俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~
幕間2 ペルカがんばる!(中)
ペルカをロンダン村から連れ出して、ヤマトが居るというエルトーラへ向かう途中。
サテラは結界に阻まれたエルトーラ内に入る方法が有るとペルカに語った。
「先ほども聞きましたが、そのような事情にワタシがお役に立てるのでしょうか?」
「ええ、あなたがヤマトの巫女だからこそ使える手があるのです」
「ワタシが、ヤマトさんの巫女だから……」
その言葉に、ペルカは胸の底から湧きあがってくる歓喜の思いを抑えられなかった。それは他の誰でもなく、今この時、自分だけが彼の役に立つことができるということだからだ。
理性では、それがいかに傲慢で身勝手きわまりない考えかということも理解できる。だが感情の奔流は理性の堤を簡単に取り壊してしまう。
「エルトーラの都市を包む結界は主神さまの宝具を使い築かれています。識神さまが云うには、ヤマトの神気は主神さまから授けられたもの、この結界の影響を受けることはないそうです。つまりヤマトの巫女であるあなたも結界の影響を受けない可能性が高いのです」
「しかし、その都市に入れたとして、ワタシはどうしたらいいのですか?」
「……ペルカ――あなたにパスを繋がせてもらいます」
「……?」
「いま識神さまは私の上位の戦女神さまにパスを通し結界内を見ているのですが、同じことをあなたに対して私が行ないます。ただこれは試してみないと分かりません。ですが結界の影響を受けないならば、あなたの内に私の神気を送ることができるはずです。そうなれば何か事が起ったとしても私が戦うこともできる。ペルカ……あなたの身体を借りることにはなりますが……」
サテラが複雑な面持ちをペルカに向ける。
対しペルカも複雑な心境だった。ヤマトの巫女として彼の役に立てると胸に満ちていた強い奔流が急速に澱んでいく。
確かに爪牙闘士として修行をしているものの、今の自分の実力では、あのアースドラゴンのような邪気を放つ魔の者との戦闘では役に立てないのは分かる。しかし、サテラの力で役に立つというのもまた違う気がするのだ。
しかし、ペルカは心を決めた。
「……わかったのですぅ、サテラさまが最善と思うことをなさってくださいなのです」
いまはどのようなかたちであれヤマトのために役に立つことが大事な時だ。
自分の思いを優先するときではない。
「助かりますペルカ。……それでは」
言うと、サテラが自分の剣を鞘から抜き放つ。姿を現した剣の刃はその鞘の長さから考えるとあきらかに短いものだ。まえにペルカが見たサテラの剣の刃は鞘の長さに見合うものだったはずだ。
サテラがうっすらと疑問を抱いている間に、サテラはその刃先で人差指の先を軽く突いた。
プクリと指先に赤い血が浮かぶ。
「これを口に含みなさい」
サテラが、ペルカの顔のまえに指先を差し出してきた。
「……わかったのです」
あむっ――と指先を含むと、血の味が淡く口の中に広がった。
「もういいですよ。……これで準備は整いました。それに、そろそろエルトーラが見えてくるはずです」
サテラが安堵の表情を浮かべるが、それとは逆にサテラの指から口を離したペルカの表情は怪訝そうに曇った。
「サテラさま。何だかおかしいのです。この一帯の獣たちが怯えてるのですよ」
ペルカの言葉にサテラは驚きの表情を浮かべると、意識を集中するように前方を凝視した。彼女の話に出てきた識神と交信でもしているのか、少しのあいだ動作が止まったあと苦々しげに表情がゆがむ。
「クッ、既に試合が始まっているようです。試合が始まる前にはエルトーラに着けるはずだったのですが……、風の流れに押され速度が落ちたようです。私の地上界での移動魔法はこれが最速……、しかしまだ間に合うはずです」
サテラの気持が影響したのか若干光球の速度が上がったようだ。遙か前方の地平線上に影のように薄らと市壁が見えてきた。
あれがエルトーラという都市なのだろう。
その都市に近づくにつれ、ペルカにも体毛が逆立つような、ピリピリとした怖気が走る。
「サテラさま、私にも感じられるのですぅ、とても禍々しいものがあそこにいるのです!」
ペルカとサテラのいる光球はグングンとエルトーラに進み、市壁上からもペルカが指差した場所――コロッセオが確認出来るほどまでに近づいていく。
「……あそこにヤマトがいるのです」
「――! そんな!!」
サテラに言われ感覚を研ぎ澄ませると、確かに禍々しい邪気の奔流の中に、ペルカの馴染みがあるヤマトの力を感じることができる。
ペルカは、サテラに悲壮な表情で振り向いた。
「サテラさま! 急がないとヤマトさんが! ヤマトさんが!」
そのとき地を鳴らすような咆哮が、コロッセオから街を隔てる市壁外にまで響いてきた。
その咆哮は、ふたりの乗る光球をも揺るがした。
「これは? まさか使徒化!?」
サテラの操る光球は急激に速度を落とすと地面に着地するまえに泡のように弾けて消えた。
