女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
喫茶店
チャームを使わなければ、学校の1日なんてなんのドラマもない。退屈をきわめている。緩やかに時間が過ぎ去ってゆくのを待つだけだ。
1日の締めくくりには、担任のアツシゲが、ホームルームをする。「いまから勉学に励んで、一流の大学に行けば、人生が開けてくる」とか「部活動に励んでいれば、人として大切なものを得ることが出来る」とか、綺麗事をさらにゾウキンで磨き上げたようなセリフを、熱っぽく語るのだ。
さすがに高校生にもなってくると、そういったセリフに感化されることもない。たいはんの生徒たちは居眠りしたり、私語に耽っている。なかには部活動へ行きたそうに尻を浮かせている生徒もいる。真剣に聞いてるのは、リコぐらいなものだろう。
そうこうしているうちにホームルームが終って、おのおのの生徒は部活動へと移行する。オレはそれを傍目に帰路につく。帰路と言っても、今日は家に帰るのではなくて、その前に憑人たちと会わなくてはならない。
校門を抜けると、すぐ目の前にはロータリーがある。この灰都山高校は「高校前」という駅名にもなるほどで、ほとんど駅と同化しているのだ。
駅と高校の敷地が、歩道橋でつながっているぐらいだ。いつもはまっすぐ「灰都山端区行き」の急行に乗るところだが、今日は駅とは逆の道へと足をすすめた。
歩道を歩いていると、すぐに指定されていたファミレスが見えてくる。なんならその看板は、学校からでも見えていたぐらいだ。ファミレスのなかに入る。それなりに人が入っていた。
「何名様でしょうか?」
と、店員に尋ねられた。
待ち合わせをしているのだが、こういう場合はどう応えれば良いんだろうか――とすこし迷った。自慢じゃないが、オレは友達がいない。ファミレスに来る機会もそうそうありはしない。ときおり夕食を取りに来るぐらいだ。その夕食もコンビニとかで買って済ませることのほうが多い。
「1人です」
と、答えることにした。
相手がゼッタイに来るとも限らない。
壁際の席へと案内された。
『ここで合ってるよな?』
人はそれなりに入っていた。カップルと思われる者。騒ぎ立てる学生たち。たぶんオレと同じ帰宅部なんだろう。あとは家族連れ。
オレは憑人という非日常に足を踏み入れているはずだ。なのに、このファミレスの風景はあまりに現実的な景色だった。
なんだか待ち合わせている場所を間違えている気がして、不安になってきた。
リリンに『LINE』でそう尋ねてみた。
『待っていれば良い。向こうから接触してくるはずじゃから』
待っているあいだ、何も注文しないのも変かもしれない。ホットコーヒーを注文することにした。
『なんじゃブラックコーヒーとは、大人ぶりおってからに』
と、リリンが文字を送ってくる。
『オレはコーヒーはブラック派なんだよ。牛乳なんて臭いだけだろ』
小学生のころは給食に牛乳がついてきたが、あれには何か健康的な意味があるのだろうか。癒着かもしれない。
おっ、とオレはコーヒーを飲むのをやめた。
今朝、電車でUSBを渡してきた女性がファミレスに入ってくるところだった。目立つから、すぐにわかった。背が高いし、白銀の髪をしている美人なんて、そうそう見かけない。
はじめからこの席にいることがわかっていたかのように、真っ直ぐオレのもとに歩いてきた。そして席につくことはなく、「はぁい」と呼びかけてきた。
なんだか洋画の一幕みたいだ。その女性が日本人っぽくないから、そう感じるのかもしれない。日本人にしては色素が薄すぎるし、カラダが大きすぎる気もする。相変わらず目元をサングラスで隠しているから、良くわからない。
「あ、どうも」
「来てくれたのね。場所を移すわよ」
「わかりました」
ここに呼び出したのは、そっちなのに場所を移すのかよ、と不服に思った。
コーヒーの代金を支払ってファミレスを出た。
女性は大股で進んでゆく。足が長いから歩くのが速い。オレは小走りで付いて行く必要があった。
