気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

閑話 シュエットの生誕祭

 十二月になってすぐの事。
 その日の私は、記憶を元に新しく作ったゲームの試運転代わりにチヅルちゃんと対戦していた。

 試合が始まり「DECIDE THE DESTINY」という試合開始の合図が筐体から聞こえる。

「そういえばクロエさん。……ああ! やめて! 開幕ワンコンボで星ごっそり取るのやめて!」
「何? ……おっと、ブッパッコーは甘えだよぉ。さらに星いただき」

 一回戦が私の勝ちで終わる。

「今年のクリスマスってどうするんですか? ブーストですっごい滑りながら地獄に突き落とさないで! あまつさえ「何本目に死ぬかな?」を決めようとしないで!」

 チヅルちゃんが話している間に二回戦目が始まり、あっという間に二回戦目が終わった。
 私の勝ちである。

 ゲームを中断して筐体越しに話をする。

「クリスマスは何もしないけど、イブは家族と過ごすつもりだよ」

 ちなみに私達はクリスマスイブと呼んでいるが、この国における12月24日はシュエット様の誕生日とされている。
 シュエット生誕祭だ。
 実はクリスマスそのものはこの国に存在しなかったりする。

 しかしかなり前にシュエット様に「おめでとうございます」と言うと「何の事じゃ?」と返された。
 本人は忘れてしまっているらしい。

「そういうチヅルちゃんはどうするのさ?」
「私ですか?」
「恋人と一緒に過ごしたりしないの?」
「恋人? 知らない子ですね。前世からこの方一度も出会った事がありませんよ……」
「ふぅん。私も前世では年齢=恋人いない歴の乙女だったけれどさ。結婚してすぐのクリスマスイブは文字通り性なる夜にしてやったぜ」
「性の喜びを知りやがって!」

 チヅルちゃん、たまに同じ事言うけど何かのネタなのかな?

 ネタを説明させられるのは恥ずかしい事を知っているから聞かないけれどさ。

 チヅルちゃん、恋人いないんだ。
 美少女なのに。

 仕方ないなぁ、そんなチヅルちゃんのために何かプレゼントでもしてあげようかな。

「チヅルちゃん、クリスマスプレゼントは何がいい?」
「くれるんですか? だったら、RPGが欲しいですねぇ」
「まさかロケットランチャーを要求されるとは……」
「あんたはクリスマスプレゼントの代わりに、そのロケットランチャーを娘の親友ににくれるのか!? 」
「その切り返し、イエスだね!」

 オーガニック的な意味で。

「まぁ、それはいいとして。ロールプレイング好きなの?」

 この辺りで切っておかないと、二人ともボケ続ける事になるので話を戻しておく。

「そうなんですよねぇ……。でも、RPGって記憶から再現するのが難しいじゃないですか。一度やって、感動したとしてもストーリーは印象的な所ぐらいしか覚えていませんし……。というより、忘れてしまうから二回目のプレイがまた新鮮な気持ちで楽しめるわけですし」
「そうだね。それに、レベルによるパラメーター状況だって全然憶えてないからね。それを記憶から再現する事って難しいよね」
「だから、もしこっちで作る時は一から作るしかないわけですよ」
「そうだねぇ。じゃあ、一緒に作る? プレゼントにはならないけれど」
「いいですね。楽しい時間をプレゼントしてくださるわけですね」

 言い方が上手いね。

「ストーリーどうしようか?」
「そうですねぇ。じゃあ、主人公はヤタで」
「ほうほう、身近な人間で話を作るんだね」
「で、クロエさんは冒頭で岩に押し潰されるんですよ」

 クロエは死んだ。
 と、メッセージが表示されるんだな。

 どこの一子相伝の伝承者だ。

「それで?」
「で、ヤタはアルディリアさんに起こされて王城に行くんです。王様から魔王を倒すために旅立てと言われて、酒場で仲間を集めるんです」
「戦士とか僧侶とかだね。遊び人を育てると賢者に転職できたりするわけだ」
「はい。で、後々クロエさんが生きている事が判明するんですけど、敵の魔道士に「ぬわーーっっ!」と燃やされてしまうわけです」

 その後、ヤタがどっかの王子様と一緒に奴隷落ちしそうだ。

「それから、後々敵として鎧騎士が出てくるんですけど、正体はクロエさんなんですよ」
「死んだんちゃうんか?」
「実は生きてたんです。で、最終的に「アイムユアマザー」と正体を明かすわけです」

 それもう実際にやったし。

「それでラスボスとの前哨戦でスポット参戦して合体技を使う時に「いいですとも!」とノリノリで答えるんですよ」

 あれの正体って兄じゃなかったっけ?