空中でペルカはサテラの脇に抱え込まれた。サテラはそのままエルトーラの東門まえに着地すると、
「行きなさいペルカ!!」
ペルカは彼女の手からほうるように放たれた。
「行くのです!!」
放たれたペルカは四つ足で疾風のように駆け出す。
ヤマトのいるコロッセオの場所は上空から確認した。この道を真っ直ぐに突き進めば良いだけだ。
市壁の門をくぐるときに違和感を覚えたが、それがサテラが言っていた結界だったのだろう。しかし結局ペルカにはなんの反応を示すことなく通り抜けることができた。
門を駆け抜けたときに門兵がなにやら騒いでいたようだが、今のペルカにはそんなことを気にしている余裕はなかった。
「ヤマトさん! いま行くのです!!」
既にペルカの頭の中に、今の自分が本当に役に立てるのかなどというような考えは一片も存在していなかった。ただただヤマトの側に――その傍らに。
その思いの噴出にまかせて駆ける。
サテラの光球に乗っていたときには見る間に近づいてきたコロッセオだが、人族から比べたら遙かに早い狼人族の足をもってしても、なかなか近づかない。
普段のペルカならば大通りの両脇に立ち並ぶ石造りの二階や三階建ての建物に目を回して、キョドキョドしてしまいそうな状況の中にいるにもかかわらず、今のペルカはコロッセオしか見えない。ただただ先をコロッセオ目指して駆け進んでいく。
『急いでくださいペルカ! 嫌な予感がします。……パスは大丈夫ようですね。識神さまですら自身の神殿内でしか会話ができないと言っていましたから、私の神気を送ることも十分に可能でしょう』
「サテラさま、ワタシの身体を使ってください。ヤマトさんのところに急がないと!」
見えているのになかなか近づかないコロッセオに、ペルカの焦りが増す。
『それは最後の手段です。アナタは神をその身に降ろせるだけの霊力を持っています。ですが神の力がアナタに掛ける負担は小さなモノではありません。&――今はとにかくヤマトを見つけることに意識を集中しなさい』
「……わかったのですぅ!」
ペルカが、気ばかりが焦るなか、やっとの思いでコロッセオ前の広場までたどり着くと、コロッセオの入場門からワラワラと人々が駆けだしてきた。
「中に、中に入れてください!! お願いなのです!!」
コロッセオ内での出来事で恐慌に陥ったらしい人々は、我先にと外に駆け、さらに一刻も早くこの場から立ち去ろうと転び、他人に踏まれようとも這い退るようにと逃げてゆく。
濁流のような人の流れに押されペルカは思うように前に進むことができなでいた。
サテラは結界に阻まれたエルトーラ内に入る方法が有るとペルカに語った。
「先ほども聞きましたが、そのような事情にワタシがお役に立てるのでしょうか?」
「ええ、あなたがヤマトの巫女だからこそ使える手があるのです」
「ワタシが、ヤマトさんの巫女だから……」
その言葉に、ペルカは胸の底から湧きあがってくる歓喜の思いを抑えられなかった。それは他の誰でもなく、今この時、自分だけが彼の役に立つことができるということだからだ。
理性では、それがいかに傲慢で身勝手きわまりない考えかということも理解できる。だが感情の奔流は理性の堤を簡単に取り壊してしまう。
「エルトーラの都市を包む結界は主神さまの宝具を使い築かれています。識神さまが云うには、ヤマトの神気は主神さまから授けられたもの、この結界の影響を受けることはないそうです。つまりヤマトの巫女であるあなたも結界の影響を受けない可能性が高いのです」
「しかし、その都市に入れたとして、ワタシはどうしたらいいのですか?」
「……ペルカ――あなたにパスを繋がせてもらいます」
「……?」
「いま識神さまは私の上位の戦女神さまにパスを通し結界内を見ているのですが、同じことをあなたに対して私が行ないます。ただこれは試してみないと分かりません。ですが結界の影響を受けないならば、あなたの内に私の神気を送ることができるはずです。そうなれば何か事が起ったとしても私が戦うこともできる。ペルカ……あなたの身体を借りることにはなりますが……」
サテラが複雑な面持ちをペルカに向ける。
対しペルカも複雑な心境だった。ヤマトの巫女として彼の役に立てると胸に満ちていた強い奔流が急速に澱んでいく。
確かに爪牙闘士として修行をしているものの、今の自分の実力では、あのアースドラゴンのような邪気を放つ魔の者との戦闘では役に立てないのは分かる。しかし、サテラの力で役に立つというのもまた違う気がするのだ。
しかし、ペルカは心を決めた。
「……わかったのですぅ、サテラさまが最善と思うことをなさってくださいなのです」
いまはどのようなかたちであれヤマトのために役に立つことが大事な時だ。
自分の思いを優先するときではない。
「助かりますペルカ。……それでは」
言うと、サテラが自分の剣を鞘から抜き放つ。姿を現した剣の刃はその鞘の長さから考えるとあきらかに短いものだ。まえにペルカが見たサテラの剣の刃は鞘の長さに見合うものだったはずだ。
