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女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

買い物

「すみません。すこし遅くなってしまって。シマコウくんたちが、なかなか帰してくれなくって」 と、ミオンが言った。


 ポトフの食材を買うために、スーパーに来ていた。聞いたことのある邦楽のメロディが天愛には流れていた。誰の曲だったかは思い出せなかった。


「いや。大丈夫。そりゃみんな、ミオンさんといっしょにいたいだろうから」


 つい今朝がたまで、ミオンがシマコウと話をしている場面を見ると、嫉妬をおぼえていた。今ではそんな心配もなかった。ミオンはチャームのチカラによって、オレに惹かれているのだ。ならば、心変わりをされる心配も要らないということだ。


「私はもっと、カゲロウといっしょにいたいのですけれど」


「ははは」
 と、オレは照れ臭さを笑ってごまかした。


 チャームのチカラによってミオンの心をとらえている。そうとわかっていても、ミオンの言葉や仕草は、オレに動揺を与えてくれる。オレが女性という生き物に慣れていないせいかもしれない。


「今日もオレの部屋に泊まるつもりをしてるんだろ?」


「はい」


「仕事とかは大丈夫なのか?」


「しばらくは大丈夫です。休日にチョット出る必要がありますけど」


「家に帰らなくても心配されないか? 親御さんとかマネージャーさんとか」


「大丈夫ですよ。両親は実家にいて、こっちには居ませんし、マネージャーさんとは連絡取り合ってますから」


「そっか」


 でもまさか、男の家に転がり込んでいるとはマネージャーさんも思っちゃいないだろう。大切なアイドルが、男の家なんかに転がり込んでいたら大問題である。


 いずれ週刊誌に取り上げられるんだろうか。そのときは、どんなタイトルで取り上げられるんだろう? オレは今までアイドルとか女優とか、そういうのにマッタク興味がなかった。好きなアイドルがほかの男と付き合ってたりしたら、世間の男たちは怒り心頭ということになる――んだろうか?


 そのリスクを考えると、ミオンといっしょにいることにすこし躊躇をおぼえる。チャームという能力を獲得したいま、目立つようなことは出来るだけ避けたかった。


「ポトフの食材を選びましょう。ポトフと言えば、タマネギとジャガイモですよね」
 と、そんな不安をかき消すようにミオンが、オレの腕に手をからめてきた。


 胸が、当たる。
 目立つのが怖いからと言って、チャームを使わないのは損失だ。大丈夫。べつに誰にもバレやしないさ。


 そうやってチャームが他人に露見することに怯懦を感じるということはつまり、オレの本能は勘付いているのだ。あれは世間にバレたらマズイ能力だ――と。


「ソーセージはいける?」


「もちろん。ソーセージがダメな人とかいるんですか?」


「アレルギーとかビーガンとかあるし、加工肉がダメだって人もいるからさ」


「大丈夫ですよ。私はそういうアレルギーとかイッサイありませんから。カゲロウの作ったものなら、なんでもいただきます」


「それじゃあバターと白ワインで煮込もうか。あとパセリもいるな」


「おしゃれですね。ワインなんて使うんですか?」


「そのほうが甘くなって美味しい。せっかくリクエストしてもらったんだから、手の込んだ味付けにしたいしさ」


 料理ができるのだと言ったからには、コンソメで仕上げるような料理を提供したくはなかった。


 必要なものをカートに入れてゆき、最後に白ワインをカゴに入れようとしたときだった。オレの手から、その白ワインを抜き取ってくる者がいた。


「ダメよ。ワインは未成年なんだから」


 リコである。


「なんで、ここにいるんだよ」


「良いでしょ。私がここにいちゃマズイわけ?」 と、リコはオレから奪い取ったワインを、陳列棚にもどした。すこし高いところにあるために、リコは背伸びをしていた。


「べつに飲むわけじゃない。料理に使うんだよ。それぐらい良いだろ」


「ダメ。どんな理由があろうとも、未成年がお酒を買っちゃいけないわ」


「ッたく」
 と、軽いイラダチをおぼえた。
 セッカクの予定が台無しである。


「はじめまして――と言うべきかしらね。いちおうクラスメイトだから顔は知ってると思うけど、霧島リコよ。こいつの幼馴染なの、よろしく」
 と、リコはミオンに挨拶していた。挨拶――というか、まるでナワバリに入ってきた猫に威嚇をするかのようだ。


