気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
復讐者編 三話 陥落
「すまねぇな。助かった」
時計塔を出て、道を歩きながらルクスは呟いた。
「無事でよかったよ」
わからない事ばかりだけれど、ルクスを助けられてよかった。
少なくとも、エミユちゃんとの約束は守れそうだ。
「あいつ、生きていたんだな」
ルクスが固い声で呟く。
多分、サハスラータの細作を言っているのだろう。
ルクスと彼……。
そしてイノス先輩には因縁がある。
イノス先輩の体の怪我。
あれは、あの男が起した事件で負ったものなのだから。
「ルクスも彼がどうなったか知らなかったの?」
「何から何まで、全部親父がやったからな。情報を引き出したのも親父だ。多分、サハスラータとの外交を有利に進めるため、生かしておいたんだろうがな。ヴァール王子が人質になった時にでも身柄をサハスラータへ返したのかもな」
なるほど。
「後からきたあの三人もサハスラータの関係者かな」
「確定じゃないだろうが、その可能性は高いな」
「それにしても、あれはなんだったんだろう。あの連中、父上の動きと同じだった」
「そうなのか?」
私の呟きに反応して、ルクスが真剣な声色で聞き返してくる。
何か気になる事があったんだろうか?
「うん」
「そういう事か……。まずいな」
「どういう事?」
「あれは多分――」
ルクスが何か言おうとした時、悲鳴が聞こえた。
そこは、スラム街の出口に近い場所だった。
聞こえた方向はスラム街の外だ。
私とルクスは走り出す。
スラム街を抜け、そして……。
目の前の光景に言葉を失った。
「そんな……!」
町には多くの悲鳴が上がっていた。
スラム街にいるようなゴロツキやチンピラ。
無法者達が、町の人々を襲っているからだ。
無法者は町の人々や家屋、店などを襲っていた。
もはやこれは、暴徒による暴動と言ってもいいだろう。
国衛院の隊員達が何人かいて、暴徒達に応戦する姿もある。
しかし、圧倒的に数が足りていない。
数が違い過ぎて、抑えきれていないようだ。
どういう事だろう?
ルクスを探している時は、あんなにたくさんの隊員達がいたのに……。
なんでこんなに少なくなってるの?
「なんだ、これは……。クロエ! 助けに行くぞ」
「わかった」
わけのわからない状況だけど、襲われている人達を放っておくわけにはいかない。
私とルクスは手近な所から暴徒を制圧していく。
暴徒を倒し、手足の関節を外していった。
昔取った杵柄というのか、私もルクスも手馴れている。
「ルクス、あれ!」
私が言って、ある場所へ指を差す。
そこでは、一人の国衛院隊員が暴徒によってたかってリンチされていた。
「助けるぜ」
「うん」
私とルクスは、無法者達へ向かって行った。
「なんだこいつら!?」
驚きの声を上げる暴徒に攻撃を仕掛ける。
互いに別の相手を殴り飛ばす。
「おい、国衛院なんて放っておけ! こっちをやるぞ!」
仲間が殴り飛ばされて、国衛院の隊員をリンチしていた暴徒達がこちらに注意を向ける。
襲い来る暴徒達に対し、私とルクスは構えを取った。
暴徒達を倒し、隊員を助ける。
私達が暴徒の数を減らしたためか、国衛院の隊員達に力の均衡が傾いたのだろう。
周囲では暴徒達が、次第に鎮圧され始めていた。
ルクスは今しがた助けた隊員に手を差し出し、助け起こす。
「おい、どうなってる?」
ルクスが隊員に訊ねる。
「ルクス隊長! ご無事だったのですか?」
「ああ。だが、今はそんな事どうでもいい。何が起こっているのか教えてくれ」
「はい。とはいえ、私達も事態を完全には把握できておりません。暴徒達は恐らくスラム街の者達でしょうどこからともなく現われ、町を襲い始めました。恐らく、襲われているのはここだけではないと思われます」
「他も襲われているのか……。隊員達が少ないのはどうしてだ?」
「少し前に、国衛院の本部で何かあったらしくて……。人員の半数が本部へ向かいました。暴徒の襲撃はそれからすぐ後の事です。まるで、機会を見計らっていたかのように奴らが現れました」
機会を見計らっていた……。
これは意図的な暴動だって事?
