俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~

獅東 諒

第零章 第3話 召喚ですか? 降臨です!(後)

「キミ、だいじょうぶですか?」

 俺の頭のうえから女性らしい高く澄んだ声がかかった。その響きは冷たく落ち着いた感じだ。
 上を見ると、よろいを着込んだ騎士のような姿をした女性が覗き込んでいる。
 彼女は主神の嫁さんハニーほどではないものの、俺の世界で思い返しても、そうはお目にかかれないほど整った顔つきをしていた。
 彼女の深くすんだ湖のように濃いブルーの瞳はめたような光をたたえている。外見の年齢が若いので、教育実習にやってきた女子大生が、問題児を呆れてみているような感じをうけた。
 身長は俺と同じくらいだろうか? もしかすると少し高いかもしれない。ぬけるような白い肌をしていているが、彼女が纏う甲と、きらめくような銀髪がショートヘアーということも相まって雰囲気はボーイッシュだ。
 ……正直に言おう、主神の嫁さん《ハニー》より俺の好みだ。たぶんこの人あれ――神か?が主神の言っていたサテラさんだろう。主神、Good Job!

「キミが、オーディアさまが代理の神として隣の世界から連れてきた者ですね。ふーん……」

 ふーん…… ってなんでしょう? 続き言ってよ。気になるから。
 しかし、起き上がるのに手助けしてくれるわけではないのね。彼女は観察するように俺を見たままだ。
 それにしても、主神あいつ、オーディアっていうのか。初めて知った。状況に呑まれていたこともあるけど、もっと聞いておかなければならないことがあったんじゃないだろうか。すでに時遅しだが。
 俺がそんなことを考えながら立ち上がると、それを待っていたように、サテラさんが口を開いた。

「自己紹介はないのですか? 礼儀がなっていませんね」

 スチャ、という擬音付きでメガネでも直しそうな雰囲気だ。
 おわッ、そうだった、まだ挨拶してなかったよ。

「すみません、俺、大和大地です」

 サテラさんは、もう一度観察するように俺の全身に視線を向ける。

「あなたの補佐をすることになりましたサテラです。わからないことがあったらおっしゃってください。私のわかることでしたら答えます」
「全部わかるのではないのですか?」
「オーディアさまがなさったことを、私が全部わかるわけないではないですか、バカですか?」

 うわ、毒舌だよこの神。……神だよね?

「えーと、あなたさまも神様なんですよね?」
「キミ、仮にも主神代理なのですから、私たち従属神じゅうぞくしんうやまうようなはなし方はやめなさい」

 また叱られました。でも、そのわりに俺のことはキミなんだね。しかも、命令形だし。

「質問に答えますが、私は戦女神のはしに連なるもので、ヴァルキュリアとも呼ばれています。戦士の守護神で、おもな仕事は、きたるべき魔神との最終戦争にそなえて地上の勇力ゆうりょくな戦士を、死後に天界へと招いています。それ以外には主神や星神さまの護衛などもしています。今回の私の仕事は後者になります」

 北欧神話のワルキューレ見たいなもんか? 名前もそうだが、となりの世界だけあって似たようなところがあるんだろうか?

「早速だけど、俺はどうすれば良いんだろう」
「ふぅ……」

 あれ? 額に手を当ててため息ついたよ。

「想像はしていましたが、もしかしてオーディアさまは何も説明されて行かなかったのですか?」

 えっ、何かサテラさんのうしろに黒い靄のようなモノが見える。やだ、怖い。

「え~っと、そういえば、条件意外は自分の代理をして欲しいってことしか聞いてないような……あはっ、あはははは……」

 パニックってたんだから俺がそこまで気が回らなかったのは仕方ないよね。ね! 主神あいつは絶対確信犯だと思うんだ。……いや~、早まったかな。

「……良いでしょう、分かりました」

 表情はあまり動いていないものの、もの凄くジト目で睨まれてる感じがするんだけど、俺の印象最悪ですか?

「まず、キミがしなければならないのは、『信仰の力』を集めることですね。まずは【ステータス】と念じてみてください」

 サテラさんは、いつの間にか取り出したマニュアルのようなモノをパラパラとめくりながら俺に言った。そのさまは怜悧な女教師のようで、ますますメガネが欲しくなる。……メガネフェチじゃ無いよ。
 俺はサテラさんに促されるままに【ステータス】と念じた。

(ステータス)
大和大地〈主神代理〉
神レベル1
神力3
神スキル
【降臨】    神力10
【人化降臨】  神力2~
【神託】    神力1
【スキル付与】 神力1~
【加護】    神力1
【神職就業】  神力1

 うおっ! 何か目の前にパソコンのウィンドウみたいなのが開いたよ。ウインドウは、透過していて後ろの方風景がある程度確認できる状態だ。
 ……それにしても『神レベル1』だって、まあ、それは仕方がないよな。なったばかりだし。【神力2】ってのが、【神スキル】ていうのを使うのに必要なポイントなんだろうか。でも、主神あのやろう、代わりを頼むなら神レベルを上げてくれても良かったのに、もしくは神力をもっと沢山くれるとかさ、最近はスマホのアプリゲームでさえ、プレイはじめの特典でポイント増量が当たりまえなのに。

「なんだか色々視えるけど、信仰の力っていうのはこの〔神力〕ってのことなのかな?」
「そうです。その神力がなければ我々神は力を使うことができません」
「てことは、誰かに神託を与えて、スキルを付与すれば良いのかな?」
「それはできません」

 へっ? 提案は一刀両断されました。サテラさん容赦ありません。

「残念ですがキミが使えるはずの主神の神殿が、現在地上には存在しません」
「どっ、どういうこと?」

 さっきまで、俺のか弱い心をクールにえぐってきたサテラの瞳の力が弱まり、プイッと目をそらした。えっ、えっ? 凄っごく気になるんだけど。

「その……オーディアさまから、地上の文明を滅ぼしたという話しは聞きましたか?」

 サテラさんは物凄く言い辛そうに聞いてきた。

「ああっ、聞きました三度ほど文明を滅ぼしたとか……」
「そう、そうなんですよ! あの方は!」

 あっ、変なスイッチ入った。
 これまで、大きな表情の変化もなく淡々としていた彼女が、右手を胸の前で握り、ズイと一歩踏み出した。
 うおぅ、美人が悔しげに目の前に迫ってくるのは、思いのほか圧力が凄い。俺の身体も、知らずに半歩下がってしまっていたほどだ。

「自分が気にいらないからと、一度ならず二度三度と……地上の者たちは我らが守護すべき子供たちなのに!! しかも事態の収拾に奔走していた我ら従属神に確認もせず……!! ……すみません、これはキミに言うことではなかったですね」

 俺の引き気味の表情に気が付いたのか、サテラさんが落ち着きを取り戻した。主神あいつ色々なところに迷惑かけてそうだよな。

「話を戻しましょう。オーディアさまが前文明を滅ぼしてから三〇〇年ほど経ったのですが、そのあいだ、あの方は地上の者たちにまったく手を差し伸べなかったのです」
「と、いうことは?」
「オーディアさまの神殿は、いまの地上にはひとつも存在しません」

 何ですと!! もしかして信者ゼロですか? スーッと俺の頭から血の気が引いていくのがわかる。
 主神あのやろう簡単そうにいっていたけど、超無理ゲーだろこれ。

「ということは、もしかして【人化降臨】っていうので、布教活動からしないといけないのかな……?」

 サテラさんの氷の容貌に、心なしか申し訳なさそうな雰囲気が浮んだ気がした。

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