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女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

悪寒(リコ視点)

「やられたわね」 
 と、エマコが肩を落として言った。


 韮山の入った護送車は連れ去られてしまった。


「今からでも、すぐに追いかけましょう。今度は上手くやって見せます」


「いちおうGPSを仕掛けてるし、別働隊に追わせてるから大丈夫よ」


「でも……私が行かなくちゃ……」


 異能をあつかう憑人と戦えるのは、このフラグメントを使える自分だけだ。
 リコはそう思っていた。


「リコちゃんからしてみれば、ほかの捜査官は頼りなく見えるかもしれない。けど、大丈夫。あまりムリをしちゃいけないわ。相手には、あの『No.3414』に憑かれた憑人もいるかもしれない」


「あれは、ヤッパリ?」


 わからないわ、とエマコは頭を振った。


「ハッキリとはわからない。だけどあの仮面は、以前に二階堂万桜がしていたものと同じものだった」


「私も聞いて知ってました。ほかの仮面より、精巧につくられたデスマスクみたいな仮面だって」


 思い出すだけでも、ぞわりと総毛立つ感覚があった。映画「ハロウウィン」に出てくる「ブギーマン」を連想させられるから、かもしれない。


「霧島璧元主任が二階堂万桜と戦ったとき。私もその捜査に参加していた」
 エマコは壊れた遮断機を見つめてそう言った。いや。その目はもっと遠くを見ているようだった。遮断機を見つめているわけじゃない。その戦ったときのことを、思い出しているのだろう。


「たしか二階堂万桜は、ほかの憑人をあやつるような能力を持ってるんでしたよね?」


「たぶん――ね」


「たぶん?」


「『No.3414』を捕まえ損ねたものだから、その能力については判明していないのよ。私の憶測になるからハッキリとは言えないけど、おそらくスマホで撮影した相手を洗脳するような、そういう能力だと思う」


「洗脳――ですか」


「実際に撮影されて、錯乱したような行動をとる捜査官もいたからね。それを思えば被害の出なかった今回は、良かったと言うべきよ。被害どころか、憑人を何人か駆除することも出来たしね」   と、エマコは疲れたように笑って、あたりを見渡した。リコが切り伏せた憑人たちの死体が転がっている。


「ホントウは、あのデスマスクの男も捕まえたかったんですけど」


「《死人面》」
 と、エマコは呟くようにそう言った。


「しびとづら?」


「二階堂万桜のことが判明するまで、使っていた仮名よ。あの不気味なデスマスクから付いた名前」


「次は捕まえます。いえ。駆除します」
 と、リコはそう息巻いた。


 屈辱的だった。
 特務課は、一般人を協力者として使う。憑人の怪異を見つけるためには、それは仕方のないことだ。


 協力者のなかでもリコは特別に、こうやって捜査にくわわることが許されている。リコが、フラグメントという父のチカラを存分にあつかうことが出来るからだ。結果を出せなくては、参加させてもらっている意味がない。


「でも、申し訳ないわね。未成年のリコちゃんに、こんなことをやらせるのは」
 と、エマコは苦笑していた。


「大丈夫ですよ。罪悪感とかありませんから。ホントです」


 どうせこの連中は、犯罪者だ。警察の護送車を襲うような悪党に生きる価値など、ありはしないのだ。


 しかも憑人である。


 野放しにするわけにはいかないし、その特異なチカラは、刑法や裁判でさばくことも出来ない。


 それならいっそのこと憑人や悪魔の存在を世に知らしめて、法整備も整えたほうが良いと思うこともあるのだが、こんな怪異を世界は受け入れはしない。逆に世界を混沌へと陥れかねない。


 公表しようかしまいかという談義は実際、警察や政治家のあいだで、何度もおこなわれているようだ。


(まぁ……)


 法整備がシッカリしていないからこそ、特務課と呼ばれる特殊な組織があって、リコのような人間が協力することも許されているのだ。法整備が進んでいないことがありがたい、と考えるべきか。


