追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

姉弟達の夕食会_4


「まぁ俺達が幸せ過ぎてバカ夫婦なのは認めますが、そこを語ると深夜になるので置いておきましょう」
「今日会ったばかりだが、なんとなく深夜で済みそうにないのが分かってしまうよ」

 よく分かってるなクチナシ義姉さん。とりあえず朝日を拝むのは確定していると思う。

「クチナシ義姉さん、お代わり要りますか? 元々用意していたフォーンさんの分もありますので、遠慮なさらずどうぞ」
「いや、充分だよ。むしろすでに充分な食事が振舞われているのに、これ以上求められん」
「そうですか……」

 クチナシ義姉さんは何処となく健啖家な感じがしたのでもっと食べると思ったのだが……これがシキに来た時に見せた遠慮のような物でなければ良いのだけど、これ以上勧めるのも失礼だろうしな。フォーンさんの分のお肉は明日の昼食にでも回すとしよう。

「しかし、仲が良くて羨ましいな二人は。夜の技術を学ぶために私にクロと交わる様にと言われた時は不安だったが、取り越し苦労だったようだ」
「そ、その件に関してはお忘れください」
「さて、どうしたものか。今から技術を実技で教えるのも構わないぞ?」
「御戯れはよしてください。クロ殿を渡したくはありません。素晴らしいクロ殿の血を残す価値は分かりますが、実際にするのは可能な限り私だけの特権としたいのです!」

 ヴァイオレットさん、そう言われるのは嬉しいし特権は貴女だけの物ですが、堂々と言われると流石に恥ずかしいです。けどそれを指摘する事は出来ない。なにせ肉を食べているはずなのに味が分からないほどに顔が熱くてうまく話せないからね!

「おいおい、早とちりするな。誰もクロで教えるとは言ってないぞ。――バーントで教えるからそれで学ぶんだ」
「……なるほど。その手がありましたか」
「…………。は、えっ、私!?」

 おおっと、予想外の方向に飛び火したぞ。突然名前を呼ばれたバーントさんは普段の冷静な表情を崩すほどに動揺している。

「お、御戯れはよしてくださいクチナシ様。私が貴女様のような高貴な御方となど……」
「戯れではないぞ。私は王都に行けば罪を償い義妹や義弟と会う機会がほとんど無くなるだろう。その前に私が教えられる事は教えてやりたい。しかしクロの身体を使い教える訳にもいかんが、男性の身体無しに実技は教えられん」
「ええと……それでこの屋敷で御主人様を除く唯一の男である私がお相手する、と……?」
「そうだ、ようは被害者だな」

 被害者言ったよこの人。いや、実際被害者なのかもしれないけどさ!

「ご――御主人様と御令室様のためならばこのバーント・ブルストロード。喜んでクチナシ様のお相手を務めさせて頂きます!」

 待って待ってバーントさん。忠誠心は嬉しいけれど、その忠誠心と覚悟は別の所に取っておいて欲しい。

「御主人様、大丈夫です。このバーントにとっての初めてのお相手がクチナシ様という素晴らしき御方な上に、御主人様達のためとなるならばこれ以上の喜びは無いでしょう。むしろ初めての有効活用です、やった!」
「やった、じゃないですよ」
「ただ御願いがあります。私がバレンタイン公爵家に不貞などで処罰されそうになった時は――私だけの意志が関係していて、御主人様達は無関係と言って下さい。そして……妹をどうかよろしくお願いいたします……!」
「兄さん……その時は私も一緒に出て行くよ!」
「うん、お願いだからその忠誠心と覚悟やめて。あとその兄妹愛も別の時に見せて」

 というか万が一なんか文句言ってきたら全力で庇うよ。「俺達夫婦の夜の営み技術を向上させるために自ら身を差し出してくれたんだ!」とかいう意味が分からない言葉を堂々と言って庇うよ。

「それとクチナシ義姉さん、冗談はそこまでにして下さい」
「ほう、冗談だと思うのか?」
「はい。クチナシ義姉さんは妄りに男性に身体を許す様な女性じゃないでしょうから」

 会ってそんなに時間も経っていないが、彼女が夫……ライラック義兄さんの事を愛しており、彼以外と添い遂げる気は無いというのは伝わって来る。それに戦ったり戦いの後の会話を思い出す限りでは……彼女がライラック義兄さん以外とそう簡単に身体を許す用には思えないのである。……いや、確かに俺とはしそうではあったけど、それは色々な勘違いやすれ違いが起きた故だからノーカンである。

「そしてヴァイオレットさんも。あまり従者を揶揄わないでくださいね?」
「すまない、クロ殿。そしてバーントも。すぐ否定するつもりだったのだが、思いのほか珍しい反応をするからつい、な」

 そう言ってヴァイオレットさんは何処か俺にイタズラをした後かのように小さく笑った。……やっぱりヴァイオレットさんって何処かエスっ気あるよな。

「私からも謝罪をしよう。普段は二人も夕食を一緒に食べていて楽しく会話をしていると聞いてな。従者としてではない反応を見てみたかったんだよ」
「い、いえ、冗談ならばそれで構わないのですが……」
「残念だったね、二十代中盤になって未だに女性経験も無い兄さん。折角のチャンスだったのに……」
「黙れ同じ年齢の男性経験の無い妹め」
「それはどうかな?」
「……そうだな。お前は器量が良いから、俺の知らない所であるかもしれないな。うん、そうだな」
「ごめん、その言い方やめて。見栄を張りました」
「ははは、成程。そんな感じに話すのか、お前達は。普段の従者然とした二人しか見ていなかったから新鮮だ」

 クチナシ義姉さんは二人の素のような、兄妹感の遠慮ない会話を見て楽しそうに笑っていた。
 ……しかし、バーントさんもアンバーさんも二人共付き合った人いないんだな。
 顔達は整っているし、器量も良いし性格も一部を除けば良いし、貯蓄も十分にある二人だからモテると思うんだが。やはり今まではバレンタイン家での従者生活で忙しくてそんな暇がなかったとかそんな感じだろうか。そうなると余計なお世話かもしれないが、誰か良い縁談とか探した方が良いだろうか。

「ご心配には及びません御主人様。私達ブルストロード兄妹は!」
「今以上の最高の音と香を見つけない限りこのまま一生お仕えする予定ですので!」
『むしろ堪能する時間の確保のために生涯独身とかでも構わないのです!』

 よし、良い相手を探すとしよう。

「音と香……? ヴァイオレット、彼らはなにを言っているんだ?」
「よく分かりませんね……クロ殿、分かるだろうか?」
「…………分かりませんね」

 ……しかし、なんでヴァイオレットさんには気付かれないんだろうな、この二人の性癖。やはり長年の信頼とかそんなんだろうか。

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