気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
復讐者編 後日談 決着と結成
事件から数日後。
昼の事。
出かける途中。
中央広場で優雅にお茶していたカラスを見かけた。
「カラス」
「ん?」
声をかけると、カラスは私に顔を向けた。
「やぁ、小生に何か用かな?」
「お礼を言おうと思って。あの事件の時、人が死なないようにしてくれたでしょ?」
「そんな事か。あれは、小生の領分だと言っただろう?」
「そうなんだけどさ。一応、ね」
「そうか」
カラスは答え、目を細めて笑った。
「すごい力だね、死の権能ってのは。だって、致命傷を受けても、死なないようにできるんだから」
「ん? まぁそれもできないではないが、疲れるからね。今回は使ってないよ。今回の小生は、死の運命を読んで直接その場に赴き、助けていただけさ」
「え?」
ジャックさん。
運がよかっただけなんだ……。
「そうだったんだ……」
「そうだとも。さて、小生はこれからゲームセンターへ向かうとしよう。君もどうだい?」
「いや、私は用事があるから」
「それは残念だ」
カラスと別れの挨拶を交わし、私はその場から離れた。
それから私が向かったのは、国衛院の本部である。
受付で話をすると、別の隊員が玄関まで来て院長室へ案内してくれた。
私を呼び出したのは、アルマール公だった。
どういう内容で呼び出されたのか、私にはまだよくわかっていない。
恐らく、暴動についての事だろう。
「よく来てくれた。かけたまえ」
部屋へ入ると、アルマール公は私をソファーへ促す。
私が座ると、執務机に着いたアルマール公と対面する形になった。
「失礼します」
案内してくれた隊員が部屋から出て行き、私はアルマール公と二人きりになった。
「さて、今回の暴動だが……。その諸々の結末について簡潔に話しておこう」
その前置きに、私は頷く。
アルマール公は話し始めた。
「町の人間に関しては家財や怪我などの被害は出ているが、奇跡的に死者はいなかった。
不幸中の幸いと言えるな。
これは早期に国衛院が開放され、組織的な治安活動を行なえた事が要因の一つだと思われる。
君がタイプビッテンフェルトを倒してくれた事も一因の一つなら、陛下が軍を出してくれた事もそうだろう。
まぁ、他に私の知らぬ要因があるとも考えられるが……」
アルマール公は私を見ながら言う。
この人にはカラスの存在を伝えていない。
けれど、もしかしたら国衛院の情報網で知りえているのかもしれない。
……まぁ、隠れても忍んでもいないあの女神様の存在を知る事はそれほど難しくないかもしれないが。
「それはいいだろう。タイプビッテンフェルトは全て回収。今回の計画を実行した者は全員捕縛する事もできた。それを支援した者も全員の身元が割れている。間も無く捕縛できるだろう」
「彼らはどうなるんですか?」
「正直、彼らに関してはどこに責任を求めるべきか困っていてね。
彼らはもうサハスラータと関係がないからな。
とはいえ元々がサハスラータの組織ゆえ、言いがかりをまかり通らせる事もできるのだが……。
陛下としてはそれをしたくないようだ。
今後の国交関係を気にしているのだろう。
となれば、関係がないとはいえ一応はサハスラータ人である彼らを処断する事もはばかられる。
いっそのこと、サハスラータに送りつけて処分は任せてしまうべきではないか。
という話になりそうだ」
「そうですか」
あの事件について、話はこの二つくらいだろうか。
そう思ったのだが、アルマール公はさらに続けた。
「あとは、国衛院の処分かな」
「国衛院の処分?」
アルマール公は頷いた。
「此度の事は、情報を察知できなかった国衛院の落ち度だ。このような事件が起きないようにするため、この組織は存在しているのだからな。私達は、その役割を果たせなかったわけだ。当然、処分される。まぁ、これは私の首一つくらいで済むだろう」
「刎ねられちゃうんですか!?」
三国志みたいに!
「普通に罷免されるだけだが?」
よかった。
ならばよし!
