気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
復讐者編 五話 真・漆黒の闇に囚われし黒の貴公子
「私の変身セット? これが?」
私は改めて強化装甲を見た。
別物じゃないですか……。
細部が違うどころの話ではない。
ガントレットから足甲まで、形状が全て変わっている。
装甲も全身を覆っていて、マスクは完全に頭を覆う形で口元だけが露出した形状だ。
マスクは、肩の部分と一体化しているようだ。
フードのようである。
背中には、同色のマントがあった。
もはや魔改造と言ってしまっていいレベルである。
メンテナンスにしては返ってくるのが遅いと思っていたら、こんな事になっていたのか……。
「このタイプビッテンフェルト・バージョンクロエ。「黒の貴公子」は従来のタイプビッテンフェルトのノウハウと私とチヅルさんが考案した最新の機能を詰め込んだ最新鋭の強化装甲です」
先輩が説明を始める。
なんだかちょっと嬉しそうだ。
声が弾んでいる。
まるで自分の自慢の作品を解説する芸術家のようだ。
「まず、最初に説明すべきは他のタイプビッテンフェルトと同じく使用者の動作補助を装備している点でしょう。それに加え、新たな技術である無色性柔軟繊維を従来のタイプビッテンフェルトの二倍使用しています」
「無色性柔軟繊維?」
「無色の魔力を繊維に変えた物といった所でしょうか。ご存知の通り、無色の魔力は応用性に富んだ力ではありますが、物質ではないため脆弱性がありました」
確かに、無色の魔力は使い勝手がいいけれど出せる力が弱いという欠点があった。
壁走りや筋肉繊維の補強などには使えるが、直接的に威力を出すのには向かない。
「しかし研究の末、私達は物質へ無色の魔力の性質を付与する事に成功しました。
結果、その脆弱性を補う事に成功したのです。
動作補助はこの繊維を術式でコントロールした機能する仕組みになっており、また闘技者の行なう無色の魔力による筋肉繊維の補強を担う事ができます。
この繊維は魔力を流す事で伸縮を促す事ができ、筋肉の代わりになるという仕組みです。
つまり、これを着けるとあなたの筋肉が単純に倍の量となると考えていただければ解りやすいかと。
これを装着すれば、あなたは今まで以上に強く、そして速く動く事ができるようになるでしょう」
それはすごい。
つまり簡単に言ってしまえば、今までよりも身体能力が格段に向上するという事だ。
なんだか、すぐにでも着たくなってきた。
「まぁ、言葉で説明するよりも、着た方がわかりやすいでしょう。どうぞ」
「あ、はい」
内心うきうきしながら返事をする。
「無論、瞬間装着機能。あなたが言う所の変身機構もあります。元はあなたの変身セットなので、あなたの声で起動するようになっています」
よかった。
正直、これはどうやって着ればいいんだろう? と困っていたんだ。
「変身」
私が唱えると、一度バラバラになって強化装甲が私の体に装着される。
体中が装甲で覆われ、顔がマスクで覆われた。
「マスクは必要だったんですか?」
「はい。必要です」
先輩にきっぱりと断言された。
「と、変身機構はあるわけですが……。ただ、パーツの量が多いためカバンへの偽装は不可能でしょうが。箱などに入れて運ぶようにしてください」
背負って持ち歩けと?
