気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
四十四話 ビッテンフェルト流一家団欒
「という事が学園であったんです」
私は、夕食の席でイノス先輩との出来事を両親に話した。
本来なら食事中に話をする事はマナー違反だ。
普通の貴族の家では、まず窘められる事だろう。
ただ、我が家は父上が戦場でよく食事をしながら部下と語らう事があるらしいので、その習慣から特に叱られる事はなかった。
むしろ、父上も積極的に話を振る事があるので構わないのだろう。
母上も社交界の話などをたまに振ってくる。
ちなみに、今日の夕食は私のリクエストでハンバーグ。
帰ってすぐだったので、少し無理を言ったかなと思ったけれど、母上は作ってくれた。
ナイフを入れると肉汁が溢れ出す、レストランで出てきそうな本格的なハンバーグだ。
うん、上等上等。
「ピグマール家か……」
ふむ、と父上が唸る。
「親があれならば、子もそうなのだろうな」
ただの雑談としてあげた話題だったが、父上は何やら興味深い事を口にした。
「何か心当たりがあるのですか?」
「私が侯爵になった時分の事だ。私もピグマールから同じような事をされた。お前の話した娘の親父に当たる奴だ」
「どうして、そのような事をなさるのでしょうか?」
「私も理由はよくわかっていない。だが、あいつが何を行動原理にしているのかはよく知っている」
「それは?」
「アルマール家だ。ピグマールは、アルマール家に代々仕える家系だ。その家に生まれた者は、例外なくアルマールの役に立つために生きるよう教育されて育つそうだ。だから、ピグマールの親父が俺の力量を測るような事をするのも、アルマールのためなんだろうさ」
「力量を測る?」
「気付かなかったか? きっとその娘も、お前の力量を測るために襲ってきたのだ」
そうなのか……?
初めて仕掛けられた時、彼女は言っていた。
不意をつけば捕縛できるか否かを試す、と。
確かに、それは力量を正しく測るという意味では間違いない。
だが、それは国衛院への資料と実際の情報をすり合わせるための事だったはずだ。
あれは、私の資料を修正して資料をより正しい物へするためだと思っていた。
で、それがアルマール家のためになるの?
……うん、なるね。
結局はそういう事なんだ。
イノスは国衛院に所属している。
そして国衛院を設立し、それを一手に管理しているのはアルマール家だ。
アルマール家が公爵になったのは国衛院を設立したからだ。
国衛院は一時期劣悪な状態だった国の治安を回復させ、なおかつ内外にある反国家勢力を排除した。
以来、国衛院は国の自浄組織として機能し続けている。
情報能力に長けていて、あらゆる反社会行為を速やかに察知して鎮圧するそうだ。
反乱を企てていた貴族が、反乱を起こす前夜の決起集会にて一網打尽にされた事もあるという。
そういう情報を大切にする組織だからこそ、イノスは私の情報を欲しているのかもしれない。
それがアルマール家のためになるから。
「そうなのかもしれませんね」
「まぁ、適当に遊んでやれ」
「それは構わないんですが……。実は、イノス先輩以外にも最近突っかかられてまして」
「誰だ?」
「ルクス・アルマールです」
「アルマール家にも突っかかられているのか? 私の時にはなかったな」
ふと、そこで母上が口を挟む。
「アルマール家の嫡子と言えば、女好きで有名な方でしょう? クロエ、大丈夫なのですか? 何かされませんでしたか?」
母上が心配そうに訊ねてくる。
ルクスの女好きは社交界にも轟いているらしい。
「そういう意味で突っかかられているのか?」
父上も眉根を寄せて訊ねてくる。
「いえ、そうじゃありません。決闘を仕掛けられてるだけです」
「そうか。ならいい」
父上は露骨に安心した様子を見せる。
いいの?
多分そこ、安心する所じゃないよ?
「なら、良いのです」
え、母上も同じ見解?
「でも、婚約者のある身ですからね。あまり他の殿方と接するのも控える方がいいですよ」
母上が言い含めるように続ける。
「だが、お前が本気で好きになった相手なら、婚約者に縛られる必要はないぞ」
が、父上が真っ向からそれを否定する事を言った。続けて言葉を紡ぐ。
「好きになった相手と一緒になるのが一番いいからな。少なくとも、私はそうだった」
母上が小さく溜息を吐いた。
そのまま黙り込んだが、その頬は少し朱が差している。
さっき、父上が言っていた事だが、元々ビッテンフェルト家は侯爵家ではない。
元は一番低い位である男爵家だ。
父上は戦場で手柄を立てて、侯爵になったのだ。
隣国、それも私にとっては鬼門となる戦争をしかけてくる国が相手の戦争だ。
当時、敗戦の色が濃厚なその戦で父上は活躍し、自国軍を勝利へ導いたのである。
領土の半ばに到達しつつあった隣国の軍を自国の軍は平野にて迎え撃った。
しかし隣国の兵は精強であり、瞬く間に窮地へと立たされる。
そんな時、父上は自分の部隊を率いて敵陣を奇襲。
隣国の王族である総指揮官がいる本陣へ突貫したのだ。
鬼の如く進撃してくる父上を恐れた指揮官が逃げ、父上はそれをさらに追撃。
その際、反撃に転じた自国軍は敵の部隊を退けたのだが、父上はそれでも指揮官を追い続けた。
結果、三日三晩追い続けた末に指揮官をとり逃した。
が、隣国の指揮官はそのまま国へ撤退。
敵国の脅威は去ったのだ。
その時の追撃があまりにも恐ろしかったのか、それ以来隣国は攻めてこないらしい。
何でゲームでは攻めてきたんだろうか?