もしかして、これがあの復讐者が言っていた復讐なの?
「それでも最初は何とか応戦できていたのですが……。黒い鎧を着た者によって多くの隊員と小隊長が負傷させられてしまい、指揮系統の混乱もあって抑えきれなくなりました」
「黒い鎧を着た者……」
恐らく、さっき戦った乱入者達だろう。
「……そうか、わかった」
ルクスが私へ向き直る。
「クロエ。
俺は隊員達の指揮をして町の治安維持に努める。
今回の事は、計画された暴動かもしれない。
だったら、他の部隊の指揮系統も混乱している可能性が高いからな。
だから、お前は国衛院の本部へ向かってくれ。
そっちで起こったらしい騒動について詳しく知りたい」
「わかった。気をつけて」
ルクスの言葉に頷き、私は国衛院を目指して走った。
途中、所々で暴徒に襲われる人々が目に入った。
そんな人々を助けながら、国衛院へ走った。
そして辿り着く。
「そんな……」
思わず、そんな声を漏らす。
国衛院の本部。
敷地内。
本部の建物の前には黒い鎧の男達が並んで立っていた。
それも鎧の人物は五人どころでなく、二十人以上いた。
私はその光景を門柱に隠れて見た。
どういう事?
どうして、奴らが国衛院本部の敷地内にいる?
隊員達はどうして出てこない?
そんな男達の前に、一人の男が姿を現した。
他の者と同じく、その体には黒い鎧を纏っている。
見覚えのある顔だった。
誰だっただろう?
記憶を探り、そして思い出す。
あれは、サハスラータでの事だ。
私がアルディリアと先生に助けられ、そして石切場のような所でヴァール王子に追いつかれて囲まれた。
その時、ヴァール王子と一緒にいた人物。
アルディリアに破れた王子に代わり、兵士に号令を発した男……。
影。
そう呼ばれていた組織の者だ。
影の男が、鎧の男達の前で声を発する。
「我々は雌伏の時を過ごしてきた。その年月は長く、我々を屈辱の汚泥へと捕らえて放さなかった。しかし、それも終わりだ。ついに我々は、報復の時を迎えた」
影の男の言葉に、鎧の男達は歓声を上げる。
「その手始めとして、国衛院は我らの手に落ちた」
国衛院が落ちた!?
隊員達が出てこないのは、制圧されてしまったからか。
町で隊員が言っていた騒ぎ……。
あれは国衛院が襲撃を受けたからなのか。
「そう、我々は力を手に入れた。この力を以って、今こそ我々を貶めた者達へ報復するのだ。このアールネスに、恐怖を振り撒くのだ! ビッテンフェルトの恐怖を!」
ビッテンフェルトの恐怖?
どういう事だ?
わからない。
どうしよう……。
これから私は何をすればいいんだろうか?
制圧された国衛院を解放する事が、私にはできるか?
