【第一部完結】超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!
第8話(1)念の為
8
「なんでステッキを使わなかったの?」
移動中の車内で、舞がジンライに問う。目を閉じていたジンライが目を開けて呟く。
「……では、逆に聞こうか」
「な、何よ……」
「貴様は『今から魔法使うことが出来ますよ!』と言われて、『はい、そうですか、分かりました!』と、すぐに魔法を使うことが出来るか?」
「まあ、普通は戸惑うわね」
「そうだろう」
「銀河一のヴィラン様も魔法は初見だったってこと?」
「魔法というものの定義によるが、あまり見かける機会はなかった気がするな」
「そうなのね」
「その状態でいきなりステッキを持たされてもな……」
ジンライが首をすくめる。
「でも、だからといってパンチは驚いたわよ」
「相手の意表を突けたから良いだろう」
「結果オーライって感じだったけどね……」
「あのキョウヤという奴が言っていただろう。魔力を拳に付与させてどうたらと」
「どうたらって」
「なんとなくではあるが、コツは掴めたような気がする。恐らく初歩中の初歩ではあるだろうがな。今後はもっと上手くやれるはずだ」
ジンライは拳を軽く握る。
「また奴と戦うときはパンチをお見舞いするの?」
「流石に同じ手は通用せんだろう。ステッキを上手く使っていくということだ」
「ということは練習するの?」
「……あの恥ずかしい恰好にはなるべくなりたくない……」
「結構似合っていたわよ。ねえ、ドッポ?」
「エエ、トテモヨクオニアイデシタ」
「ほら、賛同者がいるわよ」
舞がいたずらっぽく笑う。
「……やめろ」
「脚、結構キレイよね」
「やめろと言っている……」
「はいはい、冗談よ」
舞がわざとらしく両手を広げる。ジンライが憮然とした表情で腕を組む。
「ったく……」
「それにしても魔界、異世界と得体の知れない連中まで絡んでくるとはね……あくまで噂レベルだと楽観視していたわ……」
「……奴らの侵攻の様子はどうだ?」
ジンライの問いかけにドッポは僅かに間を空けて答える。
「……スウカショデカクニンデキマシタガ、アクマデテイサツダンカイノモヨウデス。カクチノジモトヒーローノカツヤクデヒトマズハゲキタイサレタヨウデス」
「そうか」
「十六夜さんは夕張に留まるって言っていたけど……」
「夕張から異世界に召喚されたというのなら、あの場所が異世界と繋がりやすいポイントなのではないか? 非科学的な話ではあるが……」
「一人で大丈夫かしら?」
「謙遜していたがそれなりに腕はたつ。さほど心配は要らんだろう。それに……」
「それに?」
「新誠組だったか? 仲間がいるという話だっただろう」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたわね」
「その仲間たちと合流すれば、そうそう負けはしないはずだ。悪いが、こちらも一か所に留まっている時間的余裕はない」
「それもそうね……」
「全く、罪作りだな、NSPという存在は」
「ええっと、世界征服を目論む悪の秘密結社『レポルー』、多次元犯罪組織『ミルアム』、怪獣を操ることが出来る秘密教団『ファーリ』、人類から土地を取り戻そうとしている『ソウダイ奪還同盟』、タイムワープをして犯罪行為を働く時空賊『ラケーシュ』、そして、魔界の『シンクオーレ連合』……次から次へと、厄介な連中が湧いてくるわね」
「それに加えて……」
「え?」
「いや、なんでもない……」
ジンライは静かに首を振る。
「なんでもないってことはないでしょ」
「気にしなくていい」
「気になるでしょ、そんな言い方されちゃ……って、ちょっと?」
「なんだ? トイレか?」
「違うわよ。函館に帰るんじゃないの?」
「ああ、それだが……少し事情が変わってな」
「事情が変わった?」
舞が怪訝な顔つきになる。
「寄るところがある」
「寄るところ? 時間的余裕は無いって自分で言っていたでしょ?」
「そう時間はかからん」
「どこに行くかくらい教えなさいよ」
「……札幌だ」
「札幌?」
舞が首を傾げる。
「おかしいか?」
「確かに札幌にもNSPが数か所点在しているわ。ただ、危険信号は出ていなかったはずよ」
「分かっている、念の為だ」
「知っていると思うけど、札幌は北海道一の大都市よ。強力な地元ヒーローが何組もいるわ。万が一の事態が起こったとしても、十分対処可能よ」
「理論的にはな」
舞の言葉にジンライは頷く。
「それよりも手薄な函館に早く戻るべきだわ」
「今のところ、大二郎から緊急の連絡は入っていない」
「そうだとしてもよ」
「焦るな……」
「焦りたくもなるわ」
「ここは俺様の判断に従ってくれ」
ジンライがいつになく真剣な眼差しで舞を見つめる。舞は妙に照れ臭くなり、目を逸らす。
「……ま、まあ、勝手についてきたようなものだし、アンタに任せるわ」
「理解を得て嬉しく思う」
車は札幌の街中に入る。舞がモニターを見ながら呟く。
「特に危険信号は出ていないみたいだけどね……」
「ドッポ、左折だ」
「カシコマリマシタ」
「え? 時計台や大通公園の様子を見るんじゃないの?」
「後で時間があったらな」
「い、いや、後でって……」
「よし、ここで停めろ」
停車し、ジンライたちが降りる。舞が腕を組んで首を傾げる。
「ここは……アニメショップが一杯入っているビル?」
「ああ、今日ここで、大ヒットを連発している漫画ユニット、『シーズンズ』のトークショー&サイン会が行われる。ファンとしては絶対に逃せないイベントだ」
「はあっ 」
