【第一部完結】超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ

第2話(3)横に歩くが、心はまっすぐ

「皆落ち着いて! 教室から出ないように!」

 舞が指示を出して、動揺するクラスメイトたちを落ち着かせる。

「な、何故にレポルーがこの学校に……? やつらの目的はNSPじゃなかったのか?」

「……」

 ジンライの問いに舞が無言で顔を逸らす。

「おい、舞、何かを隠しているな?」

「い、いや、べ、別に隠しているわけではないんだけど……」

「歯切れが悪いな! レポルーの連中は既に侵入しているようだ、情報の共有を急がねばならない。知っていることは話せ!」

「えっと……」

 舞は急に遠い目になる。ドッポが呟く。

「マイサン、ムカシバナシデモスルカノヨウナテンションデス……」

「つまらん時間稼ぎはいい。早く言え」

「NSPの石、ジンライも見たわよね……その石の一部を用いて作った石碑がこの学園の中庭にあるのよ……」

「! まさか……」

「恐らくレポルーはその石碑からも結構なエネルギー波を感知したんだわ」

「そうか、つまり……大二郎! 貴様のせいじゃないか!」

 ジンライは呑気に弁当を届けにきたドローンを掴んで上下に大きく揺らす。

「い、一概に僕のせいだと言えるのだろうか  話を聞いてくれないか 」

 ドローンに繋がったマイクから大二郎の弁明が聞こえてくる。

「一応、話は聞いてやるか……」

 ドローンを掴んだまま、ジンライは尋ねる。

「あ、ありがとう……主な理由が二つあってね……」

「二つ?」

「そう、一つは僕もその学園の卒業生、OBなんだ」

「ふむ……」

「卒業生の業績を讃えようというありがたい話を頂いたのだよ……ただ……」

「ただ?」

「石碑を制作する業者さんと学園の間でなんらかのトラブルがあったようで、期日までに完成しないという話になった」

「ほお……」

「完成披露式典まで時間が無いという話だったもので……僕が提案しちゃったのだよ」

「なんと?」

「NSP、売るほどありますから、是非一部使って下さい! って……」

「お前のせいじゃないか……!」

「おじいちゃん……」

「うわあっ、そのドローンはお気に入りの奴だから壊さないでくれ~」

 大二郎の悲痛な声が聞こえてくる。ジンライは冷静さを保ちながら尋ねる。

「主な理由は二つと言っていたな。もう一つの理由はなんだ?」

「え? 単純にリスク分散の為」

「ドッポ」

「ドローンハカイコウサク、カイシシマス……」

「うわあっ! ちょっと待ってくれ!」

「待てないわよ! お陰で関係ない学園の生徒たちも危険な目に遭うのよ!」

 舞も怒り心頭である。大二郎が弁明を続ける。

「そ、そうは言ってもだね、何の考えもなしに分散したわけではないのだよ」

「……どういうことだ?」

「NSPを狙う不届きものが現れても対応することの出来る場所に置いたのさ」

「それってつまり……」

「俺のことだ― 」

「  ええ、ジッチョク、いつの間にか廊下に出ているのよ 」

「甲殻起動!」

 掛け声とともにジッチョクは頭部がカニで、両腕が大きなハサミを持った姿になった。

「こ、これは……」

「この世の悪を挟み込み! 正義の心で切り刻む! 『クラブマン』参上!」

「最近、この道南エリアで頭角を現してきたヒーロー! ジッチョクが正体だったのね」

「そうだ! 頭角を現している! カニだけにな!」

「そういうのはいいから! 恐らくレポルーは中庭の石碑に向かっているわ!」

「分かった! 行くぞ! 『高速横歩き』!」

 クラブマンは廊下を高速で歩いていく。ジンライが呆然と呟く。

「な、なんだ、あれは……」

「地元ヒーローよ」

「地元ヒーローだと?」

「そう、その地域の平和を守る為に日夜働くの」

「……もしかして地域ごとにいるのか?」

「よく分かったわね……日本には数万のヒーローがいると言われているわ」

「そ、そんなにいるのか 」

「ええ、強弱合わせてね」

「大小合わせてじゃないのか? 弱ってなんだ、弱って。必要か、それ?」