「じゃあ、ルクスが院長に?」
「うむ。いささか頼りないが、イノスがついていればなんとかなろう。というより、イノスさえいればルクスがいらぬくらいだ」
なるほど。
もうあいつだけいればいいんじゃないかな? と。
「で、だ……。ここからが本題だ」
アルマール公は目を細めて言う。
「これから話す事、君がどう受け止めようとも口外せぬ事を約束してくれ」
秘密の話ってわけか。
だから、二人きりなんだな。
「偶然だが、今回は秘密裏に作られた新型タイプビッテンフェルトと君の活躍によって被害が最小限に抑えられた。そう言っても良いだろう」
黒の貴公子か。
「確かにあれはすごいものでした。あれがなければ、どうなっていたかわかりません」
少なくとも自力ではタイプビッテンフェルトを回収する事など不可能だった。
所々で数を減らせず、着用者全員で攻められていたら陛下は守りきれなかったかもしれない。
「うむ。それは陛下も同じ見解だ。そして今回の例を元に、兵器に関する情報は今後最新よりも一つ古い物を最新技術として公表する事となった」
「つまり、本当の最新技術……「黒の貴公子」のような本当の最新鋭の技術はすぐには公表しない、と?」
「うむ。国衛院の院長と魔法研究所の開発者と所長、そして陛下以外が知りえる事がないようにする。たとえ、今回のように新兵器などが奪取されたとしても、本来の最新兵器で対応可能の状況を作り出せるようにするためだ」
「……奪われないようにすればいいのでは?」
「はっはっは、耳が痛いなぁ!」
アルマール公は楽しげに笑った。
「国衛院も万能では無い。現に、影に対しては少し劣るようだ。たとえ、全力で防備を固めたとしても、綻びはできる。絶対に防ぎきれるという保障はない」
「その本来の隠匿される最新技術の情報だって、それに漏れないのでは? 絶対はないのでしょう?」
「たしかに……。だからこそ、今後の兵器には全て特定の人物で固定された使用認証を付けさせるつもりなのだよ」
「特定の人物……?」
「うむ。ずばり君の事だ」
え、私?
「今後の最新兵器。恐らく、しばらくはタイプビッテンフェルトの後継機となるだろうが、その後継機を君に預けたい」
「私に……。どうして私なんですか?」
「君が適任だと、私が判断した。陛下も、君になら託せると仰っていた。だからこそ、私の提案した計画にも乗ってくださったよ」
「計画?」
今度はいったい何を計画しているんだ?
王城の廊下走り隊か?
ヴェルデイド公の死んだふり計画か?
「君を中心とした非公式部隊を作りたい」
「非公式部隊……」
王城の廊下走り隊か!
「何、難しい話ではない。これまで君に頼んできた事を組織的に行いたいというだけに過ぎないのだから」
これまでにやってきた事……。
つまり、どっかの屋敷に忍び込んで不正の証拠を奪う、ルクスとイノス先輩にちょっかいかけて甘酸っぱさを国衛院の偉いさんに提供する、などの行動を「黒の貴公子」を用いて全力で成せ、と?
「そしてこれからは国衛院の秘密結社ではなく、アールネスの非公式組織として事にあたるというだけの事だ」
結局、秘密の組織なのは変わらないんだ……。
さらっと言ったけど、それってすっごい大役なのでは?
「えっと……」
「頼むよ。この国の事を思うなら、了承してほしい」
そう言われてしまうと、断れない、か。
私にとってここは、この世界における生まれ故郷だ。
父上はそういう事をあんまり気にしていないようだけれど、私にとってはやっぱり大事な場所だ。
それを守るために、と言われれば協力したい。
「わかりました」
「ありがとう。では、人員の選考は君に任せよう」
「人員? 他にも人を入れるんですか?」
「ああ。部隊だからな。そしてこの国唯一の最新技術使用の許可を得た最高の部隊だ。人材もまた、これ以上ない最高の精鋭を揃えたい。なおかつ、最高機密の使用認証を与えても良いと信用に足る人材だ。それを君に選んで欲しい」
「私でいいんですか?」
「少なくとも、君は私にそう思わせるだけの信頼を得ているのだよ」
そんな事を言われると緊張するなぁ……。
「買いかぶり過ぎです」
「私はそう思わないがね。そして部隊運営の責任者もまた、非公式の存在であるべきだ。役職のない人間が好ましい」
「責任者ですか」
「予算交渉や運営方針の決定。その他諸々の面倒な手続きまで引き受けたくなかろう?」
それは、確かに……。
つまり、私にとっての上司みたいなものか。
「ええ、まぁ。それも私が選ぶんですか?」
「そうだな」
部下が上司を選ぶというのも奇妙な話だ。
「ところで、丁度良い人材がいるのだが……」
「誰ですか?」
「責任を取るために、国衛院院長を罷免される優秀な老人が一人」
つまり自分を雇え、と。
ふと、その時に私は懸念を抱いた。
……アルマール公。
もしかして……。
「質問があるのですが。どうしてあのタイプビッテンフェルトを「黒の貴公子」として作らせたのですか?」
あの時は、はぐらかされた。
でも今は、答えてもらえるはずだ。
アルマール公は愉快げに笑う。
「君の考えはわかる。この部隊の設立を事件の前から見越していた、そう言いたいのだろう?」
そうだ。
正直に言えば、私はそれを疑っている。
今までの話を聞いて。
この部隊の設立があの事件の後に決まったものではなく、以前から用意されていたものに思えたのだ。
あの事件が起こった事で部隊の設立が決まった。
その流れは、あまりにもうまく進みすぎている。
まるで、全て計画されていたかのように。
タイプビッテンフェルトの奪取、暴動、「黒の貴公子」の活躍によるタイプビッテンフェルトの排除、そしてアルマール公の罷免。
全てが、部隊設立にとって都合の良い出来事だ。
だから疑ってしまう。
アルマール公は本当に、今回の影達の事件を察知できなかったのだろうか?
