女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
家
「うわぁ。ひろーいっ」
なんで、こんなことになってしまったのか……と、オレはメマイをおぼえていた。
マンションの最上階。高層ビル。親は滅多に帰って来ないからひとりで住んでると言ったら、部屋を見てみたいと言われた。
アイドルうんぬんじゃなくて、女性を部屋にあげるというのは、いろいろと問題があるようにも思われたのだが、「お願い。見せてよ」と吐息まじりに囁かれたら拒否できなかった。
で。
部屋にあげてしまった。
ミオンを部屋に入れるまえに、軽く掃除はしたのだけれど、あんまり外で待たせるのも悪いかと思って、念入りにはやっていない。ゴミなんかが部屋に落ちてないかと気が気でなかった。
「すごいですね。カゲロウの御両親ってどんな仕事をしてらっしゃるのですか?」
と、ミオンは居間のなかをクルクルとまわって、そしてオレが普段ベッドにしている紅色のソファに倒れこんでいた。
変な臭いとかしないだろうかと心配になる。
ミオンはオレに足のほうを向けて、その足をクロールするみたいにバタつかせていた。スカートから伸びている白い素足がまぶしかった。
ミオンが振り向いたので、あわてて目をそらした。
「母親は離婚してるからいないんだけど、父親は警察のお偉いさん。良く知らないんだけど、警視総監とかいうヤツらしい」
「警視総監って、警視庁でイチバン偉い人なんじゃないですか?」
「オレは詳しくないから、良くわかんないけど」
「私、ドラマとかで見たことありますよ。警視総監って言うと、浅見光彦のお兄さん役じゃないですか?」
「渋いところついてくるな」
と、オレは思わず苦笑が漏れた。
ミオンみたいな少女から、「浅見光彦」なんて人物名が出ててくるとは思わなかった。
「こう見えてもドラマとか出たりしてるんですよ、私。だからいろいろ見て勉強してるんですから」
と、ソファのうえでうつ伏せになっていたミオンは、居ずまいを正してスカートのスソを正していた。
たしかにミオンは、ドラマにも良く出ていた記憶がある。
「でもたしか、浅見光彦のお兄さんは警視監だったはずだよ。オレの父親はだから、それよりひとつ上の階級ってことになるのかな。まぁオレはあんまり詳しくないんだけどさ」
「あー。そうでしたか。カゲロウも良く浅見光彦を知っていましたね?」
「本はよく読むから」
父の書斎には大量の書籍が置かれてある。
「仕事が忙しくて帰って来ないというのも納得ですね。すごいですねー。お父さまが警視総監なんて」
と、目を輝かせていた。
「うん」
でも、帰ってこないのは、仕事が忙しいからだけじゃない。
優秀な父親から生まれたのは、出来の悪い息子だった。オレが小さいころはあれこれと英才教育を施そうと試みたようだが、結果、醜いアヒルは醜いままだった。そこにオレと父の断絶がある。もう2年ぐらい父の顔を見ていない。
「でも、なんか意外ですね。父親が警視総監なら、カゲロウはクラスでもっと威張れば良いのに」
「暗いって言いたいんだろ?」
と、オレは自嘲するように言った。
「そんなことはないですけど」
「いいんだよ、別に。父さんがすごいんであって、オレがすごいわけじゃないし。父さんが警視総監なのに、息子が出来そこないだって知れたら余計に厭だし」
個人的な感情がついこぼれてしまったので、コホンと空咳でごまかした。
「この部屋って何畳ぐらいあるんですか?」
と、オレの胸裏を意識してのことかはわからないが、ミオンがそう話を転じた。
「さあ。測ったことないし、わからないよ」
そもそも測り方も知らない。オレたちがいるのが居間で、食堂とキッチンが同じ部屋になっている。この大部屋は、体育館の半分ぐらいの大きさがあった。
「ほかには、どんな部屋があるのですか?」
「あとは書斎と、オレの寝室と父さんの寝室。それから風呂とトイレ。それぐらいだよ。まぁ、オレはこの大部屋しか使わないから、ほとんど空き部屋みたいなもんだけど」
「ってことは、私が使っても良いですか?」
「は?」
「これだけ広いんですもの。一部屋ぐらい私が使っても構いませんよね?」
言っている意味がわからずに、返答するのにしばしの時間を要した。
「使うって言うのは、つまり?」
「寝泊りするってことですよ」
