気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

十四話 一番好きな攻略対象

 この学園ではいくつかの科目を選択で取る事になっているのだが、私はその内の一つに調理科という科目を選んでいる。

 貴族社会において、自らの手で調理をする人間は少ない。
 ほとんどは料理人を雇うので、料理できなくても問題がないからだ。
 自分で料理をする貴族は、趣味として嗜む程度である。

 私の母上もその部類に入る。父上が母上に惚れ込んだきっかけが料理だったらしく、今でも家の食事は母が作っている。
 趣味はお菓子作りで、いつも調理場にいるイメージがある。

 話を戻すが、そんな貴族社会で必要性の薄いスキルが何故学校の科目にあるかといえば、調理が軍事的には必要なものであるからだ。

 戦地において、現地の食材を食べる事になる場合がある。
 その際に、毒のある食材である事を見極める目と毒があった場合でも無毒化する調理法などが必要になってくる。

 その技術を学ぶ科目がこの調理科なのだ。
 一応、家庭料理やお菓子なども授業で作る事はあるが、ここで習う調理の主目的は戦場で役立つ教養という名目である。
 だから、武家の私がそれを習っても何ら問題はないし、純粋に料理への興味を持っている人間が受けても良いのだ。

 ちなみに、選択でアルディリアとアードラーも調理科を取っているので、この時間は同じ教室である。
 友達と一緒に机を並べられるのっていいよね。

 アードラーなんか、わざわざ途中で選択科目を変更してまでこっちに来てくれた。
 友情っていいよね!
 ユウジョウッ!

 さて、ここで紹介しておきたい人間がいる。
 この授業を受け持つ教師、ティグリス・グランについてだ。

 白い髪が特徴的な長身、黒シャツ白パンツのモノクロームな男である。
 目つきが鋭く、筋肉質。
 とても男らしい男だ。
 元傭兵団の団長。平民出身だが、戦場で目覚しい功績を立てた事で騎士公の爵位を授与されて貴族になる。
 その後、ある理由から戦場を離れて、魔法学園にて教師となった人物だ。

 何故、私が彼の素性を知っているかといえば、彼が攻略対象の一人だからである。
 しかも、攻略対象の中では一番好きなキャラクターだったりする。

 デザインモデルは虎。色合いからしてホワイトタイガーか白虎をモデルにしているのだろう。
 ちなみに私の教室の担任教師でありながら、闘技と調理の授業を受け持っている。

 その関係で、アルディリアのルートで少し出てくる。
 闘技の時間にクロエがカナリオへ勝負を挑み、ミニゲームが起こる。
 その後に、シナリオでのイベントが起こるのだが。
 概要をかいつまんで話せば以下の通り。

 お互いに満身創痍の二人が向かい合う。ミニゲームをパーフェクト勝利してもカナリオはボロボロになっているのでその場合はちょっとシュールだ。
 そんな二人を見て先生が口を開く。

「止めなくちゃ」

 とアルディリア。そんな彼を先生は「いや」と止める。

「二人の目はまだ闘志を宿している。外野が止めて良いものじゃない」
「でも、二人とももうボロボロなのに……」
「ああ、お互いにもう限界だ。心は生きていても、体は言う事を聞かないだろう。だから、次だ。次の一撃で決まる」

 先生の言葉通り、最後の一撃を互いにぶつけ合うクロエとカナリオ。
 膝を折るカナリオ。
 そして、クロエが口を開く。

「ふ、お前の勝ちだ……」

 そう言って、クロエは倒れこむ。

 というイベントがあり、先生は見事に解説役をこなしてくれる。
 見た目も設定も強そうなのでとても説得力がある。

 好きなキャラクターという事もあり、格闘ゲームではアードラーに次ぐ愛用キャラクターである。サブキャラクターだ。

 近接戦において圧倒的な力を発揮するキャラクターで、飛び道具も取れる当身、近距離強Pが1フレーム発生、いくつかの通常攻撃にガードポイントがついている、という所が特徴的なキャラクターである。

 飛び道具当身のせいで迂闊に飛び道具を撃てず、接近戦では1フレーム強Pとアーマー付き攻撃でガンガンに攻められる。
 近接が強いから距離を取りたいのに近接を強いられるという、相手からすればとてつもなくやりにくい相手だ。

 強いられているんだっ!

 ちなみに、フレームとは一秒を六十分割した値である。
 超必殺は突進してのラッシュとコマンド投げ。コマンド投げは相手の襟首を掴み上げ、強かに頭突きをかます。地味だけど、わかりやすく痛そうな技だ。

 固有フィールドは必殺技を含めた全ての攻撃にガードポイントがつくというものだ。適当に攻撃を振り回していてもいいので、さらにガンガン攻められるようになるわけだ。

 余談だが、クロエとティグリスはN(ニュートラル)強Kが共に後ろ回し蹴りとなっている。
 クロエは背向け状態、ティグリスは手前を向いた状態のモーションなので、ぶつかると本当にキック同士がぶつかり合っているように見える。
 相殺エフェクトのおかげでめちゃくちゃカッコイイ。

 ……そしてもちろん、強キャラである。
 …………。
 ………………。
 ……ち、違うねん。
 本当に好きなキャラクターがたまたま強キャラやっただけやねん。
 ほんま、誰に言うても信じてもらわれへんとかかなわんわー。

 でも本当に、実際気に入った部分はそういう所ではない。
 キャラクター性も好きだが、私が最初に彼を気に入った理由は別にある。
 じゃあそれは何かって?

「授業を始める。席につけ」

 これですよ、これ!
 これっていうか、声!

 私は自分の席に着きながら、心の中で悶えた。
 私が彼を気に入った理由。
 それは彼が私の大好きなアクションゲームの主人公と同じ声をしていたからだ。

 多分、私もそうなのだろうが、この世界の攻略対象と悪役令嬢はみんなゲームの時と同じ声をしている。
 みんな良い声だ。きっと声優になれるよ。

 そして彼もまた、ゲームと同じ声をしていたのだ。
 具体的にどんな声かって?
 ヤクザみたいな声だよ。

「ふふふ」
「どうしたの? クロエ」

 隣のアルディリアが、漏れ出てしまった私の笑い声に反応した。

「いや、先生の声はカッコイイなぁと思って」
「ああいう声が好きなの?」
「カッコイイでしょ?」

 アルディリアが黙り込む。
 少しして、再び声をかけてきた。

「どう、クロエ? こういう感じ?」

 アルディリアが声を作って訊ねてきた。
 先生の真似のつもりだろうか?
 やーん、無理してる感じがかーわーいーいー!
 女の子が男の子のフリしてるみたい。

「こんな感じかしら?」

 アルディリアとは反対側、私の隣席にいたアードラーも声を作って訊ねてくる。
 こっちの方が似ているのはどういう事なんだ?

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