女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
白ワイン
「はぁ。ワイン買えなかったなー」
帰宅。
もしかして父さんが帰って来ているかも――なんて思っていたのは、ずっと前のことだ。もう帰ってきても誰もいないことが当たり前になっている。暗い部屋の明かりをつけた。買ってきた食材をアイランドキッチンのテーブルに並べてゆく。
「私は構いません。カゲロウの作った料理は、きっとどんな物でも美味しいはずですから。今朝の出汁巻き卵でわかります」
「ありがとう」
買ってきた食材を、ミオンもいっしょに取り出してくれていた。
ピンポーン。インターフォンが鳴った。珍しい。こんな時間に誰だろうか。ミオンを待たせて、オレは居間についているセキュリティカメラを確認しに行った。
映っているのは、リコだ。
手に何か持っているようだが、それまでは見て取れなかった。
なんだろう。
こんな時間に。
正直、いまはあまりリコに会いたい気分ではなかった。オレがモテていることを、リコは不審がっている。チャームのことが露見してしまうかもしれない。そしてリコの性格からして、ゼッタイにそれを許さないだろう。スマホは破壊されて、オレのことを警察に突き出すぐらいのことはやりそうだ。
だからと言って、居留守を使うわけにはいかない。部屋が隣なのだ。オレがいることはわかっているはずだ。
「はぁ」
ため息を吐いて、玄関のトビラを開けることにした。
「どうした?」
「これ」
リコが抱きかかえていたのは、白ワインだった。かなり大きなボトルのものだ。差し出してくる。
「どうしたんだよ、こんなの」
ずいぶんと高級そうなもので、オレがスーパーで買おうとしていたものとは、ぜんぜん違ったものだった。
「店で買うのはダメだけど、料理に使うんだったら大丈夫だと思って、家にあったものを持ってきたの」
「わざわざ、こんなの?」
「貰い物なんだけど、家にあっても使わないから、セッカクだから使ってもらおうと思って。お父さんが殉職してから、警察のお友達だった人がね、お線香をあげるさいに、いろんなものを持ってきてくれるのよ」
「まぁ、貰って良いんなら、貰っておくけど……。しかし料理に使うのがモッタイナイようなお酒だなぁ。いくらぐらいするんだろ?」
受け取ろうとしたワインを、リコが引っ込めた。
「料理に使わないのなら、あげないわよ。飲むのは18歳になってからなんだから」
「わかってるよ。ちゃんと料理に使うから」
「キッチンまで持って行くわ」
「へ?」
油断していた。リコはオレの脇を通過して、家のなかに上がりこんで来た。
「ちょ、ちょっとッ」
「焦らなくても良いわよ。事情は聞いてるから。ストーカーに困ってるミオンさんのこと、家にあげてるんでしょ。私も何か手伝えると思うから」
「あ、いや、まぁ……」
リコは好意で言ってくれたのだろうが、ハッキリ言って邪魔である。
困った。追い返すわけにもいかない。
玄関のカギを閉めて、オレはリコのあとを追いかけた。
リコとミオンは軽く挨拶をかわしていた。
そしてリコは部屋を見渡して言った。
「ユウゾウさんは、まだ帰って来てないの?」
陽山雄蔵。リコの殉職した父親の上司であり、警視総監。
いちおうオレの父親でもある。
「父さんは帰って来ないよ。もう2、3年近く帰って来てないし」
「なんで?」
と、リコは目を大きく開いていた。
「そりゃオレが中学受験に失敗したからだろ。醜いアヒルの子に幻滅しちゃったんだろうさ」
「そうだったんだ……幼馴染なのに、ぜんぜん知らなかった」
「まあ、しばらく疎遠になってたしな」
「ってことは、カゲロウはいつもどうしてるわけ?」
「ふつうに生活してるよ。公共料金とか携帯料金とか、そういうのは全部父さんが払ってくれてるし」
