俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~

獅東 諒

第二章 第17話 たまには真面目な話もします。

「あれ、アンジェラさん。バルトスと一緒だったんじゃ……。それにそれ、買い出しですか?」

 闘神の神殿がある南区画へと足を進めていると、円形闘技場コロッセオの方からやって来たアンジェラさんと鉢合わせした。
 彼女は肩から大きな革袋を吊して、さらにワイン(いや蜂蜜酒かもしれない)入りの瓶まで抱えている。
 革袋の中には露天で仕入れたであろう乾燥果物やチーズ・軽食の数々。さらにオリーブオイルや魚醤ガルム入りの小瓶も見えた。
 その割に重い荷物を持っているようには感じられないのは、さすがは闘神の巫女と言うべきだろうか。

「もしかして……酒盛り用ですか?」

「はい。バルトスさまが本日の勝利祝いと、明日の試合のための前祝いをするからと……」

「バルトスのやつ……理由を付けて毎日酒盛ってる気がするんだけど……まあ意図はなんとなく分かるからいいけどね」

 少し呆れたように俺が呟くと、アンジェラさんが少々困り笑顔を浮かべる。

「やはりヤンマーさまは分かっておいででしたか。……バルトスさまが毎日あのように賑やかにしておられるのは、きっと私のことを思っての事でしょう……」

 彼女は僅かに表情を陰らせる。
 決勝が近付けば近付くほど彼女の夫、デヴィッドの運命がどうなるのか、それは気が気ではないだろう。
 バルトスがあのように、毎日筆頭巫女であるアンジェラさんを酒盛りに付き合わせているのは、少しでも気を紛らわさせるためだ。

「やつも、守る守護するべき大切な人たちのことは大事にしてるんだなぁ」
「当たり前ですよヤンマーさま。でなければ我らもお仕えする訳が無いではないですか」
「確かにそうだね。俺にも守ら守護しなければならない人たちが出来たから、なんとなく分かるよ。ここに来てからのバルトスは本当に――」
「ヤンマーさま! それ以上は……」

 ああそうだった。
 アンジェラさんが注意してくれなければ、うっかり『神様に見えるときがある』と、口にしそうだった。
 少し慌てていた俺を見て、アンジェラさんは優しい微笑みを浮かべる。

「ヤンマーさまも、バルトスさまと同じようにお優しい方ですね。アナタに仕えている方もきっと幸せでしょう。私もあの方に仕える前にアナタと出会っていたならば、アナタに仕えていたかも知れませんね」
「アンジェラさん。それは過大評価だよ。今だって一杯一杯なんだから」

 俺の脳裏にペルカや狼人族のみんなの姿が浮かぶ。
 彼らには幸せに暮らしてほしい。
 ここで行われている魔神の勢力の企みが、この先ペルカたちにも影響を与えたら? そう考えると、デビッドの使徒化は絶対に阻止しなければならない。

 そんなやり取りをしている間に闘神の神殿に到着した俺たちは、神殿の奥、バルバロイのためにしつらえられた隠し部屋に入った。
 仕入れてきた軽食や酒などをテーブルに広げながら、アンジェラさんが切実な面持ちで俺を見つめる。

「とても身勝手なお願いをしていることは分かっております。……ヤンマーさまのお心は、未だ決まりませんか?」
「……アンジェラさんは本当にそれで良いのか?」
「それ以外に手がないのならば……。あの人が魔の眷属と成り果ててしまうよりは……きっと……」

 それは、必至に自分に言い聞かせようとしているような、苦しげな言葉。

「アンジェラさん。……俺はさ、本当に少し前までただの人間だったんだよ。それも、この世界の人間でもない。人間の死がこの世界よりも比較的遠い場所で生きていた人間なんだ……」

 そう口を開いた俺を、何故かアンジェラさんは驚きよりも、いたわりの視線で見つめていた。
 俺の言葉に続きがあることを察しているのか、彼女は言葉を差し込むことなくただただ俺を見つめている。

「俺はさ……この世界の主神の気まぐれで、ヤツの代理に仕立て上げられた出来損ないの神様なんだよ。数柱の神が力添えをしてくれていて、やっと何とか体裁を繕っている。そんな俺に、大切な夫の末路を託して――本当に良いのかい?」

 そんな俺の告白を受けた彼女は、小さくかぶりを振った。
 俺を見つめていた視線のいたわりは、変わることなく俺に注がれている。

「ああ……やっと分かりました。我が神がヤンマーさまを選んだ訳が。アナタは私たちと近しい視線をもって、正しくあの人の最後を見つめてくれている。きっとバルバロイさまは、アナタの持つ力の可能性だけではなく、ヤンマーさまだからこそ、デビッドのことを託したのです。私の心も決まりました。たとえどのような結果になろうとも、私はヤンマーさま。アナタの決断に従います」

 彼女は、まるで彼女こそ女神でもあるように慈愛に満ちあふれた微笑みを俺に向けた。

「本当に……過大評価だよアンジェラさん。……でも、貴女のその言葉で、俺の心も少しは楽になったよ。それから――アンジェラさん。俺の神名は、ヤマトって言うんだ。貴女が俺に向けてくれた信頼に、俺も神名をもって応えることを誓うよ」

 そう俺が、彼女に誓うのと同時に、バタン! と乱暴に隠し部屋のドアが開いた。
 この部屋に入れるのは筆頭巫女のアンジェラさんと俺、後は一人しか居ない。

「おうおう、準備万端じゃねえか。そんじゃ、はじめるか」

 案の定、ズカズカと入り込んできたバルバロイは、部屋の中の俺たち二人の雰囲気にまったく頓着せず言い放った。

「バルバロイ……オマエ、台無しだよ!!」

 俺のツッコミは正当だよね。ねっ!

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