俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~
第三章 第10話 ダンジョン攻略……ドロップアイテム!?
「ヤァ! なのです!」
なごむ掛け声が、薄暗い闇の中にこだまする。
ペルカが気合い一発、ケイブボアを打ち倒した。
ケイブボアとは名前のとおり、迷宮に棲息しているらしい猪のようなモンスターだ。
黒を基本として赤い縞模様という体毛に覆われている。口からは大きな白い牙が覗き凶悪な形相をしてる。
俺は、ペルカの横で盾とメイスを構えてもう一匹のケイブボアを牽制していた。
俺たち前衛の後ろでは、女将さんが松明を掲げて辺りを照らしながら、もう片方の手には剣を持って油断無くあたりを警戒している。
そしてその女将さんの横合いでは、クリフがいつでも弓を引けるように準備していた。
「そらダイ、来たよ!」
突っ込んできたケイブボアを避けながら、その鼻頭を上からメイスで叩きつける。
その一撃を受けたケイブボアは、突進の勢いを失うとヨロヨロと数歩すすんだあとドタリと倒れ伏した。
「ダイ、あんたが冒険者だってのも本当だったんだねえ。なかなかの腕前じゃないか」
女将さんが俺の戦いの手際を見て言った。
「女将さんもしかして信じてなかったんですか!?」
「だってあんた、うちに居ついてから武器の訓練とかしたことないだろ。冒険者っていうより、逃亡者って雰囲気だったしさ」
女将さん……俺のことそんな風に思ってたのか。
「それより、ダンジョンに入ってから結構な時間だ、ひと休みするかい。ここなら場所も広いし、奇襲を受ける心配もないだろ」
女将さんは周囲を松明で照らし見る。
ダンジョンは思いのほか簡単に見つかった。
俺とキロ、クリフが遭遇したあのゴブリンたちがやってきた方角と、それ以前にクリサフさんが見付けていた、荒らされていた森の狩り場から見当をつけて探した結果。半日とかからずに見つけることができたのだ。
ダンジョン入り口は、マクデル村から四キロほど離れた場所。
そこにある丘にポッカリと口を開けていた。
周りには、おそらく俺たちを襲ったゴブリンたちが作ったのだろう。簡素な村のような跡があった。
ペルカがGジェネ・ゴブリンを打ち倒した後。逃げ散ったというゴブリンたちもここには戻ってこなかったようだ。
それはそれで心配なんだが、ダンジョン探索前に戦闘にならなかったのは助かりました。
ダンジョンの中も、入り口付近には、外から入り込んだらしい蝙蝠や狼などの動物が徘徊していた。
まあ蝙蝠は松明の光を警戒して寄ってこなかったし、狼にいたっては、ペルカの説得で穏便に回避できた。
本当ならば、この辺りまでがゴブリンの住処だったのではないだろうか?
奴らがいなくなったおかげで、ダンジョンのモンスターらしきモノとの戦闘は、これが初めてだった。
「まさか、本当に伝承どおりだったとはね。それだけでもあんたらに付いてきた甲斐があったよ」
女将さんは感慨深そうな様子だ。
彼女の視線の先を見ると、ペルカと俺が打ち倒したケイブボアが、黒い泡を散らすように霧散していく。
ケイブボアが霧散したそのあとには、二本の牙だけが残されていた。
俺は密かにその牙を探査する。
〈ケイブボアファング〉
迷宮から生まれるケイブボアの牙。牙は硬度が高く、装飾品やダガー、鏃などの武器としての加工が可能。
うーん……どこのゲームだ!!
ここに来て、ゲームのようなダンジョンですよ!
いや、ねえ、ここまでさ、「ダンジョンが口を開け、地上が魔神に狙われれいる!」って感じだったに、台無しだよ!!
まあ、斃したモンスターの死骸を放置しておいて腐って変な虫が湧いたり、死骸目当ての別のモンスターを引き寄せたりとかが起きないのはいいと思うけどさ。
まさか主神の奴、俺のスキル周りだけじゃなくて、ダンジョンとかまでゲーム仕様にしたんだろうか? でも、女将さんが伝承で知っているようだから、元々なのか!?
