気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

百五話 偽りに彩られし美少女達の狂宴

「あの、各クラスの出し物を回るのなら先に私のクラスに行ってもいいですか? 私が抜ける事、伝えておかなきゃいけないと思うので」

 私は二人に提案する。

「そうですね。それでいいですか? ヴァール殿下」

 ムルシエラ先輩がヴァール王子に確認を取る。

「構わぬぞ。お前のクラスの出し物、面白そうだからな」

 確かに面白いとは思いますが。

 そうして、私のクラスを一番先に見る事となった。



 クラスに戻り、教室に入る。
 男物の服を着たクラスメイトの侯爵令嬢が出迎えてくれる。

「クロエさん。どこに行っていたんです? もう始まってしまいましたよ」
「いや、その事なんだけどさ」

 私は一緒にいる二人を示し、事情を説明した。

「そうでしたの。それじゃあ、仕方ありませんね。それから、コンチュエリ先輩が一度来ましたよ」
「そうなんですか?」
「店の中を見て、すぐに出て行かれましたが」

 私がいなかったから帰ったのかな?

「では、皆様にクロエさんの事は伝えておきますね」
「お願いします」

 侯爵令嬢は奥へ向かった。

「今のは女ではないのか?」

 ヴァール王子が訊ねてくる。

「はい。そうです。実はうちの出し物は男女逆転しておりまして、女子は男物の服、男子は女物の服を着るという変り種なのです」
「お前がそんな格好をしているのはそんな理由か。流石だ。なんとも面白い趣向だ」

 ヴァール王子は心底楽しそうに言う。
 何が流石なんですかね?

 教室内を見渡す二人。

 そして、見てしまった。
 見つけてしまった。

 教室の中央、椅子に座り、展示物のオブジェのように居るその人物を……。

 二人の視線の先では、金髪碧眼の美少女が光のない目で虚空を見つめていた。

 しばしの沈黙。
 が、二人の真顔は、とてつもなく楽しげな表情へと移り変わった。

 私が案内するまでもなく、二人はその美少女のもとへ向かう。
 美少女は近付く二人に気付き、顔を上げる。
 そして、表情を強張らせた。

「これは美しいお嬢さん。お名前はなんと言うのかな?」

 ヴァール王子が訊ねる。
 質問するふうではあるが、実際はその正体に気付いているのだろう。
 顔には嗜虐的な笑みがある。

「……気付いていよう」

 精一杯、低い声で美少女は答えた。

「まぁ、当然だな。リオン王子」
「くっ!」

 美少女は顔を歪めた。

 この美少女の正体。
 それはリオン王子である。


 昨日、女装型アルディリアというカナリオの最終兵器を目の当たりとした私は、それに対抗するため王子型リオンの女装改修を提案した。

「断る」

 当初……というより今もなお嫌がっている王子の反発に合い、一事計画は頓挫しかけたのだが……。

「私は陛下より、王子への無礼を許されております」

 と強権を発動。
 が……。

「程度があろう! これは断固として拒否する」

 王子は断固として譲らぬ構えだった。

「そなたらとて、男の格好をせよと言われれば厭《いと》うであろう? それと同じ事だ。自分の嫌がる事を人へ押し付けるべきではない」

 周囲の意見を味方につけようと王子がクラスメイトの女子達を見回しながら継げる。
 しかし、これによって風向きが変わる。

「王子……私はそれでも一向に構いませんッッ。男女逆転、大いに結構だと思います」
「何だと?」
「そう思うのは、きっと私だけではないはずです」
「そのような事があるとは思えぬ」
「では、多数決にしましょう。それで皆の真意がわかりましょう」

 そうして、後の遺恨とならぬよう匿名の投票による採決を行なったわけだが……。

 その結果、半数以上が私の意見への賛同であり、この飲食店は男女逆転方式となったのである。
 自分の言葉がきっかけとなった事もあり、王子は渋々ながら提案を受け入れる事となった。

 これぞデモクラシー。
 民主主義である。

 なので、王子だけでなくほかの男子生徒達もみんな女装姿だ。
 十五歳、まだ男として成長が未成熟な生徒が多いので、案外似合っている子もいる。

 ちなみに、教室の奥では巻き添えを食ったティグリス先生がぴちぴちのドレス姿で生徒達の監督を行なっている。
 そんな先生をマリノーが男装姿で給仕をしながらチラチラ見ているのが印象的である。

 こっちには女らしさなど欠片もない。
 違和感しかない。

 ターゲットを殺すために女装して近付いてきた殺し屋みたいなやっつけ感がある。

 特に動じた所がないのは、やはり大人の男としての余裕があるからだろうか?


「流石は王子。お美しいですよ」

 ムルシエラ先輩が普段通りの笑顔でリオン王子を褒める。

「そなたには一番言われたくない!」

 王子は怒鳴り返した。

 いじめっ子が二人いる……。

 そんな王子を慰めるために声をかける。

「自信を持ってください、王子。ちょっと身長は高いですが、思春期特有の危うい不安定さを帯びた顔立ちは十分に女の子しています。ちょっとでかい美少女で通用しますって」

 でかいのに少女ってなんかおかしいな。

「嬉しくないぞ……!」

 でしょうね。
 いじめっ子は実は三人だったかもしれない。

 悪乗りし過ぎたな、とは思っています。
 思っているのですが、すっごく楽しいです。

 王子はとても嫌だろうが、私はこの学園祭を本気で楽しみたい。
 それがどんな悪乗りのおふざけでも、躊躇いも容赦もなく実行するつもりだ。
 この文化祭に限って、私は楽しむためにどのような非情にも徹するつもりなのだ。

 そんな時だ。
 ガラッと教室の扉を開けて、コンチュエリが現れた。

「度々申しわけありませんけれど、また来ましたわ」
「ようこそ」
「あら、クロエちゃん。丁度よかったわ。連れてきましたわよ」

 誰を?

「さぁ、並べましょう!」

 言って、彼女が連れてきた人物を見せる。

 女装型アルディリアだった。

「クロエ〜」

 何の説明もなく連れてこられたのか、困惑した様子のアルディリア。

「そういう事でしょう?」

 わかっていますのよ?
 と言わんばかりのドヤ顔で言われる。

 どういう事だってばよ。

 まぁ、本当はなんとなくわかってるけど……。



 その後、アルディリアとリオン王子、それからついでにムルシエラ先輩はしばらく並んで座らされ、それ目当てに集まった人々によってこの時の集客率はピークに達した。
 コンチュエリはその三人をスケッチしてご満悦だった。


「アールネスの文化祭は楽しいな!」

 と、ヴァール王子も大変機嫌を良くしていた。

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