親の愛情には恵まれなかったけれど、金銭面では恵まれていた。
親の愛情に恵まれていないなんて言うのは贅沢だろうと思う。今はどこも共働きだし、家に親がいないなんて当たり前の時代だ。
世間一般的に見れば、オレは恵まれているのだ。
「ごめんなさい。ぜんぜん気づいてあげられなくて」
と、リコは心底申し訳なさそうな顔をしていた。
なんだか同情されているみたいで厭だった。
「べつに謝ることないだろ。そっちはそっちで大変だったわけだし」
父親を殉職で亡くしている。同情されるべきなのはリコのほうだろうと思う。
「私のほうは大丈夫よ。私のことを気にかけて、よく顔を出してくれる刑事さんがいるの。それに家にはお母さんもいるし」
「もう帰れよ。お母さん心配するだろうから、ワインのお返しはできないけど」
「大丈夫。今日はこっちで泊まるって言ってくるから」
「は? 泊まる?」
「ユウゾウさんが帰って来ないんでしょ。なのに、ミオンさんを家に泊めるつもりなんでしょ。男と女が同じ屋根の下にいるなんて、不健全よ。私がいてあげなくちゃ」
「いや、マジで、大丈夫だから」
と、止めたのだが、リコは一歩もゆずらなかった。
お母さんに言ってくると言い残して、部屋を出て行った。
頑固なのは昔から変わりないようだ。
男と女がひとつ屋根の下にいるよりも、男ひとりと女ふたりが一緒にいるほうが、どちらかというと不健全な気がする。
自分がいれば大丈夫だろうという自信があるのだろう。
「面白い人ですね。リコさんって」
と、ミオンは楽観的に言っていた。
リコが準備をしてくる前に、オレはスマホを隠しておくことにした。父さんの寝室のカギ付きテーブルに仕舞いこんだ。
盗撮のことに関しても、チャームのことに関しても、リコにたいするヤマシサがあったのだ。
帰宅。
もしかして父さんが帰って来ているかも――なんて思っていたのは、ずっと前のことだ。もう帰ってきても誰もいないことが当たり前になっている。暗い部屋の明かりをつけた。買ってきた食材をアイランドキッチンのテーブルに並べてゆく。
「私は構いません。カゲロウの作った料理は、きっとどんな物でも美味しいはずですから。今朝の出汁巻き卵でわかります」
「ありがとう」
買ってきた食材を、ミオンもいっしょに取り出してくれていた。
ピンポーン。インターフォンが鳴った。珍しい。こんな時間に誰だろうか。ミオンを待たせて、オレは居間についているセキュリティカメラを確認しに行った。
映っているのは、リコだ。
手に何か持っているようだが、それまでは見て取れなかった。
なんだろう。
こんな時間に。
正直、いまはあまりリコに会いたい気分ではなかった。オレがモテていることを、リコは不審がっている。チャームのことが露見してしまうかもしれない。そしてリコの性格からして、ゼッタイにそれを許さないだろう。スマホは破壊されて、オレのことを警察に突き出すぐらいのことはやりそうだ。
だからと言って、居留守を使うわけにはいかない。部屋が隣なのだ。オレがいることはわかっているはずだ。
「はぁ」
ため息を吐いて、玄関のトビラを開けることにした。
「どうした?」
「これ」
リコが抱きかかえていたのは、白ワインだった。かなり大きなボトルのものだ。差し出してくる。
「どうしたんだよ、こんなの」
ずいぶんと高級そうなもので、オレがスーパーで買おうとしていたものとは、ぜんぜん違ったものだった。
「店で買うのはダメだけど、料理に使うんだったら大丈夫だと思って、家にあったものを持ってきたの」
「わざわざ、こんなの?」
「貰い物なんだけど、家にあっても使わないから、セッカクだから使ってもらおうと思って。お父さんが殉職してから、警察のお友達だった人がね、お線香をあげるさいに、いろんなものを持ってきてくれるのよ」