俺の呆れをよそにペルカとクリフは、倒したモンスターが目の前で蒸発するように消えていくという、常識では考えられない状況に目を丸くしていた。
「残ったのは、牙だけかい? 肉が残るとよかったんだけどね」
「「肉も残るんですか!?」」
俺とクリフが同時に驚きの声を上げた。
クリフは俺と一瞬だけ視線を合わせるとそっぽを向いた。
まだ昨日のことを根に持っているようだ。
「ああ伝承どおりなら、動物型や植物型のモンスターからは食べられる物が残ることがあるらしいよ」
「ダンジョンのことも知っていましたし、カーサさんは伝承に詳しいのですね」
「ああ冒険者時代にね。色々な遺跡を探索したもんさ……。でもね伝承どおりなら、ダンジョンが生まれるのは大崩壊から千年ほど後だって話だったからさ。この目で見ることができるとは思っちゃぁいなかったんだけどね」
女将さんは、大崩壊で壊滅した都市の遺跡探索を主な仕事としていたらしい。どうやらその過程で、色々な伝承に詳しくなったのだろう。
「でも女将さん、何でモンスターがこんな状態になるんですかね?」
「ダンジョンってのは、魔神が地上に魔族を送り込めるようにするためのモノだってのは、昨日話したとおりだけどさ。昔の賢者の研究どおりなら、ダンジョンの発する瘴気からモンスターが生まれるんだ。そのモンスターは瘴気を溜め込んで邪気を発するようになる。その邪気はダンジョンと魔族を育てると共に、魔神の力にもなる。つまりさ、モンスターってのは、ダンジョンの瘴気を、魔神の軍勢が利用できる邪気に変換する存在らしいんだ」
「それは、なんとなく分かりますけど、モンスターが霧散して、これみたいに牙が残ったりするのは?」
「いいから最後まで聞きなよ。モンスターってのはさ、ダンジョンの中ではこのケイブボアみたいに実体化してるけど、まだその存在が確定してるわけじゃないみたいなんだよ。だから斃されたモンスターは、溜め込んだ瘴気をダンジョンに回収されて霧散するってわけさ。その牙みたいにモノが残るのは、溜め込んだ瘴気が完全に実体となった部分らしいよ」
ある意味、絞り滓ですか?
そうか、ドロップアイテムって絞り滓なのか。
でも、金がドロップしなくてよかった。そうなったらそれこそ、『これ何のゲーム?』になるところだったよ。
「このモンスターのドロップアイテムって、どこかで換金できたりするんですかね」
「ドロップアイテム? ああ、それのことか。ドロップアイテムか、いいねそれ呼びやすくてさ」
「そっ、そうですよね。ダンジョンのモンスターから残ったものを一括で総称できますしね」
うおっ、そうだった。俺の世界じゃ当たり前の呼び方だけど、この世界でもそのままってわけじゃなかった。
「自分で言いだしたのに、何で確認口調なんだ?」
クリフが横合いから冷静に突っ込みをくれました。
「いや、そんなことより換金ですよ換金」
「ダンジョンのモンスターから獲れたアイテムは貴重なものが多いらしくて、大崩壊前には結構な値段で取引されていたらしいよ。だからアタシなんかも、ダンジョンがある時代に生まれたかった思ってたんだからさ」
「まったく嫌ですよね。ペルカさん。ダイのやつ換金換金って、金のことばかり、俺たちは魔神から地上を護るため、高い志を持ってここに来ているのに」
「……お金も大事なのですよ……、人族の街はお金がないと、ご飯を食べることも、眠るところも見つからないのですぅぅぅ……」
ペルカが下をむいて体育座りで地面を突いてる。しかも、頭の三角耳までプルプルと伏せてる。
ペルカ!? 俺たちと出会う前に何か有ったの!?