「で、ヤタを庇って死にます」
「私、何回死ぬねん」

 という感じで、本気か嘘かわからないようなストーリー構成を話し合った。
 一段落つき、私は別の話題を振る。

「そういえばさぁ、ヤタが何欲しがっているか知らない? イブに何かプレゼントしたいんだけど。長く離れていたから、何が好きかよくわからなくてさ」
「知りませんけど……。可愛い物が好きですからねぇ。弟か妹でもプレゼントしたらどうですか? 性の喜びを知りやがって!」

 チヅルちゃん。
 それ言いたいだけでしょ。

 でも妹はちょっと前にあげたからなぁ……。
 現実問題、今から頑張っても間に合わんし。

「でも、あんまり人に聞いて決めるのはよくないと思いますよ」
「そうなんだけどさ。できれば、喜んで欲しいから」
「ヤタは、クロエさんに何を貰ったかより、クロエさんが真剣に自分のために選んでくれた事実を喜ぶと思いますよ」

 そういうもんなのかな?

 よくそういう話を聞くけれどさ、あげる身としてはそうやって手抜きするのも嫌なんだよね。
 やっぱり、あげた物でも喜んでほしいわけで。

「親友の私が言うのですから間違いありませんよ」
「……じゃあ、自分で考えるよ」
「はい。その方がいいです」

 じゃあ、頑張って自力でヤタが喜ぶものを探してみるかな。



 私はヤタにプレゼントする物を決めるため、直接会いに行く事にした。
 ヤタが居るのは自室である。

「ヤタ」
「何でしょう、母上?」

 机に着いて本を読んでいたヤタが、こちらへ顔を巡らせて訊ね返す

 しかし、可愛らしい部屋だ。
 ぬいぐるみだらけだし、小物も女の子らしい物が多い。

 もう、ヤタへのプレゼントはぬいぐるみでいい気がしてきた。

 クゥタンの友達でも作ってプレゼントしようかな。
 鷲をイメージしてアータンとか。
 なら、ボーイフレンドのアルタンも作るべきかな?

 そもそも、クゥタンってメスなの?
 もしオスだったら……。

 ボーイフレンド……(意味深)。

 と、そんな時にふと気付く。

「ねぇヤタ。その服って、私のお下がり?」

 ヤタの服装は、黒い上着と長袖のシャツと黒いパンツ。
 私が学生時代に着ていた物と同じだった。

「そうですよ」

 やっぱりか。
 ヤタは私よりも小柄だから、十七歳頃のサイズの服だろうか?
 ……いや、私は永遠の十七歳だけどね。

 しかし、私のお下がりか……。
 今思い返すと、ヤタの着ている服装って大体これなんだよね。

 もしかして……。

「クローゼットの中、見ていい?」
「はい」

 クローゼットを開けて中を見る。

 うわ、真っ黒……。
 そこには、見覚えのあるデザインの服ばかりが吊られていた。

「もしかして、これ全部私のお下がりだったりする?」
「そうですね」
「他の服は?」
「ありますけれど、着ないので畳んで保管しています」
「ねぇヤタ。もしかして、全部黒い服だったりとか……?」
「はい。いけませんか?」

 不思議そうな表情で問われる。

「悪くは無いよ」

 私だって似たような服しか持っていないし。
 そもそも父上も母上も黒が好きだから、黒だらけになってしまうのは当然だ。
 買ってくれる服はだいたいが黒である。

 これはいかんな。
 こんな黒尽くめだとお酒しばりのコードネームをつけられてしまいそうだ。
 永遠の五歳児みたいな声のアンドロイドに「貴女の服の趣味、最低だわ」とも言われてしまう。

 まぁ、百歩譲って黒はいいか。
 何だかんだで本人も黒が好きらしいし、私も嫌いじゃない。

 でもせめて、もうちょっと女の子らしいデザインの服を着てもいいと思うのだ。

 こんな服ばかりを好んでいた私が言うのも何だが……。
 どうせなら可愛い娘には、もうちょっとお洒落な格好をさせてあげたいのだ。

 ほら、腕にもっとシルバー巻くとかさ。

 と、それは冗談として。

 趣味だって可愛らしい物を集める事なのだし、服だって可愛くしてもいいと思うのだ。

 よし、決めた。
 ヤタへのプレゼントは可愛らしい服にしよう。

 頑張れば、クリスマスイブまでには間に合うはずだ。



 プレゼントは、何もヤタだけにあげるわけではない。
 次に私は、もう一人の娘の所へ向かった。

 部屋の前に立つ。

「アーオ!」

 奇声が聞こえた。
 構わず、ノックする。

「イェラ。入るよ」

 言って部屋に入ると、一人の少女が部屋の中で回っていた。
 そして、私を向いて止まり、ポーズをつける少女。

「マミィ! どうしたの?」

 元気に答えたこの少女の名前はイェラ。
 アードラーの娘である。
 髪は黒く、目は赤い。
 そこは母親の特徴を受け継いでいるが顔つきはアルディリア寄りで、ヤタにどことなく似ていた。