どこの聖闘士だ。
しかし……。
私はグッと拳を握りしめる。
軽く型を演じた。
多少ぎこちない感じはする。
パワーアップしたかどうかは、いまいち実感がわかなかった。
ただ、とても軽い。
それに全身を装甲が覆っているのに思ったより動きやすい。
どうやら、脇腹などの動きの多い部分の装甲が複数のプレートを組み合わせた形状となっており、可動域が多いためだと思われる。
「軽いですね」
「前の変身セットは、独自に改造なさっていたでしょう? カーボンではなく金属パーツを付けていましたね」
「ええ。旅の間、防御性能が必要だと思ったので」
「その金属部分のいくつかをカーボンに換えました。それと、軽く感じるのは無色性柔軟繊維の効果もあるかと思われます」
なるほど。
筋力がアップしているので、重い物があまり重く感じないという事か。
パワーアシストってやつだな。
「それだけじゃないですよ」
チヅルちゃんがふふんと鼻を鳴らして説明を引き継ぐ。
こっちも楽しそうだ。
「これを見てください」
そう言って、チヅルちゃんが奥から何か持ってくる。
「何それ? 肩パット?」
どっかの戦闘民族が肩につけていそうな物体である。
ごちゃごちゃと機械類がついているようなので何かの装置である事はわかる。
あと、パットの両先端にはタイヤらしきものがついている。
え、もしかして。
「実はこれ、バイクなんですよ」
やっぱり。
よく見れば、タイヤのついている先端部分は稼動するような造りになっている。
ハンドルらしき物もついている。
「エンジンの仕組みは知りませんが、要は瞬間的に爆発的なエネルギーを生み出す事ができればいいのです。
なので、少量の魔力を術式によって増幅、一時的な爆発的エネルギーと化し、それを短いスパンで連続的に行う事で馬力を捻出する機構を作りました。
安直ですが、魔動エンジンとでも命名しておきましょうか。
実際のエンジンと比べれば圧倒的に軽く、なのでスーツの補助装置……というよりパワードスーツとして活用する事ができるようにしました」
「装着できるって事?」
確かに、チヅルちゃんはその例のバイクをヒョイと持ち上げて持ってきたな。
なら、装備もできるか。
「肩に着けると肩から腕にかけて守る装甲へと変形し、腰に装着すると脛《すね》を守る装甲に変形します。装着中にタイヤを動かす事もできますよ」
「という事は?」
「足に装着していた場合、盗まれた過去を探し続けていそうな動きができます」
「むせる」
楽しそうだな。
使ってみるのがちょっと楽しみだ。
アールネスで飲むコーヒーは苦い。
「クロエさんの馬では一発で正体がバレてしまいますからね。移動手段や戦闘の補助にお使いください。一応、装着式高速機動装甲という名称がありますが。何か他にいい名前があったらクロエさんが決めてください」
何にしようかな?
黒いカラスかなー。
クロエホッパーなんてのもいいなー。
……いや、考えるのは後にしよう。
今はそれより……。
「……別にマスクをなくして、強化装甲だけでもいいんだけど?」
名前やら形状的に、漆黒の闇(略)として活動する前提で作られているようだが、別にその必要はないんじゃないだろうか?
「いえ、絶対にマスクは着けた方がいいですよ!」
チヅルちゃんが断固として私の発言を否定する。
「ええ、その方がいいです」
先輩も同調する。
チヅルちゃんはともかく、先輩にまで推されるとは思わなかった。
「何で二人してそんなに推すの?」
私は二人に訊ねた。
推し貴公子なの?
「その方がカッコイイじゃないですか」
「マスクにも重要な機能があるからです」
二人が同時に言葉を発する。
「あ、そうでしたね。マスクは機能的な面で必要なんです」
チヅルちゃんが言いなおす。
君、さっき何言った?
「まぁ、とにかく……。クロエさん。気密モードと唱えてください」
「え? 気密モード」
チヅルちゃんに促されるまま唱える。
その途端、首元の装甲がせり上がってマスクと一体化。
唯一露出していた口元が完全に顔が覆われた。
「コーホー……。何これ?」
「外部と強化装甲内を完全に遮断するモードです。その間は小型酸素ボンベから酸素が供給されます。ボンベは一時間ほど持ちます。まぁ簡単に言えば潜水仕様って所ですね」
水中活動用か。
これで私は陸海空、場所を選ばず戦えるようになってしまったわけだ。
「マスクの機能はそれだけじゃありません。なんとそのマスク、無線が内蔵されているのです」
「え、本当? どうやって?」
「魔力に乗せた音声を人の耳に聞き取れないある一定の周波へ変換する事に成功したんです。
この変換された周波は王都全域へ届き、その周波を専用の機器によって本来の音へ変換できる仕組みです。
まぁ、つまり電波の代わりに魔力を応用したわけです。
スピーカーはマスクの中に内蔵。
そちらからの声はただ喋ってくれればこちらに伝わります。
マスクの口元は開いていますが、骨伝導マイクで音は拾いますので大丈夫です」
マジで……。
「というわけで……。顔を隠すなら、黒の貴公子として活動させた方がいいのではないかという判断になりました」
先輩がそう締めくくった。
「……というか、何で二人共私が漆黒の闇(略)だと知っている?」
教えてなかったよね。
多分。
二人が顔を見合わせる。
先輩が口を開いた。
「アルマール公に聞いたからです。この強化装甲を作る上で出資をいただきまして、黒の貴公子として活動できるモデルにしてくれと言われました。顔を隠すのなら、せっかくなのでそれを活用する機能を作ろうと思った次第で……」
アルマール公め!