しかしクリフのやつ、人を扱き下ろしやがって。またキロに運ばせてやろうか。
最初から敵対的なやつだったけど、あれが決定的だったかな……。
そういえばキロは大丈夫だろうか。
入り口に置き去りになってるもんな。まあ元はといえば、キロが勝手に付いてきたんだけどね。気が付いてすぐに村に戻るように説得したんだけどキロは言うことを聞かなかった。
でもダンジョンの入り口が、人ひとり入るのがギリギリという広さだったんで、ダンジョン内にまで付いてくることはできなかったのだ。
俺たちも、今日はあまり奥まで進むつもりがないので、とりあえず入り口で待ってもらっているのだ。
「たっ、確かにお金は大事ですよねー、で、でもペルカさんが奴とは違うことは分かってます! 魔神から地上を護るためにここにいるんですから」
クリフの奴が必死にペルカのフォローをしている。――まあ、悪い奴じゃないよね。俺と相性が最悪なだけで。
「……さて、これからどうするかね。奥に進むこともできるどさ、持ってきた食料なんかを考えるとそこまで奥には行けない。残してきたキロも心配だ……今日はここまでにしておくかい?」
女将さんの提案はもっともだろう、ほんらい今日はダンジョンを見つけることが目的だったのだ。
あまりにも簡単にダンジョンが発見できたので、少しだけ中を確認してみようと入っただけだったのだから。
「でも、早く魔族を斃さないと、ダンジョンが大きくなってしまうのですよ」
ペルカが少し困ったようすで口を開いた。
「ああ、それは大丈夫だよ」
「……大丈夫、なのですか?」
「ダンジョンってのはそこまで簡単に育ちはしないんだよ。これも伝承に残ってるんだけどね、ダンジョンが地上に口を開けてから百層まで育ったのは最短でも七百年ほどかかってるのさ。それに今日はここを見つけただけで目的は達してるんだ。気が急くのは分かるけどさ、お嬢ちゃんだって分かってるんだろう」
「はううぅ、カーサさんの言うとおりなのです。ワタシちょっと焦ってしまったのですよ」
「ペルカさんは神様から使命を与えられているんです。しかたありませんよ」
「まあ確かに一度戻ったほうがいいだろう。ダンジョンの探索をするには準備がたりない」
「お前は気楽でいいよな、行き倒れの居候だもんな」
ほんとこの子は、俺に突っかからないとどうにかなる病気にでもかかっているのか? そう言いたくなるほど俺に敵意を向けてくる。
「クリフさん、言い過ぎなのですよ。ダイさんはお世話になっている村の皆さんのために手伝ってくれているのですよ。そうなのですよねダイさん」
「……ああ、女将さんをはじめ、村の人たちにはお世話になってるからね。こんなものが近くにあったら安心できないだろうし」
一番心配しているのはペルカのことなんだけど、いまは身分を隠してる状態だからそれを言うわけにはいかない。
「じゃあ、戻るってことでいいんだね」
「ハイなのですよ」
「ではペルカさん、戻りましょう」
ペルカに諭されてシュンとしていたクリフは、彼女がダンジョンから出ることを決めたら、それに右倣えだ、君はペルカのイエスマンか。
まあ俺も戻るのに賛成だからそれでいいんだけどさ。
というわけで、こうしてダンジョン探索の初日は終了したのだった。
なごむ掛け声が、薄暗い闇の中にこだまする。
ペルカが気合い一発、ケイブボアを打ち倒した。
ケイブボアとは名前のとおり、迷宮に棲息しているらしい猪のようなモンスターだ。
黒を基本として赤い縞模様という体毛に覆われている。口からは大きな白い牙が覗き凶悪な形相をしてる。
俺は、ペルカの横で盾とメイスを構えてもう一匹のケイブボアを牽制していた。
俺たち前衛の後ろでは、女将さんが松明を掲げて辺りを照らしながら、もう片方の手には剣を持って油断無くあたりを警戒している。
そしてその女将さんの横合いでは、クリフがいつでも弓を引けるように準備していた。
「そらダイ、来たよ!」
突っ込んできたケイブボアを避けながら、その鼻頭を上からメイスで叩きつける。
その一撃を受けたケイブボアは、突進の勢いを失うとヨロヨロと数歩すすんだあとドタリと倒れ伏した。
「ダイ、あんたが冒険者だってのも本当だったんだねえ。なかなかの腕前じゃないか」
女将さんが俺の戦いの手際を見て言った。
「女将さんもしかして信じてなかったんですか!?」
「だってあんた、うちに居ついてから武器の訓練とかしたことないだろ。冒険者っていうより、逃亡者って雰囲気だったしさ」
女将さん……俺のことそんな風に思ってたのか。
「それより、ダンジョンに入ってから結構な時間だ、ひと休みするかい。ここなら場所も広いし、奇襲を受ける心配もないだろ」
女将さんは周囲を松明で照らし見る。
ダンジョンは思いのほか簡単に見つかった。
俺とキロ、クリフが遭遇したあのゴブリンたちがやってきた方角と、それ以前にクリサフさんが見付けていた、荒らされていた森の狩り場から見当をつけて探した結果。半日とかからずに見つけることができたのだ。
ダンジョン入り口は、マクデル村から四キロほど離れた場所。
そこにある丘にポッカリと口を開けていた。
周りには、おそらく俺たちを襲ったゴブリンたちが作ったのだろう。簡素な村のような跡があった。
ペルカがGジェネ・ゴブリンを打ち倒した後。逃げ散ったというゴブリンたちもここには戻ってこなかったようだ。
それはそれで心配なんだが、ダンジョン探索前に戦闘にならなかったのは助かりました。
ダンジョンの中も、入り口付近には、外から入り込んだらしい蝙蝠や狼などの動物が徘徊していた。
まあ蝙蝠は松明の光を警戒して寄ってこなかったし、狼にいたっては、ペルカの説得で穏便に回避できた。
本当ならば、この辺りまでがゴブリンの住処だったのではないだろうか?