謎である。
父上の活躍を王は褒め、父上に褒美を取らせる事にした。
父上はその時「子爵よりも上の爵位がほしい」と願ったのである。
父上の活躍は本来、救国の英雄として公爵を任じられてもいい活躍だった。
しかし、父上の爵位があまりにも低いために侯爵の地位を授かる事となり、軍においては将軍の地位をいただいた。
ちなみに、どうして父が爵位を願ったかと言えば、それは母上のためである。
父上と母上は互いに好意を懐き合っていたが、子爵家である母上の家は二人の結婚を許さなかった。
娘は男爵風情にやれぬ。悔しければ爵位を上げてこい。
と母上の父上、つまり私のおじいちゃんに言われたらしい。
そして本当に爵位を上げて再来した。
侯爵である。
茶碗一杯で少なすぎると文句を言ったら炊飯機ごと出てきた感じだろうか?
文句などあろうはずはなかった。
で、二人は結婚したわけである。
以上、クロエ・ビッテンフェルト誕生秘話でした。
ちなみにこの話は、両親から別々に何度も聞かされている。
聞く相手によって、内容は戦記物と恋愛物に変わるが、最終的には同じ展開になる。
正直、聞き飽きている。
それくらい、何度も聞いた。
「お前の作る料理は何でも美味いな。まぁ、そんなお前だから妻にしたのだがな」
「お料理の腕だけで選んだのですか?」
「たわけ……。言わせるな」
いかん。
二人が固有結界を発動し始めた。
発動しきると、結界に取り込まれた者は体重と同質量の砂糖にされてしまう。
さっさと食べて部屋に戻ろう。
私は半分くらい残ったハンバーグを二口で平らげると、そそくさと食堂を出た。
しかし、恋愛かぁ。
あんまり興味ないんだよね。
正直、恋愛したい相手と言ってもピンと来ない。
だから私の相手は、アルディリアでいいや。
まぁ、アルディリアの方からごめんなさいされる事もあるかもしれないけれどね……。
私は、夕食の席でイノス先輩との出来事を両親に話した。
本来なら食事中に話をする事はマナー違反だ。
普通の貴族の家では、まず窘められる事だろう。
ただ、我が家は父上が戦場でよく食事をしながら部下と語らう事があるらしいので、その習慣から特に叱られる事はなかった。
むしろ、父上も積極的に話を振る事があるので構わないのだろう。
母上も社交界の話などをたまに振ってくる。
ちなみに、今日の夕食は私のリクエストでハンバーグ。
帰ってすぐだったので、少し無理を言ったかなと思ったけれど、母上は作ってくれた。
ナイフを入れると肉汁が溢れ出す、レストランで出てきそうな本格的なハンバーグだ。
うん、上等上等。
「ピグマール家か……」
ふむ、と父上が唸る。
「親があれならば、子もそうなのだろうな」
ただの雑談としてあげた話題だったが、父上は何やら興味深い事を口にした。
「何か心当たりがあるのですか?」
「私が侯爵になった時分の事だ。私もピグマールから同じような事をされた。お前の話した娘の親父に当たる奴だ」
「どうして、そのような事をなさるのでしょうか?」
「私も理由はよくわかっていない。だが、あいつが何を行動原理にしているのかはよく知っている」
「それは?」
「アルマール家だ。ピグマールは、アルマール家に代々仕える家系だ。その家に生まれた者は、例外なくアルマールの役に立つために生きるよう教育されて育つそうだ。だから、ピグマールの親父が俺の力量を測るような事をするのも、アルマールのためなんだろうさ」
「力量を測る?」
「気付かなかったか? きっとその娘も、お前の力量を測るために襲ってきたのだ」
そうなのか……?
初めて仕掛けられた時、彼女は言っていた。
不意をつけば捕縛できるか否かを試す、と。
確かに、それは力量を正しく測るという意味では間違いない。
だが、それは国衛院への資料と実際の情報をすり合わせるための事だったはずだ。
あれは、私の資料を修正して資料をより正しい物へするためだと思っていた。
で、それがアルマール家のためになるの?