ていうか、そんな注文をつけて何を企んでいるんだろう?
もしかして、漆黒の闇(略)として私に何かさせようとしているんじゃないだろうな?
今の状況が解決したら、問い詰めてやらねば。
それと先輩、結局機能重視じゃなくて正体を隠す目的の方が先だったんじゃないですか……。
でも、その諸々の企みがあったからこうして私はこの強化装甲を手に入れる事ができた。
それは素直に感謝しよう。
この力があれば、王都を守る事もできるだろうから。
「概要の説明を続けます。
強化装甲の機能やエンジンの稼動など、全ての機能の使用には多くの魔力を必要とします。
個人の魔力だけで賄うのは難しいでしょう。
そのため、魔力を貯蓄した水晶を補助動力として強化装甲の各所に装着しています。
これにより、長時間の稼動を実現しました」
「ふぅん」
「何か質問は?」
「気密モードはどうすれば解けるのですか?」
「気密モード解除と唱えれば解けます」
「気密モード解除」
口元を覆っていた装甲が首元に戻った。
「あと、正体を隠すなら口が露出しているこのマスクはまずいのでは? 声を変えられないと思うんだけど」
前のマスクには声を変える魔法がかけられていた。
口元が隠されていないのでは、声を変えられないんじゃないだろうか?
「その点は心配ありません」
チヅルちゃんが胸を張る。
「声は骨伝導の技術を応用し、声帯から発せられる音その物を魔力でかく乱して変えられるようにしました」
「え、マジで」
声帯そのものが変声機になるって事か。
すごいな。
「あと、強化装甲の各所には小型カメラとスピーカーが埋め込まれていて、無線を応用して映像と音声がここへ送られてくるようになっています。
送られた情報はそこのモニターで見られるようになっていて、その情報を元に私達がアドバイスや強化装甲の遠隔操作などで支援できるようにしました」
さっき気になったモニターか。
本当に司令室じゃないか。
それにしてもなんだかえらく科学技術っぽいのが出てきたな。
ハイテクだ。
いつからこの世界はSFになったんだ。
多分、チヅルちゃんの知識なんだろうな。
それを先輩に伝えて、先輩が作ったのだろう。
前世の知識を魔法で再現して作り出すなんて、まるで異世界モノの主人公みたいだ。
この世界がネット小説だったら、主人公はチヅルちゃんに違いない。
「あとは……」
「万能ソナー補助装置ですね」
万能ソナー補助装置?
「万能ソナーは優秀な索敵魔法ではあります。
ですが、あれで体を調べられると不快感を覚えます。
それによって相手に気付かれてしまうという欠点がありました。
調べてみた結果、あれは他人の魔力が自分の魔力と反発する際に起こる現象だと判明しました。
ですが、この魔法を誰の影響も受けていない純粋な無色の魔力で使うと、その不快感を消す事ができるという事実も発見しました。
自分の魔力を使う以上、純粋な無色の魔力を使う事は人間には不可能な芸当ですが……。
それを可能とする装置を開発しました。
これは先ほどの無線の技術を応用し、自分の魔力を一度純粋な無色の魔力に変換し、戻ってきた魔力を再度自分の魔力へ変換する事で感知できるようにするという仕組みです」
「つまり、万能ソナーを使っても相手に不快感を与えない……使われてもバレなくなる?」
「その通りです」
先輩は頷いた。
それはすごい技術だ。
というより、この強化装甲に使われている技術の全てがすごい。
「すごいでしょう? これが私の十五年の研究成果とチヅルさんのアイディアが融合した今現在最先端の最高傑作です。今、この世界において最強の鎧と言っても過言では無いでしょう」
先輩は、笑顔で言った。
誇らしげだ。
