護りを任せたかったのだが、危険な任務を頼む以上、背中を任せられるバディを離れ離れにするわけにはいかない。
 だから俺の護りは二人に次いで戦闘力のあるエルフ族のアリナに任せている。

 同じエルフ族のロザムンダを妻にしたのは政治的な意味で愛があるからではない。
 とても美しい女性だが、無理矢理に妻にされたとはいえ、夫を殺した女性の横で眠れるほど俺の心臓は強くない。
 ロザムンダと女王のアルプスインダを妻にしたのは、二人を他の誰かが妻にした場合、俺を討伐する口実にできるからだ。

 ロアマ帝国軍であろうとオーク軍であろうと、不意討ちを謀る氏族軍であろうと、絶対に負ける事はないのだが、戦いを始めれば巻き添えを食う民が出てくる。
 俺は予言者であり、ランゴバルド王国すら支配下に置く皇帝となったのだ。
 民を死なせるかもしれない危険な因子は事前に取り除かなければいけない。
 女を殺すのは嫌なので、仕方なく妻に迎える事にしたのだ。

 だがここでとても大きな問題が起きてしまった。
 ロアマ人に野蛮人と言われるランゴバルド人だが、一応は人間だ。
 エルフ族のロザムンダとアリナ、狼人族のバルバラと獅子人族のレナの間には、子供ができる可能性が極端に低いのだ。
 生殖能力の高いオーク族のアルプスインダ女王との間なら、子供ができる可能性がとても高いのだが、俺と女王との間に愛情などない。

 全く愛情のない両親の間から生まれた子供の性格が歪んでしまい、不幸になる事は絶対に許せない。
 歪んだ性格の王がまともな統治ができるとは思えないからだ。
 だから、幼い頃からよく知っている、俺も愛情が育てられて、相手も俺に愛情を育てられる幼馴染のランゴバルド人、デミも妻に迎えたのだ。
 それに母上が妹のソフィアの侍女見習いとして見込んだほどの少女だから、安心して俺の後宮を任せることができる。

 表の政治と軍事を整えるだけでなく、奥の事も手を抜くことなく整える。
 奥が表の政治や軍事に口出しする事などあってはならない。
 バルバラとレナは俺の妻だから海軍の司令官に選ばれたわけではない。
 俺が心から信頼できる戦士だから選んだのだ。
 後々の禍根にならないように、その事はきちっと記録に残した。
 父上に続いて俺までが妻に頭が上がらないと思われてしまったら、神聖ストレーザ教国が女性上位の国になってしまう。

 バルバラとレナが乗る船が見えなくなると、俺は急いでオーク王国との国境、アオスタ地方に向かった。
 統一王を目指して血で血を洗う戦いをしているオーク王国は、俺とアルプスインダ女王との結婚に何の文句も言ってこなかった。
 だが、だからといって油断するわけにはいかなかった。

 オーク王国内での立場を強くするために、予言者と称される俺と戦って勝ったという評判を手に入れようとする、愚か者が現れるかもしれないのだ。
 例え純血種のオーク族の大軍が攻め込んできても、負ける気などしない。
 だが不意を突かれたら、救援に駆けつけるまでに多くの民が死傷してしまう。
 予言者を名乗って国を支配した以上、民を食わし護る責任がある。
 この命尽きるまで、その責任を放棄する気はない。

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