「えっと……いや、それはチョット……」
「いけませんか?」
と、媚びるような上目使いをおくってきた。こうやって上からミオンのことを見下ろすと、マツゲの長さが良くわかる。
「オレはべつに良いんだけど、そっちは問題があるんじゃないのか? だって男子の部屋に寝泊りなんてしたらさ、いろいろとヤバいだろ」
「大丈夫ですよ。むしろ好都合です」
「好都合?」
「お父さまが警視総監なら、ストーカーの被害とか減りそうですし、ここならセキュリティもシッカリしてそうですから」
「ストーカーとかいるのか?」
「今のところは大丈夫ですけどね」
「たしかに、そういう面ではここは安全かもしれないけど」
1階ホールには、警備の人もいるし、オートロックも完備してある。届け物なんかも、すべて受付を経由して、運ばれてくる。
「だったら――。ね? 良いじゃないですか。人助けと思って一部屋、貸してくださいよ」
ふつうなら拒否するべきなんだろう。すこし思案した。オレはある予感におそわれた。
ここでミオンのことを放逐したら、もう二度と接点がなくなってしまうかもしれない。オレが女性と接点を持てるチャンスなんてそうそうありはしない。今までもそうだったし、これから先も暗い未来が続いている。
ミオンはそんな暗黒の世界に訪れた天使かもしれない。これはオレにとっては二度と起こらないチャンスだ。だって、そうだろ? アイドルを部屋に泊めるなんて、そんな機会に巡り合えることなんて、そうそうあるはずない。
次に思い浮かぶは、クラスの人気者であるシマコウの顔だった。シマコウたちが必死に気を惹こうとしているミオンが、今はオレの部屋に存在しているのだ。そこから芽吹く感情は、ハッキリとした優越感だった。
「わかった。いいよ」
「カゲロウなら、そう言ってくれると思いました。そうと決まれば、さっそく準備してきます」 と、ミオンはソファから弾かれるように立ち上がった。
「準備?」
「着替えとか買ってきます」
「お金は?」
「大丈夫です。カードがあるので」
と、ミオンは紫色のこじゃれた財布を見せつけてきた。
たちまち部屋を出て行こうとするミオンに、予備の部屋のカードキーを渡しておいた。
なんで、こんなことになってしまったのか……と、オレはメマイをおぼえていた。
マンションの最上階。高層ビル。親は滅多に帰って来ないからひとりで住んでると言ったら、部屋を見てみたいと言われた。
アイドルうんぬんじゃなくて、女性を部屋にあげるというのは、いろいろと問題があるようにも思われたのだが、「お願い。見せてよ」と吐息まじりに囁かれたら拒否できなかった。
で。
部屋にあげてしまった。
ミオンを部屋に入れるまえに、軽く掃除はしたのだけれど、あんまり外で待たせるのも悪いかと思って、念入りにはやっていない。ゴミなんかが部屋に落ちてないかと気が気でなかった。
「すごいですね。カゲロウの御両親ってどんな仕事をしてらっしゃるのですか?」
と、ミオンは居間のなかをクルクルとまわって、そしてオレが普段ベッドにしている紅色のソファに倒れこんでいた。
変な臭いとかしないだろうかと心配になる。
ミオンはオレに足のほうを向けて、その足をクロールするみたいにバタつかせていた。スカートから伸びている白い素足がまぶしかった。
ミオンが振り向いたので、あわてて目をそらした。
「母親は離婚してるからいないんだけど、父親は警察のお偉いさん。良く知らないんだけど、警視総監とかいうヤツらしい」
「警視総監って、警視庁でイチバン偉い人なんじゃないですか?」
「オレは詳しくないから、良くわかんないけど」
「私、ドラマとかで見たことありますよ。警視総監って言うと、浅見光彦のお兄さん役じゃないですか?」
「渋いところついてくるな」
と、オレは思わず苦笑が漏れた。
ミオンみたいな少女から、「浅見光彦」なんて人物名が出ててくるとは思わなかった。
「こう見えてもドラマとか出たりしてるんですよ、私。だからいろいろ見て勉強してるんですから」
と、ソファのうえでうつ伏せになっていたミオンは、居ずまいを正してスカートのスソを正していた。
たしかにミオンは、ドラマにも良く出ていた記憶がある。
「でもたしか、浅見光彦のお兄さんは警視監だったはずだよ。オレの父親はだから、それよりひとつ上の階級ってことになるのかな。まぁオレはあんまり詳しくないんだけどさ」