舞が大声を上げる。
「なんでステッキを使わなかったの?」
移動中の車内で、舞がジンライに問う。目を閉じていたジンライが目を開けて呟く。
「……では、逆に聞こうか」
「な、何よ……」
「貴様は『今から魔法使うことが出来ますよ!』と言われて、『はい、そうですか、分かりました!』と、すぐに魔法を使うことが出来るか?」
「まあ、普通は戸惑うわね」
「そうだろう」
「銀河一のヴィラン様も魔法は初見だったってこと?」
「魔法というものの定義によるが、あまり見かける機会はなかった気がするな」
「そうなのね」
「その状態でいきなりステッキを持たされてもな……」
ジンライが首をすくめる。
「でも、だからといってパンチは驚いたわよ」
「相手の意表を突けたから良いだろう」
「結果オーライって感じだったけどね……」
「あのキョウヤという奴が言っていただろう。魔力を拳に付与させてどうたらと」
「どうたらって」
「なんとなくではあるが、コツは掴めたような気がする。恐らく初歩中の初歩ではあるだろうがな。今後はもっと上手くやれるはずだ」
ジンライは拳を軽く握る。
「また奴と戦うときはパンチをお見舞いするの?」
「流石に同じ手は通用せんだろう。ステッキを上手く使っていくということだ」
「ということは練習するの?」
「……あの恥ずかしい恰好にはなるべくなりたくない……」
「結構似合っていたわよ。ねえ、ドッポ?」
「エエ、トテモヨクオニアイデシタ」
「ほら、賛同者がいるわよ」
舞がいたずらっぽく笑う。
「……やめろ」
「脚、結構キレイよね」
「やめろと言っている……」
「はいはい、冗談よ」
舞がわざとらしく両手を広げる。ジンライが憮然とした表情で腕を組む。
「ったく……」
「それにしても魔界、異世界と得体の知れない連中まで絡んでくるとはね……あくまで噂レベルだと楽観視していたわ……」
「……奴らの侵攻の様子はどうだ?」
ジンライの問いかけにドッポは僅かに間を空けて答える。
「……スウカショデカクニンデキマシタガ、アクマデテイサツダンカイノモヨウデス。カクチノジモトヒーローノカツヤクデヒトマズハゲキタイサレタヨウデス」
「そうか」
「十六夜さんは夕張に留まるって言っていたけど……」
「夕張から異世界に召喚されたというのなら、あの場所が異世界と繋がりやすいポイントなのではないか? 非科学的な話ではあるが……」
「一人で大丈夫かしら?」
「謙遜していたがそれなりに腕はたつ。さほど心配は要らんだろう。それに……」
「それに?」
「新誠組だったか? 仲間がいるという話だっただろう」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたわね」
「その仲間たちと合流すれば、そうそう負けはしないはずだ。悪いが、こちらも一か所に留まっている時間的余裕はない」
「それもそうね……」
「全く、罪作りだな、NSPという存在は」
「ええっと、世界征服を目論む悪の秘密結社『レポルー』、多次元犯罪組織『ミルアム』、怪獣を操ることが出来る秘密教団『ファーリ』、人類から土地を取り戻そうとしている『ソウダイ奪還同盟』、タイムワープをして犯罪行為を働く時空賊『ラケーシュ』、そして、魔界の『シンクオーレ連合』……次から次へと、厄介な連中が湧いてくるわね」
「それに加えて……」
「え?」
「いや、なんでもない……」
ジンライは静かに首を振る。
「なんでもないってことはないでしょ」
「気にしなくていい」
「気になるでしょ、そんな言い方されちゃ……って、ちょっと?」
「なんだ? トイレか?」
「違うわよ。函館に帰るんじゃないの?」
「ああ、それだが……少し事情が変わってな」
「事情が変わった?」
舞が怪訝な顔つきになる。
「寄るところがある」
「寄るところ? 時間的余裕は無いって自分で言っていたでしょ?」
「そう時間はかからん」
「どこに行くかくらい教えなさいよ」
「……札幌だ」
「札幌?」
舞が首を傾げる。
「おかしいか?」
「確かに札幌にもNSPが数か所点在しているわ。ただ、危険信号は出ていなかったはずよ」
「分かっている、念の為だ」
「知っていると思うけど、札幌は北海道一の大都市よ。強力な地元ヒーローが何組もいるわ。万が一の事態が起こったとしても、十分対処可能よ」
「理論的にはな」
舞の言葉にジンライは頷く。
「それよりも手薄な函館に早く戻るべきだわ」
「今のところ、大二郎から緊急の連絡は入っていない」
「そうだとしてもよ」
「焦るな……」
「焦りたくもなるわ」
「ここは俺様の判断に従ってくれ」
ジンライがいつになく真剣な眼差しで舞を見つめる。舞は妙に照れ臭くなり、目を逸らす。
「……ま、まあ、勝手についてきたようなものだし、アンタに任せるわ」
「理解を得て嬉しく思う」
車は札幌の街中に入る。舞がモニターを見ながら呟く。
「特に危険信号は出ていないみたいだけどね……」
「ドッポ、左折だ」
「カシコマリマシタ」
「え? 時計台や大通公園の様子を見るんじゃないの?」
「後で時間があったらな」
「い、いや、後でって……」
「よし、ここで停めろ」
停車し、ジンライたちが降りる。舞が腕を組んで首を傾げる。
「ここは……アニメショップが一杯入っているビル?」
「ああ、今日ここで、大ヒットを連発している漫画ユニット、『シーズンズ』のトークショー&サイン会が行われる。ファンとしては絶対に逃せないイベントだ」
「はあっ 」
舞が大声を上げる。
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