「あの――。オレにどんな用事なんですか?」
と、尋ねても、
「ノンノン。ここではまだダメよ」
と、はぐらかされるだけだった。
女性は路地裏へと入って行く。急に世界を照らしていた夕焼けが薄くなった。背の高い建物にはさまれた通路は暗かった。裏路地にはポリバケツが置かれていて、ゴミがあふれ出していた。カラスが突きまわしていた。オレたちが裏路地に入ると、カラスたちは一斉に飛び立った。生魚を10日ぐらい放置していたみたいな臭いがする。女は平然とその路地を進んでゆく。
不意に、オレは足を止めた。
このまま付いて行っても良いんだろうか――という警戒心が首をもたげきたのだ。
酷い臭いのせいかはわからないが、路地に漂っている闇は異様にドロドロしている気がした。一度、踏み込んだら、戻れない気がする。闇が、手招き、しているようだ――。
「どうしたの。ボーイ。こっちよ」
「はい」
と、わずかな逡巡を経て、オレは足を進めることにした。
戻れなくても構わない。戻りたいと思えるような世界は、オレにはないのだ。チャームというチカラを手に入れた瞬間から、オレはもう非現実に足を踏み入れてしまっている。
「ここよ」
と、女性はとある建物の前で足を止めた。
薄汚れた路地裏には似つかわしくない、こじゃれた喫茶店だった。ファンタジーに出てきそうな外観をしている。白い壁面に、木造の柱。ホントウに木造なのかはわからない。そう見せかけているだけかもしれない。板チョコみたいなトビラの上には、「喫茶シルバー・バレット」と書かれていた。そしてトビラ前のA型看板には「一見様お断り」と書かれていた。
中に入る。
チリンチリン。
可愛らしい鈴の音がひびいた。
カウンターテーブルにはいかにも男爵といった男性がいた。シルクハットをかぶって、口もとにはキレイに刈りそろえられた白いヒゲがあった。目だけは小さくて可愛らしい。
「連れてきたわよ。マスター」
と、女性が言う。
「その御方が? まだ子供のようだが」
と、男爵は小さな目を、さらに細めてオレのほうを見てきた。
「ええ。新たな魔王となる御方よ」
と、女性はそう言ったのである。
1日の締めくくりには、担任のアツシゲが、ホームルームをする。「いまから勉学に励んで、一流の大学に行けば、人生が開けてくる」とか「部活動に励んでいれば、人として大切なものを得ることが出来る」とか、綺麗事をさらにゾウキンで磨き上げたようなセリフを、熱っぽく語るのだ。
さすがに高校生にもなってくると、そういったセリフに感化されることもない。たいはんの生徒たちは居眠りしたり、私語に耽っている。なかには部活動へ行きたそうに尻を浮かせている生徒もいる。真剣に聞いてるのは、リコぐらいなものだろう。
そうこうしているうちにホームルームが終って、おのおのの生徒は部活動へと移行する。オレはそれを傍目に帰路につく。帰路と言っても、今日は家に帰るのではなくて、その前に憑人たちと会わなくてはならない。
校門を抜けると、すぐ目の前にはロータリーがある。この灰都山高校は「高校前」という駅名にもなるほどで、ほとんど駅と同化しているのだ。
駅と高校の敷地が、歩道橋でつながっているぐらいだ。いつもはまっすぐ「灰都山端区行き」の急行に乗るところだが、今日は駅とは逆の道へと足をすすめた。
歩道を歩いていると、すぐに指定されていたファミレスが見えてくる。なんならその看板は、学校からでも見えていたぐらいだ。ファミレスのなかに入る。それなりに人が入っていた。
「何名様でしょうか?」
と、店員に尋ねられた。
待ち合わせをしているのだが、こういう場合はどう応えれば良いんだろうか――とすこし迷った。自慢じゃないが、オレは友達がいない。ファミレスに来る機会もそうそうありはしない。ときおり夕食を取りに来るぐらいだ。その夕食もコンビニとかで買って済ませることのほうが多い。
「1人です」
と、答えることにした。
相手がゼッタイに来るとも限らない。
壁際の席へと案内された。
『ここで合ってるよな?』
人はそれなりに入っていた。カップルと思われる者。騒ぎ立てる学生たち。たぶんオレと同じ帰宅部なんだろう。あとは家族連れ。