今回の事は全て、アルマール公の仕組んだ事だったんじゃないだろうか?
事件を知りながら、暴動が起こる事を知りながら、それをあえて見過ごした。
部隊設立のために……。
アルマール公は黒の貴公子を作らせ、作るための援助をした。
それも最新技術奪取による危機を陛下へ示唆するためだったのではないだろうか。
そんな危機に対応するための部隊。
この事件は、その部隊を作る事を目的としたデモンストレーションであり、なおかつ「黒の貴公子」の性能を見せるためのプロモーションだったのではないか。
そう思えた。
黒の貴公子を作り、活躍させる事でこの部隊の必要性をアピールしたのだ……。
私はアルマール公を睨みつけた。
もしその考えが正しかったとするならば、今回の事は許容できない。
「ふふふ」
アルマール公は笑う。
「それこそ買いかぶりすぎだ。私だって人間だ。大事な家族を危機にさらしてまで、そのような事はしないさ」
そのわりに、私の考えは理解しているんですね。
何も言っていないのに。
「本当ですか」
「本当だとも。事件で陛下に何かあれば部隊設立どころじゃない。国防を固めるための計画で国そのものを壊してしまえば、意味がない。元の木阿弥だ」
確かに……。
その通りだ。
「ふふふ」
アルマール公は私を見ながら笑う。
「わかりました。信じましょう」
「ありがとう」
「部隊設立のための人員は私が選んでもいい。そういう事でしたね? 早速探します」
「ああ、頼むよ。君が作る最強の部隊。楽しみにしているよ」
そう言って、アルマール公はいっそう笑みを深めた。
昼の事。
出かける途中。
中央広場で優雅にお茶していたカラスを見かけた。
「カラス」
「ん?」
声をかけると、カラスは私に顔を向けた。
「やぁ、小生に何か用かな?」
「お礼を言おうと思って。あの事件の時、人が死なないようにしてくれたでしょ?」
「そんな事か。あれは、小生の領分だと言っただろう?」
「そうなんだけどさ。一応、ね」
「そうか」
カラスは答え、目を細めて笑った。
「すごい力だね、死の権能ってのは。だって、致命傷を受けても、死なないようにできるんだから」
「ん? まぁそれもできないではないが、疲れるからね。今回は使ってないよ。今回の小生は、死の運命を読んで直接その場に赴き、助けていただけさ」
「え?」
ジャックさん。
運がよかっただけなんだ……。
「そうだったんだ……」
「そうだとも。さて、小生はこれからゲームセンターへ向かうとしよう。君もどうだい?」
「いや、私は用事があるから」
「それは残念だ」
カラスと別れの挨拶を交わし、私はその場から離れた。
それから私が向かったのは、国衛院の本部である。
受付で話をすると、別の隊員が玄関まで来て院長室へ案内してくれた。
私を呼び出したのは、アルマール公だった。
どういう内容で呼び出されたのか、私にはまだよくわかっていない。
恐らく、暴動についての事だろう。
「よく来てくれた。かけたまえ」
部屋へ入ると、アルマール公は私をソファーへ促す。
私が座ると、執務机に着いたアルマール公と対面する形になった。
「失礼します」
案内してくれた隊員が部屋から出て行き、私はアルマール公と二人きりになった。
「さて、今回の暴動だが……。その諸々の結末について簡潔に話しておこう」
その前置きに、私は頷く。
アルマール公は話し始めた。
「町の人間に関しては家財や怪我などの被害は出ているが、奇跡的に死者はいなかった。
不幸中の幸いと言えるな。
これは早期に国衛院が開放され、組織的な治安活動を行なえた事が要因の一つだと思われる。
君がタイプビッテンフェルトを倒してくれた事も一因の一つなら、陛下が軍を出してくれた事もそうだろう。
まぁ、他に私の知らぬ要因があるとも考えられるが……」
アルマール公は私を見ながら言う。
この人にはカラスの存在を伝えていない。
けれど、もしかしたら国衛院の情報網で知りえているのかもしれない。
……まぁ、隠れても忍んでもいないあの女神様の存在を知る事はそれほど難しくないかもしれないが。
「それはいいだろう。タイプビッテンフェルトは全て回収。今回の計画を実行した者は全員捕縛する事もできた。それを支援した者も全員の身元が割れている。間も無く捕縛できるだろう」
