気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
三十九話 令嬢フレンド(仮)
「反抗的な人間ってのも、たまにはいいかもな。そういう奴を大人しくなるように躾けてやるのは楽しそうだ」
その男ルクス・アルマールは、そう言うとカナリオの腕を掴んだ。
「痛っ、放してください」
余程強く掴んでいるのか、カナリオの顔が苦痛に歪む。
ルクスはそんな彼女の顔を見て、嗜虐的な表情を作った。
「このまま折ってやってもいいんだぜ?」
「や、やめてくだ、さい……」
怯えと苦痛で、弱々しく言うカナリオ。
「安心しろよ。俺は白色が使えるから、すぐに治してやれる。ただ、痛いだけだぜ」
そういえば、こういうイベントがゲームでもあったな。
正直、私は俺様系のキャラクターが嫌いなので、見ていて全然楽しくなかったけど。
前世での友達がこのイベントにキュンキュンしたなんて事を言っていたけれど、私にはさっぱりわからない。
むしろ、こいつ、殴りてぇ。とか思っていた。
で、その機会が今現実に訪れているわけなのだが。
私はおもむろに近付き、カナリオを掴むルクスの手に手刀を落として放させ、その頬を平手で張った。
「ぶはっ!」
ルクスはそのまま倒れこむ。
相手も無体な事をしているし、これは拳の使いどころだろう。
先生に恥ずかしくて顔向けできないなんて事は無いはずだ。
いや、拳じゃなかったからいいか。
拳じゃないから恥ずかしくないもん。
「クロエ様……」
カナリオが声を出す。
口を開けば「勘違いするな。お前が私以外の相手に無様をさらす所を見たくなかっただけだ」とか言ってしまいそうなので、手振りだけで下がっていろと伝える。
倒れたまま、ルクスは私を見上げた。
若干、動揺した様子で口を開く。
「な、何だお前? いきなり殴りやがって! お前みたいな女、初めてだぜ」
おや、私も興味をもたれてしまうだろうか?
嬉しくないが。
「そんな事はどうでもいい。それより、腕の骨を折る、だと? 腕ポキが許されるのはエジプトの王様までなんだよっ!」
「エジプトってどこだよっ!」
ちなみに、鞭打ちが許されるのはヒッタイトの王子様までだ。
ルクスは口元を拭いながら立ち上がる。
「何者だ、テメェ?」
「(^q^)くおえうえーーーるえうおおおwww」
「本当に何者だよっ! ていうか、何語だよっ!」
私の生前からの持ちネタですが何か?
ルクス・アルマール。
彼は攻略対象の一人であり、強気で傲慢な性格の所謂俺様キャラである。
イメージモデルは大山猫。テーマカラーはオレンジだ。
女好きで、女性と見れば見境なく声をかける悪癖がある。
さっきのやり取りみたいに。
ナンパにしては強引なやり方ではあるが、意外とそれに反発する女性はいない。
彼は公爵家の長男である。顔も良い。多少性格に難があっても、お近づきになりたい女性は多いのである。
むしろ、その性格がイイという奇特な人間もいるのだろうが。
ちなみに今現在、婚約者はいない。
それもまた貴族令嬢に人気の理由だろう。
カナリオと直接知り合うのは先ほどのイベントが初だが、一応二人は入学式の日に出会っている。
彼のはべらせた女性がカナリオにぶつかり、転んだ所を助け起こされるイベントがあるのだ。
その時にばっちり顔を見ているはずなのに、どういうわけか憶えていないんだよね。
女好きなら、そういう所もチェックすると思うんだけどな。
おそらく、脚本の都合という奴だろう。
格闘ゲームの性能は、空中特化の機動性重視。
全キャラ中で唯一二段ジャンプと空中ダッシュができ、全ての必殺技が空中でも使用可能なのが特徴だ。
必殺技は飛び道具と無敵技と突進技の三種。そのどれもが地上で使用するより、空中で使用した方が強い。
対空技は無し。
主に空中での運用が強いキャラクターなので、それでもあまり困らない。
対空ではないが、無敵技はあるので対抗できなくはない。
無敵技はその場で回転するモーションのもので、無敵の判定が他のキャラクターに比べて長くなっている。
なので空中にいる時、相手の対空に合わせて使うと逆に狩る事ができる。
超必殺は、空中から飛び道具を乱射する技と一度壁に飛んで張り付いてから斜め下へ突進してラッシュを決める物だ。
飛び道具の方は密着低空出しで、当たり所が良ければ驚異のダメージをはじき出せる。
突進ラッシュはそのまま使うと壁へ張り付く動作が隙になり、まず間違いなくガードされる。が、空中で出すと壁に張り付くモーション無しで突進するので空中で出した方が当たりやすい。
どちらも空中コンボの締めに使える。火力ロマンの飛び道具か安定のラッシュかは好みだ。
と、いうふうに、空中戦では滅法強いキャラクターである。
だから、如何に空中から攻め、着地後の隙を凌ぐかが戦略の要となるキャラクターだ。
しかし、何で大山猫なのにそんな性能となったのか謎である。
当然だが山猫は飛ばないし眠らない。
まぁ、彼の設定を知っていれば、理由はわからないでもないのだが……。
空中2強Kで真下へ急降下しながらの蹴りがあり、それを相手に当てる事で再度飛び上がる事が可能。
それを利用すれば、地面に足を着けずに戦う事ができる!
