追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
純情な心を歪ませる女性達_4(:紺)
View.シアン
「な、なんですか神父様、助平な技術の被験者って。そういうのは私達にはまだ――いえ、ちょっと早いと思いますし、内容が特殊じゃありませんか!?」
神父様に肩に手を置かれて言われた言葉の内容は、私には理解できない内容だった。正確には理解しようとすると恥ずかしさが内側から込み上げて来るので理解しようとしていない、が正しいのだがそこは細かい事というものだ。それよりも今は神父様の謎の宣言について問い質さねばならない。
「シアンはヴァイオレット達と一緒に旅の一座の夜のサービスに行き、技術を学ぼうとしているな?」
「え? え、ええ。そうですが」
その件について神父様が知っているのは疑問だが、多分イオちゃんと会ったとかそんなのだろう。……けど何故それと助平がなんの関係があるんだろうか。
「正直言うと、旅の一座に技術を学びに行くのはどうしようかと悩んでいたが、シアンの自由意思に任せようとしていた。そう決めた俺はシアンと話さずに戻ろうと思った」
それって今の状況を踏まえると、どうしようかと迷いつつここまで来ていたという事にならないだろうか。
「だが! ヴァイスで練習するというのは聞き捨てならない。それを見逃すくらいなら俺が被験者になる。場合によっては決闘してでもその地位を奪い取る」
「え、僕神父様に殺されるの?」
「ヴァイス先生にとっての神父様の認識やけに物騒じゃない?」
神父様は決めたら達成するまでトコトンするタイプだけど、流石に殺しはしないと思うよスイ君。……いや、確かに今の神父様の鬼気迫る様子を見ればそう思うのも無理はないけど。
というか神父様はスイ君の立場……マッサージの被験者になりたいという事だろうか。確かに技術を学ぶには身体を触る必要があるので助平と言えば助平かもしれないが、流石に飛躍というか初心すぎやしないだろうか。そんな初心な神父様も可愛いけど、流石にその嫉妬は子供じみて――いや、うん嫉妬する神父様も可愛い!
「神父様、そんなに心配ならどちらか一人という訳では無くスイ君と一緒に受ければ良いんですよ」
「え。……それはつまり?」
「彼女――旅の一座の彼女がスイ君を相手し、それを見つつ私が神父様を相手すれば良いんです!」
『特殊プレイ!』
え、何故神父様だけでなく彼女も驚いているのだろう。
理由を知りたいが、神父様はいつものようによく分からないし、彼女の方は何故か照れているという事しか分からないんだよね。
というか特殊プレイってなんだ。ただマッサージをするだけで――ん、そもそもその前提がもしかして間違っているのでは……?
「しししししし、シアン。気持ちは嬉しいが俺達はまだ未婚であるしそういうのは……もっと雰囲気を大事にしつつ、結婚初日に部屋でだな」
未婚? 結婚初日?
……おかしいな。マッサージに関してなぜ未婚だの結婚初日だの話が出て来るんだろうか。
「ヴァイス先生、狙うなら結婚シキの日の夜だよ」
「狙いませんよ」
「見たくないの?」
「ないですよ。その日はマゼンタちゃんとクロさんの家……も結婚記念日だから、適当に宿屋に行きます」
「そのまま襲われないでね?」
「……気を付けます。ところですみませんが、今までの話を聞く限り夜のサービスってもしかして……」
「男女の■■■だよ」
「やっぱり……え、僕被験者になるの? ……特殊プレイ……!」
なるほど。
…………なるほどぉ。
「神父様、助平な事をしたいんですか」
「え」
「やる事に関しては結婚初日としても、被験者になりたいと願うほどには私と助平な事をしたいんですね、そういう事ですね!」
「え、いや、そういう訳ではなく、話を聞くだけならともかく、他の誰かで学ぼうとするのが見逃せなかっただけで……」
「したくないんですか!」
「したくはあるよ! 俺はシアンと婚姻が決まってからさらに心が歪みまくっているんだよ!」
「それは良かった、私はスノー君の純情な心を歪ませる魔性の女という訳ですね!」
「当然だ!」
「ねぇ、ヴァイス先生。これなに?」
「痴話喧嘩です。えっと、護符の残りの状態を確認、っと……」
「慣れてるね」
スノー君は私のせいで純情な心が歪んだ。
私はスノー君に心を奪われ心がスノー君に歪んだ。
ならばそう変わらないからそれで良し!
「よし、なら私はスノー君で今夜技術を学ぶ事に問題は無い訳ですね!」
「そうだ! ……ん?」
よし、そうと決まれば話は早い。
私はお勤めをキチンと終わらせて、スノー君との初夜のためにスノー君で技術を学ぶ事としよう。そうしよう。
なんだか自分のやった事を誤魔化すためにとんでもない事を言っている気もするが、多分気のせいだろう。そうに決まっている。
「では、スノー君また今夜会いましょうね! 行こう、スイ君!」
「え、あ、ちょっとシアン!?」
ともかく、予定は決まった。
ここに居ると顔が熱を発してしまうのですぐに退散し、お勤めに戻るとしよう。
そう決めた私は、スノー君の制止を振り切って次の護符を入れ替える場所に走って向かって行くのであった。
「……あれ、もしかしなくても僕、被験者扱いのままになってない?」
「そうだね。……楽しみにしているよ、ヴァイス先生?」
「せ、説得してきますね!」
その後、慌てて来たスイ君の説得により、スノー君での被験者云々の話は無くなった。
……今日の事は、出来れば今後思い出したくない出来事である。
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