女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
魔王の器
リリンは前に、二階堂万桜という男に憑いていた。二階堂万桜が特務課に殺されたから、リリンは別の人間に憑くことにした。
それが――オレ。
理解は出来た。だが、納得はできない。
ヒューッ
と、カチューシャさんの細長い脚が、風を切って飛んできた。オレは屈んで、それを躱した。どういうわけかリングの上にて、キックボクシングの相手をさせられている。
「そうよ。いい感じよ。カラダを鍛えておくに越したことはないんだから。特務課から目をつけられたら、チョットは戦えるようにしなくちゃね」
「はぁ……はぁ……。オレ運動とか、苦手、なんですけど……」
小学生のころから、カラダを動かすのが苦手だった。運動場で遊ぶ意味がわからなかった。
体育だって苦手だった。マラソンなんて必ず病欠していた。自分がどうしてそんな捻くれた人間に育ったのかはわからないが、英才教育の弊害なんじゃないかと自分では思ってる。
しかし今、その価値観がひっくり返った。
警察に襲われたときに対処できるように、カラダを動かしておくべきだった。もしも過去に戻ることが出来るなら、幼き自分に注意してやりたい。お前はいずれ警察に追いかけられる身になるから、今の内に運動しておけ――と。
「弱音はダメよ。ボーイはいずれ魔王になる男なんだから」
「ンなこと言われても……」
ヒュ。
風を切って、また足が飛んできた。今度は上手く避けきれずに、脇腹にもらうことになった。
「ぐへぇ」
と、オレはその場に倒れこんだ。
「二階堂万桜はもっと強い男だったんだけどね」 と、カチューシャさんはあきれたように言う。
「オレはその二階堂万桜って男じゃないですし」
そもそも強い男ならば、悪魔になんかに憑かれることはないのだ。弱いから、付けいれられたのだ。オレにだってそれぐらい自覚はある。
「でもまだ、ボーイは若いんだし、これから強くなれば良いだけの話よ」
ほら立って、と手を差し出してきた。
その手をかりて立ち上がる。
「って言うか、そもそも魔王になるつもりもないんですけど」
「じゃあ、どうしたいの?」
「オレはただ、チャームを適度に使って、それなりに平々凡々と生きてゆければ、それで良いですよ」
「チャームを使っている時点で、平々凡々ではないでしょ」
「それはそうですけど」
「いずれにせよ、チャームを使っていくうちに、特務課に目をつけられることになるわ。さっきも言ったけど、セッカクの能力も、特務課がいては、自由に使うことが出来ないのよ」
「理屈は、わかるんですけどね」
「二階堂万桜は、憑人たちをまとめて、組織化しようとしていたわ。この喫茶店もその一環として造られたものよ」
「オレにはその人の代わりはムリですよ」
「はぁい、リリン、いるんでしょ」
と、カチューシャさんが声を張り上げた。
「なんじゃ。そんなでかい声を出さんでも聞こえておるわ」
と、パイプイスの上に置いてあったオレのスマホから、リリンがそう返答した。
「どうしてこのボーイに憑いたの? あなたはこのボーイが次なる魔王の器だと見込んだんじゃないの?」
オレへの見込みのなさからか、カチューシャさんはリリンに話を振ることにしたようだ。
「カゲロウはワシが気に入ったから、憑いたというだけじゃ。憑人を率いる器かどうかは、そっちの都合じゃろうが」
「このボーイのどこを見込んだの?」
「まずひとつは親が警視総監ということじゃな。警視総監の息子ならば、憑人だったとしても、そうそう怪しまれることもない」
「わお。警視総監の息子さんなんだ」
と、カチューシャさんはわざとらしく両手をあげて、あらためてオレのほうを見てきた。
「世界にたいして鬱屈としたものも抱えている。簡単に犯罪者になる心の弱さを持っておる。なにせワシが憑く前から、盗撮なんかやっておったぐらいじゃからな。憑きやすいうえに、バレにくい。こんな良い人材は他におらんじゃろう」
さんざんな言われようである。盗撮をやっていたこともバラされて、赤面をおぼえた。人に胸を張って言えるようなことじゃない。不謹慎にも、カチューシャさんの視力が失われていて良かったと思った。きっと軽蔑するような目を、向けられていたことだろう。
「リリンが憑くからには、魔王の器があると思ったんだけどねぇ」
と、カチューシャさんは、あからさまに落胆した様子だった。
なんだか居たたまれなくなってきた。
「オレ、もう帰りますよ」
と、オレはリングを下りることにした。
「待って。カゲロウボーイ」
「なんですか? オレはクズなんですよ。魔王になんてなれませんよ」
「でも、チャームを使える」
「ええ」
「1週間後。憑人たちにとって大切な日になる」
「大切な日?」
「警察の護送車を襲う」
「……ッ」
言葉をうしなった。
それは、もはやテロだ。
「もっと正確に言うならば、公安特務課の護送車から、ひとりの憑人を救い出す。その作戦には、あなたのチカラが必要になる」
「考えときますよ」
と返したけれど、そんな重犯罪に参加する気はなかった。良いですね、やりましょうーーなんて、乗り気になるヤツがいるわけがない。
