女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
遺志(リコ視点)
父親のことを、リコはあまりおぼえていない。
忘れてしまうほどに年数が経ったわけじゃない。小さかったから記憶が薄れているということでもない。
父はあまり家に帰って来なかった。思い出が少ないのだ。いつも仕事仕事だった。寂しかった。けれど、それを不服に思ったことはない。父親が正義の警察官というのは誇らしいことだった。
ごくまれに、家に帰って来ることもあった。家にいるときは、いっしょに買い物に行ったり、公園に連れて行ってもらったりもした。父はあまり笑うことはなく、仏頂面だった。けど、母やリコに向けられる感情はやわらかくて、温かいものだった。幸せな一幕だった。ずっとつづけば良いと思っていた。
殉職――。
そう聞かされたときは、あまり実感がなかった。人が死ぬという意味が理解できていなかった。骨を焼いても、まだ良くわからなかった。家に仏壇が飾られて、日常が失われてしまったことを実感したとき、はじめて父の死を理解した。
そして、泣いた。
殉職の理由はエマコから聞いていた。憑人。悪魔。悲しみと同じだけの憎しみが、同時にリコのなかに噴出した。なんだその意味のわからない存在は。許せない。駆除してやる。リコはそう誓ったのだ。
父を殺した悪魔と憑人を駆除する。そして父のやろうとしていた仕事を継ぐ。
ふたつの意味で、リコにとって警察官――いや、公安警察特務課が夢になった。
「あれ、オカシイわね。故障かしら」
エマコが言った。
「どうかしましたか?」
「ETCの遮断機が上がらないのよ」
遮断機のせいで護送車も、その周りに張っていた車も止まらざるを得ない状況になっていた。瞬間。夜空から何かが落ちてきた。人影――。
「エマコさん! 憑人です!」
察したリコは、シートベルトを外して叫んだ。
白い仮面で顔を隠した者たちが、リコの乗っている車のボンネットにも落ちてきた。酷い振動で車内が揺れた。仮面が車を覗きこんでくる。
即座。
アプリを起動して、フラグメントを展開した。
リコの全身はクロガネの甲冑でおおわれる。頭にはヘルム。手には手甲。胸や腰や脚――と、全身に《特務のカラス》の遺志がやどる。
リコは顕現した剣を手に、助手席から跳びだした。車のボンネットに降り立った憑人に斬りかかった。
憑人は世の常から外れた特異な能力を持っている。その場で殺して良いことになっている。リコにとっては、決まりなど関係はない。憑人を相手にするときのリコの魂は、もう命などかえりみない戦士と化していた。剣先が、憑人の心臓をえぐった。
「イルカ班は憑人の迎撃。クジラ班はリコちゃんの援護。イタチ班は、韮山の護衛をッ」
と、エマコが指示を発した。
「了解!」
と、そろった声がひびいた。
「リコちゃん。チカラ不足ながら援護させてもらいますよ」
クジラ班の班長である世良鯨は、その名の通りというかカラダが大きい。2メートル近くある。肩幅もガッチリしている。カラダの小さなリコからしてみれば、まるで巨人である。
「お願いします」
と、リコは剣を、憑人から引き抜いた。返り血が吹き出した。血がリコをおおっている甲冑に付着した。装甲のおかげでその温度や感触までは伝わって来なかった。
「うおらぁぁッ」
と、リコに向かって殴りかかってくる憑人がいた。
それはクジラが殴り飛ばした。クジラのフラグメントは、メリケンサックだ。コンクリートを粉砕するほどの威力がある。もちろんそれも、悪魔の断片から作られたものだ。クジラに殴られた憑人はガードレールにめり込むように倒れて、もう起き上がることはなかった。
韮山の護送車の上――。
憑人が3人乗っているのが見て取れた。
「せいっ、やッ」
リコは剣を振るう。剣は長く伸びると、鞭のようにしなり、護送車の上乗っていた3人をなで斬りにした。人肉が散る。
「さっすがカラスさんの娘さんだ。フラグメントの扱いは一流だね。本職のオレより格段に上手だ」
と、クジラが言った。
「ありがとうございます」
このフラグメントを扱えるのがリコだけだから、こうやって特務課の捜査に特別にくわえてもらっているのだ。
「ん?」
「どうかしましたか、クジラさん?」
「あそこ……」
と、クジラが正面を指さした。
遮断機の向こう側。白い仮面に白いフードをかぶっている人物。髪すら見えない。性別すらわからない。特別な仮面だった。ほかの憑人がつけているものより、ひときわ精巧につくられた、まるでデスマスクみたいな仮面。
「あれって」
と、リコは、心臓を死神にわしづかみにされたような感覚を受けることになった。
報告で聞いている。霧島璧と相討ちになった二階堂万桜という男。その人物がつけていた仮面だ。
(まさか)
と、リコはひとつの予感を得ることになった。
あの仮面は、憑人たちのリーダー格がつけるものだ。
だとするならば、あの憑人に憑いた悪魔は――。
(『No.3414』なのでは?)