いや、できない。
あの黒い鎧の男達の中には、時計塔で戦った奴らもいるだろう。
それに加えて数も多い。
今の私一人では、間違いなく勝てないだろう。
どうするべきなんだろう……。
そうして悩んでいる時。
背後に気配を感じて振り返った。
「クロエさん。私です」
小声で背後の人物は声をかけてきた。
「チヅルちゃん?」
その人物は、チヅルちゃんだった。
「まさか、ここで会えるとは思いませんでしたよ」
「どうして、こんな所に?」
「町の様子を探っていました。詳しい話は、もっと落ち着ける所でしましょう。ここでは見つかってしまうかもしれない。ついてきてください」
「わかった」
私はチヅルちゃんについて、その場を離れた。
時計塔を出て、道を歩きながらルクスは呟いた。
「無事でよかったよ」
わからない事ばかりだけれど、ルクスを助けられてよかった。
少なくとも、エミユちゃんとの約束は守れそうだ。
「あいつ、生きていたんだな」
ルクスが固い声で呟く。
多分、サハスラータの細作を言っているのだろう。
ルクスと彼……。
そしてイノス先輩には因縁がある。
イノス先輩の体の怪我。
あれは、あの男が起した事件で負ったものなのだから。
「ルクスも彼がどうなったか知らなかったの?」
「何から何まで、全部親父がやったからな。情報を引き出したのも親父だ。多分、サハスラータとの外交を有利に進めるため、生かしておいたんだろうがな。ヴァール王子が人質になった時にでも身柄をサハスラータへ返したのかもな」
なるほど。
「後からきたあの三人もサハスラータの関係者かな」
「確定じゃないだろうが、その可能性は高いな」
「それにしても、あれはなんだったんだろう。あの連中、父上の動きと同じだった」
「そうなのか?」
私の呟きに反応して、ルクスが真剣な声色で聞き返してくる。
何か気になる事があったんだろうか?
「うん」
「そういう事か……。まずいな」
「どういう事?」
「あれは多分――」
ルクスが何か言おうとした時、悲鳴が聞こえた。
そこは、スラム街の出口に近い場所だった。
聞こえた方向はスラム街の外だ。
私とルクスは走り出す。
スラム街を抜け、そして……。
目の前の光景に言葉を失った。
「そんな……!」
町には多くの悲鳴が上がっていた。
スラム街にいるようなゴロツキやチンピラ。
無法者達が、町の人々を襲っているからだ。
無法者は町の人々や家屋、店などを襲っていた。
もはやこれは、暴徒による暴動と言ってもいいだろう。
国衛院の隊員達が何人かいて、暴徒達に応戦する姿もある。
しかし、圧倒的に数が足りていない。
数が違い過ぎて、抑えきれていないようだ。
どういう事だろう?
ルクスを探している時は、あんなにたくさんの隊員達がいたのに……。
なんでこんなに少なくなってるの?
「なんだ、これは……。クロエ! 助けに行くぞ」
「わかった」
わけのわからない状況だけど、襲われている人達を放っておくわけにはいかない。
私とルクスは手近な所から暴徒を制圧していく。
暴徒を倒し、手足の関節を外していった。
昔取った杵柄というのか、私もルクスも手馴れている。
「ルクス、あれ!」
私が言って、ある場所へ指を差す。
そこでは、一人の国衛院隊員が暴徒によってたかってリンチされていた。
「助けるぜ」
「うん」
私とルクスは、無法者達へ向かって行った。
「なんだこいつら!?」
驚きの声を上げる暴徒に攻撃を仕掛ける。
互いに別の相手を殴り飛ばす。
「おい、国衛院なんて放っておけ! こっちをやるぞ!」
仲間が殴り飛ばされて、国衛院の隊員をリンチしていた暴徒達がこちらに注意を向ける。
襲い来る暴徒達に対し、私とルクスは構えを取った。
暴徒達を倒し、隊員を助ける。
私達が暴徒の数を減らしたためか、国衛院の隊員達に力の均衡が傾いたのだろう。
周囲では暴徒達が、次第に鎮圧され始めていた。
ルクスは今しがた助けた隊員に手を差し出し、助け起こす。
「おい、どうなってる?」
ルクスが隊員に訊ねる。
「ルクス隊長! ご無事だったのですか?」
「ああ。だが、今はそんな事どうでもいい。何が起こっているのか教えてくれ」
「はい。とはいえ、私達も事態を完全には把握できておりません。暴徒達は恐らくスラム街の者達でしょうどこからともなく現われ、町を襲い始めました。恐らく、襲われているのはここだけではないと思われます」
「他も襲われているのか……。隊員達が少ないのはどうしてだ?」
「少し前に、国衛院の本部で何かあったらしくて……。人員の半数が本部へ向かいました。暴徒の襲撃はそれからすぐ後の事です。まるで、機会を見計らっていたかのように奴らが現れました」
機会を見計らっていた……。
これは意図的な暴動だって事?