サテラがうっすらと疑問を抱いている間に、サテラはその刃先で人差指の先を軽く突いた。
プクリと指先に赤い血が浮かぶ。
「これを口に含みなさい」
サテラが、ペルカの顔のまえに指先を差し出してきた。
「……わかったのです」
あむっ――と指先を含むと、血の味が淡く口の中に広がった。
「もういいですよ。……これで準備は整いました。それに、そろそろエルトーラが見えてくるはずです」
サテラが安堵の表情を浮かべるが、それとは逆にサテラの指から口を離したペルカの表情は怪訝そうに曇った。
「サテラさま。何だかおかしいのです。この一帯の獣たちが怯えてるのですよ」
ペルカの言葉にサテラは驚きの表情を浮かべると、意識を集中するように前方を凝視した。彼女の話に出てきた識神と交信でもしているのか、少しのあいだ動作が止まったあと苦々しげに表情がゆがむ。
「クッ、既に試合が始まっているようです。試合が始まる前にはエルトーラに着けるはずだったのですが……、風の流れに押され速度が落ちたようです。私の地上界での移動魔法はこれが最速……、しかしまだ間に合うはずです」
サテラの気持が影響したのか若干光球の速度が上がったようだ。遙か前方の地平線上に影のように薄らと市壁が見えてきた。
あれがエルトーラという都市なのだろう。
その都市に近づくにつれ、ペルカにも体毛が逆立つような、ピリピリとした怖気が走る。
「サテラさま、私にも感じられるのですぅ、とても禍々しいものがあそこにいるのです!」
ペルカとサテラのいる光球はグングンとエルトーラに進み、市壁上からもペルカが指差した場所――コロッセオが確認出来るほどまでに近づいていく。
「……あそこにヤマトがいるのです」
「――! そんな!!」
サテラに言われ感覚を研ぎ澄ませると、確かに禍々しい邪気の奔流の中に、ペルカの馴染みがあるヤマトの力を感じることができる。
ペルカは、サテラに悲壮な表情で振り向いた。
「サテラさま! 急がないとヤマトさんが! ヤマトさんが!」
そのとき地を鳴らすような咆哮が、コロッセオから街を隔てる市壁外にまで響いてきた。
その咆哮は、ふたりの乗る光球をも揺るがした。
「これは? まさか使徒化!?」
サテラの操る光球は急激に速度を落とすと地面に着地するまえに泡のように弾けて消えた。
空中でペルカはサテラの脇に抱え込まれた。サテラはそのままエルトーラの東門まえに着地すると、
「行きなさいペルカ!!」
ペルカは彼女の手からほうるように放たれた。
「行くのです!!」
放たれたペルカは四つ足で疾風のように駆け出す。
ヤマトのいるコロッセオの場所は上空から確認した。この道を真っ直ぐに突き進めば良いだけだ。
市壁の門をくぐるときに違和感を覚えたが、それがサテラが言っていた結界だったのだろう。しかし結局ペルカにはなんの反応を示すことなく通り抜けることができた。
門を駆け抜けたときに門兵がなにやら騒いでいたようだが、今のペルカにはそんなことを気にしている余裕はなかった。
「ヤマトさん! いま行くのです!!」
既にペルカの頭の中に、今の自分が本当に役に立てるのかなどというような考えは一片も存在していなかった。ただただヤマトの側に――その傍らに。
その思いの噴出にまかせて駆ける。
サテラの光球に乗っていたときには見る間に近づいてきたコロッセオだが、人族から比べたら遙かに早い狼人族の足をもってしても、なかなか近づかない。
普段のペルカならば大通りの両脇に立ち並ぶ石造りの二階や三階建ての建物に目を回して、キョドキョドしてしまいそうな状況の中にいるにもかかわらず、今のペルカはコロッセオしか見えない。ただただ先をコロッセオ目指して駆け進んでいく。
『急いでくださいペルカ! 嫌な予感がします。……パスは大丈夫ようですね。識神さまですら自身の神殿内でしか会話ができないと言っていましたから、私の神気を送ることも十分に可能でしょう』
「サテラさま、ワタシの身体を使ってください。ヤマトさんのところに急がないと!」
見えているのになかなか近づかないコロッセオに、ペルカの焦りが増す。
『それは最後の手段です。アナタは神をその身に降ろせるだけの霊力を持っています。ですが神の力がアナタに掛ける負担は小さなモノではありません。&――今はとにかくヤマトを見つけることに意識を集中しなさい』
「……わかったのですぅ!」
ペルカが、気ばかりが焦るなか、やっとの思いでコロッセオ前の広場までたどり着くと、コロッセオの入場門からワラワラと人々が駆けだしてきた。
「中に、中に入れてください!! お願いなのです!!」
コロッセオ内での出来事で恐慌に陥ったらしい人々は、我先にと外に駆け、さらに一刻も早くこの場から立ち去ろうと転び、他人に踏まれようとも這い退るようにと逃げてゆく。
濁流のような人の流れに押されペルカは思うように前に進むことができなでいた。
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