奴らがいなくなったおかげで、ダンジョンのモンスターらしきモノとの戦闘は、これが初めてだった。
「まさか、本当に伝承どおりだったとはね。それだけでもあんたらに付いてきた甲斐があったよ」
女将さんは感慨深そうな様子だ。
彼女の視線の先を見ると、ペルカと俺が打ち倒したケイブボアが、黒い泡を散らすように霧散していく。
ケイブボアが霧散したそのあとには、二本の牙だけが残されていた。
俺は密かにその牙を探査する。
〈ケイブボアファング〉
迷宮から生まれるケイブボアの牙。牙は硬度が高く、装飾品やダガー、鏃などの武器としての加工が可能。
うーん……どこのゲームだ!!
ここに来て、ゲームのようなダンジョンですよ!
いや、ねえ、ここまでさ、「ダンジョンが口を開け、地上が魔神に狙われれいる!」って感じだったに、台無しだよ!!
まあ、斃したモンスターの死骸を放置しておいて腐って変な虫が湧いたり、死骸目当ての別のモンスターを引き寄せたりとかが起きないのはいいと思うけどさ。
まさか主神の奴、俺のスキル周りだけじゃなくて、ダンジョンとかまでゲーム仕様にしたんだろうか? でも、女将さんが伝承で知っているようだから、元々なのか!?
俺の呆れをよそにペルカとクリフは、倒したモンスターが目の前で蒸発するように消えていくという、常識では考えられない状況に目を丸くしていた。
「残ったのは、牙だけかい? 肉が残るとよかったんだけどね」
「「肉も残るんですか!?」」
俺とクリフが同時に驚きの声を上げた。
クリフは俺と一瞬だけ視線を合わせるとそっぽを向いた。
まだ昨日のことを根に持っているようだ。
「ああ伝承どおりなら、動物型や植物型のモンスターからは食べられる物が残ることがあるらしいよ」
「ダンジョンのことも知っていましたし、カーサさんは伝承に詳しいのですね」
「ああ冒険者時代にね。色々な遺跡を探索したもんさ……。でもね伝承どおりなら、ダンジョンが生まれるのは大崩壊から千年ほど後だって話だったからさ。この目で見ることができるとは思っちゃぁいなかったんだけどね」
女将さんは、大崩壊で壊滅した都市の遺跡探索を主な仕事としていたらしい。どうやらその過程で、色々な伝承に詳しくなったのだろう。
「でも女将さん、何でモンスターがこんな状態になるんですかね?」
「ダンジョンってのは、魔神が地上に魔族を送り込めるようにするためのモノだってのは、昨日話したとおりだけどさ。昔の賢者の研究どおりなら、ダンジョンの発する瘴気からモンスターが生まれるんだ。そのモンスターは瘴気を溜め込んで邪気を発するようになる。その邪気はダンジョンと魔族を育てると共に、魔神の力にもなる。つまりさ、モンスターってのは、ダンジョンの瘴気を、魔神の軍勢が利用できる邪気に変換する存在らしいんだ」
「それは、なんとなく分かりますけど、モンスターが霧散して、これみたいに牙が残ったりするのは?」
「いいから最後まで聞きなよ。モンスターってのはさ、ダンジョンの中ではこのケイブボアみたいに実体化してるけど、まだその存在が確定してるわけじゃないみたいなんだよ。だから斃されたモンスターは、溜め込んだ瘴気をダンジョンに回収されて霧散するってわけさ。その牙みたいにモノが残るのは、溜め込んだ瘴気が完全に実体となった部分らしいよ」
ある意味、絞り滓ですか?
