根っからの暗殺者、ファンタジー世界を往く【凍結】

決事

「おーっす。今日も閑古鳥しか客居ねえな」
「ばっか、お前、目ぇ腐ってんのかよ! お前以外にも客いるだろ、今日は」
「比喩だよ比喩」
 扉の上部に取り付けられた錆びだらけのベルが耳障りな音を立てる。
 この村の唯一の酒屋の店主はまだ二十半ばほどの若造だ。なんでも彼の父親がどこかに仕入れに行って数年帰ってこないから仕方なく引き継いだのだとか。微笑ましい限りだ。
「ってかミュオ、もう来るなって来る度に言わなきゃなんねえのかよ」
「なんだ、ツケなら出世払いでどうにかするっつっただろ」
「ちっげーよ!」
 カウンターの椅子を引いてよじ登ると、数少ない他の客から好奇の視線が刺さる刺さる。そんなに珍しいかね。
「だーかーら、お前みたいなちっせえガキンチョがこんな時化た店に入って来んな!」
自分テメエで卑下することはねえよ。ここの果実入り飲料は美味いぜ、自信持てよフル」
「お、おう。ありがとな……って言うと思ったか!」
 ぎゃーすか騒ぎ立てる店主を見て呆れたのか、こちらを見る視線は減った。なんだかんだこの店にも常連は居るので、店主が幼い子どもを無理矢理どうこうするような人間ではないと分かっているからだろう。
 かく言うおれも、この男のお人好しさは嫌いじゃない。エリダとタメを張るくらいお人好しで店の経営が些か不安ではあるが。
「ったくよお。お友達の一人や二人はいねえのか。お前くらい口達者なら口説くのも簡単だろ」
 ガン、とコップをカウンターの上に叩きつけた。その勢いでも一滴すら零さないのは流石であるし、飲み物に不純物が浮いていたことはないので、粗暴な言動に似合わずマメで綺麗好きな男である。
「お前もか」
「あ?」
「今日エリダにもオトモダチがいんのかって」
「あの魔女だって人間だ。養い子に一人もダチがいないじゃ心配なんだろ」
 おれがこの男を嫌いじゃない理由の一つはこれだ。エリダの名前を出しただけですぐに耳が赤くなるのだ。
 初めてそれを指摘した時に、照れ臭そうに、身近な年上の女が好きになっちまうのは当たり前だろうとぶっきらぼうに言った。それ以来揶揄う度、おれのことをただのガキンチョだと侮ったことを後悔しているらしい。
「敢えて言うなら……今のところお前だな」
「何が」
「ダチ」
「……俺が? 誰の」
「ミュオくんの」
「お前の友達?」
「そうだって。そんなに殴られてえのか?」
「いや、お前の拳なんて二度と食らいたくないけど、え、俺ってお前の友達だったのか」
「敢えて言うなら、な」
「ふ、ふうん……寂しいやつだなっ」
 こうやって、嬉しそうに、でもそれを隠そうと何でもないような顔で素っ気なく言うものだから揶揄い甲斐があるのだ。




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