と、最初は誰でも思うのだが、実際は相手に読まれやすいので当たる事は稀だ。
しかし軌道が真下への急降下なので、斜め上へ突き上げられるアードラーの6P手刀をかわして攻撃を当てる事ができる!
て、思うじゃん?
最初は誰もが考える事だ。
でも実際、アードラーの6Pは判定も狂っており、頭上にすら攻撃判定がある。
当然、返り討ちだ。
プレイヤー達の間では、この現象がドリルバリアと呼ばれている。
しかも、無敵技で狩ろうとしても上半身が無敵なため狩れない。
技の無敵判定が切れた時にもう一度6Pを使われて超必殺コースである。
多分、彼ほどアードラーと相性の悪いキャラクターはいない。
それでも勝つには、最低限低空ダッシュを戦略に組み込めるプレイヤースキルが必要になってくるだろう。
あと、空中飛び道具をティグリス先生の飛び道具当身に取られると、先生がルクスの頭上に瞬間移動し、伝説的少年漫画ばりのハンマーパンチで地上へ叩き落す。
浮かせて落とす、の落とすだけをする感じだ。
と、強キャラ二人から良い様にされてしまう印象の彼だが、他のキャラクターが相手ならば安定して戦える万能なファイターである。
「本当に何なんだよ、お前? これ見よがしにへそを見せ付けやがって」
うお、みんながチラチラ気にしながらも触れなかった部分をよくも指摘してくれたなっ!
やってくれた喃《のう》。
新学期になって、私は夏用の服に衣替えしている。
入学式の時から来ていた学ラン風軍服から、ゲームでおなじみのへそだしルックの服装になっていた。
白シャツ黒スラックスに、上着として袖のないベストを着ている。
それだけならティグリス先生と似たようなモノクロームファッションで済むのだが。
今の私はシャツのボタンを一番上以外閉じていなかった。
母上にこの服装一式をプレゼントされた時は、正直着ないだろうと思っていた。
着たとしてもちゃんとボタンを閉じるだろうと思っていた。
でも、夏になってどうしてクロエがあんな服装だったのか察してしまった。
簡単に言えば、とてつもなく体が熱くなるからだ。
筋肉に覆われた体は熱くなりやすく、脂肪もある程度のっているので熱がこもりやすい。
実戦では体力が必要だから、ちょっと肉が付くぐらいで維持しろと父上に言われているのだ。
結果、すっごく暑苦しい。
冗談抜きで体が熱くなるのだ。
正直、体裁を無視していいのならば、上着も脱ぎだしたいくらいだ。
その熱を放熱するために、クロエはこんなへそと腹筋を見せびらかすような服を着ていたのだ。
思わぬ真実である。
「それもどうでもいい! 私の名前を知りたいと言ったな? 私の名前はクロエ。クロエ・ビッテンフェルトだ」
私は恥ずかしさを誤魔化すように、気迫を込めて名乗った。
「クロエだと?」
すると、ルクスはスッと目を細めて私を見た。
品定めするように私を眺める。
ジロジロとなんだ?
「なるほどなぁ、お前がクロエか。話には聞いているぜ」
「どんな話かな?」
「それこそどうでもいい話だろ。まぁ、今回は引いてやるよ。ありがたく思いな、クロエ・ビッテンフェルト」
そう言うと、ルクスは不敵な笑みを残してその場を去って行った。
何だったんだろう、あれ?