「あんまり熱くならないでね。私が言えた義理じゃないんだけど」


「はい」


「おっと、別働隊から連絡が来たわ」
 と、エマコは無線を取っていた。


 護送車はこの近くの有料駐車場で見つかったけれど、韮山の姿がなかったということだ。


「捜査は?」


「いちおう近辺を探してみるけど、見つからないでしょうね。ひとまず打ち切りといったところかしら。とりあえず韮山の手配書を回しておきましょう。顔を見た一般人が知らせてくれるかもしれないから」


 はい、とリコはうなずいた。
 韮山を奪われた落胆はさして大きくはなかった。


《死人面》と、それにチカラを与えている『No.3414』を取り逃がしたという落胆が、イチバン大きかった。


「韮山イオリは、特務課に協力的なんですよね?」


「ええ」


「しかも強力な能力も持ってる。素直に憑人たちの言いなりになるとは思えないんですけど」


「そこは、《死人面》の能力を使うんでしょうね」


「洗脳――ですか」


「洗脳と決まったわけじゃないわよ。それは私の憶測だから。ただ、そういう類の能力である可能性はある」


「そうですか……」
 そこでふと、リコは猛烈な悪寒をおぼえることになった。


(他人を、洗脳する、能力――)


 さいきん身近で不思議なことがあった。灰都山高校にアイドルのNONO――ミオンが転校してきて沸き立っていた。


 積極的な男子生徒たちが我さきにと、ミオンとの交流を深めようと手を伸ばしていた。いや。男子たちだけじゃない。クラスではミオンを取り巻く女子のグループが、すでに形勢されつつある。ミオンは転校してきてすぐさま学園ヒエラルキーの頂点に君臨しようとしている。


(それはまぁ――)
 べつに良い。


 そりゃそうなるだろうという感じである。風紀の乱れがなければ、リコはなんとも思わない。


 ただ。
 そこで気になるのは――。
(カゲロウ)
 あの冴えない幼馴染の存在である。


 誰よりも真っ先にミオンのことを射止めてしまっているのだ。オマケに自分の部屋にまで上げているのだ。不自然でしょうがなかった。ミオンを射止めたのが、クラスでも人気が高いシマコウとかなら、まだわかる。


 しかし、あの内気なカゲロウだ。


 ミオンとの接点があるとは思えなかった。べつに内気だから悪いと言いたいわけじゃない。リコはどちらかというと、シマコウみたいな明るい性格の人よりも、カゲロウみたいに静かな性格の人のほうが好みだ。
 良し悪しではなくて、不自然なのだ。ずっと不思議でしょうがなかった。


(違う。それだけじゃない)


 一度だけ、さらに不自然なことがあった。猫山先輩と狸丘後輩。そのふたりとカゲロウが昼食を取っていた場面に出くわしている。


 猫山先輩は校内でも人気の高い3年生だし、狸丘後輩も上級生たちから一目置かれているほどの容姿をしている。どんな関係からその3人が、いっしょに食事をしていたのか、いまだに釈然としていない。


「どうかした?」
 と、エマコに問いかけられて、リコはその沈思から釣り上げられることになった。


「ああ。いえ……。ただチョット気になる人がいまして……」


「気になる、って?」


「《死人面》の容疑者。ああ。いえ。容疑ってほどじゃないんですけど、疑惑がある人物と言いますか。いえ。疑惑とも言えない、引っかかりなんで、私の思いすごしかもしれないんですけど」


「ホントに? リコちゃんの近くに、そういう人がいるの?」


「ええ。ただ、あまり信じたくはないと言うか……」


 どうしてもリコの言葉はよどむ。


「誰?」
 と、エマコは恐るおそるといった調子で尋ねてきた。


「私の幼馴染です。それから警視総監のひとり息子でもあります」


 口に出してみると、ますますその疑惑がリコのなかで濃厚なものとなっていった。


 盲点だった。
 自分の近くには、そんな人間はいないだろうと決めつけていた。


 あの――。
《死人面》の風体。


 さっき見たときには白いフードに白い仮面をかぶっていた。人相はわからない。


 でも体格が――似ている。


 リコの想像のなかで、《死人面》にカゲロウの姿を重ねてみると、悲しくなるほど一致してしまうのである。

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