【第一部完結】超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ

第11話(3)悪戯な風

「ふむ……この辺りで良いか」

 灰色の僧衣に身を包んだ短髪の男性が五稜郭の真南に突き出た堡塁を見据える。

「~~!」

 遠くに派手な音が聞こえてくる。

「他の勢力とやらも動き出しているようだな……むしろ好都合というもの……さて……」

 男は竪琴を奏でようとする。

「待ちなさい!」

「!」

 シルクハットを被った赤色の派手な燕尾服を着た小柄な女性が男に声を掛ける。

「マスターハンザ! アンタの悪巧みもここまでよ!」

「これはこれは……PACATFの団長、坂田杏美嬢……よくここが分かったね?」

 ハンザと呼ばれた男は竪琴の琴線から一旦手を離し、女性の方に向き直る。

「先日、アンタたち秘密教団ファーリの支部を一つ制圧し、この計画を突き止めたわ!」

「……」

 そこに身長2メートル以上はありそうな熊の顔をした男が杏美の後ろに現れる。

「君は……」

「この鮭延川光八が良い仕事をしてくれたわ!」

「……恐縮です」

「証拠の類は全て隠滅したと聞いていたが、詰めが甘かったようだね」

「違うわね! 私たちが優秀なのよ!」

「……まあ、自信を持つのは良いことだ。もはやどちらでも良いがね!」

 ハンザが再び竪琴の琴線に手を伸ばす。光八が叫ぶ。

「団長! 音を奏でて、怪獣を呼ぶ気です!」

「そうはさせないわ!」

 杏美が懐からナイフを数本取り出し、ハンザに向かって投げつける。

「ふん!」

「なっ 」

 ナイフはハンザの身体には届かず、手前でポトリと落ちる。

「ふっ、なかなか鋭い投擲だったけど、この防護盾の前では何をしても無駄だよ」

「くっ、ならばこれよ!」

 杏美が大袈裟にシルクハットを外す。

「何 」

「……クルッポー♪」

「……」

 逆さにしたシルクハットから白い鳩が出てきて、鳴き声を上げる。杏美が頭を抱える。

「し、しまった! 手品用のシルクハットを持ってきちゃった……」

「だ、団長……」

「ちょ、ちょっと身構えてしまった自分が情けない……これ以上付き合っていられん!」

「あっ!」

 ハンザが竪琴を奏でると、巨大なネズミが出現する。

「さあ、蹂躙しろ!」

「ぐっ!」

「ベベベアー 」

「えっ 」

 そこに巨大な熊の顔をした巨人が出現する。怪獣と五稜郭の間に割って入る。

「あ、あれはもしかして……いつも助けにきてくれる謎の巨人、ベアーマスク!」

「ええっ 」

 杏美の発言にハンザが驚く。

「こちらがピンチの時に限っていつもタイミング良く駆け付けてくれるのよね~」

「ほ、本気で言っているのか?」

「こうしていられない! 援護しなきゃ!」

 杏美が物陰に向かって走り出す。しばらくすると、物陰から小型戦闘機が飛び立つ。

「ほ、ほったらかしにされたような気がするのが少し癪だが……今は目的を果たそう」

 ハンザがゆっくりと五稜郭に向かって歩き出す。

「ベアーマスク、援護射撃よ!」

「ギャッ!」

 杏美の放ったミサイルが巨大ネズミに命中する。

「ウオッ!」

「!」

 ネズミが怯んだところをベアーマスクがラリアットを喰らわせて薙ぎ倒す。

「やった! ナイス! そのまま極めちゃって!」

 回線をオープンにしている為、杏美の声が戦場に響く。ベアーマスクは戦闘機の方に向かい、右手の親指をサムズアップすると、すぐさまネズミを後方から羽交い絞めにする。

「よっしゃ! 落とせ!」

「やられっぱなしでは終わらない……倍の倍!」

「 」

 竪琴の音が響いたかと思うと、もう一匹のネズミが出現し、ベアーマスクを攻撃する。

「ネ、ネズミがもう一匹  マスターハンザの仕業  大きさを変えるだけじゃなく、そんなことまで……やはり身柄を抑えておくべきだったわ! ……くっ! 見失った!」

 杏美がコックピットから見回すが、ハンザの姿を見つけることが出来ない。その悔しがる声を聞きながら、ハンザはほくそ笑む。

