気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

十話 ダブルAの邂逅

 友達になったその日から、アードラーが毎日休み時間に私の教室まで来るようになった。
 そしてこの前、彼女はアルディリアとも面識を持つに到った。

 休み時間。
 前の席の椅子を借りて、私の席の机を挟んでアルディリアと話をしていた時だ。
 アードラーが教室へ遊びに来た。

「あなた誰?」

 アードラーはアルディリアに険しい目を向けて訊ねた。
 多分、人見知りしているんだろう。
 表情が険しく、口調も厳しかった。

「え、アルディリア・ラーゼンフォルトです」
「ふぅん。私はアードラー・フェルディウスよ。ちょっと可愛いからって調子に乗らない事ね」
「えっ……?」

 それが二人のファーストコンタクトである。
 ちょっと攻撃的な言葉が出たのは、多分緊張しているからだ。
 仲良くしてあげてね、アルディリア。

 あと、カナリオから聞いた話では、アードラーからの直接的な嫌がらせが無くなったらしい。
 嫌がらせよりも私を優先してくれているという事だろうか?
 友達だと思ってくれているなら嬉しいね。

 そして今日、彼女は私の家へ遊びに来た。



 その日の私は、当家にアルディリアを招いて彼の鍛錬を行っていた。
 彼とは週三日の割合で鍛錬をしている。
 彼は努力家で、鍛錬に対してとても真摯な態度で向き合っている。

 三年間、ずっと欠かさず、鍛錬を休んだ事は無い。
 しかし、いまいち鍛錬が身になっていない感じがする。

 もしかしたら、これはゲーム補正なのかもしれない。ゲームの彼はモーションが素人丸出しで、転んで滑り込む下段攻撃やら、両手を振り回してのグルグルパンチやら、動きに才能の欠片すら見出せなかった。
 やっぱり、彼は小動物ありきという事なのかもしれない。

「ねぇ、アルディリア」
「小動物を操って相手にけしかける事とかできないの?」
「え? できないけど。そんなの可哀相じゃないか。それに、そんな事ができたら人間じゃないよ」

 そうか。お前、人間じゃなかったのか。
 とまぁ、現実の彼は格闘ゲームほど冗談みたいな存在ではないらしい。

 しかし、これだけ努力しているのに、物にならないというのは少し不憫だ。
 なんとかしてやりたいけど、なんとかならないかなぁ。

 と、そんな時に来訪者があった。
 家のメイドが、一人の少女を伴って私達の方へ歩いてきていた。
 伴っている少女だが、赤いドレスと特徴的なドリルで遠目から見ても誰なのか一目瞭然だった。
 アードラーだ。
 シルエットだけで誰かわかるなんて凄い個性だ。

 彼女とは事前に茶会の約束をしていた。
 単純に部屋でだべって遊ぶお誘いのつもりだったのだが、アードラーが言うにはこういう誘いは何かしらの場を用意するのが貴族の嗜みであるらしい。
 私にとっては、初めてのお茶会である。

「ごきげんよう、クロエ様」
「ごきげんよう、アードラー様」

 今の私、聖母様にすっごい見られてそうだ。

「この度はお招きいただき、ありがとうございます」

 アードラーは完璧な動作で一礼した。
 実にお嬢様らしく、美しい動きだ。
 体幹もまっすぐで、安定している。

 彼女はちらりとアルディリアに目を向ける。
 アルディリアはビクリと体を震わせた。

「あなたもいるのね」
「ご、ごきげんよう。フェルディウス様」
「ごきげんよう。ラーゼンフォルト様」
「一応、婚約者ですので……」
「そう」

 相変わらず、アードラーの挨拶には冷たい響きがある。とても素っ気無いし。
 私にはもっと柔らかく接しているので、まだアルディリアを警戒しているのかもしれない。
 アルディリアはアルディリアで人見知りしているみたいだ。
昔、私に挨拶した時みたいにちょっと言葉が固い。
まだ知り合って間もないから仕方ないか。
 まぁ、時間が経てば慣れていくよね。

「じゃあ、今日はここまでにしようか。アルディリア」
「うん。そうだね。えーと、僕は帰った方がいいかな?」

 そうだね。
 一応、今日は正式なお茶会のお誘いなので、前もって参加を伝えていない相手がいるのはスゴイシツレイにあたる行為だ。
 悪いけど、今日のところはアルディリアに帰ってもらおう。

「今日の所は、その方がいいかな。今度は、一緒に誘うよ」
「うん。それじゃあ」

 アルディリアは帰っていった。
 アードラーとすれ違う際、互いに視線を向け合ってすぐに二人ともそらす。

「では、アードラー様。こちらへ、お茶会をいたしましょう」
「……ええ、そうですね」

 前もって準備していた茶会の席へアードラーをメイドに案内させ、私はその間に鍛錬用の服から黒ドレスに着替えた後、茶会の席へ着いた。

 白いテーブルにはティーセットと母上の作ってくれた焼き菓子が置かれている。
 おいしそうだ。
 でも、がっつかないのが令嬢の嗜み。間違っても二口で食べ切るなんて事をしてはならない。

「ラーゼンフォルト様は……」

 不意に、アードラーが呟くような声を出す。

「ん?」
「ラーゼンフォルト様は、よくこの家へ遊びに?」
「婚約者ですからね。それに、どちらかというと遊びに来ているわけではありません」
「そうなの?」
「はい。当家へは、闘技の鍛錬をするために通っております。いつも、二人で切磋琢磨しているのですよ」

 笑顔を浮かべて答える。
 けれど、アードラーは笑顔を作らなかった。

「ふぅん」

 ただ、そう相槌を打つだけだ。
 それから私はアードラーと雑談をしながらお茶を飲み、初めてのお茶会の時間は過ぎていった。
 その間、アードラーはどこか上の空だった。
 私のお茶会、どこかまずかったのかな?
 失敗しちゃったのかな?

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