そうか、ドロップアイテムって絞り滓なのか。
でも、金がドロップしなくてよかった。そうなったらそれこそ、『これ何のゲーム?』になるところだったよ。
「このモンスターのドロップアイテムって、どこかで換金できたりするんですかね」
「ドロップアイテム? ああ、それのことか。ドロップアイテムか、いいねそれ呼びやすくてさ」
「そっ、そうですよね。ダンジョンのモンスターから残ったものを一括で総称できますしね」
うおっ、そうだった。俺の世界じゃ当たり前の呼び方だけど、この世界でもそのままってわけじゃなかった。
「自分で言いだしたのに、何で確認口調なんだ?」
クリフが横合いから冷静に突っ込みをくれました。
「いや、そんなことより換金ですよ換金」
「ダンジョンのモンスターから獲れたアイテムは貴重なものが多いらしくて、大崩壊前には結構な値段で取引されていたらしいよ。だからアタシなんかも、ダンジョンがある時代に生まれたかった思ってたんだからさ」
「まったく嫌ですよね。ペルカさん。ダイのやつ換金換金って、金のことばかり、俺たちは魔神から地上を護るため、高い志を持ってここに来ているのに」
「……お金も大事なのですよ……、人族の街はお金がないと、ご飯を食べることも、眠るところも見つからないのですぅぅぅ……」
ペルカが下をむいて体育座りで地面を突いてる。しかも、頭の三角耳までプルプルと伏せてる。
ペルカ!? 俺たちと出会う前に何か有ったの!?
しかしクリフのやつ、人を扱き下ろしやがって。またキロに運ばせてやろうか。
最初から敵対的なやつだったけど、あれが決定的だったかな……。
そういえばキロは大丈夫だろうか。
入り口に置き去りになってるもんな。まあ元はといえば、キロが勝手に付いてきたんだけどね。気が付いてすぐに村に戻るように説得したんだけどキロは言うことを聞かなかった。
でもダンジョンの入り口が、人ひとり入るのがギリギリという広さだったんで、ダンジョン内にまで付いてくることはできなかったのだ。
俺たちも、今日はあまり奥まで進むつもりがないので、とりあえず入り口で待ってもらっているのだ。
「たっ、確かにお金は大事ですよねー、で、でもペルカさんが奴とは違うことは分かってます! 魔神から地上を護るためにここにいるんですから」
クリフの奴が必死にペルカのフォローをしている。――まあ、悪い奴じゃないよね。俺と相性が最悪なだけで。
「……さて、これからどうするかね。奥に進むこともできるどさ、持ってきた食料なんかを考えるとそこまで奥には行けない。残してきたキロも心配だ……今日はここまでにしておくかい?」
女将さんの提案はもっともだろう、ほんらい今日はダンジョンを見つけることが目的だったのだ。
あまりにも簡単にダンジョンが発見できたので、少しだけ中を確認してみようと入っただけだったのだから。
「でも、早く魔族を斃さないと、ダンジョンが大きくなってしまうのですよ」
ペルカが少し困ったようすで口を開いた。
「ああ、それは大丈夫だよ」
「……大丈夫、なのですか?」
「ダンジョンってのはそこまで簡単に育ちはしないんだよ。これも伝承に残ってるんだけどね、ダンジョンが地上に口を開けてから百層まで育ったのは最短でも七百年ほどかかってるのさ。それに今日はここを見つけただけで目的は達してるんだ。気が急くのは分かるけどさ、お嬢ちゃんだって分かってるんだろう」
「はううぅ、カーサさんの言うとおりなのです。ワタシちょっと焦ってしまったのですよ」
「ペルカさんは神様から使命を与えられているんです。しかたありませんよ」
「まあ確かに一度戻ったほうがいいだろう。ダンジョンの探索をするには準備がたりない」
「お前は気楽でいいよな、行き倒れの居候だもんな」
ほんとこの子は、俺に突っかからないとどうにかなる病気にでもかかっているのか? そう言いたくなるほど俺に敵意を向けてくる。
「クリフさん、言い過ぎなのですよ。ダイさんはお世話になっている村の皆さんのために手伝ってくれているのですよ。そうなのですよねダイさん」
「……ああ、女将さんをはじめ、村の人たちにはお世話になってるからね。こんなものが近くにあったら安心できないだろうし」
一番心配しているのはペルカのことなんだけど、いまは身分を隠してる状態だからそれを言うわけにはいかない。
「じゃあ、戻るってことでいいんだね」
「ハイなのですよ」
「ではペルカさん、戻りましょう」
ペルカに諭されてシュンとしていたクリフは、彼女がダンジョンから出ることを決めたら、それに右倣えだ、君はペルカのイエスマンか。
まあ俺も戻るのに賛成だからそれでいいんだけどさ。
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