 対してミオンは淑やかな笑みを浮かべて返していた。


「はい。承知していますよ。クラスメイトのリコさんですね。私はカゲロウの彼女のミオンです。よろしく」


 カゲロウの彼女、という言葉にオレは思わずむせこんでしまった。唾液が気管のほうに入り込んだ。


 まだ付き合っているという意識はうすかったのだけれど、ミオンのほうはそのつもりらしかった。まだ身構えていないオレを狼狽させた。

 
 ふぅん、とリコが怪訝そうな表情でオレのことを見てきた。
 その目は鋭く、心のなかを穿つような鋭さがある。


「なんだよ」
 と、オレは素っ気なく応じる。


「ずいぶんと女遊びが激しいようじゃない。今日のお昼は、猫山先輩と狸丘ちゃんといっしょにいたみたいだけど?」


「あれは、べつに、そういうのじゃない」
 と、曖昧に誤魔化した。


「なんか怪しいわね」
 と、一歩詰め寄ってくる。


 リコは軽く前かがみになって、オレのことを下から訝るように見上げてきた。


 距離が、近い。


 リコからは甘い匂いが香ってきた。昔はそんな匂いはしなかった。赤ちゃんの粉ミルクみたいな匂いがしてた。いったいいつから、そんな花の蜜みたいな香りがするようになったんだろうか、と小さく驚かされた。


「怪しいってなんだよ。べつにヤマシイことは、なにもしちゃいない」


「そうかしら? あんたがそんなにモテるなんて、ゼッタイにおかしいわ」
 と、リコは麻薬捜査犬のように、鼻をクンクンと鳴らしてみせた。


「なんだよその言いぐさは、オレが不細工だとでも言いたいのかよ」


「そうとは言わないけど、あんたモテるようなタイプじゃないじゃない。陰気だし、べつに積極的にナンパとかしにいくようなタイプじゃないし。だいたいミオンさんといったいどこで知り合ったのよ?」


「なんでわざわざ、そんなこと言わなくちゃいけないんだよ」


 私が落とした財布を、カゲロウが拾ってくれたんですよ――とミオンがデタラメを吐いた。
 そんなことした覚えはない。
 オレにたいする助け舟なのだろうと察して、乗っかることにした。


「そうだ。財布を拾った。それから親しくなった。それだけだ」


「ふぅん」
 と、それでもまだ納得しかねるといった様子だったが、ミオンは身を引いた。


「もう良いだろ」


「まぁ、悪いことしてないのなら良いけどね。ワインで酔わせて変なことしようとしてるのかと思ったわ」


「変なことってなんだよ」
 と、問いかけると、リコは顔を赤くして顔をそむけた。


「悪いことは、悪いことよ」


「なにかスケベなこと考えてるみたいだけど、オレのことをなんだと思ってるんだよ。煮込めばアルコールは飛ぶんだから、酔ったりしないよ」


「す、スケベなことなんて考えてない!」
 と、顔を真っ赤にしている。


 怒っているというよりも、照れているのだろう。リコのほうもアダルトな話題には免疫がないようだった。オレのほうもリコを動揺させるために、あえて「スケベ」なんて過激な語彙を選んだのだ。


「いったい何しに来たのか知らないけど、オレはもうレジに行くからな」


 ワインを買いそびれてしまったが、これ以上はリコのセンサクを避けたかった。店を出るときまで、リコの鋭い目線が背中に突き刺さるような感覚があった。


 悪いことしてないのなら良いけどね――というリコの言葉が脳裏で反響していた。

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