普段の先輩の笑顔とは違う、無邪気さのようなものがその表情にはあった。
それだけ自分の作ったものが誇らしく、楽しかったのだろう。
先輩も根本は男の子って事かな……。
でも、誇るだけの事はある。
これはすごいものだ。
これならば、タイプビッテンフェルトとも互角以上に戦う事ができるだろう。
「先輩が作ってくれたこの強化装甲。存分に活用させてもらいます」
「ええ。お願いします。これとあなたの力があれば、きっとこの王都を救う事ができるでしょう。だから、お願いします」
「はい」
私は力強く頷いた。
私は改めて強化装甲を見た。
別物じゃないですか……。
細部が違うどころの話ではない。
ガントレットから足甲まで、形状が全て変わっている。
装甲も全身を覆っていて、マスクは完全に頭を覆う形で口元だけが露出した形状だ。
マスクは、肩の部分と一体化しているようだ。
フードのようである。
背中には、同色のマントがあった。
もはや魔改造と言ってしまっていいレベルである。
メンテナンスにしては返ってくるのが遅いと思っていたら、こんな事になっていたのか……。
「このタイプビッテンフェルト・バージョンクロエ。「黒の貴公子」は従来のタイプビッテンフェルトのノウハウと私とチヅルさんが考案した最新の機能を詰め込んだ最新鋭の強化装甲です」
先輩が説明を始める。
なんだかちょっと嬉しそうだ。
声が弾んでいる。
まるで自分の自慢の作品を解説する芸術家のようだ。
「まず、最初に説明すべきは他のタイプビッテンフェルトと同じく使用者の動作補助を装備している点でしょう。それに加え、新たな技術である無色性柔軟繊維を従来のタイプビッテンフェルトの二倍使用しています」
「無色性柔軟繊維?」
「無色の魔力を繊維に変えた物といった所でしょうか。ご存知の通り、無色の魔力は応用性に富んだ力ではありますが、物質ではないため脆弱性がありました」
確かに、無色の魔力は使い勝手がいいけれど出せる力が弱いという欠点があった。
壁走りや筋肉繊維の補強などには使えるが、直接的に威力を出すのには向かない。
「しかし研究の末、私達は物質へ無色の魔力の性質を付与する事に成功しました。
結果、その脆弱性を補う事に成功したのです。
動作補助はこの繊維を術式でコントロールした機能する仕組みになっており、また闘技者の行なう無色の魔力による筋肉繊維の補強を担う事ができます。
この繊維は魔力を流す事で伸縮を促す事ができ、筋肉の代わりになるという仕組みです。
つまり、これを着けるとあなたの筋肉が単純に倍の量となると考えていただければ解りやすいかと。
これを装着すれば、あなたは今まで以上に強く、そして速く動く事ができるようになるでしょう」
それはすごい。
つまり簡単に言ってしまえば、今までよりも身体能力が格段に向上するという事だ。
なんだか、すぐにでも着たくなってきた。
「まぁ、言葉で説明するよりも、着た方がわかりやすいでしょう。どうぞ」
「あ、はい」
内心うきうきしながら返事をする。
「無論、瞬間装着機能。あなたが言う所の変身機構もあります。元はあなたの変身セットなので、あなたの声で起動するようになっています」
よかった。
正直、これはどうやって着ればいいんだろう? と困っていたんだ。
「変身」
私が唱えると、一度バラバラになって強化装甲が私の体に装着される。
体中が装甲で覆われ、顔がマスクで覆われた。
「マスクは必要だったんですか?」
「はい。必要です」
先輩にきっぱりと断言された。
「と、変身機構はあるわけですが……。ただ、パーツの量が多いためカバンへの偽装は不可能でしょうが。箱などに入れて運ぶようにしてください」
背負って持ち歩けと?