父――霧島璧が追いかけ続けていた悪魔。そして、父の仇。とっ捕まえてやる。父の遺志を今こそ実行するとき。リコのなかに、ひときわ大きな闘志が膨れ上がった。仮面の人物のもとへと疾駆しようとしたがリコは、はたと足を止めた。
その人物が、スマホを構えていたのだ。
「みんな、どこか物陰に隠れてください!」
と、リコは咄嗟にそう叫んだ。
「なに?」
もし――。
もしもあの人物が『No.3414』に憑かれている憑人ならば、その能力は、死んだ二階堂万桜と同じものであるはずだ。
まだハッキリとは判明はしていないけれど、『No.3414』はほかの憑人を操るほどの能力があったと聞いている。
スマホで何かされたら、こちらにもその能力が影響をおよぼすかもしれない。すぐにそこまで理路整然と考えることが出来たわけではないが、リコは本能的にその危機感をいだいたのである。
「リコちゃんの言う通りよ。あのデスマスクのスマホに気を付けて。撮影されたら、自我を保てなくなるかもしれない!」
リコの厭な予感を裏付けるように、エマコがそう叫んだ。エマコの指示を受けて、各々は車の裏手に隠れることになった。
しかしそれが裏目に出た。
みんな車の物陰に隠れることによって、韮山の護送車の警備が手薄になってしまっていたのだ。韮山の護送車が遮断機をぶっ壊して急発進することになった。
護送車を丸ごと奪われてしまった。
忘れてしまうほどに年数が経ったわけじゃない。小さかったから記憶が薄れているということでもない。
父はあまり家に帰って来なかった。思い出が少ないのだ。いつも仕事仕事だった。寂しかった。けれど、それを不服に思ったことはない。父親が正義の警察官というのは誇らしいことだった。
ごくまれに、家に帰って来ることもあった。家にいるときは、いっしょに買い物に行ったり、公園に連れて行ってもらったりもした。父はあまり笑うことはなく、仏頂面だった。けど、母やリコに向けられる感情はやわらかくて、温かいものだった。幸せな一幕だった。ずっとつづけば良いと思っていた。
殉職――。
そう聞かされたときは、あまり実感がなかった。人が死ぬという意味が理解できていなかった。骨を焼いても、まだ良くわからなかった。家に仏壇が飾られて、日常が失われてしまったことを実感したとき、はじめて父の死を理解した。
そして、泣いた。
殉職の理由はエマコから聞いていた。憑人。悪魔。悲しみと同じだけの憎しみが、同時にリコのなかに噴出した。なんだその意味のわからない存在は。許せない。駆除してやる。リコはそう誓ったのだ。
父を殺した悪魔と憑人を駆除する。そして父のやろうとしていた仕事を継ぐ。
ふたつの意味で、リコにとって警察官――いや、公安警察特務課が夢になった。
「あれ、オカシイわね。故障かしら」
エマコが言った。
「どうかしましたか?」
「ETCの遮断機が上がらないのよ」
遮断機のせいで護送車も、その周りに張っていた車も止まらざるを得ない状況になっていた。瞬間。夜空から何かが落ちてきた。人影――。
「エマコさん! 憑人です!」
察したリコは、シートベルトを外して叫んだ。
白い仮面で顔を隠した者たちが、リコの乗っている車のボンネットにも落ちてきた。酷い振動で車内が揺れた。仮面が車を覗きこんでくる。
即座。
アプリを起動して、フラグメントを展開した。
リコの全身はクロガネの甲冑でおおわれる。頭にはヘルム。手には手甲。胸や腰や脚――と、全身に《特務のカラス》の遺志がやどる。
リコは顕現した剣を手に、助手席から跳びだした。車のボンネットに降り立った憑人に斬りかかった。
憑人は世の常から外れた特異な能力を持っている。その場で殺して良いことになっている。リコにとっては、決まりなど関係はない。憑人を相手にするときのリコの魂は、もう命などかえりみない戦士と化していた。剣先が、憑人の心臓をえぐった。
