根っからの暗殺者、ファンタジー世界を往く【凍結】
3
何はともあれ、堂々と麓に行けることを喜ぼう。
「……あなた、猿みたいな動きをするわよね。家の周りだけじゃあまり分からなかったけれど。あ、猿って分かるかしら」
「分かるぜ、尻が赤いやつだろう」
「そうよ。でも、そんなことどこで知ったの? この山にはいない筈……」
おっと、藪蛇。
「アー、本だ、本。テキトーに読み漁ったらどっかに書いてあった」
飄々と答えると納得したようだった。勿論嘘だけどな。彼女が本を読むことはないからバレりゃしない。
ひょいひょいと木から木へと渡る様は確かに猿のようかもしれなかった。この体はまだ思うように動かせず、乗り越えることさえ困難な太い木の根が張り巡らされた山を歩き回るのは危険だった。なので、その小柄さを活かして上を行くことにしたのだ。
「男の子だからやんちゃでいいけれど、怪我だけは駄目だからね」
「そんなヘマしねーよ!」
こちとら木から木どころかビルからビルへと飛び回っていたんだ。ただ移動してるだけでコケて擦り傷でも作ったとあっちゃあ今まで殺した奴らに爆笑されちまう。
「そう言えば、わたしがカルムと話している時にいつもどこかに消えちゃうけれど、お友達できたの?」
「ハァ? オトモダチィ? っとと」
危ない危ない。枝から足が滑り落ちてしまいそうになった。信じられない、と目を見張って下を見下ろすと、エリダはこちらのことは歯牙にもかけずずんずん進んでいく。
「おれにオトモダチができたかだって? 何の冗談だよ」
「あら、わたしが変なこと言ったみたいな言い方止めてちょうだい! 普通あなたくらいの年だったら近所の子と遊びまわっているもの、麓に行くようになってからもう三月も経ったんだから、一人や二人友人ができていても可笑しくはないでしょう? 好きな子ができたって報告でもいいけれどね」
「ダチも懸想してる奴もいねーっつーの! 魔女と暮らしてる気味の悪いガキに近づこうなんて阿呆はいねえって。言わなくても分かんだろ」
「ちょっと、わたしの所為にしないでよ! その口の悪さで怯えられちゃったんじゃないの?」
「口調如きにビビり散らすチキンなんて知り合いにすらなりたくないね」
尚も下でぴーぴー何か言ってちゃあいるが、聞こえない聞こえない。
精神年齢が合わないからガキと仲良くなんてできない、わけではない。年食って総白髪になったクソじじいと話が通じないこともあるし、十も年下のメスと意気投合することもある。別に年齢がどうこうではない。
では何故か。それは、おれが律儀にもエリダとの約束を守ろうとしているからだ。彼女はむやみやたらと殺すなと言い含めてきたが、おれ並みのクソガキと顔を合わせて殺さない自信がない。だからこそ、殺意を抱いてしまいそうな輩にわざわざ近づくことを避けているのである。
「──今日も天気がいいじゃない。洗濯物干してから来れば良かったね」
「さあな。お天道様が傾いたらざぁざぁ降ってくるかもしれねーぜ」
「そう? なら良かった」
獣道が途切れた先は、民家の真裏だ。山の住人もわざわざ山に入る人間もいないために、きちんとした道は整備されなかったのだとか。
身体を傾け、エリダの手を引いて家と家の間を通る。抜けたところにある道はこの村で一番広く、数は少ないし頻度も低いものの旅商人が敷物にものを広げて商売をしていることがある。今日もちらほら、五組程が果物や皿、衣服を熱心に売り込んでいた。そのうちの一人は手に芋を持った村人と顔を突き合わせて仕入れの相談をしているようだ。
「じゃあ、いつも通り、先に帰ってもいいけれど、その時はわたしに声をかけてからにしてね。遊んで来るなら、日が斜めに来る頃にはここにいて。良い?」
「オーケーオーケー」
未だ不安そうに俺を見下ろしていたが、ポンとおれの頭に手を置いてから薬たちの入った籠を腕から下げてカルムの店に向かって行った。
さて、おれはおれで用を済ませてこようか。