「あー。そうでしたか。カゲロウも良く浅見光彦を知っていましたね?」
「本はよく読むから」
父の書斎には大量の書籍が置かれてある。
「仕事が忙しくて帰って来ないというのも納得ですね。すごいですねー。お父さまが警視総監なんて」
と、目を輝かせていた。
「うん」
でも、帰ってこないのは、仕事が忙しいからだけじゃない。
優秀な父親から生まれたのは、出来の悪い息子だった。オレが小さいころはあれこれと英才教育を施そうと試みたようだが、結果、醜いアヒルは醜いままだった。そこにオレと父の断絶がある。もう2年ぐらい父の顔を見ていない。
「でも、なんか意外ですね。父親が警視総監なら、カゲロウはクラスでもっと威張れば良いのに」
「暗いって言いたいんだろ?」
と、オレは自嘲するように言った。
「そんなことはないですけど」
「いいんだよ、別に。父さんがすごいんであって、オレがすごいわけじゃないし。父さんが警視総監なのに、息子が出来そこないだって知れたら余計に厭だし」
個人的な感情がついこぼれてしまったので、コホンと空咳でごまかした。
「この部屋って何畳ぐらいあるんですか?」
と、オレの胸裏を意識してのことかはわからないが、ミオンがそう話を転じた。
「さあ。測ったことないし、わからないよ」
そもそも測り方も知らない。オレたちがいるのが居間で、食堂とキッチンが同じ部屋になっている。この大部屋は、体育館の半分ぐらいの大きさがあった。
「ほかには、どんな部屋があるのですか?」
「あとは書斎と、オレの寝室と父さんの寝室。それから風呂とトイレ。それぐらいだよ。まぁ、オレはこの大部屋しか使わないから、ほとんど空き部屋みたいなもんだけど」
「ってことは、私が使っても良いですか?」
「は?」
「これだけ広いんですもの。一部屋ぐらい私が使っても構いませんよね?」
言っている意味がわからずに、返答するのにしばしの時間を要した。
「使うって言うのは、つまり?」
「寝泊りするってことですよ」
「えっと……いや、それはチョット……」
「いけませんか?」
と、媚びるような上目使いをおくってきた。こうやって上からミオンのことを見下ろすと、マツゲの長さが良くわかる。
「オレはべつに良いんだけど、そっちは問題があるんじゃないのか? だって男子の部屋に寝泊りなんてしたらさ、いろいろとヤバいだろ」
「大丈夫ですよ。むしろ好都合です」
「好都合?」
「お父さまが警視総監なら、ストーカーの被害とか減りそうですし、ここならセキュリティもシッカリしてそうですから」
「ストーカーとかいるのか?」
「今のところは大丈夫ですけどね」
「たしかに、そういう面ではここは安全かもしれないけど」
1階ホールには、警備の人もいるし、オートロックも完備してある。届け物なんかも、すべて受付を経由して、運ばれてくる。
「だったら――。ね? 良いじゃないですか。人助けと思って一部屋、貸してくださいよ」
ふつうなら拒否するべきなんだろう。すこし思案した。オレはある予感におそわれた。
ここでミオンのことを放逐したら、もう二度と接点がなくなってしまうかもしれない。オレが女性と接点を持てるチャンスなんてそうそうありはしない。今までもそうだったし、これから先も暗い未来が続いている。
ミオンはそんな暗黒の世界に訪れた天使かもしれない。これはオレにとっては二度と起こらないチャンスだ。だって、そうだろ? アイドルを部屋に泊めるなんて、そんな機会に巡り合えることなんて、そうそうあるはずない。
次に思い浮かぶは、クラスの人気者であるシマコウの顔だった。シマコウたちが必死に気を惹こうとしているミオンが、今はオレの部屋に存在しているのだ。そこから芽吹く感情は、ハッキリとした優越感だった。
「わかった。いいよ」
「カゲロウなら、そう言ってくれると思いました。そうと決まれば、さっそく準備してきます」 と、ミオンはソファから弾かれるように立ち上がった。
「準備?」
「着替えとか買ってきます」
「お金は?」
「大丈夫です。カードがあるので」
と、ミオンは紫色のこじゃれた財布を見せつけてきた。
たちまち部屋を出て行こうとするミオンに、予備の部屋のカードキーを渡しておいた。
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