気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

四十一話 新キャラッシュ 前編

 最近、事あるごとにルクスが突っかかってくる。
 たとえば廊下で、中庭で、休み時間の教室で、彼が勝負を挑みに来るようになった。
 たまに角で待ち伏せされたり、木の上から降ってくる事もある。

 どこでもルクスシステムである。

 それが大変鬱陶しい。

 最初の内は定期的に実戦ができるのはいいかも、なんて思っていたのだが、今や本当に鬱陶しさしかない。

 別に倒した所で新しいファイトスタイルの強化ができるわけでもないので、最近はできるだけ見つからないように行動し、見つかっても逃げるようにしていた。

 たとえ獲得できたもしても、私はビッテンフェルト流の闘技とゲームアクションを組み合わせたまったく新しい格闘技一択だ。

 そんなある日の事だ。
 アルディリアに友達を紹介された。



 紹介したい人がいるんだ。
 そんな事を言われて、私が休み時間に向かったのは中庭だった。
 そこで、アルディリアと待ち合わせの予定である。

 正直、そこへいたる途中、私は不安でいっぱいだった。
 これで行ってみたら、カナリオでした。
 僕はカナリオが好きなんだ。
 なんて事になるかも知れないからだ。

 アードラーも今はカナリオへちょっかいをかけていない。
 もしかしたら、カナリオがリオン王子と進展しなくて、アルディリアの好感度を上げてました、なんて事も十分に考えられた。

 そうなれば私は一歩、死の運命へ近付くのだ。
 だから、できるならカナリオにはリオン王子とこのままくっついてもらいたいと私は思っている。

 だが、アードラーをけしかけるような事はもう二度としないつもりだ。
 もし彼女が激情に駆られて何か口走りそうになってもちゃんと止める。
 もう、うちのアードラーを傷付けさせるつもりはないんだからね。

 でも、ふと思う。
 カナリオが王子とくっつけば、結局アードラーは傷つくんじゃないだろうか? と。

 だってあのアードラーが、あんなに激しく罵詈雑言をぶつけるのだ。
 そんなに嫉妬してしまうくらい、王子の事が好きなのだ。

 だから最近、私はこれでいいんだろうかと悩み始めている。
 もっと他にいい方法はないのだろうか? と考えている。
 まだ、その方法は見つかりそうにない。

 他の攻略対象との仲を取り持ってもいいのだが、それはその攻略対象のライバル令嬢を悲しませる結果になるし、何よりカナリオ自身の気持ちを捻じ曲げてしまうという事でもあるのだ。

 本当にどうすればいいのだろうか?

 そんな事を考えていると、中庭に到着した。

「クロエ」

 私を呼ぶ声に反応し、そちらを見ると笑顔のアルディリアがいた。
 彼は中庭のベンチに座っていた。
 その隣には誰かが座っており、私は不安に思いつつそちらへ目を向けた。

 その人物は、アルディリアより少し身長の高い男の子だった。
 それを確認してホッとする。

 しかし、私は別の意味で驚いた。

 婚約者の友達が隠しキャラクターだったでござる。

「紹介するよ。ヴォルフラム・イングリットくん。経営科で知り合った友達なんだ」
「始めまして。ヴォルフラム・イングリットです。アルディリアくんには、いつも仲良くしてもらっています」

 ヴォルフラムは、気弱そうな声で控えめに挨拶した。
 ぼさぼさの黒髪で目を隠した、ちょっと冴えない感じの少年だ。
 見るからに草食系と言った雰囲気で、そういった意味では同じ草食系のアルディリアと相性が良さそうだ。

 アルディリアは主食が木の実とかって雰囲気があるからね。
 イメージモデル的に。

 でもね、ヴォルフラムだよ?
 イメージモデルのまんま、名前が狼《ヴォルフ》だよ?
 見た目通りなわけないよ。

「初めまして、クロエ・ビッテンフェルトです。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」

 私は極力関わりたくないと思い、当たり障りのない返事をした。
 彼自身が悪い人間というわけじゃないけれど、彼のルートに巻き込まれたくなかった。

 何せ彼のルートは……。

「どうしたの? クロエ?」

 アルディリアの声で思考から引き戻される。

「え? 何が?」
「ボーっとしてたよ?」
「そう……ちょっとね」

 私はヴォルフラムを見た。
 彼は、不思議そうにキョトンと首を傾げる。
 私は深く息を吐き、笑みを作った。

 彼はSEになって追加された新しいキャラクターである。
 そして彼のシナリオは、アルディリアのシナリオと同じライターが手がけている。
 行われるミニゲームも格闘ゲームである。

 何故、そうなったかと言えば、格闘ゲームの人気が出たからだろう。
 アンケートにて「格闘ゲームが面白かった」という感想が多く、だからその元となったシナリオのライターを新シナリオに起用し、ミニゲームも格闘ゲームになったのだ。

 ちなみにその数多ある感想の中の一枚は私の書いたものである。

 だから、ある意味私の後輩みたいなキャラクターなのだ。


 そうした経緯で誕生した後輩だと思えば、悪い気分ではない。
 まぁ、深く関わらないように仲良くさせてもらおうかな。

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