「彼らはどうなるんですか?」
「正直、彼らに関してはどこに責任を求めるべきか困っていてね。
彼らはもうサハスラータと関係がないからな。
とはいえ元々がサハスラータの組織ゆえ、言いがかりをまかり通らせる事もできるのだが……。
陛下としてはそれをしたくないようだ。
今後の国交関係を気にしているのだろう。
となれば、関係がないとはいえ一応はサハスラータ人である彼らを処断する事もはばかられる。
いっそのこと、サハスラータに送りつけて処分は任せてしまうべきではないか。
という話になりそうだ」
「そうですか」
あの事件について、話はこの二つくらいだろうか。
そう思ったのだが、アルマール公はさらに続けた。
「あとは、国衛院の処分かな」
「国衛院の処分?」
アルマール公は頷いた。
「此度の事は、情報を察知できなかった国衛院の落ち度だ。このような事件が起きないようにするため、この組織は存在しているのだからな。私達は、その役割を果たせなかったわけだ。当然、処分される。まぁ、これは私の首一つくらいで済むだろう」
「刎ねられちゃうんですか!?」
三国志みたいに!
「普通に罷免されるだけだが?」
よかった。
ならばよし!
「じゃあ、ルクスが院長に?」
「うむ。いささか頼りないが、イノスがついていればなんとかなろう。というより、イノスさえいればルクスがいらぬくらいだ」
なるほど。
もうあいつだけいればいいんじゃないかな? と。
「で、だ……。ここからが本題だ」
アルマール公は目を細めて言う。
「これから話す事、君がどう受け止めようとも口外せぬ事を約束してくれ」
秘密の話ってわけか。
だから、二人きりなんだな。
「偶然だが、今回は秘密裏に作られた新型タイプビッテンフェルトと君の活躍によって被害が最小限に抑えられた。そう言っても良いだろう」
黒の貴公子か。
「確かにあれはすごいものでした。あれがなければ、どうなっていたかわかりません」
少なくとも自力ではタイプビッテンフェルトを回収する事など不可能だった。
所々で数を減らせず、着用者全員で攻められていたら陛下は守りきれなかったかもしれない。
「うむ。それは陛下も同じ見解だ。そして今回の例を元に、兵器に関する情報は今後最新よりも一つ古い物を最新技術として公表する事となった」
「つまり、本当の最新技術……「黒の貴公子」のような本当の最新鋭の技術はすぐには公表しない、と?」
「うむ。国衛院の院長と魔法研究所の開発者と所長、そして陛下以外が知りえる事がないようにする。たとえ、今回のように新兵器などが奪取されたとしても、本来の最新兵器で対応可能の状況を作り出せるようにするためだ」
「……奪われないようにすればいいのでは?」
「はっはっは、耳が痛いなぁ!」
アルマール公は楽しげに笑った。
「国衛院も万能では無い。現に、影に対しては少し劣るようだ。たとえ、全力で防備を固めたとしても、綻びはできる。絶対に防ぎきれるという保障はない」
「その本来の隠匿される最新技術の情報だって、それに漏れないのでは? 絶対はないのでしょう?」
「たしかに……。だからこそ、今後の兵器には全て特定の人物で固定された使用認証を付けさせるつもりなのだよ」
「特定の人物……?」
「うむ。ずばり君の事だ」
え、私?
「今後の最新兵器。恐らく、しばらくはタイプビッテンフェルトの後継機となるだろうが、その後継機を君に預けたい」
「私に……。どうして私なんですか?」
「君が適任だと、私が判断した。陛下も、君になら託せると仰っていた。だからこそ、私の提案した計画にも乗ってくださったよ」
「計画?」
今度はいったい何を計画しているんだ?
王城の廊下走り隊か?
ヴェルデイド公の死んだふり計画か?
「君を中心とした非公式部隊を作りたい」
「非公式部隊……」
王城の廊下走り隊か!
「何、難しい話ではない。これまで君に頼んできた事を組織的に行いたいというだけに過ぎないのだから」
これまでにやってきた事……。
つまり、どっかの屋敷に忍び込んで不正の証拠を奪う、ルクスとイノス先輩にちょっかいかけて甘酸っぱさを国衛院の偉いさんに提供する、などの行動を「黒の貴公子」を用いて全力で成せ、と?
