女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
買い物
「すみません。すこし遅くなってしまって。シマコウくんたちが、なかなか帰してくれなくって」 と、ミオンが言った。
ポトフの食材を買うために、スーパーに来ていた。聞いたことのある邦楽のメロディが天愛には流れていた。誰の曲だったかは思い出せなかった。
「いや。大丈夫。そりゃみんな、ミオンさんといっしょにいたいだろうから」
つい今朝がたまで、ミオンがシマコウと話をしている場面を見ると、嫉妬をおぼえていた。今ではそんな心配もなかった。ミオンはチャームのチカラによって、オレに惹かれているのだ。ならば、心変わりをされる心配も要らないということだ。
「私はもっと、カゲロウといっしょにいたいのですけれど」
「ははは」
と、オレは照れ臭さを笑ってごまかした。
チャームのチカラによってミオンの心をとらえている。そうとわかっていても、ミオンの言葉や仕草は、オレに動揺を与えてくれる。オレが女性という生き物に慣れていないせいかもしれない。
「今日もオレの部屋に泊まるつもりをしてるんだろ?」
「はい」
「仕事とかは大丈夫なのか?」
「しばらくは大丈夫です。休日にチョット出る必要がありますけど」
「家に帰らなくても心配されないか? 親御さんとかマネージャーさんとか」
「大丈夫ですよ。両親は実家にいて、こっちには居ませんし、マネージャーさんとは連絡取り合ってますから」
「そっか」
でもまさか、男の家に転がり込んでいるとはマネージャーさんも思っちゃいないだろう。大切なアイドルが、男の家なんかに転がり込んでいたら大問題である。
いずれ週刊誌に取り上げられるんだろうか。そのときは、どんなタイトルで取り上げられるんだろう? オレは今までアイドルとか女優とか、そういうのにマッタク興味がなかった。好きなアイドルがほかの男と付き合ってたりしたら、世間の男たちは怒り心頭ということになる――んだろうか?
そのリスクを考えると、ミオンといっしょにいることにすこし躊躇をおぼえる。チャームという能力を獲得したいま、目立つようなことは出来るだけ避けたかった。
「ポトフの食材を選びましょう。ポトフと言えば、タマネギとジャガイモですよね」
と、そんな不安をかき消すようにミオンが、オレの腕に手をからめてきた。
胸が、当たる。
目立つのが怖いからと言って、チャームを使わないのは損失だ。大丈夫。べつに誰にもバレやしないさ。
そうやってチャームが他人に露見することに怯懦を感じるということはつまり、オレの本能は勘付いているのだ。あれは世間にバレたらマズイ能力だ――と。
「ソーセージはいける?」
「もちろん。ソーセージがダメな人とかいるんですか?」
「アレルギーとかビーガンとかあるし、加工肉がダメだって人もいるからさ」
「大丈夫ですよ。私はそういうアレルギーとかイッサイありませんから。カゲロウの作ったものなら、なんでもいただきます」
「それじゃあバターと白ワインで煮込もうか。あとパセリもいるな」
「おしゃれですね。ワインなんて使うんですか?」
「そのほうが甘くなって美味しい。せっかくリクエストしてもらったんだから、手の込んだ味付けにしたいしさ」
料理ができるのだと言ったからには、コンソメで仕上げるような料理を提供したくはなかった。
必要なものをカートに入れてゆき、最後に白ワインをカゴに入れようとしたときだった。オレの手から、その白ワインを抜き取ってくる者がいた。
「ダメよ。ワインは未成年なんだから」
リコである。
「なんで、ここにいるんだよ」
「良いでしょ。私がここにいちゃマズイわけ?」 と、リコはオレから奪い取ったワインを、陳列棚にもどした。すこし高いところにあるために、リコは背伸びをしていた。
「べつに飲むわけじゃない。料理に使うんだよ。それぐらい良いだろ」
「ダメ。どんな理由があろうとも、未成年がお酒を買っちゃいけないわ」
「ッたく」
と、軽いイラダチをおぼえた。
セッカクの予定が台無しである。
「はじめまして――と言うべきかしらね。いちおうクラスメイトだから顔は知ってると思うけど、霧島リコよ。こいつの幼馴染なの、よろしく」
と、リコはミオンに挨拶していた。挨拶――というか、まるでナワバリに入ってきた猫に威嚇をするかのようだ。
対してミオンは淑やかな笑みを浮かべて返していた。
「はい。承知していますよ。クラスメイトのリコさんですね。私はカゲロウの彼女のミオンです。よろしく」
カゲロウの彼女、という言葉にオレは思わずむせこんでしまった。唾液が気管のほうに入り込んだ。
