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女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

特務課

「公安警察特務課だって? そんなの聞いたこともないぞ」


 いちおう警視総監の息子ということもあって、公安警察の存在は知っている。警察小説なんかでもときおり出てくる。政治的な暴力団体やら、外国からの攻撃など、そういった物事を担当している部署だ。しかし、特務課、という名は聞いたことがない。


「特務課は、ワシらのような悪魔を退治するのを仕事としておってな。表だって行動することはないのでな」


 まぁ、わかりやすく言えば、エクソシストじゃな――と、リリンは言う。


「この停電はその連中が起こしたものなのか?」


「間違いなかろう。連中はスマホに憑く悪魔を、ネットの海に逃がさないように、捜査前にその地域の電波塔を停止するようにしておるからな。おかげで逃げられんようになってしもうたわ」
 と、リリンは、画面に顔を押し付けていた。


 やわらかそうな顔面が、オモチみたいに潰れている。冗談なんだろうか。本気でやってるのだろうか。どう見ても冗談にしか見えない動作なのだが、今はそんな冗談なんか楽しんでいる場合じゃない。


「ってことはつまり、オレのことを調べに来てるってことか」


 とたんに心臓が脈打ちはじめた。緊張で冷や汗が流れ落ちてくる。窓辺に近づいて、外の様子を確認してみた。ここは高層ビルなので、下の様子がわからない。街の明かりが明滅して見えるだけだ。


「可能性としては、ありうるな」
 と、リリンはうなずいた。


 特務課なんてはじめて聞いたが、信じないわけにはいかない。もっと非現実的な存在が、オレのスマホに宿っているのだ。


 捕まるのか?
 チャームというチカラが、どれぐらいの罪になるのか考えたことはある。死刑に相当したとしてもオカシクはない。


 あまつさえ、オレには盗撮という負い目がある。

「予備電源とかがあれば良いのか? たぶんすぐにマンションの予備電源が復旧すると思うんだけど」


「いや。あってもムダじゃ。すべての電力を停止させられておるゆえな。これは事故ではない。意図的に止められておるんじゃ。ヤツらがいるかぎり、電気は使えん」


「まるでマトリックスみたいな話だな」


 壊すか?
 そんな考えが、脳裏をよぎった。


 スマホを破壊してしまえば証拠はあがらない。状況的には限りなく、黒、ということになる。が、しかし物的証拠があがるよりかはマシだろう。
 そんなオレの思考を察したのか、リリンがあわてたように言う。


「まあ、そう焦ることはない。まだワシが見つかったとは思えん。足がつくならチャームからじゃが、しかしまだ誰にもバレてはおらんじゃろう?」


 チャームを獲得してから、いままでの行動を振り返ってみる。チャームを使ったのはミオンと猫山先輩と狸丘後輩の3人だけだ。その3人を相手に使ったさいに、誰かにバレるようなことがあったか? 


 いいや。記憶にあるかぎりはない。


 リコがすこし怪訝に思っていたようだ。そのリコだって、チャームという能力の存在までは嗅ぎつけていない……はずだ。


「バレてはないと思いたいけど、相手は警察だし」


「ほかの悪魔という可能性もある。前にも言うたが、ほかにも悪魔はおるゆえな。これだけのマンションならば、ほかに居てもオカシクはなかろう」


「他に?」


 悪魔が――いるというのか。
 なんだかここ数日のあいだで、いっきに非現実の世界へと足を踏み入れてしまったような感覚があった。


 コンコン
 トビラがノックされた。


オレはリリンとの会話に熱中していたために、酷く驚かされた。もう警察がやって来たのかと思った。そんなはずはない。まだ玄関のセキュリティも作動していないのだ。スマホをすぐに引出に仕舞いこんだ。


「起きてるから、入ってくれ」
 と、言った。
「ゴメン。ちょっといい?」
 入ってきたのはリコだった。


「なんだ。リコか」


「なんだって何よ。もしかしてミオンさんかと思って期待してたわけ?」


「いや、そんなことないけど……」


 期待外れなのではない。むしろ安堵したのだ。警察じゃなくて良かった。


「停電しちゃったみたいね」


「そうみたいだな。たぶんこの部屋だけじゃないから、リコの部屋に戻っても使えないと思うぞ」


「そうじゃなくて、私チョット用事が出来たの」


「用事? こんな時間に?」


「うん」
 ちょっとね、とリコは言葉を濁した。


 リコにしてはハッキリとしない態度に、違和感をおぼえた。問い詰めようとは思わなかった。相手の事情に構っていられるほど、心の余裕がなかったのだ。


「帰るのか?」


「うん。でも用事が終ったら、また戻ってくるから」


「まさか援交とかじゃないだろうな」
 と、オレはそう言った。


 本気で言ったわけじゃない。リコにかぎって、そんな不埒なことはしないだろう。オレの焦った心を落ち着かせるために吐いた軽口だった。


「違うわよ。下品ね」
 と、一蹴された。


「冗談だって。部屋のカードを渡しておくから、帰ってくるときにはそれを開けて戻ってきてくれ」


 このマンションは正面玄関に入るさいにもカードを使うし、自分の部屋に入るときもカードが必要とされるのだ。


「ダメよ。停電なんだから、カードも使えない」


「あ、そっか」


 盲点だった。セキュリティシステムもダウンしているのだ。


「手動でカギを閉めていて大丈夫よ。たぶんすぐには戻って来ないと思うし」


「いちおうカードを渡しておくよ」


「わかった。でも、私がいないからって、ミオンさんに変なことするんじゃないわよ」
 と、オレからカードを受け取ると、リコは部屋を出て行った。

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