気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

十三話 言ってくれるじゃないの

 学園の休み時間。
 魔法実技のために移動教室へ行き、ついでにお花を摘んで教室へ帰る途中の事。

「やめなさい。彼女、嫌がっているでしょう」

 そんな威勢の良い声が中庭から聞こえてきた。
 私はその声のする方へ顔を向ける。

 するとそこには、マリノーとカナリオの姿があった。
 そんな二人の前に、三人の男子生徒が立っていた。
 カナリオは彼らから庇うように、マリノーの前に立っている。

「ふん、平民が。これは貴族同士の話し合いだ。貴様には関係ない。さっさとどこかへ行け」

 三人の内、先頭に立っていたどうにも鼻持ちならない男子生徒が、カナリオへ返す。

「貴族とか平民とか関係ない。人が嫌がっている所を見れば、助けるのが当然でしょ!」

 ああ、あのイベントか。
 カナリオの言葉を聞いて、私はゲームでのイベントを思い出した。
 これは、マリノーとライバルになるルートのイベントだ。

 鼻持ちならない男子生徒に言い寄られるマリノーを、カナリオが庇って見得を切るイベントだ。
 なんとかカナリオは追い払うのだが、あまりにも相手の言葉が嫌味ったらしいからとても腹が立つのだ。

「貴様に用はないと言っているだろう。私はただ、マリノー嬢と親睦を図りたいだけだ」
「あんなの、気の弱い女の子をナンパしているのと変わらない。あんた達のやっている事なんて、街のゴロツキと変わらないわ!」

 鼻持ちならない男子生徒が顔を歪める。

「ゴロツキだと? 無礼な平民め。本来なら、貴様のような卑しい女など、私と口を聞く事すら許されていないのだぞ? それとも生意気な口で気を引いて、愛人にでも取り立ててもらおうとでも思っているのか? 本当に卑しい女だなぁ」

 鼻持ちならない男子生徒は嘲笑した。
 ここまでだね。

「そこまでです」

 私はそう声をかけながら、近付いていった。
 カナリオとマリノーの前に立つ。

「「ビッテンフェルト様?」」

 二人が揃って声を上げた。

「何だ貴様は?」

 後ろに控えていた男子生徒が私を睨んで問う。

「クロエ・ビッテンフェルト」

 名乗ると、後ろに控えていた男子生徒が口を開く。

「クロエ? まさか、家では「パ――」」
「あん?」
「ぐ……」

 睨み付けると、後ろの男子生徒が口を噤んだ。

 それでいい。
 善良な生徒達ならともかく、お前らみたいな奴に言われたら手が出ている所だ。
 久し振りにキレちゃうよ。屋上に連行だよ。

「そのクロエ嬢が、何の御用かな? 失礼ながら、あなたには関係のない事だ」
「そうでもありません。友人が貶されれば黙ってはいられない。そういうものでしょう?」
「友人? まさか、その平民が友人だとでも言うのか?」

 鼻持ちならない男子生徒に鼻で笑われた。

「おかしな事ですか?」
「武門の名家であるビッテンフェルト家も落ちたものだ。所詮は腕っ節だけが頼りの野蛮な血筋というわけか。下賎な人間の方に親近感を懐くらしいな」

 言ってくれるじゃないの。

「構えをとってください」
「何だと?」

 私は左拳を右手で握り、ゴキゴキと指の骨を鳴らした。もう片方の手も鳴らす。
 ザッと構えをとって、ステップを踏む。
 もう、言葉とかいらないよね。

「ふん。返す言葉に困れば暴力か。これだから野蛮人には付き合っていられない。だが、一応は私と同じ侯爵家。この場は顔を立ててさしあげよう」

 鼻持ちならない男子生徒が踵を返す。後ろの男子生徒もその後に続こうとする。

「逃げるのですか?」
「あなたの面子を守って差し上げる。
 あなたはビッテンフェルト卿に勝ったという話だが、卿はあの通り娘を溺愛し過ぎている。
 大方、娘可愛さに手心を加えたのだろう。
 私と立ち合えば、自ずとその偽りも剥れるでしょうからな。
 所詮、女では男に敵わない。その現実を早く理解する事だ、クロエ嬢」

 鼻持ちならない男子生徒はそう言い残すと、皮肉っぽい笑みを向けてから去って行った。

 モヤモヤする。
 相手が私に変われば少しはマイルドになるかと期待したが、そんな事もなかった。
 始めからやっちまえばよかった。

「あの、ビッテンフェルト様?」

 声をかけられて振り返ると、カナリオが申し訳なさそうな表情で私を見ていた。

「申し訳ありません。私のせいで、ビッテンフェルト様があんな事を言われてしまって」
「気にする事じゃありません。私自身、あんな小物にあなたが貶されている事が気に入らなかっただけです。あなたのためじゃありませんよ」

 あー意識して無いのに言葉が素っ気無くなるぅー。
 静まれ、私の中のクロエ。まだだ、まだ出てくるんじゃない。

「ビッテンフェルト様……ありがとうございました」
「あの、私からもありがとうございます」

 カナリオが礼を言うと、マリノーも控えめに頭を下げた。
 ふふ、ちょっと嬉しいですね。
 あの嫌味にさらされただけのかいはあります。

「そろそろ、次の授業です。私達も急ぎますよ」
「あ、そうだった!」
「そうですね、急がないと」

 カナリオの教室は別だったので、私はマリノーと一緒に教室へ戻った。
 その間、彼女と話をして少し仲良くなった。

 しかし、まさかカナリオがこのイベントを起こしているとは思わなかった。
 私はてっきり、リオン王子と良い感じになっていると思っていたのに。
 それがよりにもよって、彼女がライバルのルートに入りかけているなんて。

 このまま、リオン王子じゃなくてそっちに行く可能性もあるのか……。
 ゲーム通りなら大丈夫だけど、それでもちょっと心配だな。
 友達として。

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