女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
尾行
オレがつくった朝食を、リコもいっしょに食べることになった。今日は味噌汁とご飯に、サーモンとアボガドの和え物だった。「朝からサーモンなんて贅沢ね」とリコが言ってきた。「アイドルに変なもの食べさせるわけにはいかないからな」と返しておいた。
オレの作ったものを、ミオンも食べているのだから、料理には手を抜いていない。ミオンはオレの料理をおいしいと言ってくれる。オレみたいなヤツが作った料理を、求めてくれる人がいてくれる。そう思うと、オレだって俄然やる気が出てくるというものだ。
いつもと同じ朝をたどることになる。
ミオンとリコは女性専用車両に、そしてオレは一般車両に乗り込んだ。始発駅なので、確実に座れるのはありがたい。いつもオレが陣取っている端っこの席に腰かけた。
電車が揺れるなか、スマホをイジっていると、リリンのほうから声をかけてきた。声――と言っても、音声ではなくて、『LINE』の画面による文字だ。
『オヌシ。護送車を襲撃しての目覚めはどうじゃった?』
『べつに、どうってことはないよ。ただチョット緊張感の名残みたいなのはあるけどさ』
『オヌシにひとつ、忠告しておかなければならんことがある』
『ん?』
『表情を変えることなく、動揺を表に出すでないぞ』
その言葉だけで、何かただならぬことをリリンが伝えてようとしていると理解できた。心臓がトクンと小さく跳ねた。
『いったいなんだよ? もったいぶるなよ』
『尾行されておる』
『誰に?』
『おそらくは特務課じゃな』
周囲を確認したかったけれど、車内に視線をめぐらせるのは不審な行為とみなされるかもしれない。
オレは何事もないように、スマホ画面に視線を投じていた。
荒ぶる心臓を落ちつかせた。
特務課がオレを殺すというのならば、覚悟はできている。来るなら来い。殺すなら殺せ。ただしオレは警視総監の息子だ。オレの死は、確実に父の気にする世間体に泥を塗りつけることになる。
『もう来たのか』
『なんじゃ、覚悟はしておったか?』
『昨日、あれだけの行動をおこしてるからな。どこからか足がついても変じゃないとは思ってたよ』
『いいや。まだ疑惑の段階じゃろうな。オヌシが憑人だとはまだ、断定されておらんはずじゃ』
『だろうね』
特務課というのは、悪魔を捕まえることを仕事している。悪魔を逃がさないために、わざわざ捕獲前には停電を起こすのだ。それはオレもよく知っている。
オレが憑人だと断定されているならば、たとえばマンションにいるときにでも、停電を起こして襲撃してきているはずなのだ。
泳がされてる――ってことは――。
疑惑の段階だ。
オレに不審な行動がないかどうか、連中は調べに来ているのだ。
『やはりオヌシ、ちょっとは頭が回るようじゃな。ただのアホゥではなさそうじゃ』
『でも、どうして特務課がいるって、わかったんだ?』
『ワシは前に二階堂万桜に憑いておったときに、特務課の顔を見ておるでな。そのときに見かけたヤツがおる。サングラスで顔を隠しておるようじゃが、おそらく特務課で間違いなかろう。ワシが知っているのはひとりじゃが、もしかすると他にも特務課が近くにおるやもしれん』
この悪魔は、スマホのなかに閉じこもっているようで、周囲の状況がよくわかっているようだ。
『教えてくれて、ありがとう。リリンに確認しておきたいことがある』
『なんじゃ』
『チャームの能力は、特務課にどれぐらい知られてるんだ?』
『あるいていど予測はされておるはずじゃが、詳細までは知られていないはずじゃな。どうしてそんなことを確認する?』
『サングラスをしてるってことは、チャームを警戒されているのかもしれない――って思ってさ。この能力は、対象の顔を撮影しなくちゃ効果を発揮しないから』