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「……あなた、猿みたいな動きをするわよね。家の周りだけじゃあまり分からなかったけれど。あ、猿って分かるかしら」
「分かるぜ、尻が赤いやつだろう」
「そうよ。でも、そんなことどこで知ったの? この山にはいない筈……」
おっと、藪蛇。
「アー、本だ、本。テキトーに読み漁ったらどっかに書いてあった」
飄々と答えると納得したようだった。勿論嘘だけどな。彼女が本を読むことはないからバレりゃしない。
ひょいひょいと木から木へと渡る様は確かに猿のようかもしれなかった。この体はまだ思うように動かせず、乗り越えることさえ困難な太い木の根が張り巡らされた山を歩き回るのは危険だった。なので、その小柄さを活かして上を行くことにしたのだ。
「男の子だからやんちゃでいいけれど、怪我だけは駄目だからね」
「そんなヘマしねーよ!」
こちとら木から木どころかビルからビルへと飛び回っていたんだ。ただ移動してるだけでコケて擦り傷でも作ったとあっちゃあ今まで殺した奴らに爆笑されちまう。
「そう言えば、わたしがカルムと話している時にいつもどこかに消えちゃうけれど、お友達できたの?」
「ハァ? オトモダチィ? っとと」
危ない危ない。枝から足が滑り落ちてしまいそうになった。信じられない、と目を見張って下を見下ろすと、エリダはこちらのことは歯牙にもかけずずんずん進んでいく。
「おれにオトモダチができたかだって? 何の冗談だよ」
「あら、わたしが変なこと言ったみたいな言い方止めてちょうだい! 普通あなたくらいの年だったら近所の子と遊びまわっているもの、麓に行くようになってからもう三月も経ったんだから、一人や二人友人ができていても可笑しくはないでしょう? 好きな子ができたって報告でもいいけれどね」
「ダチも懸想してる奴もいねーっつーの! 魔女と暮らしてる気味の悪いガキに近づこうなんて阿呆はいねえって。言わなくても分かんだろ」
「ちょっと、わたしの所為にしないでよ! その口の悪さで怯えられちゃったんじゃないの?」
「口調如きにビビり散らすチキンなんて知り合いにすらなりたくないね」
尚も下でぴーぴー何か言ってちゃあいるが、聞こえない聞こえない。
精神年齢が合わないからガキと仲良くなんてできない、わけではない。年食って総白髪になったクソじじいと話が通じないこともあるし、十も年下のメスと意気投合することもある。別に年齢がどうこうではない。
では何故か。それは、おれが律儀にもエリダとの約束を守ろうとしているからだ。彼女はむやみやたらと殺すなと言い含めてきたが、おれ並みのクソガキと顔を合わせて殺さない自信がない。だからこそ、殺意を抱いてしまいそうな輩にわざわざ近づくことを避けているのである。
「──今日も天気がいいじゃない。洗濯物干してから来れば良かったね」
「さあな。お天道様が傾いたらざぁざぁ降ってくるかもしれねーぜ」
「そう? なら良かった」
獣道が途切れた先は、民家の真裏だ。山の住人もわざわざ山に入る人間もいないために、きちんとした道は整備されなかったのだとか。
身体を傾け、エリダの手を引いて家と家の間を通る。抜けたところにある道はこの村で一番広く、数は少ないし頻度も低いものの旅商人が敷物にものを広げて商売をしていることがある。今日もちらほら、五組程が果物や皿、衣服を熱心に売り込んでいた。そのうちの一人は手に芋を持った村人と顔を突き合わせて仕入れの相談をしているようだ。
「じゃあ、いつも通り、先に帰ってもいいけれど、その時はわたしに声をかけてからにしてね。遊んで来るなら、日が斜めに来る頃にはここにいて。良い?」
「オーケーオーケー」
未だ不安そうに俺を見下ろしていたが、ポンとおれの頭に手を置いてから薬たちの入った籠を腕から下げてカルムの店に向かって行った。
さて、おれはおれで用を済ませてこようか。
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