追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

姉弟喧嘩?_2


「クロ殿、本当に戦うのか?」
「戦いますよ。もうその方が手っ取り早くて簡単な気がしてきましたんで」

 何故こうなったかの理由については振り返ってもよく分からない事だらけではある。
 マゼンタさんが俺達の学びの会に参加するためにヴァイス君を誘惑しに来た事とか、風呂上りっぽいクチナシ義姉さんが夜の技術で何処まで可能なのか聞きに来た事など一悶着あった後に起きている、この戦って解決しようという現状はよく分からない。
 マゼンタさん曰く、

『折角昂ったのだから、この昂りの行き先をなにかで発散しないと私達はヴァイス先輩を襲ってしまうよ!』

 との事だ。巻き込まれたヴァイス君は「なんで僕なの!?」と慌てていたし、ヴァイス君の貞操のためにも彼女らの昂りとやらを抑える必要がある。それが戦いで解消されると言うならば思い切り動いて貰うとしよう。
 そう判断した俺達は教会の前に移動し、戦いをする事になった訳である。戦いの相手はマゼンタさんは教会組でジャンケンして勝利をした神父様が相手をし、クチナシ義姉さんは俺が相手する事になったのである、

「クロ殿、今回の事態を招いたのは私が原因だ。やはり私が戦った方が良いと思うのだが……」
「気にされないでください。クチナシ義姉さんは肉弾戦に優れた強者だと聞いていますし、俺の方が向いていますよ」

 確かヴァイオレットさん曰くクチナシ義姉さんは「クリさんのパワーでクリームヒルトのような技量で大技を連発してくる」だったか。正直聞いただけでも恐ろしいイメージしか湧かない。が、そういった相手と戦ってみたくはあるというのも本音である。一体どういった実力の持ち主なのか、直に味わってみたい。

「しかし、護身符があるとはいえ不安だ。学園生時代は護身符有りでも対戦相手を精神的に再起不能にする、という話も上がるほどに肉弾戦が強いからな、クチナシ義姉さんは……」

 本当に凄いな、クチナシ義姉さん。ますます戦うのが楽しみになって来た。ちょっと怖くもあるけど。

「そのような噂を持つ相手をヴァイオレットさんにはますます相手させられませんよ」
「だが……」
「愛する妻の前で格好つけたいという見栄っ張りな男心なんです。そのような相手に立ち向かう雄姿を見せたいだけなんで、見守ってくれると嬉しいです」
「……ふふ、そうか。では良い試合をしたらなにか褒美をあげるから、頑張って見栄を張って来てくれ、クロ殿」
「了解しましたっ!」

 よし、そうと決まれば話は早い。
 くだらない男の見栄が、褒美のある戦いへと変わったんだ。やる気と勇気を出して義理の姉へとの戦いに望むとしよう。悪いが忖度無しで本気でいかせて貰いますよ、クチナシ義姉さん!

――まぁ本気を出さないと情けなく負けそうではあるんだけどな。

 ……フォーンさんから聞いた話だと、彼女の実力は今現在も衰える事無く強いとの事だ。
 なんでも生まれついての特殊な魔法を暴走させたシルバと、精霊カーバンクルの力をその身に宿したアッシュ。その単体でもB級モンスターを軽く屠るレベルまで強くなった両名を、ほぼ素の身体能力のみで相手をしていたという話を聞いている。
 クチナシ義姉さんは「相手が強くて私では勝ちようが無かった」と言っていたのだが、フォーンさんから聞いたその戦いの様子を見ていたメアリーさん評だと「正直五分だったと思います。あれですね、大砲をぶっ放すゴリラのイメージです」だそうである。この場合の大砲はゴリラの殴りが大砲の威力のイメージなのだろう。それがジャブ感覚で数十発放たれれば俺はあっさりと負ける事も十分あるだろう。
 そんな事になれば見栄を張るどころか情けなくない所をヴァイオレットさんに見せる事になってしまう。そうならないように、本気で挑まないとな。

「しかし義弟よ。私は首輪の力で封じる力も無しで、本気を出して良いのだろうか?」

 それに力を封じるための首輪は今回の戦いでは機能しない。一時的ではあるが解除はされる。そのようなクチナシ義姉さんの本気には、本気で応えるのが礼儀という物だろう。

「構いませんよ。私も噂に聞く貴女と本気の肉弾戦で戦ってみたかったですし」
「……そうか。ならば私も本気で応えようか。私も噂に聞く義弟と本気で戦いたくもあったからな」
「噂ですか」

 正直噂というとどこぞの第二王子のせいで嫌な噂しか想像できないのだが……まぁ騎士団と戦った時の噂で「騎士団を相手して勝ち続けた強い男!」的な噂である事を願うとしよう。

「だが義弟よ、覚悟してくれ」
「なにを――っ!?」

 瞬間、クチナシ義姉さんの前に立っていた俺だけでなく、観戦しようと周囲に居た教会組や腕に覚えのあるレモンさんなど、戦う俺以外の者達も、クチナシ義姉さんの威圧に身構えた。

「私は手加減が出来ないのでな。護身符があるとはいえ、倒れてくれるなよ?」
「……はは、上等です。やってやりますよ」

 ……これは本当に、本気でやらないとマズそうだな。
 油断せずに戦いに望むとしよう。

「ちなみに今の私はこの後する予定だった夜の技術の場のために、下はシキにあった服屋で買ったアダルティックな下着だ。紐に近いから途中で脱げてショーツが落ちたり、ブラが弾けて胸が開放的になるかもしれんが、気にせず戦え!」
「タイム!!」

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