どこの聖闘士だ。
しかし……。
私はグッと拳を握りしめる。
軽く型を演じた。
多少ぎこちない感じはする。
パワーアップしたかどうかは、いまいち実感がわかなかった。
ただ、とても軽い。
それに全身を装甲が覆っているのに思ったより動きやすい。
どうやら、脇腹などの動きの多い部分の装甲が複数のプレートを組み合わせた形状となっており、可動域が多いためだと思われる。
「軽いですね」
「前の変身セットは、独自に改造なさっていたでしょう? カーボンではなく金属パーツを付けていましたね」
「ええ。旅の間、防御性能が必要だと思ったので」
「その金属部分のいくつかをカーボンに換えました。それと、軽く感じるのは無色性柔軟繊維の効果もあるかと思われます」
なるほど。
筋力がアップしているので、重い物があまり重く感じないという事か。
パワーアシストってやつだな。
「それだけじゃないですよ」
チヅルちゃんがふふんと鼻を鳴らして説明を引き継ぐ。
こっちも楽しそうだ。
「これを見てください」
そう言って、チヅルちゃんが奥から何か持ってくる。
「何それ? 肩パット?」
どっかの戦闘民族が肩につけていそうな物体である。
ごちゃごちゃと機械類がついているようなので何かの装置である事はわかる。
あと、パットの両先端にはタイヤらしきものがついている。
え、もしかして。
「実はこれ、バイクなんですよ」
やっぱり。
よく見れば、タイヤのついている先端部分は稼動するような造りになっている。
ハンドルらしき物もついている。
「エンジンの仕組みは知りませんが、要は瞬間的に爆発的なエネルギーを生み出す事ができればいいのです。
なので、少量の魔力を術式によって増幅、一時的な爆発的エネルギーと化し、それを短いスパンで連続的に行う事で馬力を捻出する機構を作りました。
安直ですが、魔動エンジンとでも命名しておきましょうか。
実際のエンジンと比べれば圧倒的に軽く、なのでスーツの補助装置……というよりパワードスーツとして活用する事ができるようにしました」
「装着できるって事?」
確かに、チヅルちゃんはその例のバイクをヒョイと持ち上げて持ってきたな。
なら、装備もできるか。
「肩に着けると肩から腕にかけて守る装甲へと変形し、腰に装着すると脛《すね》を守る装甲に変形します。装着中にタイヤを動かす事もできますよ」
「という事は?」
「足に装着していた場合、盗まれた過去を探し続けていそうな動きができます」
「むせる」
楽しそうだな。
使ってみるのがちょっと楽しみだ。
アールネスで飲むコーヒーは苦い。
「クロエさんの馬では一発で正体がバレてしまいますからね。移動手段や戦闘の補助にお使いください。一応、装着式高速機動装甲という名称がありますが。何か他にいい名前があったらクロエさんが決めてください」
何にしようかな?
黒いカラスかなー。
クロエホッパーなんてのもいいなー。
……いや、考えるのは後にしよう。
今はそれより……。
「……別にマスクをなくして、強化装甲だけでもいいんだけど?」
名前やら形状的に、漆黒の闇(略)として活動する前提で作られているようだが、別にその必要はないんじゃないだろうか?
「いえ、絶対にマスクは着けた方がいいですよ!」
チヅルちゃんが断固として私の発言を否定する。
「ええ、その方がいいです」
先輩も同調する。
チヅルちゃんはともかく、先輩にまで推されるとは思わなかった。
「何で二人してそんなに推すの?」
私は二人に訊ねた。
推し貴公子なの?
「その方がカッコイイじゃないですか」
「マスクにも重要な機能があるからです」
二人が同時に言葉を発する。
「あ、そうでしたね。マスクは機能的な面で必要なんです」
チヅルちゃんが言いなおす。
君、さっき何言った?
「まぁ、とにかく……。クロエさん。気密モードと唱えてください」
「え? 気密モード」
チヅルちゃんに促されるまま唱える。
その途端、首元の装甲がせり上がってマスクと一体化。
唯一露出していた口元が完全に顔が覆われた。
「コーホー……。何これ?」
「外部と強化装甲内を完全に遮断するモードです。その間は小型酸素ボンベから酸素が供給されます。ボンベは一時間ほど持ちます。まぁ簡単に言えば潜水仕様って所ですね」
水中活動用か。
これで私は陸海空、場所を選ばず戦えるようになってしまったわけだ。
「マスクの機能はそれだけじゃありません。なんとそのマスク、無線が内蔵されているのです」
「え、本当? どうやって?」
「魔力に乗せた音声を人の耳に聞き取れないある一定の周波へ変換する事に成功したんです。
この変換された周波は王都全域へ届き、その周波を専用の機器によって本来の音へ変換できる仕組みです。
まぁ、つまり電波の代わりに魔力を応用したわけです。
スピーカーはマスクの中に内蔵。
そちらからの声はただ喋ってくれればこちらに伝わります。
マスクの口元は開いていますが、骨伝導マイクで音は拾いますので大丈夫です」
マジで……。
「というわけで……。顔を隠すなら、黒の貴公子として活動させた方がいいのではないかという判断になりました」
先輩がそう締めくくった。
「……というか、何で二人共私が漆黒の闇(略)だと知っている?」
教えてなかったよね。
多分。
二人が顔を見合わせる。
先輩が口を開いた。
「アルマール公に聞いたからです。この強化装甲を作る上で出資をいただきまして、黒の貴公子として活動できるモデルにしてくれと言われました。顔を隠すのなら、せっかくなのでそれを活用する機能を作ろうと思った次第で……」
アルマール公め!
