侯爵家当主の愛人候補様?

アーエル

問題はないのです


「見事にニセモノね。これではどこも受け付けてくれないわ」
「ウソよ!」
「本当よ。ああ、没落貴族のあなたなら、これのどこが間違っているかわかるかしら?」

不意に自分に矛先が向いて緊張したのか「はいいい!?」と素っ頓狂な声をあげたが、私がピラピラと紙を振っているのに気付いて「失礼します」といって立ち上がり、恭しく証書を両手で受け取った。
ザッと目を走らせると「わかりました」といって返してくる。
それをテーブルに載せて「どこがどう?」と確認する。

文章の間違った記述を上から順番に指摘していく女性。
そしてサインの部分にはいり、花紋の指摘を始めた。

「はああ? 花紋? 何よそれ!」
「貴族には生まれたときに王家から贈られる。花をかたどった紋でね、同じ花紋はひとつもない。元々花押って風習があったけど、それだとニセモノが出回るから花紋にとって変わられた。私はこの指輪。これを普通の紙に押し付けると凹凸おうとつができる。どんなに紙に透かしをいれたりして本物らしくしようとしてもムダなの」
「……な、んでアンタがそれ持ってるのよ。アンタも貴族だというの!?」
「あなたは私の愛人になりにきた・・・・・・・・・・んじゃないの?」

女は口をパクパクさせて必死に空気を吸おうと喘いでいる。

「そういえば、ご挨拶がまだでしたわね。マルシャン伯爵家当主フレイヤ。当家は女当主ですの。愛人でしたら女性より男性がいいですわ」
「んなっ! マルシャン伯爵家の当主はフレイ・・・って……」
「はい、フレイは私の愛称ですわ。よくあることですが、フレイア・・・・フレイヤ・・・・で間違えて覚えられることが多いため通称ではフレイなんです。もちろん花紋が押されるため、本人か否かはそれで証明されますから。サインが通称でも偽名でも問題はないのですよ」

扉が開いて執事が小さく言葉を交わす。
そして入室を許可する声が小さく聞こえると、カチャカチャという金属がこすれる音をたてながら騎士たちが入ってきた。

「んな!?」
「そちらの方がそうです」
「あんたっ!!」

女が私を掴むより早く、騎士たちが女を取り押さえた。
暴れても、男と女の差は大きい。

「アイツは!」
「あら、彼女はメイドに使えって仰ったのはあなたでしょ。まずは試用期間ね」
「ふざけんな!」
「そちらは連れてって。これが偽造書類。名前は1名、その女のよ。そこの連れてこられた彼女は預かるわ」
「はっ!」

騎士たちは縄を打った女に猿轡をかませて連れ出す。
暴れるものの、うなるだけで何も聞こえないし聞きたくもない。

「あの……」
「黙ってなさい」
「はい」

女性は黙って控える。
騎士たちの最後尾について出て行った執事が戻ってくるまで、私はソファーに腰掛けて向かいに残された女性を座らせて面接していた。
と言っても、黙って彼女の様子を観察していただけだが。
彼女は私を上座に座らせることを忘れなかった。
そして、荒らされたソファーセットの位置を元の位置に戻したりしたあとに立っていたから座らせただけだ。

「フレイ様。騎士様より、これより取り調べて明日報告に参られるとのことです」
「そう、それで彼女なんだけど」
「最近没落した貴族の中で令嬢がいらっしゃったとなりますと。たしかフーゴリス子爵家に姉妹がいらっしゃられたと」
「フーゴリス? たしかボンボール公爵の悪事の罪を押し付けられた?」
「……はい、フーゴリス家長女ゼアラと申します」

そして彼女は私に促されて、公爵家の悪事から没落までをこと細かに話した。

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