「まぁ、貰って良いんなら、貰っておくけど……。しかし料理に使うのがモッタイナイようなお酒だなぁ。いくらぐらいするんだろ?」
受け取ろうとしたワインを、リコが引っ込めた。
「料理に使わないのなら、あげないわよ。飲むのは18歳になってからなんだから」
「わかってるよ。ちゃんと料理に使うから」
「キッチンまで持って行くわ」
「へ?」
油断していた。リコはオレの脇を通過して、家のなかに上がりこんで来た。
「ちょ、ちょっとッ」
「焦らなくても良いわよ。事情は聞いてるから。ストーカーに困ってるミオンさんのこと、家にあげてるんでしょ。私も何か手伝えると思うから」
「あ、いや、まぁ……」
リコは好意で言ってくれたのだろうが、ハッキリ言って邪魔である。
困った。追い返すわけにもいかない。
玄関のカギを閉めて、オレはリコのあとを追いかけた。
リコとミオンは軽く挨拶をかわしていた。
そしてリコは部屋を見渡して言った。
「ユウゾウさんは、まだ帰って来てないの?」
陽山雄蔵。リコの殉職した父親の上司であり、警視総監。
いちおうオレの父親でもある。
「父さんは帰って来ないよ。もう2、3年近く帰って来てないし」
「なんで?」
と、リコは目を大きく開いていた。
「そりゃオレが中学受験に失敗したからだろ。醜いアヒルの子に幻滅しちゃったんだろうさ」
「そうだったんだ……幼馴染なのに、ぜんぜん知らなかった」
「まあ、しばらく疎遠になってたしな」
「ってことは、カゲロウはいつもどうしてるわけ?」
「ふつうに生活してるよ。公共料金とか携帯料金とか、そういうのは全部父さんが払ってくれてるし」
親の愛情には恵まれなかったけれど、金銭面では恵まれていた。
親の愛情に恵まれていないなんて言うのは贅沢だろうと思う。今はどこも共働きだし、家に親がいないなんて当たり前の時代だ。
世間一般的に見れば、オレは恵まれているのだ。
「ごめんなさい。ぜんぜん気づいてあげられなくて」
と、リコは心底申し訳なさそうな顔をしていた。
なんだか同情されているみたいで厭だった。
「べつに謝ることないだろ。そっちはそっちで大変だったわけだし」
父親を殉職で亡くしている。同情されるべきなのはリコのほうだろうと思う。
「私のほうは大丈夫よ。私のことを気にかけて、よく顔を出してくれる刑事さんがいるの。それに家にはお母さんもいるし」
「もう帰れよ。お母さん心配するだろうから、ワインのお返しはできないけど」
「大丈夫。今日はこっちで泊まるって言ってくるから」
「は? 泊まる?」
「ユウゾウさんが帰って来ないんでしょ。なのに、ミオンさんを家に泊めるつもりなんでしょ。男と女が同じ屋根の下にいるなんて、不健全よ。私がいてあげなくちゃ」
「いや、マジで、大丈夫だから」
と、止めたのだが、リコは一歩もゆずらなかった。
お母さんに言ってくると言い残して、部屋を出て行った。
頑固なのは昔から変わりないようだ。
男と女がひとつ屋根の下にいるよりも、男ひとりと女ふたりが一緒にいるほうが、どちらかというと不健全な気がする。
自分がいれば大丈夫だろうという自信があるのだろう。
「面白い人ですね。リコさんって」
と、ミオンは楽観的に言っていた。
リコが準備をしてくる前に、オレはスマホを隠しておくことにした。父さんの寝室のカギ付きテーブルに仕舞いこんだ。
盗撮のことに関しても、チャームのことに関しても、リコにたいするヤマシサがあったのだ。
「現代アクション」の人気作品
-
-
4,122
-
4,980
-
-
977
-
747
-
-
817
-
721
-
-
750
-
1,732
-
-
184
-
181
-
-
183
-
113
-
-
181
-
810
-
-
179
-
157
-
-
149
-
239
コメント