『いいや。おそらく、そこまでは把握されておらんはずじゃ。ただただワシを警戒して、顔を隠しているだけだと思う』
『なるほど。了解』
それからもうひとつ忠告がある、とリリンの文面はつづいた。
『まだあるのかよ』
と、文字を打ちかえした。
『あのリコとかいう幼馴染。あれは特務課につながっておるのではないか?』
『どうしてそう思うんだ?』
『朝からスマホを確認させろ――なんて変じゃろうが、憑人かと疑っておるのやもしれんぞ』
『バカな。リコは学生だ』
『いいや。特務課というのは、そういう連中を協力者として使うこともある。くれぐれも用心しろ』
『いちおう警戒しておくよ』
リコの父親は警察官だったし、詳しくは知らないが殉職したとも聞いている。特務課と何か関係があったのかはわからない。
リコが特務課に協力しているかもしれない、というのは盲点だった。
特務課がそういう人たちすら利用するというのならば――。
ありうる、か。
未成年まで利用するとは、ホントウに警察官かと疑いたくなるような連中である。親を殉職で亡くした娘を、協力者として仕立て上げたとするならば、許しがたいことだ。オレのなかで小さな怒りが込み上げてきた。
『なぁ。オヌシ』
『他にも何か?』
『スマホを持ち歩いておっては物的証拠になる。言い逃れできん。しかしワシと契約をすれば、いちいちスマホを持ち運ばなくとも良いのじゃぞ?』
『スマホがなくても、チャームの能力を使えるようになる。代わりにオレの肉体の一部を、お前に差し出すんだろ』
『うむ』
『残念ながら今はその気はないよ。でも時が来たら、契約はするつもりだ』
『ホントかえ? オヌシと契約をはたせば、そろそろワシは精気が満ちる。実体として顕現する日も、そう遠くはなさそうじゃ』
『はいはい』
と、軽くあしらって、リリンとの文通をやめた。
どんな形でこの画面を、特務課に覗かれているかもわからない。これまで何人もの憑人を相手にしてきたのならば、スマホで悪魔とヤリトリできることは承知のはずだ。
いつ捕まっても良いし、殺される覚悟もあるけれど、でもタダで捕まってやろうとまでは思っていないのだ。
オレの作ったものを、ミオンも食べているのだから、料理には手を抜いていない。ミオンはオレの料理をおいしいと言ってくれる。オレみたいなヤツが作った料理を、求めてくれる人がいてくれる。そう思うと、オレだって俄然やる気が出てくるというものだ。
いつもと同じ朝をたどることになる。
ミオンとリコは女性専用車両に、そしてオレは一般車両に乗り込んだ。始発駅なので、確実に座れるのはありがたい。いつもオレが陣取っている端っこの席に腰かけた。
電車が揺れるなか、スマホをイジっていると、リリンのほうから声をかけてきた。声――と言っても、音声ではなくて、『LINE』の画面による文字だ。
『オヌシ。護送車を襲撃しての目覚めはどうじゃった?』
『べつに、どうってことはないよ。ただチョット緊張感の名残みたいなのはあるけどさ』
『オヌシにひとつ、忠告しておかなければならんことがある』
『ん?』
『表情を変えることなく、動揺を表に出すでないぞ』
その言葉だけで、何かただならぬことをリリンが伝えてようとしていると理解できた。心臓がトクンと小さく跳ねた。
『いったいなんだよ? もったいぶるなよ』
『尾行されておる』
『誰に?』
『おそらくは特務課じゃな』
周囲を確認したかったけれど、車内に視線をめぐらせるのは不審な行為とみなされるかもしれない。
オレは何事もないように、スマホ画面に視線を投じていた。
荒ぶる心臓を落ちつかせた。
特務課がオレを殺すというのならば、覚悟はできている。来るなら来い。殺すなら殺せ。ただしオレは警視総監の息子だ。オレの死は、確実に父の気にする世間体に泥を塗りつけることになる。
『もう来たのか』
『なんじゃ、覚悟はしておったか?』
『昨日、あれだけの行動をおこしてるからな。どこからか足がついても変じゃないとは思ってたよ』
