追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恋力_7(:純白)


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「失礼しました、クロさん。色々あって取り乱しました」
「なにを間違ったらそんな渾名がつくのか気になるけど……まぁいっか」
「良いんだね、クロ君」
「まぁ他の渾名と比べるとマシですし」
変態アブノーマル変質者カリオストロも似合っていると思うけどねぇ」
「どういう意味だコラ」

 クロさんはそう言うと、僕の先程の言い間違えた名前については気にしないようにしつつ手元に持っていた本を小脇に抱えた。本のタイトルはチラッと見えた限りではなにかの資料のようであったが……もしかしてクロさんはあの戦いの後も働いていたのだろうか。もう夜も遅くなってきているのにお疲れ様である。

「というかすみません、せっかくの姉弟水入らずの所を邪魔してしまって」
「別に構わないさ。なにか気になる言葉が聞こえたから入らずにいられなかったんだろうしね」
「ええ、まぁ」

 気になる単語というと、先程口にした“問題”の所であろう。正直言うとクロさんに今回の事は聞かれたくなかったのだけど……まぁそこだけなら問題はあるまい。好みの話を聞かれるのは恥ずかしいが、キスの件よりはマシだろう。
 だが、女性の年齢の話を何処まで話して良いモノなのだろうか。あまりこういった話題は避けるものだとも聞くし、かといって気を使い過ぎても駄目だとも聞くし……ううむ、どうしよう。

「アレですよ。マゼンタちゃんを恋人として引き留めるには、僕では夜の愛を紡ぎ合うのにやられっぱなしになりそうという話です」

 と、僕は下世話な話で誤魔化す事にした。
 ……いや、正直それも不安に思ってはいるんだよね。告白の時は無我夢中だったけど、マゼンタちゃんを知れば知るほど相手を出来る気がしないと言うか……カーキーさんレベルでないと難しいと言うか……うん、それこそマゼンタちゃんと張り合えるようになる頃には、クロさんやクチナシ様レベルの身体の強さを得ているかもしれないね。言うと完全に下ネタだから言わないけど。

「ヴァイス君、気にしているのはそこじゃ無いだろう?」

 と、僕が誤魔化していると、クロさんは少し屈んで僕の視線の高さに合わせると優しく言ってきた。

「多分だけど、ヴァイス君はマゼンタさんとの年齢差を気にしているんじゃないかな」

 それは僕が言わずにいたけど確かに気にしている事であり、問題視していた事でもあった。……クロさんは偶に心の中を呼んでいるかのように言い当てる事があるのだが、これはクロさんが鋭いだけなのか、あるいは僕が分かりやすいだけなのか。

「(……クロ君が姉であるわたしに気付かない事を気付いている、だと……!?)」

 なんとなくだけど僕の図星を突かれたという反応にショックを受けているシュバルツお姉ちゃんの反応を見ると、クロさんが鋭いだけなのかもしれない。

「ええと、その……」

 シュバルツお姉ちゃんの反応はともかく、どう返事をしようか。事実だと認めるにしても、なんと言えば良いのか……

「ヴァイス君、俺はね。この世界の今に、この年齢に産まれて良かったと思っているよ」
「え?」

 なんと言えば良いかと悩んでいると、クロさんはよく分からない事を言いだした。

「確かに一緒に学園に通える事が出来たら楽しかっただろうなーとか。一つ違い程度なら先輩として色々出来たのかなーとか思ったりもした。けど今の俺はヴァイオレットさんより四歳上の男として生まれて、学園に一緒に通わなかった事をとても嬉しく思っているんだ」
「そう……なんですか?」
「うん、なにせそのお陰で夫婦になれたからね」

 それはお互いに不祥事を起こしたから偶然結婚する事になった……という事では無いのだと思う。いや、それもあるかもしれないが、もっと根本的な理由があるのだとクロさんは言っているように思えて――。

「俺はね、今のヴァイオレットさんと出会えた事が本当に嬉しいんだ」

 そのように言うクロさんは二十歳という年齢よりも遥かに大人びた年齢のように微笑んでいた。

「もっと近い年齢に出会う事が出来れば、それはそれで魅力的なヴァイオレットさんと出会えたとは思うけど、それが今の関係より素晴らしいモノになったとは思えないんだ」

 だから今が最高に幸せだと言うようなクロさんは自分の気持ちを吐露すると同時に、僕に優しく問いかけるように言っていた。……今の関係より、か。

「つまり……僕とマゼンタちゃんもそうだと?」
「それはヴァイス君の決める事だよ。けど、少なくともヴァイス君は今の修道士見習いの時に、今のマゼンタさんと出会えた事がとても良い事と思っているんじゃないかな?」
「それは……」

 ……確かにそうだ。過去の自分が今のマゼンタちゃんと出会っても、運命が変わってもっと年齢が近かったとしても――今この自分が出会った、今のマゼンタちゃんへの魅力的だと思う気持ちは、今の自分だけに存在する確かな気持ちであり。年齢差と経験差という“好みの話ではない諦める”理由を探すほどに、僕は――

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