もしかして、これがあの復讐者が言っていた復讐なの?
「それでも最初は何とか応戦できていたのですが……。黒い鎧を着た者によって多くの隊員と小隊長が負傷させられてしまい、指揮系統の混乱もあって抑えきれなくなりました」
「黒い鎧を着た者……」
恐らく、さっき戦った乱入者達だろう。
「……そうか、わかった」
ルクスが私へ向き直る。
「クロエ。
俺は隊員達の指揮をして町の治安維持に努める。
今回の事は、計画された暴動かもしれない。
だったら、他の部隊の指揮系統も混乱している可能性が高いからな。
だから、お前は国衛院の本部へ向かってくれ。
そっちで起こったらしい騒動について詳しく知りたい」
「わかった。気をつけて」
ルクスの言葉に頷き、私は国衛院を目指して走った。
途中、所々で暴徒に襲われる人々が目に入った。
そんな人々を助けながら、国衛院へ走った。
そして辿り着く。
「そんな……」
思わず、そんな声を漏らす。
国衛院の本部。
敷地内。
本部の建物の前には黒い鎧の男達が並んで立っていた。
それも鎧の人物は五人どころでなく、二十人以上いた。
私はその光景を門柱に隠れて見た。
どういう事?
どうして、奴らが国衛院本部の敷地内にいる?
隊員達はどうして出てこない?
そんな男達の前に、一人の男が姿を現した。
他の者と同じく、その体には黒い鎧を纏っている。
見覚えのある顔だった。
誰だっただろう?
記憶を探り、そして思い出す。
あれは、サハスラータでの事だ。
私がアルディリアと先生に助けられ、そして石切場のような所でヴァール王子に追いつかれて囲まれた。
その時、ヴァール王子と一緒にいた人物。
アルディリアに破れた王子に代わり、兵士に号令を発した男……。
影。
そう呼ばれていた組織の者だ。
影の男が、鎧の男達の前で声を発する。
「我々は雌伏の時を過ごしてきた。その年月は長く、我々を屈辱の汚泥へと捕らえて放さなかった。しかし、それも終わりだ。ついに我々は、報復の時を迎えた」
影の男の言葉に、鎧の男達は歓声を上げる。
「その手始めとして、国衛院は我らの手に落ちた」
国衛院が落ちた!?
隊員達が出てこないのは、制圧されてしまったからか。
町で隊員が言っていた騒ぎ……。
あれは国衛院が襲撃を受けたからなのか。
「そう、我々は力を手に入れた。この力を以って、今こそ我々を貶めた者達へ報復するのだ。このアールネスに、恐怖を振り撒くのだ! ビッテンフェルトの恐怖を!」
ビッテンフェルトの恐怖?
どういう事だ?
わからない。
どうしよう……。
これから私は何をすればいいんだろうか?
制圧された国衛院を解放する事が、私にはできるか?
いや、できない。
あの黒い鎧の男達の中には、時計塔で戦った奴らもいるだろう。
それに加えて数も多い。
今の私一人では、間違いなく勝てないだろう。
どうするべきなんだろう……。
そうして悩んでいる時。
背後に気配を感じて振り返った。
「クロエさん。私です」
小声で背後の人物は声をかけてきた。
「チヅルちゃん?」
その人物は、チヅルちゃんだった。
「まさか、ここで会えるとは思いませんでしたよ」
「どうして、こんな所に?」
「町の様子を探っていました。詳しい話は、もっと落ち着ける所でしましょう。ここでは見つかってしまうかもしれない。ついてきてください」
「わかった」
私はチヅルちゃんについて、その場を離れた。
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