オレは逃げるようにその場から立ち去った。
それが――オレ。
理解は出来た。だが、納得はできない。
ヒューッ
と、カチューシャさんの細長い脚が、風を切って飛んできた。オレは屈んで、それを躱した。どういうわけかリングの上にて、キックボクシングの相手をさせられている。
「そうよ。いい感じよ。カラダを鍛えておくに越したことはないんだから。特務課から目をつけられたら、チョットは戦えるようにしなくちゃね」
「はぁ……はぁ……。オレ運動とか、苦手、なんですけど……」
小学生のころから、カラダを動かすのが苦手だった。運動場で遊ぶ意味がわからなかった。
体育だって苦手だった。マラソンなんて必ず病欠していた。自分がどうしてそんな捻くれた人間に育ったのかはわからないが、英才教育の弊害なんじゃないかと自分では思ってる。
しかし今、その価値観がひっくり返った。
警察に襲われたときに対処できるように、カラダを動かしておくべきだった。もしも過去に戻ることが出来るなら、幼き自分に注意してやりたい。お前はいずれ警察に追いかけられる身になるから、今の内に運動しておけ――と。
「弱音はダメよ。ボーイはいずれ魔王になる男なんだから」
「ンなこと言われても……」
ヒュ。
風を切って、また足が飛んできた。今度は上手く避けきれずに、脇腹にもらうことになった。
「ぐへぇ」
と、オレはその場に倒れこんだ。
「二階堂万桜はもっと強い男だったんだけどね」 と、カチューシャさんはあきれたように言う。
「オレはその二階堂万桜って男じゃないですし」
そもそも強い男ならば、悪魔になんかに憑かれることはないのだ。弱いから、付けいれられたのだ。オレにだってそれぐらい自覚はある。
「でもまだ、ボーイは若いんだし、これから強くなれば良いだけの話よ」
ほら立って、と手を差し出してきた。
その手をかりて立ち上がる。
「って言うか、そもそも魔王になるつもりもないんですけど」
「じゃあ、どうしたいの?」
「オレはただ、チャームを適度に使って、それなりに平々凡々と生きてゆければ、それで良いですよ」
「チャームを使っている時点で、平々凡々ではないでしょ」
「それはそうですけど」
「いずれにせよ、チャームを使っていくうちに、特務課に目をつけられることになるわ。さっきも言ったけど、セッカクの能力も、特務課がいては、自由に使うことが出来ないのよ」
「理屈は、わかるんですけどね」
「二階堂万桜は、憑人たちをまとめて、組織化しようとしていたわ。この喫茶店もその一環として造られたものよ」
「オレにはその人の代わりはムリですよ」
「はぁい、リリン、いるんでしょ」
と、カチューシャさんが声を張り上げた。
「なんじゃ。そんなでかい声を出さんでも聞こえておるわ」
と、パイプイスの上に置いてあったオレのスマホから、リリンがそう返答した。
「どうしてこのボーイに憑いたの? あなたはこのボーイが次なる魔王の器だと見込んだんじゃないの?」
オレへの見込みのなさからか、カチューシャさんはリリンに話を振ることにしたようだ。
「カゲロウはワシが気に入ったから、憑いたというだけじゃ。憑人を率いる器かどうかは、そっちの都合じゃろうが」
「このボーイのどこを見込んだの?」
「まずひとつは親が警視総監ということじゃな。警視総監の息子ならば、憑人だったとしても、そうそう怪しまれることもない」
「わお。警視総監の息子さんなんだ」
と、カチューシャさんはわざとらしく両手をあげて、あらためてオレのほうを見てきた。
「世界にたいして鬱屈としたものも抱えている。簡単に犯罪者になる心の弱さを持っておる。なにせワシが憑く前から、盗撮なんかやっておったぐらいじゃからな。憑きやすいうえに、バレにくい。こんな良い人材は他におらんじゃろう」
さんざんな言われようである。盗撮をやっていたこともバラされて、赤面をおぼえた。人に胸を張って言えるようなことじゃない。不謹慎にも、カチューシャさんの視力が失われていて良かったと思った。きっと軽蔑するような目を、向けられていたことだろう。
「リリンが憑くからには、魔王の器があると思ったんだけどねぇ」
と、カチューシャさんは、あからさまに落胆した様子だった。
なんだか居たたまれなくなってきた。
「オレ、もう帰りますよ」
と、オレはリングを下りることにした。
「待って。カゲロウボーイ」
「なんですか? オレはクズなんですよ。魔王になんてなれませんよ」
「でも、チャームを使える」
「ええ」
「1週間後。憑人たちにとって大切な日になる」
「大切な日?」
「警察の護送車を襲う」
「……ッ」
言葉をうしなった。
それは、もはやテロだ。
「もっと正確に言うならば、公安特務課の護送車から、ひとりの憑人を救い出す。その作戦には、あなたのチカラが必要になる」
「考えときますよ」
と返したけれど、そんな重犯罪に参加する気はなかった。良いですね、やりましょうーーなんて、乗り気になるヤツがいるわけがない。
オレは逃げるようにその場から立ち去った。
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