まだ付き合っているという意識はうすかったのだけれど、ミオンのほうはそのつもりらしかった。まだ身構えていないオレを狼狽させた。
ふぅん、とリコが怪訝そうな表情でオレのことを見てきた。
その目は鋭く、心のなかを穿つような鋭さがある。
「なんだよ」
と、オレは素っ気なく応じる。
「ずいぶんと女遊びが激しいようじゃない。今日のお昼は、猫山先輩と狸丘ちゃんといっしょにいたみたいだけど?」
「あれは、べつに、そういうのじゃない」
と、曖昧に誤魔化した。
「なんか怪しいわね」
と、一歩詰め寄ってくる。
リコは軽く前かがみになって、オレのことを下から訝るように見上げてきた。
距離が、近い。
リコからは甘い匂いが香ってきた。昔はそんな匂いはしなかった。赤ちゃんの粉ミルクみたいな匂いがしてた。いったいいつから、そんな花の蜜みたいな香りがするようになったんだろうか、と小さく驚かされた。
「怪しいってなんだよ。べつにヤマシイことは、なにもしちゃいない」
「そうかしら? あんたがそんなにモテるなんて、ゼッタイにおかしいわ」
と、リコは麻薬捜査犬のように、鼻をクンクンと鳴らしてみせた。
「なんだよその言いぐさは、オレが不細工だとでも言いたいのかよ」
「そうとは言わないけど、あんたモテるようなタイプじゃないじゃない。陰気だし、べつに積極的にナンパとかしにいくようなタイプじゃないし。だいたいミオンさんといったいどこで知り合ったのよ?」
「なんでわざわざ、そんなこと言わなくちゃいけないんだよ」
私が落とした財布を、カゲロウが拾ってくれたんですよ――とミオンがデタラメを吐いた。
そんなことした覚えはない。
オレにたいする助け舟なのだろうと察して、乗っかることにした。
「そうだ。財布を拾った。それから親しくなった。それだけだ」
「ふぅん」
と、それでもまだ納得しかねるといった様子だったが、ミオンは身を引いた。
「もう良いだろ」
「まぁ、悪いことしてないのなら良いけどね。ワインで酔わせて変なことしようとしてるのかと思ったわ」
「変なことってなんだよ」
と、問いかけると、リコは顔を赤くして顔をそむけた。
「悪いことは、悪いことよ」
「なにかスケベなこと考えてるみたいだけど、オレのことをなんだと思ってるんだよ。煮込めばアルコールは飛ぶんだから、酔ったりしないよ」
「す、スケベなことなんて考えてない!」
と、顔を真っ赤にしている。
怒っているというよりも、照れているのだろう。リコのほうもアダルトな話題には免疫がないようだった。オレのほうもリコを動揺させるために、あえて「スケベ」なんて過激な語彙を選んだのだ。
「いったい何しに来たのか知らないけど、オレはもうレジに行くからな」
ワインを買いそびれてしまったが、これ以上はリコのセンサクを避けたかった。店を出るときまで、リコの鋭い目線が背中に突き刺さるような感覚があった。
悪いことしてないのなら良いけどね――というリコの言葉が脳裏で反響していた。
ポトフの食材を買うために、スーパーに来ていた。聞いたことのある邦楽のメロディが天愛には流れていた。誰の曲だったかは思い出せなかった。
「いや。大丈夫。そりゃみんな、ミオンさんといっしょにいたいだろうから」
つい今朝がたまで、ミオンがシマコウと話をしている場面を見ると、嫉妬をおぼえていた。今ではそんな心配もなかった。ミオンはチャームのチカラによって、オレに惹かれているのだ。ならば、心変わりをされる心配も要らないということだ。
「私はもっと、カゲロウといっしょにいたいのですけれど」
「ははは」
と、オレは照れ臭さを笑ってごまかした。
チャームのチカラによってミオンの心をとらえている。そうとわかっていても、ミオンの言葉や仕草は、オレに動揺を与えてくれる。オレが女性という生き物に慣れていないせいかもしれない。
「今日もオレの部屋に泊まるつもりをしてるんだろ?」
「はい」
「仕事とかは大丈夫なのか?」
「しばらくは大丈夫です。休日にチョット出る必要がありますけど」
「家に帰らなくても心配されないか? 親御さんとかマネージャーさんとか」
「大丈夫ですよ。両親は実家にいて、こっちには居ませんし、マネージャーさんとは連絡取り合ってますから」
「そっか」
でもまさか、男の家に転がり込んでいるとはマネージャーさんも思っちゃいないだろう。大切なアイドルが、男の家なんかに転がり込んでいたら大問題である。
いずれ週刊誌に取り上げられるんだろうか。そのときは、どんなタイトルで取り上げられるんだろう? オレは今までアイドルとか女優とか、そういうのにマッタク興味がなかった。好きなアイドルがほかの男と付き合ってたりしたら、世間の男たちは怒り心頭ということになる――んだろうか?
