気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

神々の戦い編 八話 復活のT

 三日前の朝。
 三度目の目覚め。

 起きるとすぐに、私は寝室を出た。

 家族はみんな寝静まっている。
 自室で変身セットを取り、すぐに食堂へ向かう。
 有り合わせのものでサンドイッチを作った。

 詰め込むようにして食事を終えると、ヤタの部屋へ。
 そっと扉を開く。

 ベッドでは、ヤタがクゥタンを抱き締めて眠っている。
 可愛い寝顔だ。

「ママ……」

 可愛い寝言だ。

「シュエット様」

 起こさないよう、囁くような声で呼ぶ。

「何じゃ?」
「ちょっと用事が」

 私の肩の上にシュエット様が姿を現した。
 こちらも起こさないための配慮か、ひそひそと声を潜めて聞き返した。

 シュエット様を伴って、ヤタの部屋から出る。
 屋敷の外へ出る。

「どこへ行こうと言うんじゃ?」
「シュエット様の聖域」
「何故?」
「トキを復活させる」
「帰るぞ」
「まぁ、そう言わず」

 帰ろうとするシュエット様。
 白色を込めた手でその体を掴む。

 申し訳ないが、今見放されるととても困る。

「やめろーっ! 消滅するーっ!」
「一緒に来てくれます?」
「わかった! わかったぁ!」

 王城に着くと、城門が開くまで待つ事になった。
 門番が出てくるのを待って、王様に取り次いでもらう。

「シュエット様の聖域へ入る許可をいただきたいのですが」
「確認してきます」

 普通なら王様への取次ぎなんて数日待たされるような事かもしれないが、この国の王様はあまり政治に関わらないのでそんなに忙しくないらしい。

 事案の決は、それぞれ任された部門の人間が裁量する事になっていて、王様が判断を下す事は少ないそうなのだ。

 ちなみに、それらのあらゆる部門を統括するのがフェルディウス公爵。
 アードラーのパパ。
 私のお義父さんである。

 だから、ある意味この国で一番権力を持っているのはフェルディウス家かもしれない。

 それでも、判断がつかない事案は王様が判断するそうだ。
 そのため、王様はあらゆる分野の知識を修めているという。

 ほどなくして許可が下りた。
 私はシュエット様の聖域へ向かう。

「なぁ、やっぱり帰らぬか?」

 この期に及んで、シュエット様がそんな提案をする。

「そもそも、どうしてトキなんぞに用があるのじゃ? 武装もしておるようじゃし」

 ああ、このシュエット様はまだ知らないんだ。

「死の女神、カラスと戦うためだよ」
「何!? カラスじゃと!」

 驚くシュエット様に、事のあらましを説明する。

「やめとけやめとけ、絶対に勝てぬから。じゃから、さっさと帰ろう」

 半分は、トキと会いたくないから言ってるでしょ?

「いや、勝てなくてもいいんだよ」
「どういう事じゃ?」
「私はただ、奴の二択に従いたくない。それだけ。戦う事は、ただのついでだ」
「?」

 聖域に辿り着く。

 これでもう三度目だ。
 地面をアンチパンチで砕き、トキの封印された結晶を掘り起こす。
 結晶を砕いた。

 彼女の体が外気に触れると、瞳がゆっくりと開かれた。

「シュエットの匂いがする」
「やるぞ、クロエ! このまま再封印じゃ!」

 トキの第一声に、戦慄したシュエット様が威勢よく叫ぶ。

 だからしないって。

 上体を起こしたトキが、まっすぐにシュエット様の方を見る。
 かすかに微笑んだ。
 そして、次に私を見る。

「なるほどね……。そういう事か。よろしく」

 そう言って、トキは私に手を差し出した。
 私はその手を握った。

 そのついでに、手を引いて起こした。



 驚く事に、トキは私の事情を概《おおむ》ね知っていた。
 私の過去を読んで私が辿ってきた時間の出来事を把握したらしい。

「過去が見えたの?」

 少し不思議な話だった。

 私は過去へ戻って三日過ごし、さらにまた三日前へ戻った。
 トキにその歴史が見えたって事は、その時間を跳躍した間に起こった事も知っているって事だ。
 それは時間の流れ的に不自然な事では無いだろうか?

「世界そのものではなく、君個人の歴史レコードを読めば見えるよ。体感した事は、君自身の歴史にきざまれているんだ」

 世界の時間の流れとは違う、私個人の歴史、か。
 時間も色々あるって事か。

「でも、今の君の未来は見えないな。きっと、神に深く関わる事なんだろう」

 私はカラスと戦うつもりだ。
 だからだろう。

「お前の目的はだいたいわかった」

 シュエット様が会話に参加する。

「ワシが、貴様にトキを頼らせた事も納得した。しかし、それは恐らく戦わせるためではないぞ」
「カラスに従わせるため、でしょ」
「わかっておるなら、なぜ戦おうとする?」
「私にはできないとわかったから。だから私は、自分にできる事で丸く収めるつもりなんだよ」

 私がそう答えた時だ。

「ちょっといいかな」

 トキが口を挟んだ。

「本当に、シュエットはそんな事のために彼女を過去へ送ったのかな?」
「それ以外に何があると言うんじゃ?」

 トキの言葉に、シュエット様が強い口調で聞き返す。

「そうだね。勝てる見込みを見出したんじゃないかな?」
「何を言う。できるわけなかろう。何故、そう思うのじゃ?」
「さっき触れた時にそう思ったんだけど……。神性の大半を失った今の君じゃ、わからないか」
「はっきりと言え」
「僕にも不確かな事だから今は言えない。ただ、彼女の体に入り込めばわかるかもしれないね」

 意味深にはぐらかし、トキはそれ以上何も言わなかった。



 昼頃。
 例の広場。

 私はオープンカフェのテラスで、昼食を取っていた。

 そして、料理を食べ終わって少しした頃……。

 奴が現れた。
 黒衣の女神、カラスが。

「今日の優雅なティータイム。中止にしていただけますかね?」

 私はカラスに声をかける。

「死の女神様」

 カラスは笑みを浮かべ、私を見る目を細めた。

「君とは、初対面だと思うんだがね」
「私からすれば、会ったのはこれで三回目だよ」
「へぇ、なるほどねぇ」

 それで察した様子だった。

「さぁ、ちょっと面《つら》貸してもらいましょうか」

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