「クロエ様」
後ろから声をかけられる。
見ると、カナリオがいた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
礼を言われる。
私はそれに言葉を返そうと口を開く。
「勘違いするな。お前が私以外の相手に無様をさらす所を見たくなかっただけだ」
ああ、結局言ってしまった。
しかし、ルクスがクロエを知っている、か……。
でも、確かゲーム中のルクスとクロエには接点なんてなかったはずなんだよね。
アルディリアも同じはずだ。
それとも、ゲームの裏では交流があったという事なんだろうか。
ルクスが誰から話を聞いたのか見当はつくけれど、実際の所はよくわからないな。
でも、ちょっと気になるね。
その男ルクス・アルマールは、そう言うとカナリオの腕を掴んだ。
「痛っ、放してください」
余程強く掴んでいるのか、カナリオの顔が苦痛に歪む。
ルクスはそんな彼女の顔を見て、嗜虐的な表情を作った。
「このまま折ってやってもいいんだぜ?」
「や、やめてくだ、さい……」
怯えと苦痛で、弱々しく言うカナリオ。
「安心しろよ。俺は白色が使えるから、すぐに治してやれる。ただ、痛いだけだぜ」
そういえば、こういうイベントがゲームでもあったな。
正直、私は俺様系のキャラクターが嫌いなので、見ていて全然楽しくなかったけど。
前世での友達がこのイベントにキュンキュンしたなんて事を言っていたけれど、私にはさっぱりわからない。
むしろ、こいつ、殴りてぇ。とか思っていた。
で、その機会が今現実に訪れているわけなのだが。
私はおもむろに近付き、カナリオを掴むルクスの手に手刀を落として放させ、その頬を平手で張った。
「ぶはっ!」
ルクスはそのまま倒れこむ。
相手も無体な事をしているし、これは拳の使いどころだろう。
先生に恥ずかしくて顔向けできないなんて事は無いはずだ。
いや、拳じゃなかったからいいか。
拳じゃないから恥ずかしくないもん。
「クロエ様……」
カナリオが声を出す。
口を開けば「勘違いするな。お前が私以外の相手に無様をさらす所を見たくなかっただけだ」とか言ってしまいそうなので、手振りだけで下がっていろと伝える。
倒れたまま、ルクスは私を見上げた。
若干、動揺した様子で口を開く。
「な、何だお前? いきなり殴りやがって! お前みたいな女、初めてだぜ」
おや、私も興味をもたれてしまうだろうか?
嬉しくないが。
「そんな事はどうでもいい。それより、腕の骨を折る、だと? 腕ポキが許されるのはエジプトの王様までなんだよっ!」
「エジプトってどこだよっ!」
ちなみに、鞭打ちが許されるのはヒッタイトの王子様までだ。
ルクスは口元を拭いながら立ち上がる。
「何者だ、テメェ?」
「(^q^)くおえうえーーーるえうおおおwww」
「本当に何者だよっ! ていうか、何語だよっ!」
私の生前からの持ちネタですが何か?
ルクス・アルマール。
彼は攻略対象の一人であり、強気で傲慢な性格の所謂俺様キャラである。
イメージモデルは大山猫。テーマカラーはオレンジだ。
女好きで、女性と見れば見境なく声をかける悪癖がある。
さっきのやり取りみたいに。
ナンパにしては強引なやり方ではあるが、意外とそれに反発する女性はいない。
彼は公爵家の長男である。顔も良い。多少性格に難があっても、お近づきになりたい女性は多いのである。
むしろ、その性格がイイという奇特な人間もいるのだろうが。
ちなみに今現在、婚約者はいない。
それもまた貴族令嬢に人気の理由だろう。
カナリオと直接知り合うのは先ほどのイベントが初だが、一応二人は入学式の日に出会っている。
彼のはべらせた女性がカナリオにぶつかり、転んだ所を助け起こされるイベントがあるのだ。
その時にばっちり顔を見ているはずなのに、どういうわけか憶えていないんだよね。
女好きなら、そういう所もチェックすると思うんだけどな。
おそらく、脚本の都合という奴だろう。
格闘ゲームの性能は、空中特化の機動性重視。
全キャラ中で唯一二段ジャンプと空中ダッシュができ、全ての必殺技が空中でも使用可能なのが特徴だ。
必殺技は飛び道具と無敵技と突進技の三種。そのどれもが地上で使用するより、空中で使用した方が強い。
対空技は無し。
主に空中での運用が強いキャラクターなので、それでもあまり困らない。
対空ではないが、無敵技はあるので対抗できなくはない。
無敵技はその場で回転するモーションのもので、無敵の判定が他のキャラクターに比べて長くなっている。
なので空中にいる時、相手の対空に合わせて使うと逆に狩る事ができる。
超必殺は、空中から飛び道具を乱射する技と一度壁に飛んで張り付いてから斜め下へ突進してラッシュを決める物だ。
飛び道具の方は密着低空出しで、当たり所が良ければ驚異のダメージをはじき出せる。
突進ラッシュはそのまま使うと壁へ張り付く動作が隙になり、まず間違いなくガードされる。が、空中で出すと壁に張り付くモーション無しで突進するので空中で出した方が当たりやすい。
どちらも空中コンボの締めに使える。火力ロマンの飛び道具か安定のラッシュかは好みだ。
と、いうふうに、空中戦では滅法強いキャラクターである。
だから、如何に空中から攻め、着地後の隙を凌ぐかが戦略の要となるキャラクターだ。
しかし、何で大山猫なのにそんな性能となったのか謎である。
当然だが山猫は飛ばないし眠らない。
まぁ、彼の設定を知っていれば、理由はわからないでもないのだが……。
空中2強Kで真下へ急降下しながらの蹴りがあり、それを相手に当てる事で再度飛び上がる事が可能。
それを利用すれば、地面に足を着けずに戦う事ができる!