「そしてこれからは国衛院の秘密結社ではなく、アールネスの非公式組織として事にあたるというだけの事だ」
結局、秘密の組織なのは変わらないんだ……。
さらっと言ったけど、それってすっごい大役なのでは?
「えっと……」
「頼むよ。この国の事を思うなら、了承してほしい」
そう言われてしまうと、断れない、か。
私にとってここは、この世界における生まれ故郷だ。
父上はそういう事をあんまり気にしていないようだけれど、私にとってはやっぱり大事な場所だ。
それを守るために、と言われれば協力したい。
「わかりました」
「ありがとう。では、人員の選考は君に任せよう」
「人員? 他にも人を入れるんですか?」
「ああ。部隊だからな。そしてこの国唯一の最新技術使用の許可を得た最高の部隊だ。人材もまた、これ以上ない最高の精鋭を揃えたい。なおかつ、最高機密の使用認証を与えても良いと信用に足る人材だ。それを君に選んで欲しい」
「私でいいんですか?」
「少なくとも、君は私にそう思わせるだけの信頼を得ているのだよ」
そんな事を言われると緊張するなぁ……。
「買いかぶり過ぎです」
「私はそう思わないがね。そして部隊運営の責任者もまた、非公式の存在であるべきだ。役職のない人間が好ましい」
「責任者ですか」
「予算交渉や運営方針の決定。その他諸々の面倒な手続きまで引き受けたくなかろう?」
それは、確かに……。
つまり、私にとっての上司みたいなものか。
「ええ、まぁ。それも私が選ぶんですか?」
「そうだな」
部下が上司を選ぶというのも奇妙な話だ。
「ところで、丁度良い人材がいるのだが……」
「誰ですか?」
「責任を取るために、国衛院院長を罷免される優秀な老人が一人」
つまり自分を雇え、と。
ふと、その時に私は懸念を抱いた。
……アルマール公。
もしかして……。
「質問があるのですが。どうしてあのタイプビッテンフェルトを「黒の貴公子」として作らせたのですか?」
あの時は、はぐらかされた。
でも今は、答えてもらえるはずだ。
アルマール公は愉快げに笑う。
「君の考えはわかる。この部隊の設立を事件の前から見越していた、そう言いたいのだろう?」
そうだ。
正直に言えば、私はそれを疑っている。
今までの話を聞いて。
この部隊の設立があの事件の後に決まったものではなく、以前から用意されていたものに思えたのだ。
あの事件が起こった事で部隊の設立が決まった。
その流れは、あまりにもうまく進みすぎている。
まるで、全て計画されていたかのように。
タイプビッテンフェルトの奪取、暴動、「黒の貴公子」の活躍によるタイプビッテンフェルトの排除、そしてアルマール公の罷免。
全てが、部隊設立にとって都合の良い出来事だ。
だから疑ってしまう。
アルマール公は本当に、今回の影達の事件を察知できなかったのだろうか?
今回の事は全て、アルマール公の仕組んだ事だったんじゃないだろうか?
事件を知りながら、暴動が起こる事を知りながら、それをあえて見過ごした。
部隊設立のために……。
アルマール公は黒の貴公子を作らせ、作るための援助をした。
それも最新技術奪取による危機を陛下へ示唆するためだったのではないだろうか。
そんな危機に対応するための部隊。
この事件は、その部隊を作る事を目的としたデモンストレーションであり、なおかつ「黒の貴公子」の性能を見せるためのプロモーションだったのではないか。
そう思えた。
黒の貴公子を作り、活躍させる事でこの部隊の必要性をアピールしたのだ……。
私はアルマール公を睨みつけた。
もしその考えが正しかったとするならば、今回の事は許容できない。
「ふふふ」
アルマール公は笑う。
「それこそ買いかぶりすぎだ。私だって人間だ。大事な家族を危機にさらしてまで、そのような事はしないさ」
そのわりに、私の考えは理解しているんですね。
何も言っていないのに。
「本当ですか」
「本当だとも。事件で陛下に何かあれば部隊設立どころじゃない。国防を固めるための計画で国そのものを壊してしまえば、意味がない。元の木阿弥だ」
確かに……。
その通りだ。
「ふふふ」
アルマール公は私を見ながら笑う。
「わかりました。信じましょう」
「ありがとう」
「部隊設立のための人員は私が選んでもいい。そういう事でしたね? 早速探します」
「ああ、頼むよ。君が作る最強の部隊。楽しみにしているよ」
そう言って、アルマール公はいっそう笑みを深めた。
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