気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

四十六話 ルクスのルートについて

 ルクス・アルマールのシナリオを簡単に説明しておこう。

 出会いでルクスに対してカナリオが反発し、それがきっかけでルクスがカナリオに興味を持つ。
 それからしばらく強引なルクスのやり方にカナリオは反発し続けるが、次第に心惹かれていく。

 ルクスも最初は遊びのつもりで、数ある女性の中の一人ぐらいとしか考えていなかったが、段々とカナリオに対して本気になっていく。
 その過程で、女遊びもぱったりとやめてしまう。

 一人に対して本気になり、女遊びをやめているという点では今もそうだろう。
 ただ、相手が私という部分と本気の意味合いが全然変わってくるわけだが。

 全体的なイベントだが。
 ルクスから父親とのしがらみなどの悩みを打ち明けられたり、壁ドンされたり、イノスからライバル宣言されたり、壁ドンし返したり、王都に蔓延る盗賊団から人質にされたり、と大まかに言えばこんな感じだ。
 その末にミニゲームの勝敗でグッドかバッド、どちらかのエンディングへ到達する。

 ちなみに、イノスのミニゲームはチェスである。
 思考ルーチンの作りこみが本格的で、かなり難しかった。
 私はチェスがわからなかったので、別のチェスゲームを用意して相手の手の内をその別のゲームに入力する事で攻略した。

 私は俺様系に興味がなく、ミニゲームも難しい。
 正直、私にとってこのシナリオは一番の難関だった。

 そして、それらの試練を乗越えた先のエンディングなのだが……。

 なんとグッドエンドで奴は、あろう事かイノスとカナリオの両名を自分の物にしてしまうのだ。
 ハーレム系ライトノベルの主人公のようである。

「選ぶ意味なんてねぇのさ。俺が好きだって言うんなら、みんな面倒見てやるぜ」

 とか言ってた気がする。

 あんなに苦労してイノスに勝利したというのにこれである。
 バッドエンドではイノスだけを選ぶ所を見ればさらにやるせない。
 グッドエンドの台詞を真っ向から否定しているし。

 まぁそういった経緯もあり、私はゲームの時代からなんとなくルクスの気持ちを察していた。

 元々から、ルクスはイノスが好きなんじゃないだろうか、と。

 実際、同じ事を感じた人は多かったらしく「ルクスの本命は実はイノス説」はポピュラーな説としてファン達の間で常々説かれていた。
 イノスのイメージモデルとルクスが空中戦特化である事の関連性も、その説に信憑性を持たせる要因である。

「ヴィーナスファンタジア」における、主要な女性キャラクターはイメージモデルが鳥だ。
 名前もそれに因んでいる。

 たとえば、クロエはカラス。クレーエをもじった名前だ。
 カナリオは金枝雀、アードラーもそのまま鷲という意味だし、マリノーはマリノーフカで駒鳥、アルエットちゃんとコトヴィアさんはお互い雲雀だ。

 そしてイノス先輩はピグイノス。
 つまりペンギン。
 飛べない鳥だ。

 そんな飛べない彼女に代わって、彼が飛んでいるのではないかという話だ。

 そして、その説は正しかったらしい。

 少なくともこの世界において、ルクスはイノス先輩が好きだ。
 だから、彼女のために私へ勝負を挑んでくるわけである。

 ただ、それでもちょっと疑問が残る。

 普段から表面上はイノス先輩へつんけんした態度を取っている彼が、イノス先輩と素直に情報のやり取りをするのだろうか?
 やり取りしていたとすれば、こんなんか?

「たまたま、ビッテンフェルトの力量がわかったから教えてやるよ。はぁ? お前のためじゃねぇよ。たまたまだって言ったろ?」

 ツンデレか!
 公爵家はツンデレじゃないとなれないのか!
 それに散々挑んでいる事を先輩は知っているのに、たまたまも何もあったもんじゃないよ。

 というか、よく考えるとそもそもイノス先輩本人がすでに私の力を測っているのだから、力量の情報なんて必要ないんじゃない?

 あれ? じゃあなんでルクスは私に挑んでくるんだ?

 謎が解けたつもりだったけど、全然謎が解けてないよ!

 考えれば考えるほどわからなくなってきた。
 本当に何がしたいんだろうか、あいつは。

 ルクスがイノス先輩へ好意を懐いている事がわかっても、私に挑む理由はまだわからない。
 でも、ルクスの気持ちがわかった事で、少しだけ良い事があった。


「おい、勝負だ! ビッテンフェルト!」
「えーまたー? いくらイノス先輩が好きだからって、ちょっと張り切り過ぎじゃない?」
「はぁ? 何言ってんだよ! 別に好きじゃねぇし!」
「でも、私に挑んでくるのって先輩のためなんでしょ?」
「あいつのためじゃねぇし!」
「またまたぁ、本当はすっごい好きなくせに!」
「ちげーって言ってんだろ! 馬鹿な事言ってんじゃねーよ! バーカ! やってらんねぇよ! クソが!」

 言いながら、赤くなったルクスは去って行った。

 ルクスはこの話に触れると嫌がって逃げる。
 あの様子なら、やっぱりイノス先輩が好きな事に間違いはないだろう。

 彼の弱みを握ったおかげで、こうして私は鬱陶しい勝負から解放されたわけである。

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