……うん、なるね。
結局はそういう事なんだ。
イノスは国衛院に所属している。
そして国衛院を設立し、それを一手に管理しているのはアルマール家だ。
アルマール家が公爵になったのは国衛院を設立したからだ。
国衛院は一時期劣悪な状態だった国の治安を回復させ、なおかつ内外にある反国家勢力を排除した。
以来、国衛院は国の自浄組織として機能し続けている。
情報能力に長けていて、あらゆる反社会行為を速やかに察知して鎮圧するそうだ。
反乱を企てていた貴族が、反乱を起こす前夜の決起集会にて一網打尽にされた事もあるという。
そういう情報を大切にする組織だからこそ、イノスは私の情報を欲しているのかもしれない。
それがアルマール家のためになるから。
「そうなのかもしれませんね」
「まぁ、適当に遊んでやれ」
「それは構わないんですが……。実は、イノス先輩以外にも最近突っかかられてまして」
「誰だ?」
「ルクス・アルマールです」
「アルマール家にも突っかかられているのか? 私の時にはなかったな」
ふと、そこで母上が口を挟む。
「アルマール家の嫡子と言えば、女好きで有名な方でしょう? クロエ、大丈夫なのですか? 何かされませんでしたか?」
母上が心配そうに訊ねてくる。
ルクスの女好きは社交界にも轟いているらしい。
「そういう意味で突っかかられているのか?」
父上も眉根を寄せて訊ねてくる。
「いえ、そうじゃありません。決闘を仕掛けられてるだけです」
「そうか。ならいい」
父上は露骨に安心した様子を見せる。
いいの?
多分そこ、安心する所じゃないよ?
「なら、良いのです」
え、母上も同じ見解?
「でも、婚約者のある身ですからね。あまり他の殿方と接するのも控える方がいいですよ」
母上が言い含めるように続ける。
「だが、お前が本気で好きになった相手なら、婚約者に縛られる必要はないぞ」
が、父上が真っ向からそれを否定する事を言った。続けて言葉を紡ぐ。
「好きになった相手と一緒になるのが一番いいからな。少なくとも、私はそうだった」
母上が小さく溜息を吐いた。
そのまま黙り込んだが、その頬は少し朱が差している。
さっき、父上が言っていた事だが、元々ビッテンフェルト家は侯爵家ではない。
元は一番低い位である男爵家だ。
父上は戦場で手柄を立てて、侯爵になったのだ。
隣国、それも私にとっては鬼門となる戦争をしかけてくる国が相手の戦争だ。
当時、敗戦の色が濃厚なその戦で父上は活躍し、自国軍を勝利へ導いたのである。
領土の半ばに到達しつつあった隣国の軍を自国の軍は平野にて迎え撃った。
しかし隣国の兵は精強であり、瞬く間に窮地へと立たされる。
そんな時、父上は自分の部隊を率いて敵陣を奇襲。
隣国の王族である総指揮官がいる本陣へ突貫したのだ。
鬼の如く進撃してくる父上を恐れた指揮官が逃げ、父上はそれをさらに追撃。
その際、反撃に転じた自国軍は敵の部隊を退けたのだが、父上はそれでも指揮官を追い続けた。
結果、三日三晩追い続けた末に指揮官をとり逃した。
が、隣国の指揮官はそのまま国へ撤退。
敵国の脅威は去ったのだ。
その時の追撃があまりにも恐ろしかったのか、それ以来隣国は攻めてこないらしい。
何でゲームでは攻めてきたんだろうか?
謎である。
父上の活躍を王は褒め、父上に褒美を取らせる事にした。
父上はその時「子爵よりも上の爵位がほしい」と願ったのである。
父上の活躍は本来、救国の英雄として公爵を任じられてもいい活躍だった。
しかし、父上の爵位があまりにも低いために侯爵の地位を授かる事となり、軍においては将軍の地位をいただいた。
ちなみに、どうして父が爵位を願ったかと言えば、それは母上のためである。
父上と母上は互いに好意を懐き合っていたが、子爵家である母上の家は二人の結婚を許さなかった。
娘は男爵風情にやれぬ。悔しければ爵位を上げてこい。
と母上の父上、つまり私のおじいちゃんに言われたらしい。
そして本当に爵位を上げて再来した。
侯爵である。
茶碗一杯で少なすぎると文句を言ったら炊飯機ごと出てきた感じだろうか?
文句などあろうはずはなかった。
で、二人は結婚したわけである。
以上、クロエ・ビッテンフェルト誕生秘話でした。
ちなみにこの話は、両親から別々に何度も聞かされている。
聞く相手によって、内容は戦記物と恋愛物に変わるが、最終的には同じ展開になる。
正直、聞き飽きている。
それくらい、何度も聞いた。
「お前の作る料理は何でも美味いな。まぁ、そんなお前だから妻にしたのだがな」
「お料理の腕だけで選んだのですか?」
「たわけ……。言わせるな」
いかん。
二人が固有結界を発動し始めた。
発動しきると、結界に取り込まれた者は体重と同質量の砂糖にされてしまう。
さっさと食べて部屋に戻ろう。
私は半分くらい残ったハンバーグを二口で平らげると、そそくさと食堂を出た。
しかし、恋愛かぁ。
あんまり興味ないんだよね。
正直、恋愛したい相手と言ってもピンと来ない。
だから私の相手は、アルディリアでいいや。
まぁ、アルディリアの方からごめんなさいされる事もあるかもしれないけれどね……。
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