ていうか、そんな注文をつけて何を企んでいるんだろう?
もしかして、漆黒の闇(略)として私に何かさせようとしているんじゃないだろうな?
今の状況が解決したら、問い詰めてやらねば。
それと先輩、結局機能重視じゃなくて正体を隠す目的の方が先だったんじゃないですか……。
でも、その諸々の企みがあったからこうして私はこの強化装甲を手に入れる事ができた。
それは素直に感謝しよう。
この力があれば、王都を守る事もできるだろうから。
「概要の説明を続けます。
強化装甲の機能やエンジンの稼動など、全ての機能の使用には多くの魔力を必要とします。
個人の魔力だけで賄うのは難しいでしょう。
そのため、魔力を貯蓄した水晶を補助動力として強化装甲の各所に装着しています。
これにより、長時間の稼動を実現しました」
「ふぅん」
「何か質問は?」
「気密モードはどうすれば解けるのですか?」
「気密モード解除と唱えれば解けます」
「気密モード解除」
口元を覆っていた装甲が首元に戻った。
「あと、正体を隠すなら口が露出しているこのマスクはまずいのでは? 声を変えられないと思うんだけど」
前のマスクには声を変える魔法がかけられていた。
口元が隠されていないのでは、声を変えられないんじゃないだろうか?
「その点は心配ありません」
チヅルちゃんが胸を張る。
「声は骨伝導の技術を応用し、声帯から発せられる音その物を魔力でかく乱して変えられるようにしました」
「え、マジで」
声帯そのものが変声機になるって事か。
すごいな。
「あと、強化装甲の各所には小型カメラとスピーカーが埋め込まれていて、無線を応用して映像と音声がここへ送られてくるようになっています。
送られた情報はそこのモニターで見られるようになっていて、その情報を元に私達がアドバイスや強化装甲の遠隔操作などで支援できるようにしました」
さっき気になったモニターか。
本当に司令室じゃないか。
それにしてもなんだかえらく科学技術っぽいのが出てきたな。
ハイテクだ。
いつからこの世界はSFになったんだ。
多分、チヅルちゃんの知識なんだろうな。
それを先輩に伝えて、先輩が作ったのだろう。
前世の知識を魔法で再現して作り出すなんて、まるで異世界モノの主人公みたいだ。
この世界がネット小説だったら、主人公はチヅルちゃんに違いない。
「あとは……」
「万能ソナー補助装置ですね」
万能ソナー補助装置?
「万能ソナーは優秀な索敵魔法ではあります。
ですが、あれで体を調べられると不快感を覚えます。
それによって相手に気付かれてしまうという欠点がありました。
調べてみた結果、あれは他人の魔力が自分の魔力と反発する際に起こる現象だと判明しました。
ですが、この魔法を誰の影響も受けていない純粋な無色の魔力で使うと、その不快感を消す事ができるという事実も発見しました。
自分の魔力を使う以上、純粋な無色の魔力を使う事は人間には不可能な芸当ですが……。
それを可能とする装置を開発しました。
これは先ほどの無線の技術を応用し、自分の魔力を一度純粋な無色の魔力に変換し、戻ってきた魔力を再度自分の魔力へ変換する事で感知できるようにするという仕組みです」
「つまり、万能ソナーを使っても相手に不快感を与えない……使われてもバレなくなる?」
「その通りです」
先輩は頷いた。
それはすごい技術だ。
というより、この強化装甲に使われている技術の全てがすごい。
「すごいでしょう? これが私の十五年の研究成果とチヅルさんのアイディアが融合した今現在最先端の最高傑作です。今、この世界において最強の鎧と言っても過言では無いでしょう」
先輩は、笑顔で言った。
誇らしげだ。
普段の先輩の笑顔とは違う、無邪気さのようなものがその表情にはあった。
それだけ自分の作ったものが誇らしく、楽しかったのだろう。
先輩も根本は男の子って事かな……。
でも、誇るだけの事はある。
これはすごいものだ。
これならば、タイプビッテンフェルトとも互角以上に戦う事ができるだろう。
「先輩が作ってくれたこの強化装甲。存分に活用させてもらいます」
「ええ。お願いします。これとあなたの力があれば、きっとこの王都を救う事ができるでしょう。だから、お願いします」
「はい」
私は力強く頷いた。
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