追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
姉弟喧嘩?_1
「と、いう訳で殴り合うぞ、クロ義弟よ!」
「ええいもうやってやりますよコンチクショウ!」
俺は義姉であるクチナシ義姉さんと殴り合う事になった。
……何故こうなったのか、少し前を振り返ろう。
◆
「私は冷静だよ。だからブラウン君と遊んでくる、健全にね!」
などというフォーンさんを俺達は見送った。妙にテンションの高いフォーンさんをこのままブラウンの所へ行かせても良いモノかと思いつつも、引き留めたら引き留めたで碌な事にならないとも思ったからである。
「アイボリー、どこまで見越してたんだ?」
「さて、な。どうにかする予定ではあったが、こうなるのは予想外とだけ言っておく」
「どうにかする予定ではあったんだな」
「でなければお前を誘わん」
「なんだ、てっきり行きたいけど独りで行く勇気が無いからと誘ってくれたかと思ったんだけどな」
「舐めるな、俺は童貞だ。俺の貞操は愛した女に捧げると決めている」
「そこまでハッキリ言われると格好良いと思うよ」
アイボリーは初恋相手というマゼンタさんの事を考えると、あまりそういった事に興味が無いのだろう。クリア教の教会関係者っぽい過去もあるようだし、その身を仕事と忠誠に捧げている感じだしな。
……まぁ、それでもブラウンとフォーンさんの事を気にして立ち会う場を作ろうとしている辺りは、人間関係に興味が無い訳では無いだろう。むしろお節介な部類に当てはまりそうである。
「それで、アイボリーはこれからどうするんだ?」
「そうだな、予定はどこぞの薬師のせいで崩れた事であるし、俺は戻って怪我の研究でもしようかと思っているが、クロ達はどうするんだ?」
「俺はこれから来るヴァイオレットさんの約束の相手に説明会だよ」
「説明会?」
俺は俺達の状況を簡単に説明すると、アイボリーは「相変わらずだな」というような表情になる。
「クロ、お前は女難の相でもあるのか。羨ましいな、ハーレム男」
「本当に羨ましいと思っているか?」
「思うわけ無いだろなに言っているんだ。大丈夫か?」
「喧嘩売ってんのか」
まぁアイボリーの場合は喧嘩ではなく軽口なので気にはしないが、女難の相があるような気がしない事も無い。
でもヴァイオレットさんが居るから特に問題はない。全てを跳ね返して見せるさ!
「まぁ頑張れよ愚患者共。万が一刺されたら俺の所に来るんだぞ。死んでなきゃ治してやる」
「刺されたら行くだろが、なにがあって刺されるんだよ」
「いつぞやのように、“女を誑かせている不品行男”と思われて決闘を挑まれた感じに刺される可能性だ」
「……微妙に否定しきれんな」
などという会話をしてからアイボリーと別れた。ぶっきらぼうではあるが、要は「勘違いを少しでも無くすように言葉に気を付けろ」と言いたいのだろうな、アイツは。
――それから数十分経った。
アイボリーと別れた後にレモンさんが現れ、事情を説明すると顔を赤くしてヴァイオレットさんに勘違いの状況を作らせた事を謝罪した。自分も説明に参加するからと言ってはくれたのだが、直後に旦那さんであるレインボーさんがカーキーと共に現れたため彼への折檻が始まりもした。
どうにか止めようとしている間にシアンと神父様が現れたため、一緒に止めた。その後にシアン達に説明をしようとするとどうやら二人は既に勘違いを正された後だったらしく、二人の間になんだかギクシャク……というよりドギマギとした複雑な空気が流れていた。何故そんな空気が流れているのかと後から現れたヴァイス君(と旅の一座の女性)に聞こうとしたのだが、目線で「聞かないでください」と言っていたので聞かずにいた。
と、レモンさんによるレインボーさんへの折檻というトラブルはあったものの、ここに居るメンバーに説明が終わったのなら後はもう少しだけだ。なにせシアン達もいるのでマゼンタさんへの説明も問題無く終わらせられるだろう。フォーンさん曰くマゼンタさんがヴァイス君を誘うために走って去っていった、という所は気にはなっているが、今こうしてヴァイス君が無事(?)なので問題にはならないと思う。
後はクチナシ義姉さんが心配ではあるが、そこは俺とヴァイオレットさんが協力して頼めば問題無く終わるはずで――
「勘違いは了解した。だが、夫以外の男に身体を許す覚悟を決めた上に悶々としたこの火照りはどうすれば良い」
「あははは、そこは運動して晴らせば良いと思うよ。だから殴り合おう!」
「なるほど!」
……終わるはずだったのに、こうして戦う事になった訳である。
何故かマゼンタさんがクチナシ義姉さんと共にこの場に現れ、事情を説明すると二人と戦う事になった訳である。
なんでも運動してスッキリすれば、とりあえずはこの欲望を抑えられるからとの事で、その発散の手伝いをして欲しいとの事のようである。
……うん、何故こうなったんだろうな!
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