 イメージモデル?
 知らねぇ。
 多分、鳥。

 今度、チヅルちゃんに聞いてみよう。

 そんな彼女は冬だと言うのに、顔が汗まみれになっていた。
 きっと、今まで舞踏の練習をしていたのだろう。

 彼女は自らの編み出した新たな舞踏を世に広めたいという夢を持っていた。
 その夢を叶えるために、日々の練習を欠かさないのだ。

 部屋で練習しやすいように、彼女の部屋の床には絨毯が敷かれていなかったりする。
 板張りの床である。

「ちょっとね。忙しかった?」
「全然。マミィならいつでも大歓迎だよ」

 言いながらも、イェラは小刻みにリズムを刻みながら動いている。

 しかしながら、イメージカラーの影響なのか純粋な好みからなのか、この子はこの子で赤いなぁ……。

 今の彼女は練習着だが、その色は赤であり、普段着も赤を基調とした物だ。
 彼女もヤタと同じく男物に近い服装をしている。
 けれど、ヤタと違ってちゃんとお洒落だ。

 このセンスの良さはアードラー譲りである。

 ごめんよ、ヤタ。
 母親が豪傑だったばっかりに、服装に無頓着しない子になってしまって。

 しかしずっとリズムを刻んで動かれてると落ち着かないな。

「まぁ、様子を見に来ただけだから気にしないで。ほら、練習続けていいよ」
「そうなの? 僕を気にしてくれるなんて、感激だよ! アオッ!」

 この感情表現の激しさは誰の血を引いたんだろう……?

 間違いなくアードラーではないが、アルディリアもこんなんじゃない。
 突然変異としか言い様がない。

 練習を再開したイェラを眺めつつ、部屋の中を見ていく。
 プレゼントを選ぶに当たって、何かいい物がないかと思っての事だが……。

 私は、ヤタとの付き合いよりもこの子との付き合いの方が長い。
 何せ、私の旅の始まり近くからずっと一緒だったのだから。

 だから、今更何が好きかという事もわかってる。

 うん。
 この子にはダンス用の靴でも買ってあげよう。
 流石に自力で作れないが、特注でデザインした踊りやすい靴を靴屋に作ってもらう事にしよう。

 皮製で、黒くツヤツヤしていて、月面歩法しやすそうな奴を。



 その後、アルディリアには新しいガントレット、アードラーには薔薇を模したコサージュをそれぞれ贈る事にした。

 ガントレットはカーボンと鉄で作った物で、変身セットの強化服に使われている技術を応用した物だ。

 完成から十数年経っているのですでに珍しくも無いものであったが、アルディリアの戦い方に合わせて握りこみ易いようにいくつか工夫が施されている。
 無糸服の技術によって内側の布地が手を軽く締め付ける事で拳が握り易くなっており、なおかつ拳の部分にはスパイクが着いている。
 無論、拳を握り易くする機構は剣を扱う時にも最適だ。
 ガントレット越しに握っても取り落とし難くなる。

 左手にはカラスの意匠、右手にはリスの意匠がそれぞれ入っている。
 つまり私とアルディリアだ。
 言わせんな。
 恥ずかしい。

 アードラーに贈った薔薇のコサージュは、赤い花びらと黒い花びらを交互に重ねて作られたような物だ。
 私の考えたデザインであり、赤はアードラー、黒は私をイメージしている。
 言わせんな。
 恥ずかしい。

 父上には高級なお酒を送り、母上には新しい鍋のセットをプレゼントする予定だ。

 弟とその嫁。
 レオパルドとアルエットちゃんには、お揃いのネックレスを贈る事にした。

 そして、クリスマスイブ当日。



 当日は、家族だけでパーティした。
 父上と母上、それにチヅルちゃんも一緒だ。

「お招きに預かりまして、ありがとうございます」
「いえいえ。結局、RPGは完成しなかったけれど、せめて楽しい時間だけはプレゼントさせてもらうよ」
「それだけで嬉しいです。こっちには身内いなくて、本当に寂しかったので」