「日本は悪の勢力の標的になりやすいからね、ヒーローはいくらいても足りないのよ」

「そういうものなのか……」

「とりあえずジッチョクに任せておけば大丈夫かしらね……」

「……本当にそう思っているか?」

 ジンライの問いに舞は首を振る。

「……悪いけど不安しかないわ」

「だろうな、様子を見に行くぞ」

 ジンライたちも中庭に急ぐ。

「ぐわあっ 」

 ジンライたちが到着すると、倒れ込むクラブマンの姿があった。舞が叫ぶ。

「やられるの早っ 」

「く、くそ、横歩き以外も出来ればこんな奴らに遅れを取らないというのに……」

「それでよく頭角を表せたな……」

「ウーキッキッキ! 大したことないキー!」

 中庭に生えた大木の枝にぶら下がったサルの顔をした怪人が笑う。

「出たわね、レポルーのサイボーグ怪人!」

「そうキー! 怪人猿サルサとは俺のことキー!」

「わざわざ名乗ってくれるとはご丁寧なことだ……」

「なんだお前ら! 俺の邪魔をするつもりか 」

「狙いはNSPだろう……それを渡すわけにはいかん」

 ジンライはパワードスーツを取り出し、着用しようとする。

「ま、待った~!」

 いつの間にかついてきたドローンから大二郎の声がする。ジンライは首を傾げる。

「……なんだ?」

「せっかくだから、ジンライ君も掛け声を決めようよ!」

「そんなものどうでもいいだろう……」

「勝手ながら考えてみたよ!」

「本当に勝手だな!」

「こういうのはどうかな……」

 ドローンがジンライに接近し、小声で囁く。

「まあ、それで製作者である貴様の気が済むなら、なんでも構わん……」

「ありがとう!」

「意外とノリが良いやつよね……」

「……吹けよ、疾風! 轟け、迅雷!」

「!」

「疾風迅雷、参上! 貴様らの邪な野望は俺様が打ち砕く 」

 パワードスーツを着用した疾風迅雷がポーズを取る。

「フン、猫まんまを倒したやつか、だが俺に勝てるかな? 地の利は取ったぞ?」

 怪人が木の枝の上に立って、見下ろして笑う。ジンライは冷静に呟く。

「……大二郎、落とせ」

「了解!」

「何  ウキキ  熱っ 」

 浮上したドローンが怪人に向かい火炎を放射する。面食らった怪人は枝にぶら下がる。

「……舞、揺らせ」

「分かったわ! えい!」

「ウキッ 」

 舞が大木を思いっ切り蹴り、大木が揺れ、怪人が落下する。

「……ドッポ、撒け」

「リョウカイ、ローションヲサンプシマス」

「ウキキッ 」

 着地しようとした怪人だったが、地面に撒かれたローションで足を滑らせ、転倒する。

「『迅雷』モード、起動……喰らえ、『迅雷キック』 」

「ウキ  ……ぐぬっ」

 疾風迅雷の強烈なキックを腹部に喰らった怪人は悶絶しながらのたうち回る。

「爆発するか? 離れた方が良さそうだな……」

「こ、これまでキー……」

「勝手に諦めないで頂戴……」

「  誰だ 」

 中庭に白衣を着た金髪のショートボブにサングラスをかけた小柄な女性が現れる。

「ド、ドクターMAX 」

「私、これ以上の失敗は許されないの……」

「なんだと?」

 ドクターMAXと呼ばれた女は倒れ込む怪人に歩み寄る。

「後が無いのよ、こんな極東の、しかも田舎に飛ばされるなんて……プスっとね」

 女は怪人に注射を刺す。怪人が立ち上がる。

「! ウキキのキー 」

「復活した  ちっ、これからが本番ということか!」

「疾風迅雷! 俺も加勢しよう! ……と言いたいところだが、横歩きしか出来ない俺では役に立ちそうもない……性格はこんなにもまっすぐでひたむきだというのに……」

 威勢良く立ち上がったクラブマンだが情けなさそうに俯く。

「……体の向きをちょっと変えれば、前後にも斜めにも進めるぞ」

「  ほ、本当だ! よし、これなら俺も戦える! ハサミの切れ味を見せてやる!」

「……俺様の邪魔をしないでもらえればそれでいい」

 疾風迅雷とクラブマンが怪人猿サルサと対峙する。

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