気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

復讐者編 エピローグ I'm……

 昔、イノス先輩があの復讐者に人質とされてしまった時、復讐者はルクスを郊外の教会へと誘い出した。

 今回、復讐者はかつて私達と対峙した時計塔へルクスを監禁した。
 その復讐者の行動から私は、かつての出来事をなぞる意図を察する事ができた。

 あの復讐者がイノス先輩を人質とし、ルクスが姿を消したとするならば恐らくあの教会にいるだろう。

 そう思った私は、カナリオとの戦いを経てバイクで教会まで走った。
 そして辿り着き、教会の様子をソナーで探る。

 すると、教会内に起爆式が仕掛けられている事がわかった。
 それも一つだけじゃなく複数。
 教会を倒壊するに十分な量だった。

 ルクスとイノス先輩は無事で、復讐者は倒れていた。
 すでに先輩が言うには起爆式は起動状態にあり、もうすぐ爆発するという。
 それを聞いた私は急いでステンドグラスから直接礼拝堂へ侵入。

 二人を助け出して外へ出た。

 教会が爆発するまでに十分に離れる事ができ、事なきを得た。

 教会が爆発した後、私は適当な場所へ着地する。
 抱えていた二人を地面に転がし、首に抱きついてもらっていたイノス先輩にも降りてもらった。

 肩部装甲へ変形させていた黒嵐をバイクへ変形させると、体に力の入らないルクスを前に、イノス先輩には後ろに座ってもらう。

 バイクを走らせる。

 復讐者?
 あいつならバイクの後ろで引き摺られてるよ。

 タイプビッテンフェルトの水晶と関節を外し、足に魔力縄《クロエクロー》を引っ掛けて引き摺る事にしたのだ。

 無法者がこうされるのは荒野の掟である。
 馬より早いからかなり怖いだろうけどね。

 装甲が頑丈なので、体が削れる事はないだろう。

 そうして町を走り、国衛院本部へ向かう途中。
 暴徒に囲まれる一人の少女を見かけた。

 少女は暴徒を相手に怯える事もなく、むしろ怒鳴りつけていた。

 この声は、エミユちゃんだ。

「お嬢ちゃん、一人かい?」
「どけ! お前らに構ってる暇なんて、あたしには無ぇんだよ!」
「威勢のいいお嬢ちゃんだぜ。へへへ」

 暴徒達は、エミユちゃんに対して笑う。

 エミユちゃんなら大丈夫そうだけど……。

 私はバイクから下りて、高く跳び上がる。
 マントを広げ、上空から奇襲する。

 その際に、魔法で白煙を辺りへ撒き散らした。

「な、なんだ?」
「何も見えねぇ!」
「ぐあっ!」

 白煙の中で暴徒達を倒した。
 風を起こして白煙を散らすと、その場で立っているのは私とエミユちゃんだけだった。

「あんたは……」

 エミユちゃんが私を見て声を発する。

 私は答える代わりに、バイクを停めてある方向を指す。
 ルクスがイノス先輩に肩を貸してもらいながら、こちらに歩いて来ていた。

「あ、あ……。父ちゃん! 母ちゃん!」

 エミユちゃんがそちらへ駆けていく。
 そのままルクスに抱きつき、ルクスが受け止めきれずに後ろへ倒れた。

「無事でよかった!」

 ルクスをぎゅっと抱き締めてから、私の方に向く。

「ありがと!」
「約束を守っただけだ」

 答える。
 それからすぐに、国衛院の隊員がこちらへ走り込んできた。

「ルクス隊長! イノス副隊長! ご無事でしたか!」

 隊員は敬礼する。

「おう。状況はどうなっているんだ?」
「はい。暴動の鎮圧はもうほとんど終わっています。あとは、散り散りになった暴徒達を捕縛するのみです」
「そうか。ご苦労だったな」
「はっ!」

 ルクスは隊員を労うと、私を向く。

「今回は助かった。いつもは追われる立場なのに、よく助けてくれたな」
「この国を大切に思う者として、当然の事だ」

 答えて、私はバイクの方へ向かう。
 その背に、ルクスが問う。

「なぁ、お前は何者なんだ?」

 何者、か……。

「I’m BLACK NOBLEMAN(我は黒の貴公子). Prisoned in the darkness of jet black……huhu(漆黒の闇に……ふふ)」

 そこまで言って、私は言葉を止めた。
 いたずら心が湧いてくる。

「Prisoner of Dark night(闇夜に囚われし者)」

 そう言い残し、私はバイクに跨った。
 ハンドルを回し、私は明らみ始めた空の下を駆けた。

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