追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
夜の相談? 夫婦版_3
「つまり、旅の一座が行なう夜のサービスというのは、その……」
「ようするに移動娼館です」
「……と、いうものであって、マッサージをして癒すものでは無い、と」
「そうなりますね。本人達に確認済みです」
「そうか。……そうか」
ゆっくりと話し合った結果、いつの間にかバーントさんが淹れた紅茶を優雅に飲みながら何処か動揺して心ここにあらずといったヴァイオレットさんが生まれ、その後に。
「う、ぅぅ……!」
とても可愛らしいヴァイオレットさんが誕生した。
本人的には思い返すたびに恥ずかしくて「うわああああ!」となるような事なのだろう。しかし今のヴァイオレットさんを見ている俺にとっては、思い返すたびに可愛らしいと思ってしまうような状態だ。これを言うとヴァイオレットさんになにかしらの反撃を受けただけでなく、拗ねられそうなので言いはしないが。
――というかその場に居た全員がマッサージと勘違いしていたって、凄いな。
ヴァイオレットさんだけでなく、シアンまで勘違いしていたとは意外な話である。シアンはシキに来た理由が理由なので、そういった事をどちらかと言うと嫌悪しているので敏感だとは思ったのだが。流石に面白がって敢えて黙っているという事はしないだろうし。
レモンさんは色仕掛けの類は修行でしていたらしいので、そういった話題には敏感だとは思うのだが……いや、彼女は夢見る乙女趣味であるので、旅の大道芸一座というものに夢を見て勘違いしたのかもしれないな。
後は……
「ハッ、まさかフォーンがなにやら一緒に学んだり、実技をフォーンで試すと言っていたのを慌てていたのはそれが理由か!?」
「でしょうね」
……うん、フォーンさんについては間違いなく知っていただろうな。
アイボリーと話し合った後にフォーンさんに旅の一座については伝えたのだが、様子が変であったし、俺を見るなり「頑張ってくださいね……?」とか言ってたし。……アレ、そういう意味かぁ。
そういえばフォーンさんが旅の一座の夜サービスに参加する、的な話があったけど、結局アレって「自身の原種っぽい人と会ったので、サービスをする際に試したい能力がある」的な話だったな。あくまでもちょっと試せたら試す、というだけであったが。その件についてブラウンにはキチンと説明しておかないと。
「わ、私はなんて事を……!」
とはいえ、説明の前にこの可愛らしい妻のフォローをしないとな。……なにをフォローすれば良いかは分からないが、とにかく傍に居て聞き役に徹し、感情を吐き出させるとしよう。
「いいや、むしろここは本職に夜の技術を学ぶチャンスと捉えれば良いのか……!?」
「落ち着いてください」
いや、これは流石に聞き役だけは無理だな。
学ぼうとする姿勢は……えっと……その……うん、嬉しいけど、目の前で言われたら止める他ないんだ!
「クロ殿、私は思うんだ」
「なにをでしょう」
「夫婦が円満に、愛し合い続けるためには相応の努力が必要だ、とな」
「はい、分かります」
「だから夜の技術も日々学び、磨いてこそ好きを継続出来るというものではなかろうか! だから私達は学びに行くべきだと思うんだ! 愛するクロ殿に少しでも多くの喜びを与えるためにな!」
イカン、暴走をして普段言わない事まで言い始めているぞ。
内容が内容だけに、その努力の先に生まれる行動を想像してしまうので……このままでは俺が先程のヴァイオレットさんのように、照れて顔をなにかに埋めたくなる様な衝動に駆られてしまうではないか。
「ええと……嬉しい事はとても嬉しいんですが」
「嬉しいんだな。ならばやはり学びに行った方が――」
「ですが、その」
うん、嬉しい事は嬉しいんだ。けど。
「アレを今まで以上に学ばれると、普段から抑えているのが抑えきれなくなるので……出来ればご勘弁願いたいです……」
「――――」
俺的にはそんな情けない理由があるので、出来ればお気持ちだけにして頂きたい。
……本当、情けない。
「そ、そうか。それは仕様が無いな、うむ」
「はい」
「……そうか、そうなのか」
「……はい」
「……まぁ気持ちは分かるからな」
「えっ?」
「……なんでもない」
「なんでもないんですか?」
「うむ、なんでもないんですかなんだ」
「…………」
「…………」
……イカン、この一連の会話を思い出すとなると、思い返すたびに恥ずかしくて「うわああああ!」となるような事になりそうだ。どうしよう。
「こほん、申し訳ございません。少々よろしいでしょうか?」
『っ!?』
あ、しまった。そういえばバーントさんが普通に居たんだった。
……ますます思い返すと恥ずかしくなる会話になってしまったな……!
「ど、どうしたバーント。なにか気になる事でも?」
「はい、そうですね。……先程旅の一座のサービスに関して御令室様は勘違いされていたんですよね?」
「うむ、そうだな。それがどうした?」
「ええと……そうなると、その……」
バーントさんは自分から切り出したのだが、言おうか言うまいか少々悩んだ後、意を決したように俺達に告げた。
「もしかしてクチナシ様は、今頃御主人様と今夜“そういう事”をする準備をされているのでは?」
『……あ』
バーントさんが告げた言葉に間の抜けた返事をし、静止する事数秒。
その後俺達はに紅茶を一口を飲み、一息つくのに十数秒。
そしてカップを机に置き。
「いざとなったら殴り合ってでも止めるから、安心してくれクロ殿」
「やめてください。というかやるなら俺が殴り合いますから」
「夫の操を守るのは妻の役目だ! だから私が戦う!」
「あってはいるかもですけど、なにか違いますからね!?」
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