『いいや。まだ疑惑の段階じゃろうな。オヌシが憑人だとはまだ、断定されておらんはずじゃ』
『だろうね』
特務課というのは、悪魔を捕まえることを仕事している。悪魔を逃がさないために、わざわざ捕獲前には停電を起こすのだ。それはオレもよく知っている。
オレが憑人だと断定されているならば、たとえばマンションにいるときにでも、停電を起こして襲撃してきているはずなのだ。
泳がされてる――ってことは――。
疑惑の段階だ。
オレに不審な行動がないかどうか、連中は調べに来ているのだ。
『やはりオヌシ、ちょっとは頭が回るようじゃな。ただのアホゥではなさそうじゃ』
『でも、どうして特務課がいるって、わかったんだ?』
『ワシは前に二階堂万桜に憑いておったときに、特務課の顔を見ておるでな。そのときに見かけたヤツがおる。サングラスで顔を隠しておるようじゃが、おそらく特務課で間違いなかろう。ワシが知っているのはひとりじゃが、もしかすると他にも特務課が近くにおるやもしれん』
この悪魔は、スマホのなかに閉じこもっているようで、周囲の状況がよくわかっているようだ。
『教えてくれて、ありがとう。リリンに確認しておきたいことがある』
『なんじゃ』
『チャームの能力は、特務課にどれぐらい知られてるんだ?』
『あるいていど予測はされておるはずじゃが、詳細までは知られていないはずじゃな。どうしてそんなことを確認する?』
『サングラスをしてるってことは、チャームを警戒されているのかもしれない――って思ってさ。この能力は、対象の顔を撮影しなくちゃ効果を発揮しないから』
『いいや。おそらく、そこまでは把握されておらんはずじゃ。ただただワシを警戒して、顔を隠しているだけだと思う』
『なるほど。了解』
それからもうひとつ忠告がある、とリリンの文面はつづいた。
『まだあるのかよ』
と、文字を打ちかえした。
『あのリコとかいう幼馴染。あれは特務課につながっておるのではないか?』
『どうしてそう思うんだ?』
『朝からスマホを確認させろ――なんて変じゃろうが、憑人かと疑っておるのやもしれんぞ』
『バカな。リコは学生だ』
『いいや。特務課というのは、そういう連中を協力者として使うこともある。くれぐれも用心しろ』
『いちおう警戒しておくよ』
リコの父親は警察官だったし、詳しくは知らないが殉職したとも聞いている。特務課と何か関係があったのかはわからない。
リコが特務課に協力しているかもしれない、というのは盲点だった。
特務課がそういう人たちすら利用するというのならば――。
ありうる、か。
未成年まで利用するとは、ホントウに警察官かと疑いたくなるような連中である。親を殉職で亡くした娘を、協力者として仕立て上げたとするならば、許しがたいことだ。オレのなかで小さな怒りが込み上げてきた。
『なぁ。オヌシ』
『他にも何か?』
『スマホを持ち歩いておっては物的証拠になる。言い逃れできん。しかしワシと契約をすれば、いちいちスマホを持ち運ばなくとも良いのじゃぞ?』
『スマホがなくても、チャームの能力を使えるようになる。代わりにオレの肉体の一部を、お前に差し出すんだろ』
『うむ』
『残念ながら今はその気はないよ。でも時が来たら、契約はするつもりだ』
『ホントかえ? オヌシと契約をはたせば、そろそろワシは精気が満ちる。実体として顕現する日も、そう遠くはなさそうじゃ』
『はいはい』
と、軽くあしらって、リリンとの文通をやめた。
どんな形でこの画面を、特務課に覗かれているかもわからない。これまで何人もの憑人を相手にしてきたのならば、スマホで悪魔とヤリトリできることは承知のはずだ。
いつ捕まっても良いし、殺される覚悟もあるけれど、でもタダで捕まってやろうとまでは思っていないのだ。
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