そのリスクを考えると、ミオンといっしょにいることにすこし躊躇をおぼえる。チャームという能力を獲得したいま、目立つようなことは出来るだけ避けたかった。
「ポトフの食材を選びましょう。ポトフと言えば、タマネギとジャガイモですよね」
と、そんな不安をかき消すようにミオンが、オレの腕に手をからめてきた。
胸が、当たる。
目立つのが怖いからと言って、チャームを使わないのは損失だ。大丈夫。べつに誰にもバレやしないさ。
そうやってチャームが他人に露見することに怯懦を感じるということはつまり、オレの本能は勘付いているのだ。あれは世間にバレたらマズイ能力だ――と。
「ソーセージはいける?」
「もちろん。ソーセージがダメな人とかいるんですか?」
「アレルギーとかビーガンとかあるし、加工肉がダメだって人もいるからさ」
「大丈夫ですよ。私はそういうアレルギーとかイッサイありませんから。カゲロウの作ったものなら、なんでもいただきます」
「それじゃあバターと白ワインで煮込もうか。あとパセリもいるな」
「おしゃれですね。ワインなんて使うんですか?」
「そのほうが甘くなって美味しい。せっかくリクエストしてもらったんだから、手の込んだ味付けにしたいしさ」
料理ができるのだと言ったからには、コンソメで仕上げるような料理を提供したくはなかった。
必要なものをカートに入れてゆき、最後に白ワインをカゴに入れようとしたときだった。オレの手から、その白ワインを抜き取ってくる者がいた。
「ダメよ。ワインは未成年なんだから」
リコである。
「なんで、ここにいるんだよ」
「良いでしょ。私がここにいちゃマズイわけ?」 と、リコはオレから奪い取ったワインを、陳列棚にもどした。すこし高いところにあるために、リコは背伸びをしていた。
「べつに飲むわけじゃない。料理に使うんだよ。それぐらい良いだろ」
「ダメ。どんな理由があろうとも、未成年がお酒を買っちゃいけないわ」
「ッたく」
と、軽いイラダチをおぼえた。
セッカクの予定が台無しである。
「はじめまして――と言うべきかしらね。いちおうクラスメイトだから顔は知ってると思うけど、霧島リコよ。こいつの幼馴染なの、よろしく」
と、リコはミオンに挨拶していた。挨拶――というか、まるでナワバリに入ってきた猫に威嚇をするかのようだ。
対してミオンは淑やかな笑みを浮かべて返していた。
「はい。承知していますよ。クラスメイトのリコさんですね。私はカゲロウの彼女のミオンです。よろしく」
カゲロウの彼女、という言葉にオレは思わずむせこんでしまった。唾液が気管のほうに入り込んだ。
まだ付き合っているという意識はうすかったのだけれど、ミオンのほうはそのつもりらしかった。まだ身構えていないオレを狼狽させた。
ふぅん、とリコが怪訝そうな表情でオレのことを見てきた。
その目は鋭く、心のなかを穿つような鋭さがある。
「なんだよ」
と、オレは素っ気なく応じる。
「ずいぶんと女遊びが激しいようじゃない。今日のお昼は、猫山先輩と狸丘ちゃんといっしょにいたみたいだけど?」
「あれは、べつに、そういうのじゃない」
と、曖昧に誤魔化した。
「なんか怪しいわね」
と、一歩詰め寄ってくる。
リコは軽く前かがみになって、オレのことを下から訝るように見上げてきた。
距離が、近い。
リコからは甘い匂いが香ってきた。昔はそんな匂いはしなかった。赤ちゃんの粉ミルクみたいな匂いがしてた。いったいいつから、そんな花の蜜みたいな香りがするようになったんだろうか、と小さく驚かされた。
「怪しいってなんだよ。べつにヤマシイことは、なにもしちゃいない」
「そうかしら? あんたがそんなにモテるなんて、ゼッタイにおかしいわ」
と、リコは麻薬捜査犬のように、鼻をクンクンと鳴らしてみせた。
「なんだよその言いぐさは、オレが不細工だとでも言いたいのかよ」
「そうとは言わないけど、あんたモテるようなタイプじゃないじゃない。陰気だし、べつに積極的にナンパとかしにいくようなタイプじゃないし。だいたいミオンさんといったいどこで知り合ったのよ?」
「なんでわざわざ、そんなこと言わなくちゃいけないんだよ」
私が落とした財布を、カゲロウが拾ってくれたんですよ――とミオンがデタラメを吐いた。
そんなことした覚えはない。
オレにたいする助け舟なのだろうと察して、乗っかることにした。
「そうだ。財布を拾った。それから親しくなった。それだけだ」
「ふぅん」
と、それでもまだ納得しかねるといった様子だったが、ミオンは身を引いた。
「もう良いだろ」
「まぁ、悪いことしてないのなら良いけどね。ワインで酔わせて変なことしようとしてるのかと思ったわ」
「変なことってなんだよ」
と、問いかけると、リコは顔を赤くして顔をそむけた。
「悪いことは、悪いことよ」
「なにかスケベなこと考えてるみたいだけど、オレのことをなんだと思ってるんだよ。煮込めばアルコールは飛ぶんだから、酔ったりしないよ」
「す、スケベなことなんて考えてない!」
と、顔を真っ赤にしている。
怒っているというよりも、照れているのだろう。リコのほうもアダルトな話題には免疫がないようだった。オレのほうもリコを動揺させるために、あえて「スケベ」なんて過激な語彙を選んだのだ。
「いったい何しに来たのか知らないけど、オレはもうレジに行くからな」
ワインを買いそびれてしまったが、これ以上はリコのセンサクを避けたかった。店を出るときまで、リコの鋭い目線が背中に突き刺さるような感覚があった。
悪いことしてないのなら良いけどね――というリコの言葉が脳裏で反響していた。
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