追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

純情な心を歪ませる女性達_1(:紺)


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 イオちゃんとレモちゃんにマッサージ指南の受講に誘われた後、私は教会の残りのお勤めをこなしていた。いくら神父様に喜んで貰うために学びに行くとはいえ、普段のお勤めをサボるようでは神父様も難色を示すだろうからだ。新しい事をやるにしても、普段やっている事をこなした上で学ばないとね。

――でも、なにか違和感あるなぁ。

 学びに行くのは良いのだが、その学びに対して私は違和感を持っている。
 旅の一座がマッサージをサービスとして行う、という点もだけど、フーちゃんとクーちゃんの反応が気になっている。特にフーちゃん。
 ヒトの機微には敏感な私ではあるけれど、クーちゃんは「隠し事? そんなものはない。騙していた? ただ言ってないだけだぞ」というような駆け引きなどなにも無い感じなので読みにくい。
 そしてフーちゃんの方はなにか以前と様子が違って「自分を特殊な方法で抑えている」というような感じなので、読むのに時間がかかる。
 そんな二人なので、私は反応に違和感を持ってもなにに対して違和感を持っているのかが分からないのである。

――なにか変だと感じたらすぐに止めればいっか。

 今回来る旅の一座は国では結構有名な一座らしいし、流石に来た瞬間に私達を攫う、というような短絡的な事はしないだろう。違和感が確信に変わった時に、変だと思えばその時に応じた行動をするとしよう
 ……まぁ仮にしたとしても私達の戦力で返り討ちに出来るとは思うけど。なにせレモちゃんもそうだが、フーちゃんもクーちゃんも間違いなく戦闘強者だからね。

「シスター・シアン。魔除けの護符の作成が終わりましたので確認をお願いします」
「オッケー」

 と、後の事は後に考えるとして、今はお勤めをキチンと熟さないと。
 今日のお勤め内容は魔除けの護符の作成だ。モンスター除けではなく、魔除け。私達教会が討伐する事が多い霊体のモンスターを退けるための札であり、今回作成した物は一帯に張り巡らせる事で霊的なものを近付けさせない効果を持つ。
 シキの安全を確保する上では大事な物であるので、生半可な物を使う訳にはいかないのだけど……

「……うん、品質も数も問題無し。さっすがスイ君!」
「ありがとうございます」

 初めは上手くいってなかったスイ君の護符作成だが、今では通常使いするのにも問題無いレベルにまでなっている。数をこなすにはまだかかりそうではあるけれど、本当に成長の早い子である。敬虔だし業務も優秀だし、修道士見習いではなく、もうブラザーを名乗っても良いのではないだろうか。そう思う程である。

「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、皆さんを見ていると僕はまだまだだと思えるので……特にマゼンタちゃんにはなにも勝てていないので……」
「勝ち負けじゃ無いと思うけど……」

 私がその事を伝えると、スイ君はそのように返答した。
 謙遜……というよりは本気で思っているのだろう。……確かに私はともかく、マーちゃんというあらゆる方向性に優れた存在が身近に居ると、そう思うのは無理ないかもしれない。

「あ、失礼。シスター・マゼンタでしたね」
「そこは無理しなくて良いんじゃない? 私だって普段からマーちゃんって呼んでるし、ちゃん付けの方が喜んでるし」
「いえ、私は若輩の身。そこはキチンと分けて過ごしたいと思います」
「おお、立派だね。……ただ、気を付けないとまた、“なるほど、ちゃん付けで呼ばない事により、私が構うのを見越して敢えて呼ぶんだね!”とか言ってボディタッチが多くなるからね?」
「…………はい」

 マーちゃんは距離感が近い子だが、気に入った相手にはさらに近くなる。しかも大抵の事をプラスに解釈してくるので、特にスイ君には近い……直接的な言い方をすれば貞操を狙っている感じに接する。
 私や神父様が止めてはいるので本気で襲う事は無いのだけど……それでもスイ君には刺激が強いだろう。スイ君の純情な心が歪まなければ良いんだけどね。

「ま、それはともかく早速護符の取り換えに行こっか」
「はい。……あ、シスター・シアン。今日は風が強いのでお気を付けくださいね?」
「うん、ありがとう。けど私の髪はそうそう乱れないから大丈夫!」
「いえ、髪ではなく……うん、今日も少し前を歩こう」
「?」

 そういえば最近スイ君は私と一緒な時は横に歩くか少し前を歩く。
 以前は後ろに可愛らしくついて来ていたのだけど……なんだかそうする事でなにかを見ないようにしている感じがあるんだよね。その答えをいつも考えているんだけど、何故かその件については何度観察しても分からない。不思議なものである。

「とにかく、今日もキチンと――」
「あ、貴女はもしやっ!?」
「――ん?」

 なんとなく純情な少年の心を惑わせているのはマーちゃんだけじゃ無いのかな、などと思っているとふと声をかけらた。
 いや、かけられたというよりは私達を見て驚きの声を投げかけた、というべきか。ともかく私達は声の方向を見てみると……そこにはあまり見ない女性が居た。格好からして噂の旅の一座であろうか?

「あ、貴女が噂のシキのシスターなのですね!」
「え、あ、えっと。シキのシスターは二人居るので、噂のシスターかは分かりませんが……」

 女性は私を見るなり近付いて来て、何故か感激を受けた様な反応を示していた。
 というより噂ってなんだろう。
 元王族がシスターをやっている、という噂なら私ではないけど……いつかの「シキに小悪魔でヒトを惑わすシスターが居る!」的な噂の方だと困る。否定するにもその情報ウワサが流れた理由的に、否定するのも複雑ではあるのである。

「いえ、紺色の髪にその格好。間違いなく噂のシスター様です!」

 う、これは私が心配した方の噂なのだろうか。
 だとしてもその噂を聞き、女性である彼女がなにをそんなに憧れを持つように私を見るのだろう。もしかして違う噂なのだろうか。

「あの、私の噂って一体……?」

 神父様とラブラブなシスター! 的な噂だとしたら嬉しいが、一体どのような噂なんだろうか。

「はい、無垢な少年を惑わして性癖を歪ませるシスターがいるという噂です。是非私にその手練手管をお教えください!」
「出来ないから!」

 なんだその噂は。
 そして教えるもなにも、私にそんな事は出来ないから! なにせやった事すらないからね!

「やらずとも無意識にふりまく天性の……」

 なんだか何処から私を見て変な声が聞こえた気がするけど、多分気のせいだろう。





備考 夜のサービスに関してのシアン達の認識
クロ達のように「裏サービス」という認識が無く、あくまで「主な営業である芸以外にもやっているサービス」程度の認識なため誤解が生まれています。

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