【第一部完結】超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ

第2話(1)ちゃぶ台で朝食を

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「ちょっと、そろそろ起きなさいよ!」

「うん……?」

「遅れるわよ!」

「な、なんだというのだ……ん?」

 寝ぼけ眼のジンライが手を伸ばすと、何やら柔らかい感触があった。

「ど、どさくさまぎれにどこを触ってんのよ!」

「どわっ!」

 強烈なビンタを喰らい、ジンライはベッドから落ちて、目が覚めた。

「い、いきなり何をする 」

「それはこっちの台詞よ!」

 顔を赤らめながら舞が叫ぶ。

「本当になんだというのだ……」

「ほら、早く着替えて出かけるわよ!」

「着替える? 何に?」

「制服によ」

「制服?」

「そうよ、今日からアンタは私と同じ学校に通うんだから」

「はあっ  学校 」

「昨日、おじいちゃんからも説明あったでしょ。覚えてないの?」

「そんなこと言っていたような気もするが……」

「着替えたら下りてきなさいよ。まだ朝食を食べる時間くらいならあるから」

 舞は階段を下りていく。ジンライは周囲を見回してため息をこぼす。

「超一流のヴィランが屋根裏部屋暮らしとはな……」

「ゴウニイッテハゴウニシタガエ……」

 ドッポが枕元で呟く。ベッドに座って、ジンライが尋ねる。

「なんだ? この星のことわざか、どういう意味だ?」

「ルールニシタガエクソヤロウ」

「後半部分に悪意を感じたのだが」

「ソレハタブンキノセイデス、ジンライサマ」

「まあいい……これが制服か……サイズが合っているな」

 制服に着替えたジンライがリビングに下りる。

「おはよう、ジンライ君」

「ああ……」

 大二郎の挨拶にジンライはぼんやりと答える。

「着替えたわね。順序が逆だけど、洗面所で顔を洗ってきなさいよ」

「注文が多いな……」

 ジンライはぶつぶつと文句を言いながらも洗面所で顔を洗い、リビングに戻る。

「昨日はよく眠れたかい?」

「屋根裏部屋という極上のスイートルームを提供してくださったからな」

「しょうがないでしょ、客間はほとんど物置みたいになっているし、そこに布団をしくのもね~。それに布団よりベッド派かなと思ったんだから」

 ジンライの皮肉を舞はさらりと受け流す。

「む……」

「まあ朝ご飯でも食べて機嫌を直して頂戴」

 舞がちゃぶ台に朝ご飯を並べる。大二郎が喜ぶ。

「やっぱり舞が担当の日は良いね、人間らしい食事が出来る」

「……おじいちゃんも目玉焼きの作り方くらいはいい加減覚えてね。ゼリー飲料並べて、はいどうぞ、っていうのは料理とは言わないのよ」

「効率は良いのかなって思うのだけど……」

「効率よりも大事なことがこの人間社会にはあるのよ」

「肝に銘じます……」

 大二郎が首を竦める。舞がジンライの手に目を止める。

「ジンライ、アンタ、箸の使い方上手よね。どこで覚えたの?」

「ん? 貴様らの見よう見まねだが……」

「それにしては上手すぎるわ」

「……我が帝国領にも箸はある」

「え、あるの 」

「そんなに驚くことか? そういうことだってあるだろう」

「マイサマ、フシギナグウゼンモアルモノデスネ」

「そ、そうね、ドッポ……」

「生命体の考えることなどどこも大差ないということだ」

 ワイワイとしながら三人と一体は朝食を終えた。

「忘れ物はないかい?」

「ええ、じゃあ、行ってきます」

「二人とも気をつけてね」

 二人とドッポは家を出た。ドッポを肩に乗せて歩きながらジンライはぼやく。

「まさか学校へ行くことになるとは……」

「年齢は私とほぼ同じでしょ? 近所の目もあるし、学校に通った方が自然よ」

「その近所が無いのだが……」

 ジンライは立ち止まって周囲を見回す。疾風宅の周辺には見渡す限り空地が広がっており、建物らしい建物はほとんどない。

「いや、これは……」

「あれか、貴様らだけ終末を免れたのか?」

「違うわよ! 立ち退いてもらったのよ」

「? 何故?」

「安全確保の為よ、NSPという未知のエネルギーを扱うわけだし、色々と危険な実験も行うし……実際、怪人が派手に爆発したしね」

「この空地一帯は居住区だったわけか、それにしてもよく立ち退かせられたな」

「NSPを発見したことで国やら色んなところから多額の助成金が下りたのよ」

「なるほど、金の力にものを言わせたのか」

「言い方! まあ、概ね事実だけど……おかげですっかり金欠状態だけどね……」

 舞が苦笑を浮かべる。

「お前らが別の場所に研究所を構えればもっと費用が安く済んだのではないか?」

「!」

 舞が驚いた顔になる。

「……なんだ、その顔は」

「その発想は無かったわ」

「……馬鹿しかいないのか」

 ジンライはため息をついて歩き出す。

「馬鹿で悪かったわね!」

 舞がジンライを追い抜く。紺色のブレザーとチェック柄のパンツとスカートを着た男女はそれなりの距離を歩き、最寄り駅に着く。電車に乗って窓の外を眺めジンライは呟く。

「……なかなかの規模の集落のようだな」

「集落って! 函館は立派な市よ!」

 電車を降りて、二人はしばらく歩く。

「しかし……いきなり現れた俺様が高校生と言って通用するのか?」

「なんで?」

「学籍というか、そもそも戸籍はどうするのだ?」

「ああ、その辺は大丈夫だと思うわ。結構緩いし、うちの学校」

「大分歩いているが、いつ着くのだ?」

「着いたわよ この橋を渡った先に学校があるわ」

「……これは水堀に囲まれているのか? 変わった形状をしているな……」

「上の方から見ると綺麗な星形の五角形になっているわ」

「五角形?」

「ええ、国立五稜郭学園、元々は城郭で今は私たちが通う学校よ」

「じょ、城郭跡に学校を 」

 舞の言葉にジンライは驚いた。

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