「イルカ班は憑人の迎撃。クジラ班はリコちゃんの援護。イタチ班は、韮山の護衛をッ」
と、エマコが指示を発した。
「了解!」
と、そろった声がひびいた。
「リコちゃん。チカラ不足ながら援護させてもらいますよ」
クジラ班の班長である世良鯨は、その名の通りというかカラダが大きい。2メートル近くある。肩幅もガッチリしている。カラダの小さなリコからしてみれば、まるで巨人である。
「お願いします」
と、リコは剣を、憑人から引き抜いた。返り血が吹き出した。血がリコをおおっている甲冑に付着した。装甲のおかげでその温度や感触までは伝わって来なかった。
「うおらぁぁッ」
と、リコに向かって殴りかかってくる憑人がいた。
それはクジラが殴り飛ばした。クジラのフラグメントは、メリケンサックだ。コンクリートを粉砕するほどの威力がある。もちろんそれも、悪魔の断片から作られたものだ。クジラに殴られた憑人はガードレールにめり込むように倒れて、もう起き上がることはなかった。
韮山の護送車の上――。
憑人が3人乗っているのが見て取れた。
「せいっ、やッ」
リコは剣を振るう。剣は長く伸びると、鞭のようにしなり、護送車の上乗っていた3人をなで斬りにした。人肉が散る。
「さっすがカラスさんの娘さんだ。フラグメントの扱いは一流だね。本職のオレより格段に上手だ」
と、クジラが言った。
「ありがとうございます」
このフラグメントを扱えるのがリコだけだから、こうやって特務課の捜査に特別にくわえてもらっているのだ。
「ん?」
「どうかしましたか、クジラさん?」
「あそこ……」
と、クジラが正面を指さした。
遮断機の向こう側。白い仮面に白いフードをかぶっている人物。髪すら見えない。性別すらわからない。特別な仮面だった。ほかの憑人がつけているものより、ひときわ精巧につくられた、まるでデスマスクみたいな仮面。
「あれって」
と、リコは、心臓を死神にわしづかみにされたような感覚を受けることになった。
報告で聞いている。霧島璧と相討ちになった二階堂万桜という男。その人物がつけていた仮面だ。
(まさか)
と、リコはひとつの予感を得ることになった。
あの仮面は、憑人たちのリーダー格がつけるものだ。
だとするならば、あの憑人に憑いた悪魔は――。
(『No.3414』なのでは?)
父――霧島璧が追いかけ続けていた悪魔。そして、父の仇。とっ捕まえてやる。父の遺志を今こそ実行するとき。リコのなかに、ひときわ大きな闘志が膨れ上がった。仮面の人物のもとへと疾駆しようとしたがリコは、はたと足を止めた。
その人物が、スマホを構えていたのだ。
「みんな、どこか物陰に隠れてください!」
と、リコは咄嗟にそう叫んだ。
「なに?」
もし――。
もしもあの人物が『No.3414』に憑かれている憑人ならば、その能力は、死んだ二階堂万桜と同じものであるはずだ。
まだハッキリとは判明はしていないけれど、『No.3414』はほかの憑人を操るほどの能力があったと聞いている。
スマホで何かされたら、こちらにもその能力が影響をおよぼすかもしれない。すぐにそこまで理路整然と考えることが出来たわけではないが、リコは本能的にその危機感をいだいたのである。
「リコちゃんの言う通りよ。あのデスマスクのスマホに気を付けて。撮影されたら、自我を保てなくなるかもしれない!」
リコの厭な予感を裏付けるように、エマコがそう叫んだ。エマコの指示を受けて、各々は車の裏手に隠れることになった。
しかしそれが裏目に出た。
みんな車の物陰に隠れることによって、韮山の護送車の警備が手薄になってしまっていたのだ。韮山の護送車が遮断機をぶっ壊して急発進することになった。
護送車を丸ごと奪われてしまった。
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