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女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

No.3414(リコ視点)

「お疲れさま」
 と、エマコがリコにパックの牛乳を差し出してくれた。


 停電はもう解除されて、マンションは明かりに満ちていた。特務課の隊員たちもすでに、現場を片付けて撤収している。ホールにあったベンチにリコは腰かけていた。


「ありがとうございます」
 と、差し出された牛乳をリコは受け取った。


 ホール1階に付属している売店で買ってくれたものだ。よく冷えていた。その冷たさが、手に伝わってきた。


「牛乳で良かったわよね?」


「牛乳がいいです」


 べつに味は好きではないのだけれど、すこしでもカラダを大きくするためだ――とリコは普段から積極的に牛乳を摂取するようにしていた。


 リコの隣にエマコが座る。エマコの手にはブラックコーヒーがにぎられていた。


 コーヒーは、嫌いだ。
 苦いだけだ、とリコは思う。


 寝れなくなりませんか――とリコは尋ねた。


「いいの。これから色々とやることがあるし。今回捕えた悪魔に関する情報や、あの憑人の男の情報もまとめなくちゃいけないからね」


「お疲れさまです。私も何か手伝えれば良いんですけど」


「充分よ。現場であれだけの活躍をしてくれたんだもの。ホントウはもっと別の人が、霧島璧元主任のフラグメントを使えれば良かったんだけどね」


 そのフラグメントは強力なものだからね、とエマコは缶コーヒーに口をつけて言った。


「いえ。私はむしろ、悪魔退治に参加できたうれしいです」


 まだ正式に警察官になったわけではないので、エマコはリコのことを捜査に参加させることを躊躇っている節があった。


「たしかに特務課は人材不足気味だしね。リコちゃんが手伝ってくれるのは、助かってるんだけどね。まだ学生のリコちゃんに協力させるのは、不健全というか、なんというか……」


「認可はされてるんですよね?」


「いちおうね」
 と、エマコは眉をひそめつつもうなずいた。


 リコはこれまでも実績をあげている。
 特務課は一般人を情報提供者という意味で利用することもあるし、リコが捜査に協力することも認可されているのだ。


 しかしいつ捜査から外されることになるかわからない。
(早く警察官にならなくちゃ)
 という焦りをおぼえる。


「今回の悪魔は、どういうチカラを持っていたんですか?」
 と、リコはそう尋ねた。


「自身をスマホで撮影したときに、ああやって獣になることが出来たようね。肉体強化といったところかしら。これまで3件、肉体がえぐられるような死体があがってるんだけど、今回のヤツの仕業に間違いないわ。でも今回の憑人はすでに覚醒してたから、自発的に能力を発動できるようになっていた」


「みたいですね」


 覚醒。
 憑人と悪魔がなにかしらの契約を交わすことによって、憑人は覚醒状態へと移行する。


 ふつうはどんな憑人もスマホを介して能力を発動させる。「表示した地図の場所に瞬間移動できる」とか「撮影した対象に乗りうつれる」とか……そういった類のものだ。が、覚醒状態になると、スマホを使わなくても能力を使えるようになるようだった。


「残念ながら『No.3414』ではなかったみたいね」


「だと思います。相手が例のあれだったなら、こんなに簡単にはいかないと思いますから」


『No.3414』。
 リコの父親である霧島璧が、ずっと追いかけていた悪魔だ。本名ではない。特務課がつけた仮名だ。もっと正確に言うならば、霧島璧がつけた名前だった。
 能力はハッキリとしていない。人の思考や感情に干渉する悪魔かもしれないとだけわかっている。


「手強かったわ。『No.3414』。その憑人の二階堂万桜という男」
 と、エマコはホールで輝いているシャンデリアを、目を細めて見つめて言った。思い出しているのかもしれない。


 霧島璧は、『No.3414』をあと一歩のところまで追いつめることが出来たのだ。しかし、その『No.3414』が憑いていた二階堂万桜という男の手によって、殺されることになった。


 霧島璧もただでは殺されなかった。憑人であった二階堂万桜を殺している。


 つまり。
 相討ちだったのだ。


 二階堂万桜に憑いていた悪魔――『No.3414』は、インターネットの海へと逃がすことになってしまった。


 今もこの世界のどこかで、人に憑いているはずだ。


「ひとつだけ言えるのは、『No.3414』は、ほかの憑人すら操る能力があるということね。二階堂万桜は、憑人たちを何人も従えるほどの黒幕だった。だから、そのうち頭角を現してくるとは思うけど」


「頭角を現しはじめたら手遅れですよ」


「ええ。わかってる。だから一刻もはやく捕まえておきたいんだけど、ヤッパリ手強いのよね。能力もハッキリとは判明していないし。悪魔を探し出すのは一朝一夕にできることじゃないから」


「そう――ですよね」
 すみません、とリコは謝った。


 まだ正式な特務課でもないのに、手遅れだなんて言う資格は、リコにはないのだ。


「べつに謝ることはないわよ。むしろ謝るのは私たちのほうよ」


「エマコさんがどうして、謝るんですか?」


「霧島璧元主任を守れなかった。今も『No.3414』を捕まえれていない。それに元主任の娘を加担させてる」


「それは……」
 自発的なものだ。
 捜査に協力したいのだ。


 一匹残らず悪魔と、その憑人を駆除するという使命を、リコは抱いていた。霧島璧のフラグメントの適合者が、今のところリコしかいないというのも、父親から『No.3414』を捕まえてくれという遺言である気がしている。


「とりあえず今日はおつかれさまね。また何かあったら連絡するから」


 あ、そうだ――とエマコは思い出したように付け加えた。


「警視総監の息子さんによろしく」

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