と、最初は誰でも思うのだが、実際は相手に読まれやすいので当たる事は稀だ。
しかし軌道が真下への急降下なので、斜め上へ突き上げられるアードラーの6P手刀をかわして攻撃を当てる事ができる!
て、思うじゃん?
最初は誰もが考える事だ。
でも実際、アードラーの6Pは判定も狂っており、頭上にすら攻撃判定がある。
当然、返り討ちだ。
プレイヤー達の間では、この現象がドリルバリアと呼ばれている。
しかも、無敵技で狩ろうとしても上半身が無敵なため狩れない。
技の無敵判定が切れた時にもう一度6Pを使われて超必殺コースである。
多分、彼ほどアードラーと相性の悪いキャラクターはいない。
それでも勝つには、最低限低空ダッシュを戦略に組み込めるプレイヤースキルが必要になってくるだろう。
あと、空中飛び道具をティグリス先生の飛び道具当身に取られると、先生がルクスの頭上に瞬間移動し、伝説的少年漫画ばりのハンマーパンチで地上へ叩き落す。
浮かせて落とす、の落とすだけをする感じだ。
と、強キャラ二人から良い様にされてしまう印象の彼だが、他のキャラクターが相手ならば安定して戦える万能なファイターである。
「本当に何なんだよ、お前? これ見よがしにへそを見せ付けやがって」
うお、みんながチラチラ気にしながらも触れなかった部分をよくも指摘してくれたなっ!
やってくれた喃《のう》。
新学期になって、私は夏用の服に衣替えしている。
入学式の時から来ていた学ラン風軍服から、ゲームでおなじみのへそだしルックの服装になっていた。
白シャツ黒スラックスに、上着として袖のないベストを着ている。
それだけならティグリス先生と似たようなモノクロームファッションで済むのだが。
今の私はシャツのボタンを一番上以外閉じていなかった。
母上にこの服装一式をプレゼントされた時は、正直着ないだろうと思っていた。
着たとしてもちゃんとボタンを閉じるだろうと思っていた。
でも、夏になってどうしてクロエがあんな服装だったのか察してしまった。
簡単に言えば、とてつもなく体が熱くなるからだ。
筋肉に覆われた体は熱くなりやすく、脂肪もある程度のっているので熱がこもりやすい。
実戦では体力が必要だから、ちょっと肉が付くぐらいで維持しろと父上に言われているのだ。
結果、すっごく暑苦しい。
冗談抜きで体が熱くなるのだ。
正直、体裁を無視していいのならば、上着も脱ぎだしたいくらいだ。
その熱を放熱するために、クロエはこんなへそと腹筋を見せびらかすような服を着ていたのだ。
思わぬ真実である。
「それもどうでもいい! 私の名前を知りたいと言ったな? 私の名前はクロエ。クロエ・ビッテンフェルトだ」
私は恥ずかしさを誤魔化すように、気迫を込めて名乗った。
「クロエだと?」
すると、ルクスはスッと目を細めて私を見た。
品定めするように私を眺める。
ジロジロとなんだ?
「なるほどなぁ、お前がクロエか。話には聞いているぜ」
「どんな話かな?」
「それこそどうでもいい話だろ。まぁ、今回は引いてやるよ。ありがたく思いな、クロエ・ビッテンフェルト」
そう言うと、ルクスは不敵な笑みを残してその場を去って行った。
何だったんだろう、あれ?
「クロエ様」
後ろから声をかけられる。
見ると、カナリオがいた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
礼を言われる。
私はそれに言葉を返そうと口を開く。
「勘違いするな。お前が私以外の相手に無様をさらす所を見たくなかっただけだ」
ああ、結局言ってしまった。
しかし、ルクスがクロエを知っている、か……。
でも、確かゲーム中のルクスとクロエには接点なんてなかったはずなんだよね。
アルディリアも同じはずだ。
それとも、ゲームの裏では交流があったという事なんだろうか。
ルクスが誰から話を聞いたのか見当はつくけれど、実際の所はよくわからないな。
でも、ちょっと気になるね。
「恋愛」の人気作品
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