 存分に楽しんでいくがいいさ。

「はい。二人にプレゼント」

 私はヤタとイェラにそれぞれプレゼントを渡した。

「開けていいですか?」
「僕もいい?」

 二人共そわそわとした様子で、訊ねてくる。

「どうぞ」

 言うと、二人は包みを開ける。
 中を見て、嬉しそうに笑った。

「ヤタには私が作った服。イェラには舞踏用の靴だよ」
「着てみていいですか?」
「僕も履いていい?」

 二人に「いいよ」と答えると、ヤタはいそいそと自室へ向かい、イェラはその場で靴に足を通した。
 すぐに、軽くステップを踏む。
 すごく上手な月面歩方法を披露してくれた。

「すごいよ、これ! つま先が固くて、靴底もすごく滑らかだ。今までの靴より段違いにステップが踏みやすい。フォーッ!」

 イェラ、それはもはやハードなゲイの人だよ。

 しばらくして、ヤタが服を着て下りてきた。
 私の前で軽く回って見せてくれる。

「どうですか?」
「いいね」

 ヤタはスカートよりもパンツの方がいいだろうから、基本的には今までの服装と形式は変わらない。
 けれど、細部にささやかながらも違いがある。

 上着の裾は長めにしてスカートのようにも見え、所々にはフリルをあしらっている。
 シャツの袖にも同様にフリルと刺繍が成されていて、とてもお洒落だ。

 お洒落だと思う……。
 アードラーにも監修をお願いしたけれど、お洒落に自信がないのでまだ不安は残っていた。

 けれど実際に着ている所を見ると素直に似合うと思えるので、不安が消えた。
 ヤタに似合っているからいいんだ。

「ありがとうございます。母上」

 ほんのりと頬を染めて、嬉しそうに礼を言うヤタ。

「ありがとう。マミィ!」

 イェラもお礼の言葉と共に抱きついてきた。

「なっ!」

 ヤタが驚きの声を上げた。

 それから、次にアルディリアとアードラーにもプレゼントを渡す。

「ありがとう。大事に使うよ。すごく使いやすそうだ」

 アルディリアが実際に装着して言う。
 何度か握り込んで、どうやら私の工夫に気づいてくれたようだ。
 喜んでくれているようにも見えるし、よかった。

「私も、ありがとう。いいわね、これ。私とクロエって感じがするわ」

 アードラーも早速胸元に飾って言う。

 バレたか。
 口にされるとちょっと照れる。

 次に、父上と母上の所へ向かう。

「ほう。いい酒だな。開けて、みんなで飲むか?」
「それでいいなら。でも、あんまりハメは外さないでくださいね?」

 あの忌まわしき過去は娘には聞かせられぬ……。

「あら、いい鍋ですね」
「これで、父上に美味しい料理を作ってあげてください」

 とりあえず全員にプレゼントを配り終り、私はソファに座ってくつろいだ。

 そんな私の所に、みんなが揃って寄って来た。

「どうしたの?」
「僕達だって、もらうばかりじゃないんだよ」

 訊ねると、アルディリアが答えた。

 そして、それぞれが私にプレゼントをくれた。



 屋敷の二階。
 廊下。

「今日は賑やかじゃのう。うるさいくらいじゃ」

 窓から外の雪景色を眺めていると、声をかけられた。
 声は、私の肩の上から聞こえた。

「そう言うわりに、気分が良さそうだね。声が浮ついてるよ。シュエット様」

 見ると、私の右肩に小さなシュエット様が座っていた。

「皆が、ワシに感謝しておる。そういう自分に寄せられた気持ちというのがワシにはわかるのじゃ。気分もよくなるというものよ」
「そうですか。……シュエット様」
「何じゃ?」
「お誕生日おめでとうございます」
「本当にそうなのかのう? 憶えておらんのじゃが……。人間に教えた覚えもないしの」
「どっちでもいいですよ。
 ただ、この日がシュエット様の誕生日とされているから、みんな楽しい夜を過ごしていられるんです。
 そのおかげで、今日は私も楽しかった。
 だから、これは私からのお礼を兼ねた誕生日プレゼントです」

 私は、ポケットから小さな石を取り出してシュエット様に渡した。

「これは……神性を帯びておる。どこでこんな物を?」
「まぁ、いろいろあったんですよ。ここに帰ってくるまでの間に……。少しは、力が取り戻せるんじゃないですか?」
「……そうじゃな。ありがたく、貰っておくとしよう」

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