オレは憑人という非日常に足を踏み入れているはずだ。なのに、このファミレスの風景はあまりに現実的な景色だった。
なんだか待ち合わせている場所を間違えている気がして、不安になってきた。
リリンに『LINE』でそう尋ねてみた。
『待っていれば良い。向こうから接触してくるはずじゃから』
待っているあいだ、何も注文しないのも変かもしれない。ホットコーヒーを注文することにした。
『なんじゃブラックコーヒーとは、大人ぶりおってからに』
と、リリンが文字を送ってくる。
『オレはコーヒーはブラック派なんだよ。牛乳なんて臭いだけだろ』
小学生のころは給食に牛乳がついてきたが、あれには何か健康的な意味があるのだろうか。癒着かもしれない。
おっ、とオレはコーヒーを飲むのをやめた。
今朝、電車でUSBを渡してきた女性がファミレスに入ってくるところだった。目立つから、すぐにわかった。背が高いし、白銀の髪をしている美人なんて、そうそう見かけない。
はじめからこの席にいることがわかっていたかのように、真っ直ぐオレのもとに歩いてきた。そして席につくことはなく、「はぁい」と呼びかけてきた。
なんだか洋画の一幕みたいだ。その女性が日本人っぽくないから、そう感じるのかもしれない。日本人にしては色素が薄すぎるし、カラダが大きすぎる気もする。相変わらず目元をサングラスで隠しているから、良くわからない。
「あ、どうも」
「来てくれたのね。場所を移すわよ」
「わかりました」
ここに呼び出したのは、そっちなのに場所を移すのかよ、と不服に思った。
コーヒーの代金を支払ってファミレスを出た。
女性は大股で進んでゆく。足が長いから歩くのが速い。オレは小走りで付いて行く必要があった。
「あの――。オレにどんな用事なんですか?」
と、尋ねても、
「ノンノン。ここではまだダメよ」
と、はぐらかされるだけだった。
女性は路地裏へと入って行く。急に世界を照らしていた夕焼けが薄くなった。背の高い建物にはさまれた通路は暗かった。裏路地にはポリバケツが置かれていて、ゴミがあふれ出していた。カラスが突きまわしていた。オレたちが裏路地に入ると、カラスたちは一斉に飛び立った。生魚を10日ぐらい放置していたみたいな臭いがする。女は平然とその路地を進んでゆく。
不意に、オレは足を止めた。
このまま付いて行っても良いんだろうか――という警戒心が首をもたげきたのだ。
酷い臭いのせいかはわからないが、路地に漂っている闇は異様にドロドロしている気がした。一度、踏み込んだら、戻れない気がする。闇が、手招き、しているようだ――。
「どうしたの。ボーイ。こっちよ」
「はい」
と、わずかな逡巡を経て、オレは足を進めることにした。
戻れなくても構わない。戻りたいと思えるような世界は、オレにはないのだ。チャームというチカラを手に入れた瞬間から、オレはもう非現実に足を踏み入れてしまっている。
「ここよ」
と、女性はとある建物の前で足を止めた。
薄汚れた路地裏には似つかわしくない、こじゃれた喫茶店だった。ファンタジーに出てきそうな外観をしている。白い壁面に、木造の柱。ホントウに木造なのかはわからない。そう見せかけているだけかもしれない。板チョコみたいなトビラの上には、「喫茶シルバー・バレット」と書かれていた。そしてトビラ前のA型看板には「一見様お断り」と書かれていた。
中に入る。
チリンチリン。
可愛らしい鈴の音がひびいた。
カウンターテーブルにはいかにも男爵といった男性がいた。シルクハットをかぶって、口もとにはキレイに刈りそろえられた白いヒゲがあった。目だけは小さくて可愛らしい。
「連れてきたわよ。マスター」
と、女性が言う。
「その御方が? まだ子供のようだが」
と、男爵は小さな目を、さらに細めてオレのほうを見てきた。
「ええ。新たな魔王となる御方よ」
と、女性はそう言ったのである。
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