「判断ミスだね。私を抑えられると思えないけど……さて、二匹で熊を黙らせろ!」

 巨大ネズミが二匹揃って俊敏な動きを見せ、ベアーマスクを翻弄し、攻撃を加える。

「ドオアッ!」

 ネズミの鋭い爪を喰らったベアーマスクが膝を突く。ハンザが叫ぶ。

「さあ、とどめだ!」

「『マジカルフォーム』! 『マーグヌムトニトゥルス』!」

「ギャッ 」

 大きな雷が落ち、二匹の内の一匹に直撃し、ばったりと倒れる。ハンザが驚愕する。

「なっ 」

「なるほどな、ステッキの振り上げる角度で出力を調整出来るのか。何事もやってみねば分からんな……」

「お、お前は疾風迅雷! ……な、なんだ、その恰好は?」

 振り向いたハンザが怪訝な顔つきになる。ジンライは慌ててミニスカの裾を抑える。

「き、気にするな!」

「気にするなと言われてもね……」

「他意は無い!」

「あったらむしろこちらが困るよ」

「ムゥ……」

 ベアーマスクも不思議そうに疾風迅雷の姿を見つめる。

「い、良いから、貴様はさっさともう一匹のネズミを始末しろ!」

「グオオオッ!」

「ギャア!」

 ベアーマスクが呆然としているネズミとの距離を詰め、右腕を思い切り一振りする。鋭い爪がネズミの身体を切り裂く。ネズミは悲鳴を上げて倒れる。

「くっ! まだだよ!」

 ハンザが竪琴を構える。

「復活させる気か! そうはさせん! 『イグニース』!」

 疾風迅雷がステッキを振り上げると、炎が勢いよく噴き出る。

「無駄だ!」

 炎がハンザの手前で消える。疾風迅雷が舌打ちする。

「ちっ、シールドがあったか!」

「おおい、チップ損害!」

 そこにクラブマンが走ってくる。

「カニ男  舞の指示に従えと言っただろう!」

「その前にこの馬鹿デカくなったハサミはどうやったら戻るんだ 」

 クラブマンは巨大化したハサミを引き摺ってきていた。疾風迅雷が答える。

「ある程度時間が経てば戻るはずだ!」

「あのカニ男、私の顔に傷を付けた……!」

 ハンザの注意が逸れる。疾風迅雷がハッとする。

「そのシールドは横からの攻撃には弱いと聞いたぞ! 喰らえ!」

 疾風迅雷が再び炎の魔法を放つ。ハンザの側面を狙った攻撃だったが、炎は消える。

「ふん! 何の対策もしていないと思ったかい?」

「ちっ、横にもシールドを張れるのか、どうすれば……」

「まずはカニ男からだ!」

「どわっ 」

 ハンザが光弾を放ち、クラブマンは派手に吹っ飛ぶ。

「カ、カニ男!」

「さあ、次は君だ!  」

「のわっ 」

 クラブマンが地上に落ちると、悪戯な風が吹き、ミニスカがめくれ、中身が露になる。

「ぐはっ 」

 ハンザは鼻血を出す。裾を慌てて抑えた疾風迅雷は戸惑う。

「な、なんだ 」

「くっ、厳しい修行を己に課したあまり、ただ単にスカートがめくれるというだけでも興奮を抑えきれない体質に……!」

「全然己を律しきれていないじゃないか!」

「ここは撤退する!」

「ま、待て! な、なんか恥ずかしい思いをしただけのような気がする……」

「……援護、助かりました」

「うわっ! き、貴様、驚かすな……」

 疾風迅雷の背後に、元の大きさに戻った光八が立っていた。

「すみません……」

「PACの団長はどうした?」

「怪獣の死体を始末するため、一旦拠点に戻りました。自分はどうすれば?」

「そこの気を失っているカニ男を担いで指定するポイントに向かってくれ。場所は……」

 ジンライは倒れているクラブマンに向かって顎をしゃくる。光八は頷く。

「……分かりました。あ、それと……す、すみません!」

「なんだ、何を謝る?」

「自分も見てしまいました、不可抗力で……ただ、個人の趣味だと思いますから……」

 光八はクラブマンを担いで走り出す。

「ま、待て! 誤解しているぞ! このフォームになると、下着まで自動的に変化してしまうのだ! 決して俺様の個人的趣味で着用しているわけではないぞ!」

 ジンライはミニスカの裾を抑えながら、必死に弁明するのであった。

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